おいら、リカちゃん。 作:ガスチェフブラスター
それから程なくして、オレたちは『イーロップのふくろう百貨店』を後にした。
もちろんオレとハリーは、それぞれ大きな鳥籠を下げている。
二人で少し話し合った結果、オレは黒フクロウ、ハリーは白フクロウをそれぞれ選んでペットとして飼う事に決めた。
なお、名前はまだ付けていない。
一旦家に帰ってから命名し、名前が決まり次第そのフクロウで手紙を送り、互いに教え合う計画だ。
最後に行ったのは、杖の店――「オリバンダーの店」だった。
杖というのは魔法使いの必需品で、これがないとまず魔法は打てないらしい。
オリバンダーの店というのは紀元前から続く老舗で、イギリス魔法界では「杖といえばオリバンダー」と呼ばれる程のブランドだとか。
ハグリッドからそう聞いていたので、オレはたいそう豪華な店を想像していたのだが――実際には、随分とみすぼらしい店だった。
ボロボロの扉に、剥がれかかった金色の文字で「紀元前382年創業 オリバンダーの店」と書かれている。
そのそばにはショーウィンドウがあったが、そこにはホコリまみれなクッションの上に、長い杖が一本置かれているだけだった。
ハグリッドはドアを壊さないよう、慎重にドアを開ける。
それと同時に、チリンチリンとベルの音が鳴り響いた。
「すごい――これ、全部杖?」
中に入ると、ハリーが感激の声をもらした。
通りに面するガラスを除いた、3方向の店内の壁――それらすべてが、杖が入っているであろう箱で覆い尽くされていた。
「いらっしゃいませ」
まるで店内から染み出したかのような、優しい声が後ろからした。
反射的に後ろを振り向くと、そこには大きくきれいな目をした老人が、優しげな笑みを浮かべて立っていた。
「お待ちしておりましたよ、ハリー・ポッターさん」
自己紹介こそしていないが、この老人こそ店主のオリバンダーで間違いないだろう。
そう思っている間に、オリバンダーは続けた。
「あなたは実に、母上と同じ目をしていなさる――彼女がこの店にやってきて、最初の杖を選んだのが、つい昨日のことのようじゃ」
ふと、オレは思った。
(この人――一体何歳なんだろうか?)
まさか紀元前から現代まで生きている正真正銘の化け物という訳ではないだろうが――しかしその風貌から、間違いなく彼は100歳を越えているだろう。
その間に、ハリーの両親についての話も終わったようだ。
「それで、これが例の……悲しい事に、この傷を付けたのも、わしの店で売った杖じゃ」
オレはオリバンダーの言葉が気になり、ハリーの方に目を向ける。
そこではちょうどオリバンダーが、ハリーの黒い前髪を払い――細長い指で、ハリーの額に触れているところだった。
「34センチもあってな――イチイの木で出来た強力な杖じゃ。とても強いが、間違った者の手に……ああ、もしあの杖が世の中に出て、何をしでかすのかわしが知っておればのう……」
そこでオレは初めて、ハリーの額に稲妻型の傷跡があるのを確認した。
今まではハリーの前髪に隠れていて見えなかったが、こうして間近で見ると確かに不思議な傷をしている。
オリバンダーの話からするに、おそらく例の「闇の魔法使い」とやらがつけたものだろう。
そう思っていると、不意にオリバンダーがオレの前まで歩み寄って話し掛けてきた。
「それでそちらの――おや、見たところマグルの娘のようじゃが――ポッターさんと同じように、才能にあふれておるようじゃな」
「……ありがとな」
お世辞としか思えなかったが、とりあえず礼を言うことにした。
「――それで、お名前はなんとおっしゃるのかね?」
「ん? ああ、リカ・アシュトンだ」
オレがそう言うと、オリバンダーはオレの名前を復唱し、カウンターから2つの巻き尺を持ってきた。
「さてポッターさん、アシュトンさん。早速拝見いたしましょうか――杖腕はどちらですかね?」
「杖腕ってなんだ?」
「失敬――羽ペンは、どちらで持つかね?」
どうやら、聞き手のことを聞いているようだった。
「オイラ、左利きだぜ」
オレはそういい、左腕をつき出す。
オリバンダーが巻き尺を振ると、巻き尺は勝手に動き出し――肩から肘、肘から手首、手のひらの大きさ、小指の長さと測っていった。
その間に、オリバンダーが杖について説明してくれた。
「さて、お二方。当店の杖は、良質な魔法生物の一部を、そのまま芯として使っておる――ユニコーンの尻尾、不死鳥の尾羽根、ドラゴンの心臓の琴線。言葉にすればすべて同じじゃが、ユニコーンもドラゴンもそれぞれ個性があるのだから、同じ杖は一つとしてないのじゃ」
そして、オリバンダーいわく――魔法使いが杖を選ぶのではなく、杖が魔法使いを選ぶとのこと。
だから、ある人が他の魔法使いの杖を使ったとしても、決して自分並の力は出せないのだとか。
なら――同じ個体から素材を作れば、同じ特性の杖を量産できるのではないか?
