ありふれた術師で世界最強   作:蛇弟

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後編でごぜいます。
取り敢えず、爪熊ころころするところまで持っていきます。
ヒロインアンケートなんですけど期限を今月中までにします。
あんまり長くしてもあれですし。では後編どうぞ


逆襲の咆哮を上げるは人間か獣に堕ちたものか...

「あぐっ!?」ドスッ

「ん...?起きたか。」

 

ん?アタマ抑えてる....あ〜上げるの時に打ったなこれ....つう...やっぱ極の番は使うもんじゃねぇな...負担がやべぇわ...

「ハジメ、おはようさん。痛みとかはあるか?」

「ほえ?龍牙?さっきまで居なかった気が...あ、うん。特には....あれ?腕が...」

「まさか、気づいてなかったのか?片腕しかないのに?」

 

しばらく呆然とするハジメだったが、やがて自分が左腕を失ったことを思い出し、その瞬間、無いはずの左腕に激痛を感じてる。幻肢痛というやつだ。

そして、ハジメが表情を苦悶に歪めながら反射的に左腕を押さえて気がつく。切断された断面の肉が盛り上がって傷が塞がっていることに。

 

「な、なんで? ……それに血もたくさん……」

「さぁな、俺にも分からん。傷が塞ぐってくの確認したから寝たけどどういう種かは不明やネ」

暗くて見えないが明かりがあればハジメの周囲が血の海になっていることがわかっただろう。普通に考えれば絶対に助からない出血量だった。

 

「ハジメ...すまん、俺がもっと早く気づいてたら...」

「....うんん、気にしないで、龍牙君が悪い訳じゃないからさ。」

 

ハジメが右手で周りを探れば、ヌルヌルとした感触が返ってくる。まだ辺りに流した血が乾いていないのだろう。やはり、大量出血したことは夢ではなかったようだし、血が乾いていないことから、気を失って未だそれほど時間は経っていないようである。

にもかかわらず傷が塞がっていることに、ハジメが疑問を感じていると再び頬や口元にぴちょんと水滴が落ちてきた。それが口に入った瞬間、ハジメは、また少し体に活力が戻った気がした。

 

「……まさか……これが?」

「どれ...!これやな。さっきまであった頭痛が消えおった」

 

ハジメは幻肢痛と貧血による気怠さに耐えながら右手を水滴が流れる方へ突き出し錬成を行った。

 

そうやってふらつきながら再び錬成し奥へ奥へと進んで行く。

 

不思議なことに、岩の間からにじみ出るこの液体を飲むと魔力も回復するようで、いくら錬成しても魔力が尽きない。ハジメは休まず熱に浮かされたように水源を求めて錬成を繰り返した。

 

やがて、流れる謎の液体がポタポタからチョロチョロと明らかに量を増やし始めた頃、更に進んだところで、ハジメは遂に水源にたどり着いた。

 

「こ……れは……」

「なんじゃこれ?ただの石じゃあるまいし...」

 

そこにはバスケットボールぐらいの大きさの青白く発光する鉱石が存在していた。

 

その鉱石は、周りの石壁に同化するように埋まっており下方へ向けて水滴を滴らせている。神秘的で美しい石だ。アクアマリンの青をもっと濃くして発光させた感じが一番しっくりくる表現だろう。

ハジメは一瞬、幻肢痛も忘れて見蕩れてしまった。

そして縋り付くように、あるいは惹きつけられるように、その石に手を伸ばし直接口を付けたので、慌てて引き離す。

 

「ちょい!?まだ安全かの確認済んでないんやからいきなり飲むなよ!?ビビったわ!」

「でもこれ、大丈夫だと思うよ。さっきまであった痛みとか無くなったもん。」

「なるほどねぇ...治癒効果持ちの液体垂れ流す鉱石...ねぇ」

 

俺がそう考えてるのを尻目にようやく死の淵から生還したことを実感したのか、ハジメはそのままズルズルと壁にもたれながらへたり込んだ。

 

そして、死の恐怖に震える体を抱え体育座りしながら膝に顔を埋めた。既に脱出しようという気力はない。ハジメは心を折られてしまったのだ。

敵意や悪意になら立ち向かえたかもしれない。助かったと喜んで、再び立ち上がれたかもしれない。

 

しかし、爪熊のあの目はダメだった。ハジメを餌としてしか見ていない捕食者の目。弱肉強食の頂点に立つ人間がまず向けられることのない目だ。その目に、そして実際に自分の腕を喰われたことに、ハジメの心は砕けてしまった。

A few days later....

 

どれくらいそうしていただろうか。

 

ハジメは、現在、横倒しになりギュッと手足を縮めて、まるで胎児のように丸まっていた。

 

ハジメが崩れ落ちた日から既に四日が経っている。

その間、ハジメはほとんど動かず、滴り落ちる神水のみを口にして生きながらえていた。

 

しかし、神水は服用している間は余程のことがない限り服用者を生かし続けるものの空腹感まで消してくれるわけではなかった。死なないだけで、現在、ハジメは壮絶な飢餓きが感と幻肢痛に苦しんでいた。

 

「....なぁ、お前このまま何もせずにいるつもりか?」

「....」

「まぁ、それに文句は言わねぇよ。お前の人生だ、好きにすればいい。だがな」

「.......?」

「地球や地上に置いてきた奴らのこと忘れんじゃねぇぞ。多分だが白崎嬢のやつ、お前が生きてるって信じてるぞ。」

「....どこにそんな確証があるのさ....」「勘だ。俺の勘はよく当たるんでね。もし外れたらなんでも奢ってやるよ。ま、ここを出たらの話やがな。」

「どうしても立ち直れないなら....なんでこうなっちまったのか考えろ。

んでお前はいい加減怒れ。だからあんな雑魚に舐められんだよ。俺が言えるのはここまでや。あとはお前が考えろ。」

「.......」

 

A few days later....

