呪具:一族列伝   作:何処にでもある

37 / 44


 虎杖悠香(いたどりゆうか)
「うーん…自分勝手な言い方すると、なるべく沢山の人に囲われて死にたいから」
 原作主人公。今作では女の子になった。
 が、この人の内面は性自認以外変化してない。
 悩んでる人がいたら手を貸すし、悪い奴は懲らしめる。
 悲しんでる人がいれば面倒見るし、苦しんでる人は頑張って助ける。
 変わるものがあるとすれば、それは周りの方だ。




虎杖悠香の記憶
両面宿儺・外展


 

 

「んじゃ、準備はいい?」

「おっけおっけ」

「ゴクリ……」

 

 仙台のある高校、杉沢高校の放課後の家庭科準備室で三人の学生が、4つ固めて広くした机をぐるりと、顔を突き合わせ畏まった顔をしていた。

 板上には神社の門とひらがな53音が書かれた紙と10円玉。

 

「「「こっくりさんこっくりさん」」」

 

 多少本を読んでいればコックリさんをやろうという魂胆は透けて見える。

 オカルトの定番も定番。今時そんな古臭い儀式をやろうという者は早々居ない。

 それでも尚やろうしているならば……それは大抵グループのその場のノリか、部活動かだ。

 そして今回の場合は後者。

 

「「「生徒会長がギリ負ける生き物を教えてください」」」

 

 ……と、前者。

 当たり前だが、コックリさんは元ネタからノリのいい連中しかやらないもの。

 

 く・り・お・な

 

「ちょっと誰だよ途中「な」に持ってったの! 生き物じゃねーじゃん!」

「待て待て「に」はアウト絶対アウトです! ちょっと男子〜!」

「俺じゃないから! ねぇ! 十勝でしょ! この中で1番やりそうなのは十勝でしょ!?」

「や、マジに私じゃないんですよ。だから1番やりそうな……はっ!」

「……ヒュー」

「さては遂に、虎杖エロ漫画見ましたね!? 私がコッソリ鞄に入れた奴見ましたね〜!!」

「……もー! 違うから!!」

 

 ゲラゲラワイワイ ぶはははワイワイ。

 ……そんな事をやってる連中の性格は大抵こんなものである。

 いや、言いすぎた。これは普段の中でも悪ノリしてる時のものだろう。

 

 ともあれ、噂をすれば影が差すもの。

 

「……すぅぅ〜‭─‬‭─廃部だ馬鹿タレ共が!!

 

 実績のない部活を廃部するという話題を持ち込んだ生徒会長の一喝により、虎杖の所属するオカルト研究部は廃部の危機となった。

 そもそも最低人数の三人にも達していない部活。

 実績もなければ人も居ないとは、名乗れている方が奇跡か不具合である。

 

「待て待て、俺ら三人居るから。俺と」

「オカ研会長二年目の井口だ」

「同じく二年の十勝です」

「で、後輩一年俺。ほらな三人居るでしょ?」

 

 生徒会長がそれを聞き、もごもごと口を動かしてから虎杖に話す。

 

「虎杖、お前は陸上部所属になっている」

「は? なんで?」

「陸上に聞いたら顧問の高木が入部届を書き換えたらしい。才能が惜しいとかなんとか。何とかして欲しかったらグラウンドで勝負して勝てとも。だがもし負けたら……」

「ハっ……みなまで言うな。面白そうだしやってやんよ」

 

「や、勝負の席に付ける方法がもう反則では?」

 

 そんな訳で女子虎杖選手が陸上男子総出相手に無双を繰り広げ……。

 

「……かし、過去に死人でも出たのか? この学校」

 

 一人、学生の服を着て変装した術師が校庭を横切ろうとしていた。

 

「っし! 全力〜投入!」

 

 ‭─‬‭─術師の顔面スレスレを砲丸が掠める。

 

「っお!?」

 

 ゴドンとサッカーのゴールポールを凹ませ食い込む。

 ただ砲弾を投げるだけでは到底敵わない勢い。

 普通の女子ならば投げられただけで上等な鉄の塊が易々と直線で放たれるのは、正に漫画か何かの芸当か。

 

 術師の卵か。

 

「‭─‬‭─すみませ〜ん! 怪我ないですか!?」

「…問題ない。驚いただけだ」

 

 思わず尻餅をついて呆然としていた術師に、慌てて虎杖が駆けつけ手を差し伸べる。

 呪霊か何かかよ…と術師が相手の顔を見ようと見上げると。

 

