それでは第37話、どうぞ
食後、明乃が風呂に入っている間にましろは部屋の掃除と布団の用意をしていた。掃除、とは言うがましろは出る前に片付けはしていたので1ヶ月分の埃を取るだけだった。床に布団を敷こうとすると多聞丸が「みゃー」と鳴いてくる
「多聞丸もここで寝るか?まあ、そうだよな。すると……」
そう言ってましろは多聞丸の寝床を設えた。そしてベットの上を見てハッとする
「しまった。ベットの上のぬいぐるみをどうにかしなきゃ……」
そうしてぬいぐるみをどうしようかと考えていたところに
「シロちゃーん、あがったよー」
と明乃が部屋に入ってくる
「あ」
「あ」
明乃は両手いっぱいにぬいぐるみを抱えたましろを見る
「ぬいぐるみ、無理に片付けなくていいんじゃないかな」
「しかし……」
「シロちゃんだってぬいぐるみがあった方が落ち着くでしょ?せっかく家に帰ってきたんだから、シロちゃんの落ち着ける環境の方がいいと思うよ?」
「ですが、お客様を迎える立場として……」
「私はシロちゃんの普段の生活がわかる方がいいなぁ」
「いやっ、それはっ」
「いいんじゃない?せっかく明乃ちゃんもいいって言ってるんだし」
柚希の言葉で諦めのついたましろは布団の方へと向かう
「……わかりました。ぬいぐるみは布団の周りに置かせてもらいます」
「うんっ」
「あ、艦長はこちらのベットを使ってください」
「ええ?このベット、普段はシロちゃんが寝てるんでしょ?」
「流石に自分がベットに寝ておいて、艦長を床に寝かせるわけにはいきません」
「そんなの気にしないのに」
「わたしが気にするんです。それくらいはさせてください」
「律儀ね〜ましろちゃんも」
「柚希姉さんは茶化さないでくださいっ!」
「うん、ありがとう、シロちゃん」
柚希が茶化したことにましろが慌てる中感謝を伝える明乃。その姿を見たましろは“強い人だ”と感じるのだった。しかしその感じたことはましろが風呂から上がって戻ったときに違うことになったのだ。ましろが戻ったときにはもうすでに明乃はベットにうつ伏せになっていた。そして柚希が肩をさすってる。何があったのかとよく見ると明乃の方が震えていた
「……艦長?」
「……ごめん……ちょっと」
ましろに返した明乃の声は涙声だった
「んっ、ごめんね……もう、大丈夫だから」
「あ、謝るのは……ぐすっ……こちらの、方です……。わたしが、艦長を……支えなきゃいけないのに……でも……」
マシホの頬にも熱いものがポロポロと伝う
「2人共抱え込みすぎなのよ……もうちょっと、話しなさいよね」
柚希が2人を抱える。そうして夜は更けていくのだった……
─翌朝
「◯★△×☆#♭□※▲!?!?!?」
目が覚めたましろは目の前にあった明乃の顔に声にならない声をあげる
「ふぁ……。あ、シロちゃん、おはよう……。んんっ……」
「ふぁあ……。あれ?2人共起きたの?早いね…んーっ」
明乃と柚希も起きて目を擦ったり背伸びしたりする
「2人共あのあと寝ちゃってね。どうすればいいか分かんなかったからとりあえずそのまま寝かせちゃった。布団の方は借りたよ〜」
「柚希姉さん……」
その時唐突に部屋のドアが開かれた
「起きてっかー?」
「「うひゃあ!?」」
「まーふーゆー?」
真冬が入ってきて明乃とましろは飛び上がるように驚き、柚希は朝から驚かせるなと言わんばかりの気迫で怒っていた
「おう、起きてたみたいだが……なんだぁ?2人共ひっでぇ顔だなぁ。顔洗ったくらいじゃダメだな、こりゃ。2人共風呂入れ、風呂」
「ちょ、ちょっと真冬姉さん!?お風呂なら昨夜──」
「いいから2人共来いっ」
「わわっ、わわわわっ!?し、シロちゃん!?」
「すみません、艦長!」
2人は強引に真冬に連れて行かれ脱衣所へと放り込まれる。後をつけてきた柚希が
「強引にやりすぎるなっ!」
と言うと真冬は顔を引きつらせながら2人へと言う
「ごめんごめん。まぁいいからとっとと顔洗っとけ。朝食の用意はしといてやっから」
言い終わると真冬は柚希に連れて行かれる。それを見ていた明乃は
「あはははは……。真冬さんって家でもああいう感じなんだね」