...お、動いたな。決心したか。ならば上々上々。

ハジメはすっかり弱った体を必死に動かし、ここ数日で地面のくぼみに溜まった神水を犬のように直接口をつけて啜る。飢餓感も幻肢痛も治まらないが、体に活力が戻る。

 

そしてハジメは目をギラギラと光らせ、濡れた口元を乱暴に拭い、ニヤリと獰猛な笑みを浮かべた。歪んだ口元からは犬歯がギラリと覗く。まさに

豹変という表現がぴったり当てはまるほどの変わりようだ。

 

(顔つきと目が変わったなぁ...なんつーか、呪力の核心掴んだ直後の悟を見てる気分だ。)

 

ハジメは起き上がり、錬成を始めながら宣言するようにもう一度呟いた。

 

「殺してやる」

「いや、数日ぶりの第一声がそれかい!」

 

..........迷宮のとある場所に二尾狼の群れがいた。

 

二尾狼は四~六頭くらいの群れで移動する習性がある。単体ではこの階層の魔物の中で最弱であるため群れの連携でそれを補っているのだ。この群れも例に漏れず四頭の群れを形成していた。

 

周囲を警戒しながら岩壁に隠れつつ移動し絶好の狩場を探す。二尾狼の基本的な狩りの仕方は待ち伏せであるからだ。

 

しばらく彷徨いていた二尾狼達だったが、納得のいく狩場が見つかったのか其々四隅の岩陰に潜んだ。後は獲物が来るのを待つだけだ。その内の一頭が岩と壁の間に体を滑り込ませジッと気配を殺す。これからやって来るだろう獲物に舌舐りしていると、ふと違和感を覚えた。

 

二尾狼の生存の要が連携であることから、彼らは独自の繋がりを持っている。明確に意思疎通できるようなものではないが、仲間がどこにいて何をしようとしているのかなんとなくわかるのだ。

 

その感覚がおかしい。自分達は四頭の群れのはずなのに三頭分の気配しか感じない。反対側の壁際で待機していたはずの一頭が忽然と消えてしまったのだ。

 

どういうことだと不審を抱き、伏せていた体を起こそうと力を入れた瞬間、今度は仲間の悲鳴が聞こえた。

 

消えた仲間と同じ壁際に潜んでいた一頭から焦燥感が伝わってくる。何かに捕まり脱出しようともがいているようだが中々抜け出せないようだ。

 

救援に駆けつけようと反対側の二頭が起き上がる。だが、その時には、もがいていた一頭の気配も消えた。

混乱するまま、急いで反対側の壁に行き、辺りを確認するがそこには何もなかった。残った二頭が困惑しながらも消えた二頭が潜んでいた場所に鼻を近づけフンフンと嗅ぎ出す。

その瞬間、地面がいきなりグニャアと凹み、同時に壁が二頭を覆うようにせり出した。

 

咄嗟に飛び退こうとするがその時には沈んだ足元が元に戻っており固定されてしまった。もっとも、これくらいなら、二尾狼であれば簡単に粉砕して脱出できる。今まで遭遇したことのない異常事態に混乱していなければ、そもそも捕まることもなかっただろう。

 

しかし、襲撃者にとってはその混乱も一瞬の硬直も想定したこと。二頭を捕らえるには十分な隙だった。

 

「グルゥア!?」

 

悲鳴を上げながら壁に呑まれる二頭。そして後には何も残らなかった。

 

四頭の二尾狼を捕らえたのはもちろんハジメであった。反撃の決意をした日から飢餓感も幻肢痛もねじ伏せて、神水を飲みながら生きながらえ、魔力が尽きないのをいいことに錬成の鍛錬をひたすら繰り返した。

 

より早く、より正確に、より広範囲を。今のまま外に出てもあっさり死ぬのがオチである。神結晶のある部屋を拠点に鍛錬を積み、少しでも武器を磨かなければならない。その武器は当然、錬成だ。

 

ねじ伏せたと言っても耐えられるというだけで苦痛は襲ってくる。しかし、飢餓感と幻肢痛は、むしろ追い立てるようにハジメに極限の集中力をもたらした。

 

その結果、今までの数倍の速さでより正確に、三メートル弱の範囲を錬成できるようになった。もっとも、土属性魔法のような直接的な攻撃力は相変わらず皆無だったが。

 

そして、神水を小さく加工した石の容器に詰め、錬成を利用しながら迷宮を進み、標的を探した。

 

そうして見つけたのが四頭の二尾狼だ。

 

しばらく二尾狼の群れを尾行した。もちろん何度もバレそうになったが、その度に錬成で壁の中に逃げ込みどうにか追跡することができた。そして、四頭が獲物を待ち伏せるために離れた瞬間を狙って壁の中から錬成し、引きずり込んだのである。

 

「さぁて、生きてっかな? まぁ、俺の錬成に直接の殺傷力はほとんどないからな。石の棘を突き出したくらいじゃ威力も速度も足りなくてここの魔物は死にそうにないし」

 

ギラギラと輝く瞳で足元の小さな穴を覗のぞくハジメとそれを引きながら見てる俺。...嫌だって誰も普段の状態までここまで変わるとは思わんじゃん.... ハジメの視線、その奥には、まさに〝壁の中〟といった有様の二尾狼達が、完全に周囲を石で固められ僅かにも身動きできず、焦燥を滲ませながら低い唸り声を上げていた。

ん....?

「あ〜ハジメ、別個体来とるが捕えられるか?」

「あ?さすがに無理だぞ。こいつらで手一杯だってのに追加とか」

「んーじゃしゃーない。俺がやる」

「はぁ!?そんなことできるのかよ」

 

そうこうしてるうち俺達の仕掛けた罠の反対の岸辺の奥から一頭とはいえ二尾狼が走ってきている。

「ハジメ〜、俺の術式ってさ、ただ模倣するだけでさ。」

「あん?なんだよ急に」

「まぁ、聞けって。なんでも模倣できる代わりにデメリットがでかくてな。呪r....魔力消費がデカイのと脳への負担がでかいの」

「だから使えても10分が限界なんだよ。それ以上使うと脳に負担かかりすぎてダメージ入るから使わんけどさ。」

「...んで、結局何が言いてんだよ」

「あ〜、俺みたいな術式持ってるやつってさその持ってる術式の効果開示するとさ縛りみたいなものが発動してな、術式の効果や魔力の底上げできるのよ」

「あ〜そういう事か。お前、俺を実験台にしたな?できるかわからんから」

「グギャア!!」

「YES!まぁ....フッ!....効果と魔力底上げされたから成功やね。さて...掃除するか...『赤血』、赤縛。」

「ギャウ!?」「さて、血刃」

実験成功〜いや〜術式開示の縛り使えるか分からんかったら助かった助かった!