そう思いオリバンダーに尋ねると、彼は厳しい口調で答えた。
「確かに、理論上ではそうなるじゃろうが――相手が快く素材を渡してくれなければ、杖の質は下がる。家畜のように扱い、果てには殺すなど持ってのほかじゃ」
やはり、そううまくはいかないか。
てか――うまくいってたらそ、もうすでにそうしてるだろうし。
そう思っていると――巻き尺が、オレの頭の周りまで測っていることに気づいた。
「――もういい」
オリバンダーがそういうと、巻き尺は床に落ち、くるくると丸まった。
「では、レディーファーストでアシュトンさんから」
オリバンダーはそう言うと、棚から箱を取り出した。
中に入っていた杖を取り出し、オレに渡す。
「振ってみなされ――呪文はいらない」
オレは杖を取り、言われるがままに振ってみる。
すると杖先から黄色いチューリップの花が咲い――たが、すぐにしおれてしまった。
「あまりよくありませんの――安心しなされ。一発で杖が決まることなど、ほとんどありませんからな」
オリバンダーはそう言って、また棚へと向かった。
それからは、もう大変だった。
オリバンダーは杖を何本も持ってきて、一本づつオレに持たせるが、すぐに「だめだ」と言って取り上げてしまう。
気づけば――オレの横には、振り終わった杖の山ができていた。
「難しい客じゃの――まあ、心配なさるな。必ずピッタリ合うのをお探ししますでな」
そんな状況なのに、オリバンダーは棚から新しい杖を次々と下ろしては、何故だかとっても嬉しそうな顔をしていた。
おそらく彼にとっては、この時間が一番楽しいのだろう――オレには理解できないが。
しかし、そんなオリバンダーも考えているのか――彼はお世辞にもふさふさとは言えない髪を、ぐしゃぐしゃと掻きむしった。
「しっかし、こんなに難しい客とは……そうじゃ」
オリバンダーはひらめいたように壁へ向かい、一つの箱を取り出した。
「滅多にない組み合わせじゃが……柳とドラゴンの心臓の琴線、28センチ」
オリバンダーは丁寧に箱から杖を取り出すと、オレに渡した。
その杖を受け取った瞬間、何か冷たいものが背筋に走った。
オレはその勢いのまま――杖を大きく振り上げ、華麗に一回転した。
途端杖先から青白い閃光が放出し、クラッカーのように弾け店内に降り注ぐ。
そのあまりにも幻想的な光景に、ハリーは「すごい!」と声を漏らし、ハグリッドは大きな手で拍手をした。
当の杖を茶色い紙で包みながら、オリバンダーは今決まったオレの杖について説明してくれた。
「この杖に使われているのは柳の木という珍しいものでしてな。癒しや守りの力を宿し、高度な無言呪文を掛ける事に優れておる。そのせいか、当店にも「柳の杖を試したい」とやってくる客が結構来てのう……」
「無言呪文」についてはよく分からないが、癒しや守りの力があることはわかった。その上、どうやら人気商品のようだ。
「じゃが、わしが得た知見によると……柳の杖は”どれだけ隠そうとしても、どこか
オレは少しドキッとしたが、オリバンダーは続けた。
「しかし、私が作る柳の杖は、もはや学ぶことはあまりないと感じている者よりも――むしろ大いなる可能性を秘めている者を、いつもいつも選ぶようじゃ。実は我が家には、こんな格言がありましてのぉ――”最も遠い道を歩む者は、柳と共に最も速く進む”」
自分語りに入ったようだが、一応聞いておくことにした。
「――つまりこういうことじゃ。アシュトンさん、あなたはきっと”大いなること”をなさるに違いない……じゃが、それが