と苦笑いしながら言う
「よく言えば表裏のない性格ではあるんですが……公式の場でもわりと
「あはは。でも、いいお姉さんだね。……よいしょっと。あ、あれ?」
「今のどこを見たらそういう結論に──って艦長、なにを……」
そう見ると明乃は寝間着としてましろから借りたスウェットを脱ぐのに苦戦していた
「ご、ごめん、シロちゃん。脱ごうとしたらちょっと引っかかっちゃって……ととっ」
上を脱いでいるはずなのに明乃はなぜかバランスを崩し足をもつれさせる
「落ち着いてください!今脱がせますから、落ち着いて!」
「ごめ〜んっ」
とましろが明乃を脱がせていると
「おーい、シロ!」
「はひゃいっ!?」
また真冬の声がしてドアが開く
「なんだ、まだ入ってなかったのか?まあ、いいや。姉ちゃんも頼む」
「は?」
真冬はズイッとまだ完全に寝ぼけている真霜をましろへと押し付ける
「ふにゃ……うにゅぅ……ん〜……」
「真霜姉さんがなんで!?」
すでに家を出て東京で一人暮らしをしているはずの真霜がいることにましろは驚く
「事件の処理で横須賀にいた方が都合がいいからってここんとこうちに泊まってんだよ」
「ああ、そういうこと……」
「頭から水でも被せて目を覚ませてやってくれ。睡眠時間短いとこ酷な話だが、今日も早ぇから起こせって言われてたからな。んじゃ、よろしくぅっ」
「ちょっとぉ!?」
そんなこんなでましろは明乃と真霜を風呂に入れてやることになったのだった。そして風呂から出ると着替えて食卓に着く
「おはようございます、岬さん」
「おはようございます、宗谷こう──えと、シロちゃんのお母さん」
先についていた真雪と明乃が挨拶する
「家に招いておいて、なんのお構いもできなくてごめんなさいね」
「いえ、全然。シロちゃんのお家でお泊りできただけでもとっても嬉しかったので」
真雪の謝辞に明乃は朗らかに返す
「そう言ってもらえると私もありがたいわ。是非ゆっくりしていってね。……と言いたいところなのだけど」
「?」
「岬さん、ましろ。朝食が済んだら2人とも私と一緒に来てほしいの。今回の事件について、色々聞かなくてはいけないことがあります。それと柚希しょうしょ──いえ、この家にいる間は今まで通りね。柚希ちゃんも来てもらえるかしら。結城中将から『うちは海軍の仕事があるけん詳しいことは柚希に聞いてください』と言われてるのよ」
「了解しました」
「承知致しました」
明乃と柚希はすぐにその要請に応じる
「急な話になってしまってごめんなさい。昨夜のうちに伝えておこうとは思ったのだけれど、2人ともぐっすり寝ていたようだったから」
「あはは……さ、流石に昨夜は疲れちゃってたみたいで……。すみません」
「当然だと思うわ。そんなことで責めたりしないから安心して。今日も聴取自体はお昼には終わると思うからその後は自由にしてもらって構いません。まだ疲れがあるようかは家に戻って疲れを癒やしてもいいし、まだ横須賀の街に不慣れならましろに案内してもらうのもいいと思うわ」
「ありがとうございます。どうしよう?シロちゃん」
真雪にお礼を言った明乃はましろを見る
「判断は艦長にお任せしますが、聴取の後で決めてもいいのでは?」
「あ、そうだね。ふふふっ、またなんだかわくわくしてきちゃった」
明乃がそんな話をしているとブルーマーメイドの制服を着こなした真霜がダイニングにやってきた
「あ、艦長。おはようございます」
「副長、おはよう。こうやって会話するのも久しぶりね。そしておはよう、岬明乃さん。こうしてちゃんと顔を合わせるのはこれがはじめてになるわね」
「おはようございます、えっと、宗谷一等保安監督官殿。でも、さっきもうお風呂で──」
「その呼び名では少し長いわね。それに全員宗谷だから、ここでは真霜、と名前で呼んでもらって構わないわ」
「それでは、真霜さんで。改めて、おはようございます、真霜さん」
明乃の丁寧な挨拶に真霜はにっこり微笑む。だが、
「でも、あの、さっきお風呂で──」
ともう一度先ほどの疑問を呈そうとした明乃の言葉を真霜はまるで聞こえていないかのように遮った