「悪いな、ハジメ。実験台にして」

「はぁ...悪いと思ってんならこいつら殺すの手伝え。手間がかかりすぎる」

「はいはい...『赤血』血星磊」

手伝え言われたので血星磊使って頭撃ち抜かせてもらいました〜

「はぁ... よし、取り敢えず飯確保」

 

呆れながらも嬉しそうに嗤いながら、そして、全ての二尾狼を殺し終えたのでハジメは錬成で二尾狼達の死骸を取り出し、片手に不自由しながら毛皮を剥がしていく。

「手伝う。血刃」

「おいおい、さっき自分で10分以上は危ねぇ言ってなかったか?」

「術式開示の縛りで底上げされてるから少し持つで」

「それを先にいえ!」

「良いやん良いやん。細かいことは気にすんな〜。あと焼いとかね?一様火出せるが」

「お、頼むわ」「ラジャ〜」

 

そして目の前にあるのは焼けたオオカミ肉、数週間も食って為飢餓感に突き動かされるように喰らい始めた。

 

「ぼえっ..かった...ま(´;Д; `)ず。筋多すぎやろ...」モシャモシャ

「んなこといった...って食うしかねぇだろ....にしても不味い...な!」グチャクチャ

 

酷い匂いと味に涙目になりながらも、龍牙とハジメは飢餓感が癒されていく感覚に陶然とする。飯を食えるということがこんなに幸せなことだったとは思いもしなかった。夢中になって喰らい続ける。

 

どれくらいそうやって喰らっていたのか、神水を飲料代わりにするという聖教教会の関係者が知ったら卒倒するような贅沢をしながら腹が膨れ始めた頃、龍牙とハジメの体に異変が起こり始めた。

「ん...?グ、ガアアァ!?」

「うお!?どしたハジメ...ーッ!?オエェ!!」

 

突如全身を激しい痛みが襲った。まるで体の内側から何かに侵食されているようなおぞましい感覚。その痛みは、時間が経てば経つほど激しくなる。

 

「ぐぅあああっ。な、何がっ――ぐぅううっ!」

 

耐え難い痛み。自分を侵食していく何か。ハジメは地面をのたうち回る。幻肢痛など吹き飛ぶような遥かに激しい痛みだ。

 

「ッッッッ!!!これ...しきのこと....!!!」

意識が飛びかけたところを気合いで持ち直し即座に反転を掛ける。

 

「なんでぇ!?反転掛けてんだぞ!?中....和がお....いつてない....のか!?」

「がぁ!?うっ...そ....だろ!?」

 

ハジメが直したところから壊れていく体を見て慌てて神水を飲み出す。

ハジメは震える手で懐から石製の試験管型容器を取り出すと、端を噛み砕き中身を飲み干す。直ちに神水が効果を発揮し痛みが引いていくが、しばらくすると再び激痛が襲う。

 

「ひぃぐがぁぁ!! なんで……なおらなぁ、あがぁぁ!」

 

ハジメの体が痛みに合わせて脈動を始めた。ドクンッ、ドクンッと体全体が脈打つ。至る所からミシッ、メキッという音さえ聞こえてきた。

しかし次の瞬間には、体内の神水が効果をあらわし体の異常を修復していく。修復が終わると再び激痛。そして修復。

 

神水の効果で気絶もできない。絶大な治癒能力がアダとなった形だ。

 

龍牙はその場で激しく震え続け、ハジメは絶叫を上げ地面をのたうち回り、頭を何度も壁に打ち付けながら終わりの見えない地獄を味わい続けた。いっそ殺してくれと誰ともなしに願ったが当然叶えられるわけもなくひたすら耐えるしかない。

 

すると、龍牙とハジメの体に変化が現れ始めた。

まず髪から色が抜け落ちてゆく。許容量を超えた痛みのせいか、それとも別の原因か、日本人特有の黒髪がどんどん白くなってゆく。

 

次いで、筋肉や骨格が徐々に太くなり、体の内側に薄らと赤黒い線が幾本か浮き出始める。龍牙はハジメとは違い青黒い線が浮き出始める。

 

超回復という現象がある。筋トレなどにより断裂した筋肉が修復されるとき僅かに肥大して治るという現象だ。骨なども同じく折れたりすると修復時に強度を増すらしい。今、龍牙とハジメの体に起こっている異常事態も同じである。

 

魔物の肉は人間にとって猛毒だ。魔石という特殊な体内器官を持ち、魔力を直接体に巡らせ驚異的な身体能力を発揮する魔物。体内を巡り変質した魔力は肉や骨にも浸透して頑丈にする。

この変質した魔力が詠唱も魔法陣も必要としない固有魔法を生み出しているとも考えられているが詳しくは分かっていない。

 

とにかく、この変質した魔力が人間にとって致命的なのだ。人間の体内を侵食し、内側から細胞を破壊していくのである。

 

過去、魔物の肉を喰った者は例外なく体をボロボロに砕けさせて死亡したとのことだ。実は、ハジメもこの知識はあったのだが、飢餓感がすっかりその知識を脳の奥に押し込めてしまっていた。

ハジメもただ魔物の肉を喰っただけなら体が崩壊して死ぬだけだっただろう。

 

しかし、それを許さない秘薬があった。神水だ。

壊れた端からすぐに修復していく。その結果、肉体が凄まじい速度で強靭になっていく。

 

壊して、治して、壊して、治す。

脈打ちながら肉体が変化していく。

 

その様は、あたかも転生のよう。脆弱な人の身を捨て化生へと生まれ変わる生誕の儀式。ハジメの絶叫は産声だ。

 

