五条悟
「今はただただ──この世界が心地いい」
原作の人。無限、引力、処理落ち領域が得意。転移も出来る。
元と違い死の縁に立った経験がないので反転術式が使えない。
慢心も強者の自負もない。無限の壁が無敵じゃないのは散々経験済み。
本人はそう思ってないが間違いなく現代最強。
新鮮な脳を常時お届けしてないからか
「動けるか
「問題ねぇ。けど……」
時は9月、晴々とした空に青く広がった森が広がる呪術高専の敷地内にて。
羂索一派の襲撃に遭った呪術高専は団体戦を中止し、生徒も教員も全員で侵入した不届者を相手に共闘していた。
『████ █████ █』
「アレは"なんだ"? 呪霊なのは分かんのにそれ以外なんも情報が入ってこねぇ。体皮も文字化けしてるし」
「"今時の呪霊"だろう。アナログホラーって奴だ」
「何それ?」
「違和感に視点を置いた映像作品らしい。俺も初めて見るから詳しくは分からん」
「兎に角、そういうのが元になった呪霊って事か」
会場の各地で特級呪霊が暴れる中、虎杖が京都姉妹校の在学生、東堂葵と共に相対のはそんな呪霊だった。
特徴としては最初の頃、宿儺の指を食べるに至った呪霊に似ているだろうか。
身体にノイズが走り、デジタルから飛び出したような気配を漂わせた呪霊。
前回の呪霊との違いは意味を成さない異形の文字で身体が覆われている点か。
「うーん…でもよく見れば隠れてる奴が見えそうな……」
隙間から垣間見える何かに、聞こえる雑音の中から何かから虎杖は意味を見出そうと眼を細めた。
『██████████』
よく見れば、よく見れば……。
バチン!
突如として東堂に強く
東堂の気付けではない。脳に対する直接攻……。
……"さて、自分は何をしていただったか?"
「いっ…あれ、俺何してた?」
「心を強く持て。あまり深く見ようとするな。どうやら理解しようとするほど正気を奪うらしい」
「ごめん、ありがとう」
ごちゃごちゃ考えるほどドツボに嵌る相手と見るや、言葉も交わさずに二人は時間差を作って動き出し、挟み撃ちに打って出た。
虎杖が自由に動き東堂が補佐する連携。五条の侵入を拒む帳が降ろされた今、必要なのは他の生徒との合流と時間稼ぎ。
(まともに取り合うなよ東堂、既にあちこちで特級の気配がする以上、スタミナ切れは死を意味する‼︎ "ここは逃げるのが吉"‼︎)
既に隠れる必要が消えたからだろう。
東堂の感知能力には目前の呪霊と同等かそれ以上の気配が"7つ"。
"3つ"の位置からしてバラバラに別れた生徒全員に一斉に襲い掛かったか。
もたつけば死者が出るのは明白─…
…"何故戦おうとしている"?
「虎杖‼︎」
挙句、拍手を行い虎杖との位置を交換する。それから急いでその場から脱出し"呪霊の影響から逃げ出した"。
高専の立場にも関わらず1級まで上り詰めた術師が有する術式。
扱いの難しい術式を日頃から使い思考してきたからこそ気付けた違和感。
「戦闘は無しだ、このまま"戦う"ぞ‼︎」
「はっ⁉︎ なんでだよ、さっきまで"逃げてた"のに⁉︎」
「いいから走れ‼︎」
逃げる途中から"思考が繋がった感覚"に、術式の範囲外に出たと判断し虎杖に説明した。
「"近くに居ると強制的に混乱する"術式だ‼︎ 俺達は足止められていた‼︎」
「はっ!?」
「相当マズい事になった。俺達は情報も行動も周回遅れだ」
改めて現状を整理する。
7体感知したのは最初の方、今感じ取れるのはさっきの混乱させる呪霊と合わせて3体。
他の術師により4体の特級呪霊が倒されるまで、虎杖と東堂はあそこで立ち尽くしていた事になる。
恐らく思考速度……この場合は時間感覚だろうか。
兎に角、狂った感覚と思考に陥り足元を掬われた以上これ以上遅れを取るのはマズい。
しかしアレを放って置くのも致命的な事態を引き起こしかねない。
倒すか監視か。
どっちにしろ遠距離が可能な加茂か、空を食べる西村が最適解だ。
「加茂か西宮に合流する。目が細く古臭いもみあげマンと金髪魔女っ子だ。手分けして探すがいいな?」
バタンタッチし、適切な術師をあてがう。
