蛹の縛り
1、「蟷螂の縛り」で試行回数が稼げる状況にある場合…「儀式」の宣言をした場合において、「親」の死は最低4体の「子候補」が最低7年育ち、産まれる瞬間まで遅延される。「儀式」が成立しなかった場合、この術式の縛りが対象に取れる全ての者が死ぬ。
2、呪具「一族列伝」を取り込んだ者を産み、それ以外は呪具として再現される。
以降2代目 傀塚墓守 傀塚白限定
3、以上の対価として「子」が産まれるまで、「降霊術」と「招虎」及び呪力の全ては「子候補」に注がれ、それ以外で使えない。但し術式の精度を上げる為ならば外部の記録媒体を使用してもよい。
4、呪力は呪具「逆霊四呪」により賄われる。
5、呪具「一族列伝」が遠方に行って「子候補」が一人の場合、「儀式」に使われる結界の活動可能限定が解除され、「降霊術」を強制行使させ呪具「一族列伝」を譲渡する。
975年。
藤原の一族が天皇家に娘を嫁がせてたりする日々を送って8年目のこと。
「呪霊討伐の為の上洛……に御座いますか」
「ああ。いよいよというべきか、漸くと言うべきか迷うが……来いと言われた以上はな」
「平安京の周囲に徘徊する呪霊が目障りなんだってさ。最近じゃあ京の呪術師達が毎日10の呪霊を滅しても、次の日には15の呪霊が産まれ出づるとか何とか」
目前に並び座る御夫妻の言葉を噛み締め、飲み込み、厄介事の訪れに沈む感情を押し留め、それでも耐えきれない感情が、下向きの言葉を吐き出させる。
「只事ではありませんね。オチは産屋の特級呪霊が潜んでる…などで御座いましょうか?」
「かもねー。あそこの結界は日本一。私なんて足元に及ばない領域だし……呪霊の抑制も効いててこれって、変だよねー?」
奥様の言葉に、つっかえる気持ちを抱いて、慌てて口から飛び出さないように抑えた。
天下を取った藤原の命運を自在に操り、実質的に日本の全ての禍福を観れるようになったのに、随分と惚けるのが上手いと、言いたい気持ちを抑える。
「私達は名目上朝廷の直属の呪術師に当たる。私を捩じ込ませた藤原の者曰く、肩書きだけならあの晴明と蘆屋と同じだそうだ。……そこまで求めてはなかったから、それがどれだけすごいかは知らないが」
「いい加減顔見せろって手紙も山積みだしねー。天下を取った藤の一族の禍福操作の応用で、日本の未来の予言をしてたけど……そろそろこの誤魔化しも限界みたい」
「今年なんて一目見る為の式神入り牛車がここからあそこの山頂まで続いてましたからね」
言ってからハッとして、遂に耐えきれず言った皮肉を御夫妻が軽く流した様子をみて安堵し……眼鏡の端に映る小さな4つの影を不快に感じて眼を閉じた。
己の術式を宿した呪具を伝って、子供達の声が聞こえる。
『呪霊か……』
『こわいね!』
『母様が行くん?』
『まさか……御父様が向かったりしませんよね?』
「ハクは行かないさ。もうじき末妹が7歳となる時期。行くのは私と術師の部下だな」
(……気味が悪い)
御子息様方が産まれて8年。
『そっかー』
『いってらっしゃい!』
『……御父様と一緒には行けませんか?』
『あ、僕も京に行ってみたいです』
「ダメだ。数ヶ月の旅だぞ。末の誕生日に間に合わなくなってしまう」
私がこの家に仕えて、8年。