 そこには黒の地毛と桜色に染められ肩まで伸びぼさついた髪、健康的な肌と無地のパーカー。

 それから割とある、大きめなパーカーの上からでも分かる胸。

 至って普通…よりはチャラいが、普通の女の子がいた。

 

「……よっ!」

 

 ゾク‭─‬‭─。

 

「!?」

「ならよかっ……あ、もう四時半!? 急がなきゃ! ごめんなさい、後でマジ無理な感じになったらこの電話番号で、いりょーだい負担しますんで! それじゃ!」

 

 虎杖がボーッと眺める術師にじれったくなって手を掴んだ途端、ぞわりと術師の背筋に悪寒が走る。

 普通じゃない呪力の気配。特級呪具に長く触れて無ければ起きない強烈な残穢(呪力の痕跡)

 

「……あ、おい!」

 

 声を掛けた時には、既に虎杖は遠くへと走り去っていた。

 

「くそ…ってそうだ、電話番号」

 

 ピロロロロ ピロロロロロ ピッ

 

「誰ですか!?」

「さっき起こされた奴……伏黒恵だ。聞きたいことがあるから答えて貰うぞ」

「はっえぇ!?……んまぁ仕方ない! 走りながらでよければ!」

「それで構わない」

 

 そうして情報を聞き出した術師……伏黒は目的の特級呪具を探しにオカルト部の方へ。

 

「あんたがオカルト部の十勝か」

「はい? そうですけど……どうしました?」

「虎杖の知り合い、伏黒だ。その呪物……オカルト品を渡せ。"本物の呪い"で死にたくねーならな」

 

 虎杖はお爺ちゃんを見舞いに向かった。

 

「爺ちゃん、おまた」

「ふん、今日も無駄な時間を過ごしに来たか」

「カッコつけやめなよ」

 

 杉沢病院の301号室、四人を収容出来る病室の名札には二人の名前が入っている。

 入れば窓際に翁がいて、他は白いカーテンで覗けない。

 幼くして両親が他界した虎杖の唯一の家族が、お見舞いにきた虎杖を見て何処か不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 ここ最近の虎杖にとってすっかり見慣れた風景で、そこ入って翁に寄り添うのも今では日常となった。

 

「…………」

 

 もうじき終わる、二人の最後の日常。

 

「悠香、最期に言っておく事がある。お前の両親のことだが」

「いいよ興味ねーから」

「……オマエの! 両親の! ことだが!」

「だからいーって爺ちゃんさぁ。死ぬ前にカッコつけようとすんのやめてくんない?」

「男は死ぬ前にカッコつけて死にてーんだよ! 空気読め!」

 

 話をしながら、翁の傍らに置かれた花瓶の花を変える。

 虎杖がバイトで貯めたお金で買ったお花だ。

 黄色、白色、紫色の……店員に花言葉を聞きながら買った花。

 名前は覚え切れてないが、虎杖なりに翁に向けた意味が込められた花束だ。

 

「花とかもいちいち買ってねーで貯金しろ」

「いーんだよ爺ちゃんじゃなくて看護師さんに買ったのだし」

「尚更だ馬鹿。つーか部活はどうした」

「うるっせえなぁ。五時前に終わるからいーだろ! 暇じゃなきゃ俺も見舞いなんて来ねーよ!」

「カーッゆとりかよ」

 

 そこまで話し、なんだか照れ臭くなって花びらを弄る。

 いつも通りの応答。家族の会話。

 翁がそんな虎杖に背を向けて、目を瞑る。甘い香りが鼻に付いた。

 

「…悠香」

「んー?」

 

「"お前は強いから 人を助けろ"

 "手の届く範囲でいい。救える奴は救っとけ。迷っても感謝されなくても 取り敢えず助けてやれ"」

 

 ……いつもと、違う終わりの気配。

 

「"オマエは大勢に囲まれて死ね。俺みたいになるなよ"」

 

「……爺ちゃん?」

 

 返事は無かった。

 事実を受け入れるのは案外早く、涙は何をせずとも垂れた。

 

 トゥルルルピッ

 

 ナースコールをしたのはそれから何分か経ってから。

 

「爺ちゃんが死にました」

 

 手続きが済んだのは夜が暮れてから。

 死んだ現実を受け入れられたのは、それが全て終わっても少しだけだった。

 

「手続きは以上だけど……本当に大丈夫?」

「そーっスね。こういうの初めてなんで実感沸かないんすけど……いつまでもメソメソしてちゃ爺ちゃんキレそうだし、後は笑ってこんがり焼きます」

「言い方…!」

 