倒すまでは行かなくとも、どちらか片方さえ居れば監視か足止めのどちらかは出来るだろう。
向こうの状況は分からないが、今取れる最善手はこれしかない。
「分かった。俺は川の方に行く」
「いや、俺が川だ。寺の方は任せたぞ、
その事を虎杖も呑み込めたのか、コクリと頷いて感じ取れる気配の片方を申し出た。
流石は親友と言うべきか。一を聞いて十を知る天才で、何も言わずともより強い気配のする方を買って出た。
だが早い。虎杖は既に黒閃の味を知り上等な領域に立つ術師だが、まだ一年生で呪術師として経験不足な面が目立つ。
故に東堂は虎杖の言葉を訂正し、自ら川の方へと向かった。
「……や、俺はお前のシスターじゃって…行っちまったか」
虎杖が混乱の術式も抜けてツッコミを入れる頃には既に東堂の姿は無かった。
まあいいかと言われた通り寺の方に向かうと、かつては立派な建造物だったのだろう。
「うわっ無残」
何かしら災害が通り過ぎれば同じ様になるだろうか。
其処は既に見晴らしのいい廃材の山に変わっており、激しい戦闘があった事を思わせる夢の跡へと変わっていて……"刀を持ち倒れた青髪の女の子と、吐き気すら感じる2つの残穢が漂っていた"。
「ぅぇ……」
「おい! 大丈夫か!?」
駆け寄り肩を揺らすも、呻く声が今にも命の火をか細く絶えそうに漏れるばかり。
仕方ないだろう。既に右肩から先は無く、左手に持つ刀も刀身の殆どが無い。
全身がボロボロの血塗れで、最後まで戦ったことしか虎杖には分からなかった。
「よく頑張ったな。
待ってろ、今先生達を読んで」
「に…げ て」
挙句に、女の子を抱き抱えて跳ぶ。
『攻撃を 避けられた!』
先程までいた場所には複数の斬跡が刻まれ、糸屑が舞っていた。
見れば人形のような呪霊が、何処かへと繋がる糸にぶら下がりぎこぎこと不恰好に動いている。
……特級の気配にしては弱そうに見えるのが率直な感想だった。
「今はオマエに相手してる暇はねぇ」
どんな相手であれ……ここには東堂が言っていた加茂と西宮の姿はない。
いつあの混乱させる呪霊の範囲に入るか定かではない以上、青髪の女の子を死なせない為にも虎杖は此処を引く選択をした。
「ち……がう」
「待ってろ、今家入さんのとこに」
「わたしから……にげて」
「え?」
ふと、視界の隅に反射光が過った。
"青髪の女の子が刀を虎杖の首に当てがっていた"。
「ッ‼︎ なにを」
『"セレクト"』
反射的に突き放し、首を切先三寸が掠るのみに留める。
突き飛ばされた青髪の女の子はぐるりと空中で姿勢を整えて着地し、人形の呪霊の横にふらりと立った。
いつの間にか砕けた刀は新品同然で、右腕も戻って……いや、よく見れば腕も刀も切り目が縫われている。
『"[黒星-弐]三輪霞"』
「……趣味悪いってレベルじゃねぇよ、オマエ」
人形呪霊の術式、"死体操作"。
三輪と呼ばれた者は既に死んでいた。
いや……正確には"死に掛けた状態で、いつでも術式を発動出来るようにされていた"。
「"たすけてください"」
「……ごめん」
でまかせでも助けると言えなかった。
既に顔を削がれ、心臓のある場所に穴を開けた死体を助ける方法を、虎杖は持ち合わせていなかった。
「すぐに楽にするから、それまで頑張ってくれ」
………。
人形への恐怖は古来から存在する。
この呪霊はそんな古典的な恐怖に現代的な電子遊戯、デジタルホラーの要素が混ざって産まれ、羂索による呪霊操術と調伏の反復で強化され特級まで格上げされた呪霊。
元は低級だからか術式も死体一人分。
操作の対象にする際に死体の損傷を回復させ、本来の戦闘能力を発揮させる程度だった。
だが。
『
「クソッ‼︎」
"その制限は羂索が試しにソシャゲをやらせた事で消え飛んだ"。
元から存在要素としてデジタルゲームを含んでいた事もあり、拡張された術式は"死体が得られた可能性をガチャ的に引き出す"に至る。
呪霊だからこそ成立する縛り。
存在の一部である呪力を元手に享年時の実力をNとしたランク上げ。