本来なら一年も経てば産まれる筈の赤子達の肉体を未だ胎に納めた母親に、肉体もなく、声のみが聴こえる子供達がいる環境に、8年。
私が知っている呪術師の中で最も悍ましく、狂気こそ正気とした家に従えて、8年。
(……いよいよ、心が死ぬかもな)
"魂を見る呪具に映された4体の呪霊に似た子供の魂"を見ると、つくづくそう思う。
どうしてこんな場所に居るのかと、自分の運命を呪わずには居られなかった。
▲▽
私は貴族の家系に産まれた女だ。
と言っても藤の端くれ。皆が集まる場では常に末席に座る、吹けば飛ぶ細やかな一族。
今にも枯れ落ちそうな、茶色の葉先が私だ。
だからだろう。
産まれてずっと、私は自分の意思で将来を選択したことなど何一つとして存在しなかった。
政治的に嫁ぎ先が選ばれて、かと思えば急に術師として、目代としてこの家に送られた。
全てが急な話で、初めての京の外は呪霊だらけだったから、当時は心底不安に駆られていたのを今日の事のように思い出せる。
『ギャイ…ギャァ』
「あれは…あれはなんだ!?」
「ん?……そこの地蔵のことですか?」
「違う! その地蔵の上に我が物顔で座る物怪のことだ!」
『ギャァァ……"不敬だぞ!!"』
「なにが──っ!!?」
正直、私は自分が術師だと未だにピンと来ていない。
初めての呪霊討伐はずっと薙刀片手にへっぴり腰であったし、術式を使えたのも無我夢中に呪力を振り回した結果だ。縛りだって、殆どその場凌ぎで結んだものばかり。
この家に着くまでに相対した8体の呪霊は未だ悪夢に出るし、その全てが術式を持つ呪霊だったのは未だ納得がいっていない。
『ぎぃィィゝアアァァアァ!!!────… 』
「はぁ…はぁ……し…死んだか? 死んだな? 塵と消えたからにはそう判ずるからな?……はぁぁ……しんどいな」
そのせいで御付きは早々に死に、辿り着く頃には名目上の2級術師が本物になっていたのだから、世の中とはままならない。
「うーん……それ呪力を火に変える術式じゃなくて、呪力を可視化する術式じゃない? 呪力に熱があるのはただの呪力特性だと思う」
「なんと」
本当にままならない。
奥様に頼まれて見せた結果、術式を使わずに呪力を振り回した方が強いと分かったのだから。
じゃあなんだ、今まで私はハンデを背負って戦っていたとでも言うのか。
「いや……でも認識を阻害する隠蔽の結界を見破ってるから……最初に滅茶苦茶な動かし方をして、それで戦い方を覚えたせいで"常に術式を逆順で使ってる"っぽいね。見える対象が自己から他者になってるから」
「…つまり?」
「ずっと後ろ逆上がりでお手玉と縄跳びしながら戦ってよく疲れないね? 正直奇跡のバランスだよ、なんで私達の目代にされたか分かんないくらいに」
「なんと」
「
本当にままならない。
通り過ぎた旦那様が、何処で拾ったか唐物の中でも一層ヘンテコな文字の異国書を由来にした二つ名を付けますし…しかしこの後の出来事を思えば、この程度はまだまだ気楽なものでさえありました。
そう、私が常に反転術式で作った正の呪力を、回復効果を縛りで封印して使う事で、火力を数段押し上げている事が些細になるくらいに。
▲▽
「──…という訳だ。今日から暫くの間この家に呪霊が出るだろうが、敵意を向けずに人の様に扱ってくれ」
