おいら、リカちゃん。 作:ガスチェフブラスター
一時間ほど待っただろうか。
店は入店当初と比べて人が入っており、ガヤガヤと低い声が店内に満ちている。
バーテンダーも常連であろう客と談笑しており、オレは邪魔にならないよう、店の隅っこへと席を変えた。
バーテンダーは「全部僕のおごりでいいよ!」と言っていたが、その言葉に甘えておかわりしまくるのも気が引ける。
というわけで、オレは残り一口ほどになったジョッキから炭酸が抜ける様を、暇つぶし代わりに眺めていた。
スネイプが「おそらく時間がかかる」といっていたので覚悟していたが、それにしてはあまりにも遅い。
いつになったら来るんだと、オレはパブの扉へと目を向けた。
もう30回目を迎えようとしていたこの行動だったが、その時ガチャリと音がしてパブの扉が開いた。
「――来たか?」
オレは期待の声を漏らす。
入ってきたのは、細身で眼鏡の冴えない少年。
そしてそれとは対照的な、扉を通るのがやっとなぐらいの大男だった。
バーテンダーが顔を上げ、少年の方に目をやった。
「――お、今日の主役のご登場だ!」
バーテンダーは先ほどまで話していた客を放り出し、少年のもとへ駆ける。
客の方も気分を害するどころか、後を追うように椅子から立ち上がった。
「お帰りなさいポッターさん! 本当によくお帰りで」
少年はあっという間にパブ中の客に囲まれ、次々に握手を求められる。
「ドリス・クロックフォードですポッターさん。お会いできるなんて、今も信じられないです」
「帰ったら家族に自慢しなきゃ!」
少年は戸惑いながらも、客たちの握手に応えていく。
オレはそんな少年を、じっと離れたところから観察していた。
スネイプが店を去ってからしばらく、オレはバーテンダーと話していた。
その間に、この少年――ハリー・ポッターについても少し聞いていた。
なんでも魔法界で最も恐ろしいといわれた闇の魔法使いを、まだ赤子だった彼が撃退したのだという。
それは確かに凄いことだろうが、あの様子だと本人も覚えてないのだろう。
「みんな握手しただろ? ――じゃあ、一旦解散だ。今日は買い物の日だからな」
大男がそう言うと、客たちは名残惜しそうに離れていく。
オレはいかにも気がついていないふりを装い、すでに炭酸の抜けきったバタービールを飲み干した。
「やあ、はじめまして。お前さんがリカ・アシュトンであってるよな?」
大男は精一杯優しい声色を作っていたが、途中で諦めたようだった。
「ああ、そうだ」オレは答えた。
「そうか。俺はホグワーツの番人、ルビウス・ハグリッドだ。んで、こっちが――」
「ハリー、ポッターだな」
オレは呟くように答えた。
「ははぁ、流石に有名だな。ハリーも今年からホグワーツ――つまり、お前さんの同級生ってやつだ」
ハグリッドは、ハリーとオレの両方に向かって言った。
「ハリーか――よろしくな」
オレは愛想笑いを浮かべ、ハリーに一言言う。
ハリーは疲れを見せながらも、少し照れ臭そうに微笑んだ。
そしてハグリッドが、パチンと手を叩いた。
「――じゃあ、早速ダイアゴン横丁へ行こう。買い物が溜まってるんでな」
ハグリッドはオレとハリーを連れて、そのままパブの奥へ進んだ。
そして、壁に囲まれた小さな中庭に出だ。
中庭にはゴミ箱や雑草が生えているだけで、特に何かがあるわけではなさそうだ。
ここで何をするのだろうか――と思っていると、ハグリッドが傘を取り出した。
ブツブツ言いながら、レンガのくぼみを数えている。
「ほれ、言った通りだったろう? おまえさんは有名だって」
ハグリッドは、楽しそうにハリーに言った。
「……でも、実感がわかないというか、なんか……」
ハリーは困ったような表情でそう答える。
バーテンダーから聞いた話だが、ハリーの身上はさほどいいものではないらしい。
両親はその闇の魔法使いとやらに殺され、一人残されたハリーは親戚に預けられ――自分が魔法使いだということを一切知らされず、今日の今まで生きてきたとか。
おそらくハリーも、家にいきなりハグリッドが訪ねてきて、お前は魔法使いだって言われたのだろう――昨日のオレと同じように。
「三つ上がって……横に二つ……」
ハグリッドはさっきからレンガの数を数えていたが、やがて決心したかのように、レンガの一つを三回叩いた。
「二人とも下がっとれよ」
次の瞬間、レンガの壁がひとりでに蠢き――あっという間に、ハグリッドでさえ通れるレベルのアーチ形の入り口へと変わっていく。