更には様々な呪術的価値のある物品や素材を事前に用意し強化を施す儀式を成立させるまで広げた術式は、キャラクターが一体だけのソシャゲと言える程に術式を拡張。
「────」
「クッ…なんでこんな強いのに死んじゃったんだよ‼︎」
結果として、ただの3級術師だった筈の三輪霞は死後、五条に迫る特級クラスへと覚醒。
純粋な剣技を極めた可能性、頂きへと到達した何処かの自分が降され、不幸にも近くにいた特級呪霊二体を討伐。
自動戦闘モードにする拡張術式を利用した呪霊操術の抜け道。
人形呪霊はこれを利用し三輪の強化素材として消費した。
『──"納刀" "7" "消費"』
「──だったら本体‼︎」
瓦礫を背にギリギリまで引き寄せ、渾身の抜刀に合わせて上に避け、頭部を蹴って瓦礫に突っ込ませる。
折角の可能性も、潜在能力の為に注いだ強化幅を丸ごと失えばあまり違いはない。技術は確かにすごいが、避けられない訳では無かった。
『"
「遅ぇよ」
このまま三輪の攻撃を避け続けても分が悪い。
同士討ちに見える趣味の悪い状況だが、この戦闘の本質は式神使いとなんら代わりはない。
「フゥ──ッ‼︎」
直後に瓦礫が32分割に解体され追い縋れるが、この一瞬さえ有れば虎杖は呪霊を叩く事など造作もなく。
『──ギッ⁉︎』
"二度に渡る衝撃"をモロに喰らった人形呪霊はアッサリとチリ屑に変わった。
「……え、弱っ」
呪霊としての全リソースを術式に注いだ、縛りと併せ歪な成長をした呪霊を一撃で倒せない程虎杖は弱く無かった。
測らずも術式特化の最も弱い瞬間の奇襲なのも有ったのだろう。虎杖は幸運にも労せず呪霊を祓うことが出来た。
チャキ。
「……あ」
直後、首元に刃渡2尺3寸が添えられていた。
「もう
────
戦わなくて…あ?」
曲がりなりにも"術式特化"の特級呪霊の術式効果は、死んだだけで終わる程"
気が付けば虎杖の視界は"何処か既視感を感じる"ズレと共に意識を──。
トッ。
「残心が足りてないですね、後輩」
「あ…あれ、ぅえあれ⁉︎俺首が」
「あっはっは──"ただの殺意"ですよ!
あのクソ人形に弄り回された影響か、こんな芸当も出来るようになれました!」
──…手放す事はなく、数歩後退りして狼狽えている内に三輪はカチンと納刀し虎杖に投げ渡した。
虎杖は慌てて受け取り、三輪の顔と交互に見やる。
どうやら斬られたの錯覚で、実際は軽く峰で叩かれただけだったらしい。
「先輩…ええと確か三輪…」
「何を聞きたいかは大体分かります!
操られてる間も
「あぁそうなんだ。でも良かった! これで」
「あ、"普通に死んでます"。今話せてるのは気合いで……すみません、手伝えそうになくて。寧ろ、私の手伝いをお願いしたいって言うか…時間が無いので早く決めて欲しいって言うか…」
三輪の言葉に虎杖が言葉を失う。
失い…何も言わないのは自分勝手な我儘だと、遺言を聞く事に決めた。
「…分かった、何をして欲しい。なんでもする」
三輪はそんな虎杖を見て困った様に曖昧に笑う。
彼女の中でこれかららしくない事をする自覚があったからだろう。
……ある意味、これから自分は見ず知らずの彼に呪いを掛ける事になるのだから。
「遺言1、その刀は私のありったけを込めました。生理的にあの世に持って行きなくない、人形に弄られた
あ、最悪この場を切り抜ける為に壊しても文句はないです。命大事に!
遺言2、メカ丸に「幸吉、先にいってごめん」と伝えて下さい。京都高のみんなには「今まで楽しかったです」と。
遺言3、倒したと思った瞬間が1番危ないので、残心の心得は忘れずに。明鏡止水って感じで!」
本当に時間が無いのだろう。
端的に最低限の身元整理の指示を行うと、三輪は最後に虎杖へのアドバイスを送った。
なんでそうしたのか。遺言を届ける人が死ぬのが困るというのもあるが……それ以上に彼女のミーハーな野次馬根性が1番の理由だろう。
何か背負ってそうな女の子の気分を軽くしてやりたいという、そんな責任感の無い第三者の軽い気持ち。
……死から少しでも目を逸らそうとする現実逃避。
指が崩れ、人形呪霊が縫った糸が解け、血が垂れていく。
「じゃ、頑張れよ女の子!