やがて、脈動が収まり龍牙とハジメはぐったりと倒れ込んだ。その頭髪は真っ白に染まっており、服の下には今は見えないが赤黒い線が数本ほど走っている。まるで蹴りウサギや二尾狼、そして爪熊のようである。

ハジメの右手がピクリと動いた。閉じられていた目がうっすらと開けられる。焦点の定まらない瞳がボーと自分の右手を見る。やがて地面を掻くようにギャリギャリと音を立てながら拳が握られた。

龍牙はもう屍のようで動くことすらしなかった。

ハジメは、何度か握ったり開いたりしながら自分が生きていること、きちんと自分の意思で手が動くことを確かめるとゆっくり起き上がった。

 

「...そういや、魔物って喰っちゃダメだったか...アホか俺は...まぁ、喰わずにはいられなかっただろうけど...」

「....あほ、そういうだいじなことは....もっとはやくいい....なさい....」

(流石に内側からぐちゃぐちゃにされるのは慣れてないよ...だいたいなる前に治ってるし...)

「悪い悪い...」

疲れ果てた表情で、自嘲気味に笑うハジメ。

飢餓感がなくなり、壮絶な痛みに幻肢痛も吹き飛んだようで久しぶりになんの苦痛も感じない。それどころか妙に体が軽く、力が全身に漲っている気がする。

 

途方もない痛みに精神は疲れているもののベストコンディションといってもいいのではないだろうか。

 

腕や腹を見ると明らかに筋肉が発達している。実は身長も伸びている。以前のハジメの身長は165センチだったのだが、現在は更に10以上高くなっている。尚、龍牙は元が170ちょいあったのでプラス10で180ちょいになっている。

 

「俺の体どうなったんだ? なんか妙な感覚があるし.....」

 

体の変化だけでなくハジメは体内にも違和感を覚えていた。温かいような冷たいような、どちらとも言える奇妙な感覚。意識を集中してみると腕に薄らと赤黒い線が浮かび上がった。

 

「うわぁ、き、気持ち悪いな。なんか魔物にでもなった気分だ。.....洒落しゃれになんねぇな。そうだ、ステータスプレートは....」

 

すっかり存在を忘れていたステータスプレートを探してポケットを探る。どうやら失くしていなかったようだ。現在のハジメのステータスを確認する。体の異常について何か分かるかもしれない。

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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:8

天職:錬成師

筋力:100

体力:300

耐性:100

敏捷:200

魔力:300

魔耐:300

技能:錬成・魔力操作・胃酸強化・纏雷・言語理解

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「……なんでやねん」

 

いつかのように驚愕のあまり思わず関西弁でツッコミを入れるハジメ。ステータスが軒並み急増しており、技能も三つ増えている。しかもレベルが未だ8にしかなっていない。レベルはその人の到達度を表していることから考えると、どうやらハジメの成長限界も上がったようだ。

 

「魔力操作?」

 

文字通りなら魔力が操作できるということだろうか。

ハジメは、「もしや先程から感じている奇妙な感覚は魔力なのでは?」と推測し、先程と同じく集中し〝魔力操作〟とやらを試みる。

 

ハジメが集中し始めると、赤黒い線が再び薄らと浮かび上がった。そして体全体に感じる感覚を右手に集束するイメージを思い描く。すると、ゆっくりとぎこちないながらも奇妙な感覚、もとい魔力が移動を始めた。

 

「おっ、おっ、おぉ~?」

 

なんとも言えない感覚につい声を上げながら試していると、集まってきた魔力がなんとそのまま右手にはめている手袋に描かれた錬成の魔法陣に宿り始めた。驚きながら錬成を試してみるハジメ。するとあっさり地面が盛り上がった。

 

「マジかよ。詠唱いらずってことか? 魔力の直接操作はできないのが原則。例外は魔物。……やっぱり魔物の肉食ったせいでその特性を手に入れちまったのか?」

 

大正解。ハジメは確かに魔物の特性を取得していたのだ。ハジメは、次に〝纏雷てんらい〟を試そうとする。

 

「えっと……どうやればいいんだ? 〝纏雷〟ってことは電気だよな? あれか? 二尾狼の尻尾の……」

 

あれこれ試すがなんの変化もない。魔力のように感じるわけではないから取っ掛かりがなくどうすればいいのか分からないのだ。

 

「う~ん」と唸りながら、そういえば錬成するときはイメージが大事だということを思い出す。魔法陣に多くの式を書き込まなくてよい分、明確なイメージがそのまま加工物に伝わるのだ。

ハジメはバチバチと弾ける静電気をイメージする。すると右手の指先から紅い電気がバチッと弾けた。

 

「おお~、できたよ。……なるほど、魔物の固有魔法はイメージが大事ってことか」

 

その後もバチバチと放電を繰り返す。しかし、二尾狼のように飛ばすことはできなかった。おそらく〝纏雷〟とあるように体の周囲に纏まとうか伝わらせる程度にしかできないのだろう。電流量や電圧量の調整は要練習だ。

 

最後の〝胃酸強化〟は文字通りだろう。魔物の肉を喰って、またあの激痛に襲われるのは勘弁だ。しかし、迷宮に食物があるとは思えない。飢餓感を取るか苦痛を取るか。その究極の選択を、もしかしたらこの技能が解決してくれるのではとハジメは期待する。

そして、意を決して喰らいついた。

 

十秒……

 

一分……

 

十分……

 

何事も起こらない。

 

ハジメは次々と肉を焼いていき再び喰ってみる。しかし、特に痛みは襲って来なかった。胃酸強化の御蔭か、それとも耐性ができたのか。わからないがハジメは喜んだ。これで飯を喰う度に地獄を味わわなくて済む。

 

腹一杯まで肉を喰ったハジメは、一度拠点に戻ることにした。あの爪熊に勝てる可能性ができたのだ。しばらく新たな力の習熟に励むことにしたのである。

 

