呪具:一族列伝   作:何処にでもある

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 十勝川下(とかちかわす)
 田舎もんって感じの見た目。女性。ふと眉。デコイの案山子。
 オカルト研究部元エンジョイ勢。一年掛けて原語版と脹相訳を見比べて現代訳を作った。
 宿儺の指の封印方法の相違により殆ど解けていた封印を対処する内に術師に覚醒。
 百葉箱に戻しても意味が無かった為、他の人が死なない為に一年間一人で戦い続ける事となる。
 「大呪災」が起きた現代では、このようになんらかのキッカケで術師として目覚める者が多数確認されている。




両面宿儺・内覧

 

 

「なんだこの(プレッシャー)…!」

 

 学校に着いた時、虎杖が真っ先に感じたのは百を超える呪われた霊の呪いと、宿儺の指から発せられる圧だった。

 正直何も分かってない状況では入るのに躊躇する状況。怖気ついて足が竦んでしまう。

 明らかに異常事態が起きている場所に飛び込むのはそれ相応の勇気が居るのだ。

 

 考える。死を想起する。翁の死と目前の死を比べ、言葉を思い出す。

 

 決意する。

 

「…けど、先輩に助けてって言われたんだ。だったら助けねぇと」

 

 であれば、ここに取り残された先輩はどれほど恐怖を感じているのか。

 それを考えた時、虎杖に逃げる選択は無くなった。

 なんか居る。それは間違いない。けど、別に戦うんじゃなくて、先輩を連れて逃げればいい。

 

 それだけでいいんだ。

 

 そう自己暗示に似た勇気を作り、虎杖は学校に突入した。

 

「うわ、なんかすげー暴れてたっぽい。こわっ」

 

 入って早々に見つけたのは呪霊と玉犬が争った痕跡。

 一体何があればこうなるのか、靴箱がドミノ倒しとばかりに横倒れになり、壁も床もあちこちが砕かれ、或いは切れ目が作られていた。

 耳を澄ませば屋上から何かぶつかり合う音が聞こえる。

 

「……早くオカ研にいかねぇと。とっとと先輩連れて逃げよう」

 

 家庭科準備室に行くと、そこにはウニ頭の男……よく見れば朝に砲丸をぶつけそうになった人が居た。

 頭から血が被り、全身血塗れで、肩を揺らして座っている。明らかに死に掛けだ。

 

「おい、大丈夫か…!? そうだ救急車」

「いらねぇ……それよりお前、十勝を見たか…?」

「や……先輩は見てない。アンタこそ本当に大丈夫なのかよ」

「問題ない、殆ど返り血……何をしてる?」

「よっ……外に連れ出すんだよ。よくわかんねーけど、どう考えたってここは危ねぇ。だから連れてく」

 

 虎杖は疲れからか眠そうにしている伏黒の肩を持ち、校門へと向おうおした。

 伏黒が突き放して壁に寄りかかり、それからズルズルと座り込む。

 

「……お前が良いやつなのは分かった。だが、この場を離れられねぇ事情がある。それを解決しねぇとみんな、最悪死ぬ」

「死ぬってどういうことだ?」

「……時間はあるか。分かった、この際だ。俺は伏黒。お前にも説明してやる」

 

 そこから話されたのは、呪術師のこと、呪霊のこと、呪物のこと、宿儺の指のこと。

 呪霊が130体解放されたこと、その半分をどうにか祓ったこと。

 そして、虎杖が来るまでの経緯を。

 

「今は十勝が呪霊を惹きつけてる最中だ。俺は呪力切れで休憩してる」

「……肝心の先輩は何処にいるんだ?」

「生きてるのは確かだ。これを渡された。術者が死ぬと燃え尽きる形代。それにまだ余裕もある」

「なんで余裕あるって分かるんだ?」

「十勝の術式だ。時間稼ぎに最適解だったから任せた」

「なら手伝いに行く」

「呪力がないお前が行っても無駄だ」

 

 その言葉に足を止める。

 呪霊には呪力が無ければ意味がない。だから行っても邪魔になるだけ。

 正論だ。だが虎杖にはその実感がない。

 

「なら、倒すのは任せます」

 

「……バカが」

 

 足は自然に走り出していた。場所は騒がしい屋上だろう。階段を登り扉を開ける。

 

「アバっアバババ!!」

『ギャイ!ギャイ!』

『おろろろらろ』

『どうすんの?どうすんの?』

 

 ガンガン!!ゴンゴンゴン!!