今日が初対面だけど!」
果たして声は震え無い様に言えただろうか。
こんな会って直ぐバトった相手にすら悲しめる女の子が、これから呪術界で上手くやっていけるだろうか。
ママとパパと弟達にはごめんなさいしないとな。
幸吉絶対怒るだろうな。やだなぁ。
死にたく無いなぁ。もっと美味しいご飯食べて家族みんなとディズニー行って、おしゃれな服も……。
「──行こう」
……どれを考えたか、それとも全部か。
それは本人にしか分からないだろう。
バラバラに崩れ赤く染まったボロボロな死体の、僅かな温もりだけの秘密だ。
黙祷を済ませた虎杖は刀を腰に携え、東堂の方へと向かう。
果たして無事だろうか。三輪最後に立ち会ったからか、大丈夫だと信じていても内心不安が思考を掠め……"フッと、思考が澄み渡った"。
「──"入った"」
脳がピリッとする感覚に、東堂が言っていた"混乱させる領域"を理解した。
これだ。この脳に干渉して来るテレビの砂嵐みたいな煩わしい呪力の影響だ。
何故あの時と違い無事なのかは……腰に携えてる"刀の呪具"のお陰だろう。
方から虎杖を守る様に薄く延ばされた呪力が、一種の簡易領域として成立しているのだ。
「なら…俺がやる」
"混乱呪霊が近くに居る"。
元々はコイツの対策として有効な人を探していたが、事自力で倒せるなら話は別だ。
動くだけで周囲を荒らせる文字通りの"混乱の元"。向こうの状況は分からないが、ここで倒せれば不確定要素は確実に減る。
「三輪先輩、頼りにします」
改めて戦闘の邪魔にならないよう、若しくは壊さないように腰から背中の方へ持ち変えて虎杖は中心部へと向かう。伏黒や東堂達なら大丈夫だと信じて。
……それから虎杖は混乱の呪霊を殴り殺してこの騒動を終える事になる。
相打ちで気絶した訳ではない。丁度そのくらいで他の特級呪霊も祓われ収集がついたからだ。
元より国家を滅ぼし兼ねない能力があるとはいえ、純粋な戦闘能力で見れば一級呪霊がカツラを被ったような弱い霊の集団だ。
こうなるのはある種必然だったのだろうが、とはいえ事態は五条が帳を破り内部に侵入するより早く終わりを迎えた。
「…て訳で、これが三輪先輩の呪具です。金は家庭に入れて欲しいって言われたんで、俺は今から京都高専に高値で売りに行きます」
「おう、なるべく高値で売ってやれ」
「パンダはお前…随分とちっちゃくなったなぁ」
「後で夜蛾に手直しして貰う予定。んで
生徒の犠牲は三輪霞一名。
暫く戦闘不能に陥った重患者はメカ丸、パンダ、その他怪我多数。
その上三輪は生徒からの"実質特級呪霊4体斬り"の声が挙がる程の、死を以ってしての獅子奮迅の活躍を見せたという。
「してやられたね」
「生きてるだけマシ……とも言えない状況じゃな」
「正直ね。生徒もそうだけど、数少ないまともな大人が減るのはかなりクる。
ちょっとマジに協力しないとヤバいし、ジジイは上をどうにか言いくるめといて。
余計な手出し、絶対させんなよ」
「……ふん」
そんな生徒達とは真逆の結果として、楽厳寺を始めに事実上の引退を遂げた大人の術師や補助監督は合計15名にも及ぶ大損害となった。
表で暴れられた呪霊は所詮見せ物。裏で暗躍していた真人は見事その役目を果たし多くの術師を葬った形となる。
どんな未来ある卵も温める大人が居なければ意味がない。
卵は確かに大事だが、育てる親が居なければ五条が目指した結末には程遠い。
両方を失ったこの出来事は五条にとって大変屈辱的な記憶として覚えられる事となった。
「さて、これで盤面はかなり僕達に傾いた。
相手の駒は歯抜けとなり、立て直しにはそこそこの時間を要するだろう。
決行までの時間稼ぎとしては上出来。
盗んだ呪具と併せて、五条陥落は先ず成功するだろうね」
『ふーん。なあ夏油、今やるんじゃダメなの?
そのカビ臭い地図に従う必要ある?』
「
これまで二回しか外れた事のない、運命を観る呪具がそう示してるんだ。
知って以来何度か僕も動きを変えたりしてみたけど、結局逆らえた試しは無かった。
少なくとも、呪力の宿る存在はこれに逆らえない。
唯一すり抜けるには、完全に呪力のない存在でないと……まぁ、癪なだけで今回はある意味味方だ。気にしなくていい。
雑談はこれまで。
そろそろ幸吉くんのお部屋に入ろうか」
………。
そして時間は渋谷事変へと到達する。
この日から幾つかの騒動を経て、呪術師として細やかな成長を遂げながら、彼女らは運命の日を迎えた。
Q.あれ、起首雷同と宵祭り編は?
A.お兄ちゃんの代わりに
あと、加茂君と西宮ちゃんが羂索が育成の命令を出して放置してた特級呪霊と遭遇し倒す話もありましたが、流石に特級の安売りなのでカット。成長が振るわなかったので、普段の業務にしては大きな山って感じ。話のノイズになるのでカット。
次回、渋谷事変。