その先には石畳の道があり、魔法使いの街――ダイアゴン横丁が広がっていた。
「ダイアゴン横丁にようこそ」
ハグリッドは、いたずらっぽくニコッと笑った。
▽ ▽ ▽
「さて、何を買うにしても、まずは金を取ってこんとな」
オレとハリーはハグリッドの後を追いながら、周りの店の様子を見ていた。
立ち並ぶ店には、本の中でしか見たことがないようなものばかり売られてる。
具体的には――大鍋、箒やフクロウ、中に浮かぶ本などだ。
おそらくこの世界には、全く違う魔法体系があるようだ。
これまで学んできたモンスターの魔法とは、絶対に違うと予想がついた。
「グリンゴッツだ」
しばらく喧騒の中を歩いていると、ハグリッドが不意に立ち止まった。
オレはハグリッドの陰から抜け、建物の全体を見る。
そこには白い大理石づくりの建物に、ピカピカに磨かれた銅製の扉が備え付けられていた。
「世界一安全な銀行だ。ここから盗もうなんて狂気の沙汰だわい」
ハグリッドが扉に近づくと、扉の横に待機していたモンスターのようなものが恭しく扉を開ける。
地下世界でこんなモンスターはみたことがないが――真紅と金色のきっちりとした制服を着ているあたり、正式な銀行員なのだろう。
「子鬼だ」ハグリッドが囁いた。
「礼儀さえあれば問題ないが、できればトラブルを起こしたくない奴らだ」
扉を抜けた先は、広々とした大理石のホールだった。
どこを見回しても多数の子鬼が、帳簿に何かを書き込んだり、コインを秤で測ったり――まあとにかく、忙しそうに仕事をしている。
「さて」
ハグリッドは、オレとハリーのほうに向きなおった。
「ここでちょいと二手に分かれるぞ。まずリカ、マグルのお金は持っているよな? おまえさんはちょいと向こうのカウンターに行って、そのお金を魔法界のお金に換金するんだ。なぁに、礼儀正しくしておけば後は向こうが勝手にやってくれる。俺とハリーは金庫のほうに用があってな。リカが手続きしている間にちゃちゃっと済ませるから心配せんでいい」
ハグリッドはそう言い、「換金」と書かれた長細いカウンターの一つを指さした。
「待ち合わせ場所を決めとこう――扉の横で集合だ。じゃあな!」
ハグリッドはハリーを連れ、ずんずんとカウンターの方へと行ってしまう。
一人残されたオレは、恐る恐る受付の子鬼に話しかけた。
「あの……ポンドの換金にきたんだが……」
子鬼は険しい目でオレを観察した後、かしこまった口調で話し始めた。
「換金ですね。では、ポンドをこちらに」
オレは出された真鍮で出来た皿に、財布から取り出したお金を置いた。
小鬼はそれを受け取ると、紙幣と硬貨を一枚一枚、細かくチェックしていった。
しばらくして小鬼はお金を皿に戻し、手持ちの鞄から羊皮紙を取り出して何かを書き込んでいた。
「今回お持ちいただいたものですと、このぐらいになります」
子鬼が金額を紙に記入して見せてくれたが――正直魔法界の通貨の基準が分からないもんで、オレは判断に迷ってしまった。
しかし信じないわけにもいかないので、一応同意することにした。
子鬼とて信頼問題には発展させたくないだろうし。
「ああ、大丈夫だ」
すると子鬼はカウンターの下から、金貨や銀貨を取り出した。
オレはそれを受け取り、礼を言った。
「――ありがとな」
オレの言葉にも答えず、子鬼はカウンターの向こうに行ってしまった。
▽ ▽ ▽
オレはカウンターの傍にあった「魔法界のお金について」というパンフレットを受け取り、待ち合わせである大扉の横に移動した。
漏れ鍋のことからしてすぐ来るとは思えなかったので、パンフレットを眺めることにする。
わかったのは、魔法界の物価はすごく安いということだった。
非魔法界――そういうのかはわからないが――より、体感3割ぐらい安い気がする。
これなら、お金の心配はなさそうだ。
しばらくして、ホールの奥から歩いてくるハグリッドとハリーの姿が見えた。
「すまん、待たせたな。おまえさんの方は問題なかったか?」
「ああ、大丈夫だ」
重そうな鞄を背負いつつもいきいきとしているハリーと比べて、ハグリッドは車酔いでもしたかのように青ざめている。
金庫で何があったのかはわからないが――あまりいい気分ではなさそうだった。
設定に関する質問(どんな形であれ)には答えないでおきます。
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