他の二尾狼から肉を切り分ける。最初に比べ幾分楽に捌くことができた。

「おい、龍牙!お前も食っ...とけ...ってこいつは....はぁ...」

「グゥ〜....がぁ〜....」

紅神龍牙、現在爆睡中。

「仕方ねぇな...」そう言いながら肩に担ぎ先に洞穴に連れていく。

肉をある程度石で作った容器に入れるとハジメは慎重に神結晶のある拠点に戻っていった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~

ハジメが拠点に戻り、錬成や他の技能の鍛錬を始めてから数日が経った。

 

どの技能も順調に成長している。その中でも錬成に変化があった。なんと派生技能が付いたのだ。それは、〝鉱物系鑑定〟である。王都の王国直属の鍛冶師達の中でも上位の者しか持っていないという技能だ。

 

通常、鑑定系の魔法は攻撃系より多くの式を書き込まなければならず、必然、限られた施設で大きな魔法陣を起動して行わなければならない。

 

しかし、この技能を持つ者は、触れてさえいれば、簡易の詠唱と魔法陣だけであらゆる鉱物を解析できるのだ。潜在的な技能ではなく長年錬成を使い続け熟達した者が取得する特殊な派生技能である。

早速、ハジメは周囲の鉱物を片っ端から調べることにした。例えば、緑光石に鉱物系鑑定を使うとステータスプレートにこう出る。

 

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緑光石

魔力を吸収する性質を持った鉱石。魔力を溜め込むと淡い緑色の光を放つ。

また魔力を溜め込んだ状態で割ると、溜めていた分の光を一瞬で放出する。

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 なんとも簡易な説明だ。だが、十分にありがたい情報である。

 

 ハジメはニヤリと悪巧みを考えついたように笑った。それからもあちこち役立ちそうな鉱物を探して彷徨さまよっていると、遂に、ハジメの相棒にして切り札となる武器を作るために必要な鉱物を発見した。

 

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燃焼石

可燃性の鉱石。点火すると構成成分を燃料に燃焼する。燃焼を続けると次第に小さくなり、やがて燃え尽きる。密閉した場所で大量の燃焼石を一度に燃やすと爆発する可能性があり、その威力は量と圧縮率次第で上位の火属性魔法に匹敵する。

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ハジメはこの説明を見た瞬間、脳内に電流が走ったような気がした。

 

燃焼石は地球で言うところの火薬の役割を果たせるのではないか? だとしたら、攻撃には使えない錬成で最大限の攻撃力を生み出せるかもしれない! と。

 

ハジメは興奮した。作製するには多大な労力と試行錯誤が必要だろうが、それでも今まで自分を幾度となく救ってくれた錬成で、遂に攻撃手段を得ることができるかもしれないということが堪たまらなく嬉しかったのだ。

 

そして、寝食を忘れてひたすら錬成の熟達に時間を費やした上、何千回という失敗の果てに、ハジメは遂にとある物の作製に成功した。

 

音速を超える速度で最短距離を突き進み、絶大な威力で目標を撃破する現代兵器。

 

全長は約三十五センチ、この辺りでは最高の硬度を持つタウル鉱石を使った六連の回転式弾倉。長方形型のバレル。弾丸もタウル鉱石製で、中には粉末状の燃焼石を圧縮して入れてある。

 

すなわち、大型のリボルバー式拳銃だ。

 

しかも、弾丸は燃焼石の爆発力だけでなく、ハジメの固有魔法〝纏雷〟により電磁加速されるという小型のレールガン化している。その威力は最大で対物ライフルの十倍である。ドンナーと名付けた。なんとなく相棒には名が必要と思ったからだ。

 

「……これなら、あの化け物も……脱出だって……やれる!」

 

ハジメはドンナーの他にも現代兵器を参考に作った兵器を眼前に並べて薄らと笑った。

ただ、剣や防具を上手く作るだけ、そんなありふれた天職〝錬成師〟の技能〝錬成〟が、剣と魔法の世界に兵器を産み落とした瞬間だった。

その頃、龍牙はと言うと...

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ん、ん〜よう寝たわ」ボキボキ

さて、ハジメは〜....やってるね〜ありゃリボルバーか?なんかジャッカルみあるなw

あ、ステータス見とくか。どれどれ...

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紅神龍牙 17歳 男 Lv12

天職:呪術師

筋力:500

体力:300

耐性:240

敏捷:480

魔力:650

魔耐:160

技能: 言語理解 : 術式『模倣』以下略 : 呪力変換 :『 ⬛︎魂⬛︎⬛︎』:魔力操作 :胃酸強化 : 纏雷

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「ん、んー?なんか...上がり幅おかしくない?( ̄▽ ̄;)しかも魔力操作と纏雷ってなんだよ...あの狼もどきのやつか?」

まぁ、やってみるか....バチッ

あ〜こんな感じか。腕に魔力というか呪力を集中させると腕に青黒い電流が流れている。

「ほぇ〜なんから狼モドキのと違うな。確か赤黒かった気がするがねぇ...んで次、呪力変換ってやつだがまさかね...呪力変換併用して...『赤血』百斂...」

呪力変換を併用しつつ術式『赤血』百斂を使うと以前は血量の問題で1個しか出せなかったのが、どこぞの長男のように呪力を血に変換できるようになったようで、周囲に赤黒い球が浮遊している。

「おほっ!上手くいった上手くいった!!てか、反転どうなってんだろ...欠損は直せんかったけど...」

そう言いながら小指を切り落とし反転をかけると、小指が再生した。

「あ、これ多分悟並で出来るやつだわwあ、百斂解いとかんと」ベチャ

操作が切られ辺りに血がばら撒かられる。

「さて、ハジメのとこ行くか...」

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「むぐ、むぐ……ウサギ肉ってもマズイことに変わりねぇな……」

「しゃーねぇよ、所詮どこまで行こうと...ング、魔物であることには変わりないわけやし...ング」

 

現在、龍牙とハジメは拠点にてモリモリとウサギ肉を喰っていた。そう、蹴りウサギの肉である。かつて自分を見下し嘲笑あざわらった蹴り技の達人は、今やただの食料だった。ウサギということで多少はマシな味なのではと期待した龍牙とハジメだったが、所詮は魔物の肉。普通に不味かった。