『おぎゃあ! オギャア!』
「おーよしよし、お腹が空いたのかなー?」
「……正気ですか?」
「正気だからこそ、最大限を尽くしてこうなっている」
異様な光景だった。
奥様の胎から臍の緒のような繋がりを持った呪霊が、平然と乳を吸っている光景は。
「私の術式には親から継いだ、子供を産むと母親が死ぬ縛りが有ってな。代わりに降霊術を確実に継げられるのだが……それでは教育も何もあったものではないし、何より妻にも子供にも愛を与えられない」
『うきゅ…うきゅ…ゲェ!』
「ゲップ上手だねー。いい子いい子」
「そこで考えたのが子供の肉体を妻の胎に留め、魂を先に育てる方法だ。一つの肉体を4つの魂が共有し、争い、生き残った1人には3つの呪具と私達の教え、全盛期が長く続く身体を与えられる」
さらりと、旦那様が悍ましい儀式の概要を述べる。
たった1人しか産まれない。
その縛りの中で最大限愛を、何かを残そうと足掻いた末の、醜悪な父親の話だった。
「……その代わりに何を払っているか、見えてないのですか?」
「本来なら妻だけ死ぬ縛りに私の命、産まれる前の3つの魂、7年分の呪力と術式、"魂のみで活動させる為の呪霊"……特に最後の方は奇策であり苦肉の策だな。私の降霊術で子供に呪霊を不完全に乗っ取らせることで、無理矢理外で活動出来る身体を持たせるなど……呪力的には生前葬をした赤子が死者と判定されてなければ不可能だった」
『……すぅ…すぅ』
「ふふ、可愛い。加えて子供達は私が構築した結界のみで活動可能として、その他色々式神も使って……ま、私はそこまでして私と一緒に居たいって気持ちが嬉しいし、喜んでやるけどねー」
眠りに着いた呪霊の赤子を見て笑い、その横で平然と私に事情を打ち明けている。
幸福な日常と凄惨な未来を語る光景が目の前にあった。
何かが、形容し難い程に狂っていた。
一緒に居たいなら子供を諦めれば済む。
子供を得たいなら妻を諦めれば済む。
両方を得たいなら、長く生きて年老いてから子供を産めばいい。
その前に腹が使えなくなるかも知れないが、それが一番穏便で平穏な選択だ。
なのに、どうしてこんな事をする?
何故この悍ましい儀式を簡単に打ち明けられる?
普通は隠し、正道を歩む者に怯えてやるべきだろう?
私が儀式を破綻させると考えてないのか?
どうして私を巻き込むんだ?
「……正気では御座いませんね」
「子に愛を与えることが狂気と言うならば、幾らでも狂人と言え」
「私が止めるとは考えないので? いや、そもそも……その呪霊を子供が乗っ取るまで、"一体何人が死んだ"のですか」
「73。4級呪霊の魚腕を不完全ながらも乗っ取れる赤子の魂が出て来るには、それだけ必要だった」
「命をなんだと──!」
「でも産まれる前だし、魚腕程度に負けるのって非術師か、非術師と殆ど変わらない術師の子供だからねー。最低でも4級程度の呪力があれば勝てる相手だし、別によくない?」
「──…っ!」
抑えきれなかった。
生かしておけないと、反射的に薙刀を構えていた。
そんな無策な行動に対処を持たない相手でもなく、直ぐに縄の呪具により拘束される。
振り切ろうとすれば出来る、朧な拘束だ。
なのに、どうしてこんなにも……"解こうとするほど心臓を掴まれる錯覚が起きる"?