 

 其処には‭─‬‭─全身鎧を纏い奇怪な声を挙げて屈伸している先輩と、それに攻撃しては鎧を前に攻めあぐねている呪霊の集団が居た。必死に時間稼ぎしているのは分かるが、十勝の反応が余裕そうなせいか絵面がシュールに見える。

 

「アバっア、虎杖! 来てくれたんですね!?」

 

 一旦扉を閉める。再び開けて同じ光景を見て、遠巻きに手伝いがいるか聞いてみる事にした。

 

「先輩ー! 俺、必要でしたかー!?」

「虎杖ぃ〜! あと十分後まで問題ないって伏黒さんに言ったけどやっぱそろそろやば‭─‬‭─」

 

 丁度十勝が着込んでた鎧が近くにいる呪霊諸共壊れる。損傷の共有、呪詛返しの術式。

 しかし全ての呪霊が祓えた訳ではない。少し遠くに居た呪霊が十勝と手に持っていた宿儺の指に飛びかかり‭─‬‭─虎杖がスライディングで十勝を抱え、包囲網を抜け出した。

 

「ナイっス!」

「飛び降りるんで口閉じて下さい!」

「はっ!? ちょここ屋上ぉぉ〜お⁉︎」

 

 常人なら死んでも(なん)らおかしくない高さ。

 壁を蹴り上げ、叫ぶ。

 

「‭─‬‭─伏黒!」

 

 

「拾っとけ "鵺"」

 

 ブカブカで軽く、しかしゴムのようにしなやかなものに不時着する。

 顔を挙げると、ここは人の二倍はある大鷲みたいな鳥の背中だと気付いた。

 呪霊や術師の説明の時に聞いていた伏黒の式神。その一つを覚えていたからこそ脱出。

 校庭の中心で掌印を結び待機していた伏黒の近くに鵺が降り立つ。

 

「バカだろ。俺が見てなかったらどうする気だった」

「そん時は気合いで! けど伏黒は助けてくれるタイプだって思ったから」

「だからって…はぁ。もういい、その目を回してる奴と一緒に後ろに逃げろ」

 

 やれやれ系の気配を感じたから〜とおちょける虎杖に、伏黒がため息を付く。

 ある程度呪力は回復した。先ほど十勝の鎧と共に巻き込まれて死んだ呪霊を差っ引いて残り30。

 殆ど2級以上ではあるが……やれないことはない。

 

「ふぅ……」

 

 ふと、十勝を抱える虎杖の手が震えているのが目に付いた。

 少し悩み、水をこぼすように言う。

 

「頑張ったな」

 

 ぶっきらぼうな労りの言葉。命を賭けた者には不足した報酬では有ったが……虎杖はパッと笑顔を咲かせ、こう言った。

 

「おう! 後で全員でサイゼ行こうな!」

 

 果たして前を向いていた伏黒が笑みも溢したかどうか。

 休憩が終わり、降りてきた呪霊が襲い掛かる。

 

「散らせ "鵺"」

 

 話している最中に飛んでいた鵺が雷を落とし、何体か死んでいく。

 校舎内で待機させていた玉犬を伏黒に向かう呪霊に襲い掛からせる。

 背後を突いた奇襲。何体か死ぬ。

 

『プロペラ〜ァ"ァ"!!』

「言ってる意味が分かんねぇな」

 

 残り20。一番乗りの呪霊と白兵戦を仕掛ける。顔面を殴り付け、後ろからやって来た呪霊にぶつけこんがらせる。その隙を見た鵺が啄み、地面に叩き付けた。残り18。

 

「"玉犬"は足を奪え! "鵺"は動かなくなった奴から雷を落とせ!」

 

 初動は上手くいった。戦法を確実に減らす方向に変える。

 数を揃えられる式神使いの利点の一つは、術師の意思を汲んだ式神の連携。

 理想的な動きで呪霊が次々と祓われいく。

 

(よし、このまま行けば‭─‬‭─)

 

 助けて!伏黒!