「それはそうと岬さんりあなたのこと、晴風のこと、噂ではいろいろと聞いているわ。私はすぐに総本部に向かわなければならないのだけど、数日は泊まっていってくれるんでしょう?あなたのお話、是非聞かせてちょうだいね」
「え、あの、はい……」
「それじゃあ、ごゆっくり。いってきます」
「い、いってらっしゃい」
にこやかだが有無を言わせぬ様子の真霜にさすがの明乃もなにも言えずに見送る
「悪いな、明乃ちゃん。姉ちゃんが忙しいのはホントだが、ありゃ寝ぼけたところを見られたのをなかったことにしたいって感じだったなぁ」
そこに真冬がボウルいっぱいのサラダを持って現れた
「寝ぼけた真霜姉さんをわたしたちのところに突っ込んできたのは真冬姉さんじゃないか」
「しょーがねーだろ。明日早いから無理矢理にでも起こしてくれって言われてたんだからよ。あたしは言われた通りにやっただけだね。ところで明乃ちゃん、トーストは何枚食うんだ?あとコーヒーと紅茶、どっちがいい?柚希姉ちゃんも」
「あっ、トーストは1枚で、それから紅茶の方でお願いします」
「私も同じでお願いするわ」
「りょーかいっと」
真冬はテキパキと食パンをトースターに入れていく
「そういえば、柚希さんは真霜さんのこと『艦長』と呼んでいましたけど」
「ああその話?私が横女で学んでた時に艦長だったのが真霜さんなのよ。武蔵の。それ以来ずっと非番の時は艦長、副長と呼び合う仲だわ」
「武蔵…やっぱ頭いいんだなぁ」
そんな風に2人が話しているとましろがふと思い出したように
「艦長ら今のうちに多聞丸のご飯も用意してきますね」
と言う
「うん」
と明乃が頷くと、横から真冬が口を挟む
「シロ、猫のエサならやっておいたぜ?」
「真冬姉さんが?」
「おう。探検のつもりか家の中をうろうろしてたからよ。へへっ、小さいのに中々見所のあるヤツだな。度胸が据わってる」
「むぅ……」
「ほい、トーストっと。さぁ、食っちまおうぜ」
「……用意するってと言って、結局パンとサラダだけ?」
「おお、ハムもあるぞ?」
冷蔵庫にあったハムのパックを開いてくれた真冬はそれをサラダの上に雑に広げる
「ハムサラダ美味しそうっ」
「だっろ〜?やっぱり明乃ちゃんはわかってるな。シロらお前も文句ばっか言ってないで見習っときな」
「文句を言ったわけじゃなくて、もう少し料理的なものを期待しただけ。いただきます」
「いただきます」
ましろのいただきますに明乃も続く
「艦長、ハムとサラダを取りわけますね」
「え、自分でやるからいいよ」
「これくらいさせてください」
「そう?それじゃあ」
明乃が差し出した皿をましろは受け取り、ハムとサラダをトングで取って載せる。するとそこに別の皿も差し出された
「あたしのも頼むぜ」
「……ふぅ、はいはい。じゃあ母さんと柚希姉さんのお皿も」
「ありがとう、ましろ」
「ありがとね、ましろちゃん」
明乃、真冬、真雪、柚希、そして自分の分のサラダを取り分けるとドレッシングが無いことに気がついた
「艦長、サラダになにか調味料をかけますか?」
「なにがあるんだろ?」
「わりと種類は揃ってるんで、言ってもらえれば」
「じゃあマヨネーズ──」
マヨネーズ、その言葉を言いかけてピタリと明乃は止まる。そしてましろも石化したようにピシリと固まってしまう
『わたしは、あなたのマヨネーズになる!』
全く予期していたかったタイミングでこの言葉を思い出した2人は思わず目と目を合わせる
「ほい、マヨネーズな」
そんな空気を全くと言っていいほど読まずに明乃へ向けて真冬はマヨネーズを差し出す
「なんで真冬姉さんが取るの!?」
「うぇえ!?シロこそなんで怒るんだよ!?」
「あはははは……」
ましろと真冬の会話を見て明乃はいつも通り苦笑する。しかしその顔はどこか赤くなっているようだった
今回もお読みくださりありがとうございました!
読んでくださる方に最大級の感謝を
真霜ってもう東京住みだったんですね……
次回、第38話、カフェで会話は楽しいな(仮)
明日へ向かって、ヨーソロー!