自分語りからの急転直下に、オレはドキッとした。
どこか不吉な口調だが――まあ、不安がる必要はないだろう。
そういうことにしておこう。
▽ ▽ ▽
それからオリバンダーは、ハリーの杖にもとりかかった。
ハリーもオレと同じように、何回も杖を持たされては――すぐに「だめだ」と言って取り上げられ、杖の山に埋もれていく。
やはり嬉しそうなオリバンダーいわく、普段これだけ杖選びで時間が掛かる新入生は、1年に一度いるかどうからしい。つまりオレもハリーも、共に優れた魔法の才能が眠っているんだとか。
そうしているうちに、ハリーの杖も決まったようだ。
だが、オリバンダーの反応は――オレの時とは違い、何やらブツブツと呟き始めた。
「いやはや、不思議な事もあるものじゃ……まったくもって不思議な……」
「……あの、何がそんなに不思議なんですか?」
流石に彼も気になったようで、ハリーが先に尋ねた。
するとオリバンダーは、悲しげな眼差しでハリーを見つめた。
「ポッターさん。わしは自分の売った杖はすべて覚えておる――あなたのお母さんのも、いまそこにいるハグリッドのも、そして”例のあの人”のもじゃ」
「例のあの人」――初出の言葉だが、大体想像はついた。
きっと幼いハリーが撃退した、あの闇の魔法使いのことを指しているのだろう。
「この杖に使われている羽根と、同じ不死鳥の羽根で作られた杖が、この世にもう一本だけ存在しておる――たった一本だけじゃが。こういう杖のことを兄弟杖というのだが、不思議じゃ……なんと、その兄弟杖がその傷を負わせたというに……」
ハリーは大きく身震いすると、不安そうに視線を泳がせた。
「貴方はきっと偉大な魔法使いになる――目線を変えれば、「例のあの人」も偉大なことをしたに違いないからな」
▽ ▽ ▽
店を出た頃には、すでに時計は5時を指していた。
すべての買い物を終えたオレたちは、大量の荷物を持ってダイアゴン横丁を出た。
親戚宅まで電車に乗って帰るハリーと違い、オレはジェイコブの自家用車で帰る事になっている。
そのため、残念ながらここで二人とはお別れである。
そして、ロンドンの駅前ターミナルにて。
ジェイコブの車が来るまで暇なので、オレたちは駅前ベンチで休むことにした(ハグリッドは座れず立つことになった)。
立ちっぱなしのハグリッドが、ポケットから2枚の封筒を取り出した。
「ホグワーツ行きの切符だ」
そういうと、彼は片方をハリーに、もう片方をオレに渡した。
「9月1日、キングズ・クロス駅発──まぁ、全部切符に書いてある」
ハグリッドはあまりにも説明不足なので、オレは一瞬不安になったが――ここで開け、風に飛ばされたら洒落にならない。
オレは頷き、ポケットにそれをしまった。
しばらくして、ジェイコブの車――青い日本車がやってきた。
「おつかれ――早く帰ろう。ソフィーが待ってる」
ジェイコブに急かされ、オレは荷物を後部座席の奥にしまう。
それから、オレは後部座席に乗り込んだ。
「じゃあな、ハリー」
「うん、じゃあね」
窓を開け最後のお別れをすると、ジェイコブはアクセルを踏み、車を動かし始めた。
オレは駅が見えなくなるまで、ハグリッドとハリーに手を振っていた――
ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回、ホグワーツ特急です。
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