 

 反射的に振り返る。"誰もいない"。

 

(しま‭─‬‭─)

『"テケテケテケテケテケテケ"』

 

 伏黒の足を、地面に隠れていた呪霊が実体化し掴んだ。

 

 偶然の連携。

 例え理想的でなくとも、お互いが蹴落とし合おうとも、呪霊の個性は人と同様。

 中でも他者を利用して自分の利益を得ようとする呪霊は多い。

 術式ではない。声真似が得意な呪霊とすり抜けを利用し地面を遊泳していた呪霊。

 

『あ〜そ〜ぼ』

 

 そして、この瞬間まで影に潜んでいた"術式持ち"の刃が伏黒を襲う。

 そんなよろけた伏黒を、偉丈夫な呪霊と触手の生えた呪霊が殴り付けた。

 

「‭〜〜〜〜ッガァ!」

 

 詐欺、足引、不意打ち、追撃。

 噛み合わさった攻撃が伏黒をボロボロにしていく。

 身体の複数箇所から血が垂れ流され、集中力の散漫で鵺が消えた。

 辛うじて立っているが、今にも倒れそうな満身創痍の身体。

 

「ックソ!」

 

 しかしそれ以上に最悪なのは、"伏黒を無視した追い越し"。

 伏黒が瀕死と見てか、虎杖達の方へ向かった呪霊達。

 

「虎杖! 十勝!」

 

 ……()()()()()()()

 追いかけた伏黒の前に現れたのは、"宿儺の指に惹かれた新手の呪霊"。

 追い越した呪霊達の死体が伏黒の横に投げ飛ばされ、呪力となって宙に拡散していいった。

 130の呪霊軍団がこうして終わりを迎えた。

 

『ザッ‭─‭─ガッ‭─‭─』

 

 代わりに来訪したのは、先ほどの呪霊軍団とは一線を画す一級呪霊。

 限りなく人に近い黒い影。走るノイズが輪郭をズラし、曖昧に佇んでいる。

 足元には気絶した十勝に被さった虎杖が宿儺の指を握りつつも、血を流して転がっている。

 逃げてる途中で見つかったのだろう。

 

「最悪だ」

 

 肌に感じる呪力はキッカケ一つで特級に成れるような一級最上位。

 姿からしてデジタル系の恐怖の集合体。

 一瞬で軍団を倒した様子からして呪霊の中では実力でのし上がったタイプ。

 対してこちらは死に掛けの術師と、民間の協力者2名。

 

 先ず、死ぬ。

 その事実に、伏黒の心が前に凍り付いていく。

 

「……うっ」

 

 それなのに。

 

「立つな、虎杖。お前はよくやった。

 後は俺がやる。お前らだけでも生き残ってくれ」

 

 虎杖は立ち上がる。

 陽炎のように揺らめく呪霊を前に、先輩を背中にして、足を震わせながらも対峙する。

 

「ダメだ。そしたらアンタはきっと、自分が死ぬような事をする。

 約束しただろ、全員で一緒に飯に行こうって。破んなよ」

 

「今はそんな事を言ってる場合じゃない!