 日常の終わり。

 一つのいつも通りの日々が終わって、過去から未来へ眼を向ける変わり時。

 他の日常は今頃夕飯かお風呂か、はたまたまだ働いているか……そんな時間帯の頃合いに。

 

 ピロロロロロ ピロロロロロ……。

「ん? こんな時に誰……十勝?」

 

 虎杖の電話が鳴った。

 丁度手続きが終わり帰るタイミング。気分としては切りたいが、友人である十勝がこんな時間に態々電話するのは何か大事な用事があった時くらいなもの。

 

"お前は強いから 人を助けろ"

 

 さっき聞いたばかりの翁の言葉が脳裏を()ぎる。

 ピッと電話を取って、虎杖に向けて十勝が言った開幕1番の言葉はこの様な物だった。

 

「助けて! 学校に化け物がいる!」

 

 直後に、何か肉が破裂する音。

 虎杖は疑問を覚える前に、気付けば病院を駆け出していた。

 

 

 

「虎杖の知り合いか〜……入部希望者!? いいですね、見学に来てくれるなんて! 今オカ研って実績も人も欲しかったんです! あ、渡すのは無しで」

「本当に誰か死ぬかどうかの話……分かった、取り敢えず俺が探してるものかどうか知りたい。見せてくれ」

 

 時を遡って伏黒の方へ。

 オカルト部の方へ出向いた術師伏黒は、封印の場から勝手に呪具を持ち出した一般人相手に交渉を重ねていた。

 

 "十勝先輩が待ってます! 今日一人で深夜の学校で封を開けるって言ってあーくそ信号赤になった!"

 

 と、いう話らしいので。

 偶然知り合った虎杖の縁を使い、さもこの学校の生徒であるように振る舞い、無事オカ研に到着していた。最悪式神を使って盗む算段である。

 

「これがそうです。夜になったら剥がしてみようって井口と話してたんですよ。ね、なんか気配バリバリでしょう?」

「俺が探し……」

 

 見せられた指を見て絶句する。殆ど封印が解けかかっていたからだ。

 とはいえまだ余裕はある。伏黒は一先ず交渉から入ることにした。

 

「あ、なんでもコレ、"宿儺の指"って言うらしいんです。この学校の使われてない百葉箱で見つけて、一緒に入ってた和紙に色々書いてたんですよね。はい、これがその紙と和訳と私が翻訳したものです」

「……何語だこれ」

「ラテン語とイギリス語の暗号文。こっちは大日本帝国時代の和訳です。原語著者はフーチェ・リテラチャーってアメリカ人、和訳は脹相って人ですね」

「ふむ……」

 

 3つの説明を手に取り、それから最も分かりやすい十勝が作った現代版を見る。

 要約すれば"封印の仕組みと点検方法、及び封印に至った大まかな経緯"。

 伏黒に必要なのはこの呪物を再び元の場所に戻し、点検を行うこと。

 ばららと一通り捲り、現代語訳が無ければ点検はできなかったなと内心安堵する。

 伏黒は呪霊を祓い一般的な学問を学び生きてきた。言語学など専門外である。

 

「これはお前が?」

 

「はい。ただ遊ぶだけじゃ部活じゃないですからね! 一年掛けて完成させました!

 ……それに結構面白いんですよ、これ。ほらここ、脹相って人の肩書きに1級術師ってありますよね?

 明確な(くらい)分けされた役職がある。

 経緯の方も国家にシャーマン……呪術師が居たみたいな扱い。

 まるで本当にそういう組織体系があるみたいなんですよ」

 

「…………」

 

 そこまで詳しく書いてんじゃねーよ馬鹿やろうと、内心毒付きながら聞き手に徹する。

 ここで確信するか否か、それで十勝に対する対応は変わるからだ。

 まるで名探偵のように十勝が語る。

 

「そして今日、来た。これを本物だと言う人が。

 事実なら、書いてる事も本物って事になる。

 ……質問です。あなたは呪術師ですか?」

 

「だったらどうする」

 

 黒だ。

 呪術師の存在を確信した非術師には、秘匿の為の縛りを結ばせる呪術規定がある。

 余計な仕事が増えたと、話し合いつつ周囲の人の気配を探る。

 ……幸い、人は居ない。掌印を結ぶ。

 

「本校の生徒じゃないのでガッカリします。新入部員は幻だったってことなので」

「それだけか?」

「後、とても助かります。このまま専門家が居なかったら本物か確かめて、生贄の項を実効するかって話になってたので」

「生贄…?」

 

 手にしていた現代訳を改めて見る。

 そして有った。非術師だけでも封印を一旦解き、改めて強く結び直す為の保守方法が。

 必要経費は死ぬかも知れない儀式に3名、その中の誰かが必ず一人死ぬ方法が。

 