それでも丸二匹、ペロリと平らげる。

 

〝胃酸強化〟を手に入れてから食べようと思えばいくらでも食べられる気がする龍牙、ハジメ。特に固有魔法を使ったときは物凄く腹が減り、この蹴りウサギを殺った時も使ったので収支はトントンと言ったところだった。

神水があれば死にはしないが、使いすぎると再び飢餓感に襲われそうなので考えて使わなければならない。

 

ちなみに、蹴りウサギは罠を張って倒した。スタート地点の川から水を汲んできて蹴りウサギを誘導、爆進して来た蹴りウサギが撒き散らした水の上を通った瞬間、〝纏雷〟の最大出力で感電させる。

全身から煙を噴き上げながらも、案の定、突進してきたので、電撃で鈍ったところを正面からドンナーで撃ち抜いた。

 

流石に、電磁加速された秒速三・二キロメートルの弾丸は避けられなかったらしく頭が木こっ端微塵ぱみじんに砕け散って絶命した。わざわざ感電させる必要もなかったかもしれない。それくらい、ドンナーの威力は凄まじかった。

ちなみに龍牙は穿血で額貫いて即死させていた。

 

「楽勝〜v(。・ω・。)ィェィ♪」

「さて、初めて蹴りウサギの肉を喰ったわけだが……ステータスは……」

 

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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:12

天職:錬成師

筋力:200

体力:300

耐性:200

敏捷:400

魔力:350

魔耐:350

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・言語理解

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やはり魔物肉を喰うとステータスが上がるようだ。二尾狼ではもう殆ど上がらなかったことを考えると喰ったことのない魔物を喰うと大きく上昇するらしい。

 

早速、〝天歩〟とやらを調べる。まず一番最初にイメージしたのは、蹴りウサギのあの踏み込みだ。焦点速度が間に合わなくて体がブレて見えるほどの速度。〝天歩〟の横に[+縮地]とあるのはその技能ではないかと当たりを付ける。縮地といえば地球でも有名な高速移動のことだ。

 

ハジメは足元が爆発するイメージで一気に踏み込んでみる。体内の魔力が一瞬で足元に集まる。踏み込んだ足元がゴバッと陥没し……ハジメは吹き飛んで顔面から壁にダイブした。

 

「痛ッー!? か、加減が難しいな、これ……」

 

だが、成功は成功である。これから鍛錬を続ければ蹴りウサギのような動きもできるようになるだろう。銃技と組み合わせれば、より強力な武器になる。

 

次は[+空力]だ。だが、これが中々発動しない。名称だけではどんな技能なのかわかりづらい。あれこれ試す内に、ハジメは蹴りウサギが空中を足場にしていたことを思い出す。

早速、ハジメは、踏み出した空中に透明のシールドがあることをイメージする。そして、前方に跳躍してみた。

 

顔面から地面にダイブした。

 

「ぐぅおおお!?」

 

右手で顔面を押さえゴロゴロと地面をのたうち回る。しばらく身悶え、痛みが引くと憮然とした表情で神水を飲む。

 

「……まぁ、一応できたな……」

「だっはははww何やってんだよw簡単やろこんなん。っと」

「笑うな!ならやっt...できてるー....(*´・д・)エェェ~」

 

尚、こいつは参考になりません。宿儺がやってるのを見様見真似でやり我流に落とし込んだのでハジメくんには宛になりません。

「あんな中途半端に足場作ってたらそら躓くわ」

「あれ、躓いてたのか...」

 

前方に跳躍して顔面からダイブした原因は中途半端に足場ができたせいだった。要は躓いて転けたのである。どうやら[+空力]は空中に足場を作る固有魔法で間違いないようだ。

 

なんだか一度に二つの固有魔法を手に入れた気分だが〝天歩〟という固有魔法の派生技能らしい。

 

得した気分でハジメは鍛錬を開始する。

 

目標は――爪熊。

 

おそらく、遠距離からの銃撃で片はつくだろうが、念の為に鍛えておく。あの化け物より強い魔物がふらりと現れる可能性も否定できないのだ。迷宮では楽観視した者から死んでいく。爪熊を倒したら、この階層からの脱出口も探さなければならない。

 

ハジメは気合を入れ直した。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

迷宮の通路を、姿を霞かすませながら高速で移動する影があった。

 

玉犬黒に跨った龍牙とハジメである。〝天歩〟を完全にマスターしたハジメは、〝縮地〟で地面や壁、時には〝空力〟で足場を作って高速移動を繰り返し宿敵たる爪熊を探していた。

龍牙は式神である玉犬たちが自分が持っている技能を使えないかと試行錯誤していると使えるようになったので、跨って移動している。

本来なら脱出口を探すことを優先すべきなのだろうが、ハジメはどうしても爪熊を殺りたかった。一度は砕かれた心、それをなした化け物を目の前にして自分がきちんと戦えるのか試さずにはいられなかったのだ。

 

「グルゥア!」

 

途中、二尾狼の群れと遭遇し一頭が飛びかかってくる。ハジメは冷静に、その場で跳躍し宙返りをしながら錬成した針金で右足の太ももに固定したドンナーを抜き発砲する。

 

ドパンッ!