「もう既に、照尽は私達を殺したら死ぬ立場だよ」
「構いません。一族の追手程度、今の私なら…!」
「そっちではない。"お前は藤の者だろう"。その血はハクの術式対象だ」
「君が派遣された理由は、私が藤の名を持つ一族全てと
「………!!」
奥様の術式について、この時の私は既に説明を受けていました。
その上でこの言葉が何を意味するか……私はこれから起きる惨劇を眺めるか、死ぬ以外に道はないという事に他ならない。
「分かったなら話を続けよう。これからの生活において聞きたいことは?」
抵抗は無駄だ。
ではどうするか。
些細を聞き出し、破綻させる抜け穴を探すしかない。
「………疑問が。こんな大規模な儀式に必要な呪力は? どう見積もっても旦那様方の呪力では足りない筈…」
「それ用の呪具を作った。特定の負の感情から産まれた呪霊に集まるそれを、結界越しに儀式に注ぐ呪具だ」
「具体的には……いえ、わかりました。今後は粉骨砕身で働かせて頂きます」
「ならば2つの縛りを結べ。"傀塚家の者に対する攻撃の禁止"、"この儀式の顛末を綴り本を創ること"。それで先ほどの非礼を許す」
それ以上は聞かなかった。
これから長い年月を此処で過ごすことになりそうな事実と向き合うのに、精一杯だったから。
眼の前の闇に目が霞んで、これから起きる全てに恐怖を抱いたから。
▲▽
そして時は戻り、975年。
傀塚家の儀式、その始まりまで残り数ヶ月を残しての呪霊討伐の命令。
立場上どちらかが行くしかなく、儀式の観点から奥様が残る選択を成された日。
「…おっと、出発前に一つ頼みたい事がある。8年前に創らせた本を持て。討伐した呪詛師の研究成果として手土産にする」
「土産ならもっと相応しいものがあるかと」
「ふむ……一歩踏み込み話すなら、これは術式の開示を兼ねている……とだけ言っておこう。兎に角持っておけ」
これから殺しあう相手でもないのに、態々儀式の術式開示…?
確かに呪力を使う以上は結界術であろうと開示をすれば威力を上げられるが……身内で済ませるような物を開示する必要が何処にあるのだろうか。
……何か、この儀式には他者に影響する要素があるのか?
「あれから話し合った結果、今回平安に向かうのは私と照尽の二名。ましてや人外魔境と手紙で揶揄されてるのが今の平安だ。呪具に式神と持ち込んではいるが、死ぬ可能性は十分以上にある。遺言書は書き終えたか?」
話しかけられたので思考を中断し、返事をした。
そうだ、今は傀塚家の儀式は一旦忘れよう。
呪霊との戦いで余計な思考は死に自らを
眼の前の事に集中しなければ。
「旦那様が持たせた本こそが私の遺言書ですよ」
「そうか。気を付けろ、京に近付いていく程呪霊は強くなる────行くぞ」
薙刀を握る手を、より一層強めた。
平安に留まる以上、儀式は最早止める事は出来ないだろう。
しかし、そちらを気にしていいのはこの遠征を生き残った者だけだ。
頬を叩き、緊張を張り直した。
『ア°ア°ア°ァ°ァ°ァ°ア°!!』
「邪魔です」
『ァ°──… 』
早速現れた呪霊を斬り払うのを門出に、私達は平安への道を歩み始めました。
可視化
呪力を非術師にも見えるようにする術式。
ハズレ枠。ガチャで言うならC/コモン。見せた所でなにって話。
術式反転で行使すると他人の呪力を見れるようになるが、普通の術師なら出来て当然なのでやっぱりハズレ。一応隠されてる呪力や術式を暴けるが、普通そんな物と出くわさない。
唯一の利点は呪霊や魂を見れるようにする呪具を簡単に作れること。
呪力特性「焔延焼」
今作独自の呪力特性。
呪力がナパーム弾のように飴のように粘つき、長時間高熱で燃え続ける。
耐久戦向きの特性だが、照尽は呪霊との戦闘が嫌過ぎて瞬間火力に特化する縛りを結び、長所を全部殺した。代わりに瞬間火力は凄まじいが、総火力や厄介さとしては何も縛らない方が強い。
常時反転術式による戦闘
今作独自のへんな癖。
天尽は初戦で正の呪力に目覚めたが、敵が寧ろ元気になったのを見て、半端な縛りの知識で回復効果を殺傷能力に変えた。反転術式のアウトプットまでしてたのに勿体無い。
その為呪霊に対し特効効果を得たが、代わりに呪力の消耗が倍では済まさなくなった。
以上により正しく育てば一級に成れた筈の才能は、ギリギリ2級レベルにまで落魄れる事となった。