「……正気か?」

 

「言ったでしょう。"バリバリ気配を感じる"って。

 この指を近くにおきながら翻訳作業してたら、途中から化け物が見える様になりまして。

 怪物……呪霊って言うんですか? それも翻訳途中に指の近くで湧いて来やがったので。

 どうにか"そいつらを学校に封じて"からは、ちょっくらヒーロー気取りに命賭ける気でした」

 

 こいつ呪術師か?と、頭のネジの緩みっぷりに引きつつ考える。

 事実宿儺の指は伏黒が確認した時点で残穢どころか呪力が漏れ出て呪霊が産まれている状態だ。

 その判断自体は間違っているとは言えなかったし、寧ろこれまでの頑張りは賞賛されるべき行いに入る。

 

「そうか。ならもう死ぬ必要はねぇ。後は任せろ」

「ありがとうございます。あ、念の為近くで観て良いですか? あなたの事全部信じた訳じゃないので」

「構わん。それと、全部終わったらその力について話がある」

「……もしかして…スカウト!?」

「察しが良くて助かる」

 

 十勝が目覚めたのは呪力に長時間当てられたからか。

 過去の「大呪災」以降こういう「覚醒組」の事例は伏黒も聞いている。

 全人類が目覚めるのを阻止した結果とはいえ、全人類が潜在的な呪術師なのは厄介でもあり、逆にこうして助かる事もあった。

 

 そうやって手順書片手に改めて封印を施そうと話が纏まった時だった。

 

『‭─‬‭─ほう、"お前がそうか"』

 

 何処からか聞こえる声と共に、指が独りでに動きトンと机を叩く。

 

『"解"』

 

 机が両断され、更に斬撃が波及して家庭科準備室の隅に貼られたお札……"十勝なりに施していた封印の要"が切り裂かれた。

 床に出来た切れ目から指が下の階に落ちてしまう。呪霊に拾われれば伏黒の手に余る状況。

 そして十勝は宿儺の指が引き寄せ、或いは発生させた呪霊を祓った訳ではない。

 封じて、いつか誰か倒してくれる事を願って対処していた。

 

「ッ! 何体封じていた!」

「"130"! 特に変な力を使ってたのは70! 人払いは済ませてます、遠慮はいりません!」

「助かる! 指を取りに行け、"玉犬"!」

 

 魑魅魍魎の歓喜と怒りの声が学校に響く。

 伏黒の傍らに白と黒の式神犬が二匹現れると、興奮した様子で現れた呪霊の元へ駆け付けていった。

 もうじき夕暮れが終わる。呪霊が本格的に動くにはまだ早いが、今のうちにどれだけ狩れるかが勝負だった。

 

「お前、できることは」

「十勝です! 戦闘は条件次第、ちょっとは動けます!」

「十分だ、自衛できて邪魔にならなきゃいい」

 

 最優先は宿儺の指の確保。

 次に封じられていた呪霊の除祓。

 外に出さないようにする結界は不要だろう。

 宿儺の指は呪霊にとって極上の餌。術師が居ようと、それを食べに行かない呪霊は居ない。

 

「"鵺"、外の呪霊は任せ」

 

『ピロロロロロ ピロロロロロ』

 

 電話の待機音を真似た呪霊に、窓の外から覗き込まれる。

 伏黒が反射的に振り返って覗き込んでいた達磨に似た呪霊と"眼を合わせた"。

 途端、"動きが出来なくなる"。鵺の招来が中断される。

 

『ピロロロロロ ピロロロロロ』

 

 電話をする時に動いてはならない。

 歩きスマホ、ながらスマホになってしまうから。

 "鳴いている時は動けなくなる術式"。

 

「……眼を合わせるのはあくまでも効果を強める為。眼を合わせなくてもコイツは動きを縛れます。が、そうじゃなきゃこの呪霊に見えてない場所は普通に動かせるし、見られててもゆっくり動かせる。そして解除方法は」

 

 即座に動いたのは事前に相対した事のある十勝。

 振り返らず、痺れる身体を丁寧に動かして電話を耳元に当てた。

 

「……誰かに電話を掛けて、出てくれる事。

 伏黒さん、信用出来て動ける助っ人、呼ばせて貰いますね」

 

 そうして達磨の呪霊は祓われ、時間は虎杖が来た時まで進む。

 

 






 Q.あれ、佐々木は?
 A.歴史が変わった影響で東京育ちになってる。代わりに十勝が入った。クラスでのあだ名は「カカシ」(よく居眠りする為)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。