 そもそも、呪力が無いお前がどれだけ頑張ろうと」

 

「……なあ」

 

 虎杖が一歩前に進む。

 虎杖の身体の輪郭がボヤけていく。

 血が流れている頭で、少しでも望んだ未来への道を探っていく。

 

「アイツらは宿儺の指を狙ってるんだよな。それは何でだ?」

「喰ってより強い呪力を得る……馬鹿‼︎ やめろ‼︎」

 

 

 呪物を喰らえば、呪力が得られる。

 呪力があれば、呪霊と戦える。

 

 

「─‬‭─俺に呪力があればいいんだろ?」

 

 

 死中にいる緊張感から反射的に伏黒が答え、自分が何を誘導したか察し、止めるために走る。

 しかし……全員が助かる方法があるなら、虎杖は躊躇しない。

 

『‭─‭─‭─ビ‭─‭─‭─‭─‭─‬ヂ』

 

 ゴクン。

 

 伏黒が、呪霊が、虎杖に手を伸ばす前にその喉は指を飲み干した。

 

(特級呪物だぞ! 猛毒だ! 確実に死ぬ‼︎

 だが万が一…万が一受肉すれば…‼︎)

 

 

 

「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!!!!」

 

 

 

 ……世界はいつだって最悪だ。

 黒い影の呪霊が腕の一振りで吹き飛ばされ、最悪が更新される。

 

「ケヒッ ヒヒ! ああやはり‼︎ 光は生で見るに限るな‼︎ 呪霊の肉などつまらん! 人は!女はどこだ‼︎」

 

 再び伏黒の心が凍りつく。

 今度こそ命を張るに相応しい……どころか、最適ですらある強者。

 両腕を前に上げる。

 

「! いい時代になったなのだな 女も子供も蛆のように湧いている

 素晴らしい 鏖殺だ‭─‬‭─‬‭─人の体でなにしてんだよ、返せ」

 

 だが、だが、だが……世の中、最悪とは場当たり的なものではなく、長い眼で見比べて、初めて最悪だと分かるものだ。

 

「何で動け‭─? いや、俺の身体だし‭─くそ、こんなもの‭─何すんだ引っこんでろ」

 

「動くな」

 

 宿儺と会話している虎杖に向かって叫ぶ。

 

「お前はもう人間じゃない。呪術規定に(もと)づき虎杖悠香お前を‭─‭─‭─」

 

 短い時間だが、確かに有った良い関係に心を揺れ動かし……呪術師として、自分を規定した。

 

 

"呪い"として‭─‭─‭─"祓う(ころす)"‬

 

 

 次に虎杖悠香が目覚めた時、彼女は二度と今までの日常を過ごせない事を知った。

 千年産まれてこなかった宿儺の器。幾ら指を食べても制御出来る檻。

 

 新たな危険分子に対し呪術界を担う総監部は秘匿死刑を。五条悟は執行猶予を与えた。

 可能な限り指を食べさせてから殺す選択。

 死なない道は既になく、いつ死ぬかしか選べない。

 

 故に彼であろうと、彼女であろうと。

 虎杖が選べる道は同じであり、そこにある多少の変化で虎杖の運命は変わらない。

 

「で、十勝ちゃんはどうする? 今なら全部忘れて日常に戻れるけど」

 

「私は虎杖悠香の先輩です。

 あの子なら必ず封印を手伝ってくれるって分かっててオカルト部に入れました。

 ……私がこうなる道に引き摺り込んだもので、責任がある。

 だったら虎杖か私か……どっちか死ぬまで付き合います」

 

「頑固だね。ま、オッケー。

 ようこそ十勝ちゃん。

 呪術師の世界に」

 

 変わるなら、それはきっと周りからだろう。

 

 






 Q.運命がどうこうって何が言いたいの?
 A.女になってようと虎杖は同じ状況で同じ選択をする。だけど周りの受け止め方や前提の変化は乱数として原作から変わる可能性がある。


 成績表
・虎杖悠香 体術10 座学3 呪力センス8
 特記:体質「宿儺の器」
・十勝川下 体術2 座学10 呪力センス5
 特記:術式「刃鎧(ダメージ蓄積反射)
・伏黒恵  体術9 座学10 呪力センス9
 特級:術式「十種影法術(式神10種使役可)

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