 

燃焼粉の乾いた破裂音が響き、〝纏雷〟で電磁加速された弾丸が狙い違わず最初の一頭の頭部を粉砕した。

 

そのまま空中で〝空力〟を使い更に跳躍し、飛びかかってくる二尾狼に向かって連続して発砲する。全て命中とまではいかなかったが、どうにか全弾撃ち尽くす前に仕留め切った。

 

ハジメは肘から先のない左腕の脇にドンナーを挟み、素早く装填する。そして二尾狼の死骸には一瞥もくれずに再び駆け出した。

 

しばらくそうやって出会う蹴りウサギや二尾狼を瞬殺していると、ようやく宿敵の姿を発見した。

 

左顔が陥没している爪熊は現在食事中のようだ。蹴りウサギと思しき魔物を咀嚼している。その姿を確認するとハジメはニヤリと不敵に笑い、悠然と歩き出した。

爪熊はこの階層における最強種だ。主と言ってもいい。二尾狼と蹴りウサギは数多く生息するも爪熊だけはこの一頭しかいない。故に、爪熊はこの階層では最強であり無敵。

 

それを理解している他の魔物は爪熊と遭遇しないよう細心の注意を払うし、遭遇したら一目散に逃走を選ぶ。抵抗すらしない。まして、自ら向かって行くなどあり得ないことだ。

 

しかし、現在、そのあり得ないことが目の前で起こっていた。

 

「よぉ、爪熊。久しぶりだな。俺の腕は美味かったか?」

 

爪熊はその鋭い眼光を細める。目の前の生き物はなんだ? なぜ、己を前にして背を見せない? なぜ恐怖に身を竦ませ、その瞳に絶望を映さないのだ? 

 

かつて遭遇したことのない事態に、流石の爪熊も若干困惑する。

 

「リベンジマッチだ。まずは、俺が獲物ではなく敵だと理解させてやるよ」

 

そう言って、ハジメはドンナーを抜き銃口を真っ直ぐに爪熊へ向けた。

 

ハジメは構えながら己の心に問かける。「怖いか?」と。答えは否だ。絶望に目の前が暗くなることも、恐怖に腰を抜かしガタガタ震えることもない。あるのはただ、純粋な生存への渇望と敵への殺意。

 

 ハジメの口元が自然と吊り上がり獰猛どうもうな笑みを作る。

 

「殺して喰ってやる」

 

その宣言と同時にハジメはドンナーを発砲する。ドパンッ! と炸裂音を響かせながら毎秒三・二キロメートルの超速でタウル鉱石の弾丸が爪熊に迫る。

 

「グゥウ!?」

 

爪熊は咄嗟とっさに崩れ落ちるように地面に身を投げ出し回避した。

 

弾丸を視認して避けたのではなく、発砲よりほんの僅かに回避行動の方が早かったことから、おそらくハジメの殺気に反応した結果だろう。流石は階層最強の主である。二メートル以上ある巨躯きょくに似合わない反応速度だ。

 

だが、完全に避け切れたわけではなく肩の一部が抉れて白い毛皮を鮮血で汚している。

 

爪熊の瞳に怒りが宿る。どうやらハジメを〝敵〟として認識したらしい。

 

「ガァアア!!」

 

咆哮を上げながら物凄い速度で突進する。二メートルの巨躯と広げた太く長い豪腕が地響きを立てながら迫る姿は途轍もない迫力だ。

 

「ハハ! そうだ! 俺は敵だ! ただ狩られるだけの獲物じゃねぇぞ!」

 

爪熊から凄まじいプレッシャーを掛けられながら、なお、ハジメは不敵な笑みを崩さない。

 

ここがターニングポイントだ。

 

ハジメの左腕を喰らい、心を砕き、変心の原因となった魔物を打ち破る。これから前へ進むために必要な儀式。それができなければ、きっと己の心は〝妥協〟することを認めてしまう。ハジメはそう確信していた。

 

突進してくる爪熊に、再度、ドンナーを発砲する。超速の弾丸が爪熊の眉間めがけて飛び込むが、なんと爪熊は突進しながら側宙をして回避した。どこまでも巨躯に似合わない反応をする奴である。

 

自分の間合いに入った爪熊は突進力そのままに爪腕を振るう。固有魔法が発動しているのか三本の爪が僅かに歪ゆがんで見える。

 

ハジメの脳裏に、かつてその爪をかわしたにもかかわらず両断された蹴りウサギの姿が過った。ハジメはギリギリで避けるのではなく全力でバックステップする。

 

刹那せつな、一瞬前までハジメがいた場所を豪風と共に爪が通り過ぎ、触れてもいないのに地面に三本の爪痕が深々と刻まれた。

 

爪熊が獲物を逃がしたことに苛立つように咆哮を上げる。

 

と、その時、爪熊の足元にカランと何かが転がる音がした。釣られて爪熊が足元に視線を向けると直径五センチ位の深緑色をしたボール状の物体が転がっている。爪熊がそのことを認識した瞬間、その物体がカッと強烈な光を放った。

 

ハジメが作った〝閃光手榴弾〟である。

 

原理は単純だ。緑光石に魔力を限界ギリギリまで流し込み、光が漏れないように表面を薄くコーティングする。更に中心部に燃焼石を砕いた燃焼粉を圧縮して仕込み、その中心部から導火線のように燃焼粉を表面まで繋げる。

 

後は〝纏雷〟で表に出ている燃焼粉に着火すれば圧縮してない部分がゆっくり燃え上がり、中心部に到達すると爆発。臨界まで光を溜め込んだ緑光石が砕けて強烈な光を発するというわけだ。ちなみに、発火から爆発までは三秒に調整してある。苦労した分、自慢の逸品だ。

 

当然、そんな兵器など知らない爪熊はモロにその閃光を見てしまい一時的に視力を失った。両腕をめちゃくちゃに振り回しながら、咆哮を上げもがく。何も見えないという異常事態にパニックになっているようだ。

 

その隙を逃すハジメではない。再びドンナーを構えてすかさず発砲する。電磁加速された絶大な威力の弾丸が暴れまわる爪熊の左肩に命中し、根元から吹き飛ばした。

 

「グルゥアアアアア!!!」

 

その生涯でただの一度も感じたことのない激烈な痛みに凄まじい悲鳴を上げる爪熊。その肩からはおびただしい量の血が噴水のように噴き出している。吹き飛ばされた左腕がくるくると空中を躍り、やがて力尽きたようにドサッと地面に落ちた。

 

「こりゃあ偶然にしてはでき過ぎだな」

 

ハジメとしては左腕を狙ったつもりはなかった。まだそこまで銃の扱いをマスターしているわけではない。直進してくる敵や何度もやりあった二尾狼等、その動きを熟知していない限り暴れて動き回る対象をピンポイントで撃ち抜くことは未だ難しい。

 

故に、かつて奪われ喰われたハジメと同じ左腕を奪うことになったのは全くの偶然だった。

 

ハジメは、痛みと未だ回復しきっていない視界に暴れまわる爪熊へ再度発砲する。

 

爪熊は混乱しながらも野生の勘で殺気に反応し横っ飛びに回避した。

 

ハジメは、〝縮地〟で爪熊を通り過ぎその後ろに落ちている左腕のもとへ行く。そして、少し回復したのか、こちらを強烈な怒りを宿した眼で睨む爪熊に見せつけるかのように左腕を持ち上げ掲げた。

 

そして、おもむろに噛み付いた。魔物を喰らうようになってから、やたらと強くなった顎あごの力で肉を引き千切り咀嚼そしゃくする。かつて爪熊がそうしたように目の前で己の腕が喰われるという悪夢を再現する。

 

「あぐ、むぐ、相変わらずマズイ肉だ。……なのにどうして他の肉より美味く感じるんだろうな?」

 

そんなことを言いながら、こちらを警戒しつつ蹲る爪熊を睥睨へいげいするハジメ。

 

爪熊は動かない。その瞳には恐怖の色はないが、それでも己の肉体の一部が喰われているという状況と回復しきっていない視力に不用意には動けないようだ。

 

それをいいことに、ハジメは食事を続ける。すると、やがて異変が訪れた。初めて魔物の肉を喰らった時のように、激しい痛みと脈動が始まったのだ。

「ッ!?」

 

急いで神水を服用するハジメ。あの時ほど激烈な痛みではないが、立っていられず片膝かたひざを突き激しい痛みに顔を歪める。どうやら、爪熊が二尾狼や蹴りウサギとは別格であるために取り込む力が大きく痛みが発生したらしい。

 

だが、そんな事情は爪熊には関係ない。チャンスと見たのか唸り声を上げながら突進する。

 

蹲るハジメは動かない。あわや、このまま爪熊に蹂躙され、かつての再現となるのかと思われたその時、ハジメの口元がニヤーと裂けた。

 

同時に、右手をスッと地面に押し付けた。そして、その手に雷を纏う。最大出力で放たれた〝纏雷〟は地面の液体を伝い、その場所に踏み込んだ爪熊を容赦なく襲った。

 

 地面の液体とは、爪熊の血液のことだ。噴水の如く撒き散らされた血の海。ハジメは拾った爪熊の左腕から溢れでる血を、乱暴に掲げることで撒き散らし、自分の場所と血溜りを繋いだのである。

 

伊達や酔狂で戦闘中に食事などしない。爪熊を喰らったことで痛みに襲われるとは思っていなかったが、最初から罠に嵌めるつもりだったのだ。わざわざ目の前で喰ったのも怒りを煽り真っ直ぐ突進させるためである。多少予定は狂ったが結果オーライだ。

 

自らの流した血溜りに爪熊が踏み込んだ瞬間、強烈な電流と電圧が瞬時にその肉体を蹂躙する。神経という神経を侵し、肉を焼く。最大威力と言っても、ハジメが取得した固有魔法は本家には及ばない。

 

二尾狼のように電撃を飛ばせるわけではないし、出力も半分程度だろう。しかし、それでも一時的に行動不能にさせることは十分に可能だ。ちなみに、人間なら血液が沸騰してもおかしくない威力ではある。

 

「ルグゥウウウ」

 

低い唸り声を上げながら爪熊が自らの血溜りに地響きを立てながら倒れた。その眼光は未だ鋭く殺意に満ちていてハジメを睨んでいる。

 

ハジメは真っ直ぐその瞳を睨み返し、痛みに耐えながらゆっくり立ち上がった。そして、ホルスターに仕舞っていたドンナーを抜きながら歩み寄り、爪熊の頭部に銃口を押し当てた。

 

「俺の糧になれ」

 

その言葉と共に引き金を引く。撃ち出された弾丸は主の意志を忠実に実行し、爪熊の残った頭部を粉砕した。

 

迷宮内に銃声が木霊する。

 

爪熊は最期までハジメから眼を逸らさなかった。ハジメもまた眼を逸らさなかった。

 

想像していたような爽快感はない。だが、虚しさもまたなかった。ただ、やるべきことをやった。生きるために、この領域で生存の権利を獲得するために。

 

ハジメはスッと目を閉じると、改めて己の心と向き合う。そして、この先もこうやって生きると決意する。戦いは好きじゃない。苦痛は避けたい。腹いっぱい飯を食いたい。

 

そして……生きたい。

 

理不尽を粉砕し、敵対する者には容赦なく、全ては生き残るために。

 

そうやって生きて……

 

そして……

 

故郷に帰りたい。

 

そう、心の深奥が訴える。

 

「そうだ……帰りたいんだ……俺は。他はどうでもいい。俺は俺のやり方で帰る。望みを叶える。邪魔するものは誰であろうと、どんな存在だろうと……」

 

目を開いたハジメは口元を釣り上げながら不敵に笑う。

 

「 殺してやる 」

「なーにが殺してやるだ、馬鹿が」バシッ!

「いてぇ!?何すんだ!」

「こっちのセリフだ、あほんだら。動かんかった時はちょっと焦ったぞ。あれ、演技か?」

「いや、ガチで動かなかった。」

「アホ」バヂィ!

「いてぇ!!?さっきよりいてぇじゃねぇかおい!!」

「俺、しーらね...」

(こいつ、さっき狂気に呑まれかけてたな...たくっ、どっかで、ストッパー拾わんとダメかねぇ...)

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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:17

天職:錬成師

筋力:300

体力:400

耐性:300

敏捷:450

魔力:400

魔耐:400

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・風爪・言語理解

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to be continued....




はい、蛇弟です。何とか熊公コロコロのところまで今日中に持ってこれた...これ馬鹿みたいに長ぇですよな?どっかで切った方がええんですかねぇ?では次回で。サラダバー

ハジメくんのヒロインから2人引き抜こうとおもってます。ユエちゃんと雫嬢です。

  • 2人まとめて引き抜き
  • ユエのみ
  • 雫のみ
  • どっちもダメ
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