TSエルフ、赤ん坊を拾う   作:面相ゆつ

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お得意様のところにいこう!

 

 「ふんふんふん~!おらぁ!」

 

 グルグルと鍋の中身を回して煮詰めていく作業中。今作っているのは風邪薬である。乾燥させて粉末状にした火吹きトカゲの尻尾、森で摘んできた真っ白な七つ葉のクローバー。そして飲みやすくするためのどろどろスライムをどっさり入れて……後は細々とした俺特別製の材料を投入し高温で煮る。

 

 あぁ~!このずっと放置された水たまりみてぇな臭い。これこれぇ!窓開けててよかったぁ!

 

 今日も今日とて薬作り。でもこの異様な臭いにはキースとキィもこちらに近づこうともしない。まぁ今日のは特にくっせぇもんなぁ。そういう風邪薬を作りたい気分ってやつ?あるよな、そういうの。

 

 でも楽しいぞ!熱い鍋の近くにいるために額に流れる汗を拭いつつ。いつもより無駄に作業工程を増やしたことの達成感と普段は使わない材料の試しができることのわくわく感でいっぱいである。

 

 

 なんか最近個人依頼の薬が多いんだよなぁ。しかも割と店売りでもなんとかなりそうなものばかり。俺としてはやれる分を選別してやるだけだから別に構わないが。個人依頼に関しては、優先順位を付けるからやるかもしれないしやらないかもしれないって、明記しているのでな。

 

 ただこの頃は町で待ち合わせして、わざわざ対面で取りに来る人が多いからちょっと面倒くさいけど。で、露骨にがっかりしている時とすげぇ嬉しそうな時の差が激しい。何か条件があるのかな?待ち時間とか?

 

 

 今作っているのなんて、もう本当にただの風邪薬なんだよ。しかも血の流れを良くして、身体を温めるタイプのやつ。つーか風邪の引き初めに飲む感じの。

 正直俺に個人依頼で頼むほどではないうえに、緊急性もあまり感じられない。依頼文も『いつでもいいから、手が空いたら作って、どこかのタイミングで持ってきてね』という風だ。緩くて助かる。

 

 ただこの依頼主もお得意様というか何というか。娼館の主人で何かと薬をたくさん依頼してくる人で、金払いもいいからなぁ。一応今は手も空いてるのでやっている。けど、あまり行きたくない。

 

 ……こんなもんかな。後は冷やそうっと!鍋を火からおろし、安全で風通しの良い場所に置いておく。おっ!火から離したことで、すっげぇ元気よく鍋の中身が蠢いてるなぁ。今日のスライムは今朝採れたてで新鮮だったからだろうな。 

  

 ………………………………作り終わってから冷静になってこの中身を見ると、なんで蠢いているんだろう?俺の注ぎ込んだ魔力が変に作用してないかこれ。たまにこうなるけど、その場合って効能が良くなるんだけど。

 

 じぃっと数秒間見つめていると……あっ、止まった。ならいいか。じゃあ瓶に入れられるくらい冷えるまで、キースと遊んでるかぁ!

 

 「まま、くさい。こないで」

 

 ウキウキで近づくと、勢いよく後ずさりしたうえに想像以上にスンッとした真顔でキースに言われた。キィも唸りつつ俺を睨みつけてくる。ここまで警戒されたのなんて初めてだ。大袈裟だなぁ、そんなに臭くはねぇって。

 

 いつの間にか肌についていた薬の一部を嗅いでみる。

 

 うん、うん。あぁこれは確かに。作業中は気にならないもんだなぁ………………………………湯でも浴びてくる!!! 

 

 

 

 

 

 

 そろそろ、キィと一緒なら家でお留守番させても大丈夫かな?大丈夫じゃないかな?と思う今日この頃。その辺りの判断って難しいよなぁ。やはりどうしてもの時は、こんな風に教会に少しの間預かってもらうのが安心かなぁ。

 

 なんでそんなこと考えたのかというと……

 キースはぜっっったいに連れてはいけない場所である、今回の依頼主がいる娼館へと足を運んでいるからだ。いつ見てもでっかいなぁ。見上げると首が痛い。

 

 この町には大きな大きな娼館がある。この周囲はいつも賑わっているのだから、多分人気なんだろう。今も真昼間ではあるのだが、出入りがそこそこある。こういうところって夜だけかと思っていたのも昔の話。そういうもんらしい。

 

 今回もここに届け物をするためにキースは教会に預けてきた。いやぁ、流石にダメかなって……早すぎるかなって……そう思いながら正面の大きな扉ではなく、いつものようにぐるっと回って裏口から入っていく。しっかりとフードを被って。

 

 

 

 俺は薬類を詰め込んだカバンを背負い、小走りで廊下を通り抜ける。目指せ最上階。そこが目的地だ。が、その場所に辿り着くには直線の廊下の先にある幅広ででっかい階段を上らなければならない。それも数回。

 そもそもなんで娼館の客との共用の階段なんだよ。専用の直通の階段を作っといてくれよ!と思うのは俺だけではないはずだ。絶対ここを出入りしている業者とかもそう思ってる。

 

 

 廊下自体は綺麗なもので、怪し気な雰囲気の光源があること以外は掃除も行き届いていて清潔だ。左右のところどころにある扉は部屋に続いているのだろうか、赤く塗られていたり、青く塗られていたり、骸骨が飾られていたりと結構種類がある。

 ふと立ち止まってちらりと扉に書いている文字を読んでみると、赤ちゃん専用と書いてあった。赤ちゃん専用……?あぁ、託児所的な!意外とそういう配慮してんだなぁ。

 

 

 ……でもここってあまり嗅いだことのない不思議な香りがしていて、正直居心地が悪い。あとどこの部屋の扉からも猫の鳴き声というか嬌声というか何というか……それはもう元気な声が漏れ聞こえてくる。防音はどうなってんだ。防音はぁ!

 ………………………………いや、まぁそういう場所だから仕方ねぇんだけどさぁ。耳をふさぎながら走り抜けるのが良しだ!

 

 走れ走れ!こういう時じゃないと廊下なんて走れないんだからなぁ!!ここの廊下の幅はかなり広くて走りやすいぞ!俺は娼館に吹きすさぶ風のエルフだぁ!

 途中で娼館の客らしき者たちと何度もすれ違ったが、まぁいいかぁ!しかし、どうしてすれ違う客は一様に気まずそうに顔を逸らすのだろうか。別にもっと堂々としていればいいのに。

 

 

 思いの外すぐに体力が尽き、ぜーぜーと肩で息をしながら歩くこと割と長い時間。気が付けば外れていたフードを被り直して、ようやくの思いで最上階へと辿り着いた。まったく、荷物を背負ったまま走るもんじゃないよマジで。

 

 

 

 

 最上階にただ一つだけある部屋に入ると、まず初めに強い香りを漂わせる花のお香が俺を出迎えてくれた。花の種類まではわからないが、少なくとも一種類ではないことは確かだな。何種類かの花を混ぜ合わせ、エキスを抽出したであろう特別性のお香だと思う。

 

 そして目に付くのは中央にドンっとこれ見よがしに設置されている大きな大きな大きな!真っ赤で!ふかふかなベッド!俺の家のベッドよりも何倍も大きい。人が優に……十人は眠ってみても余りあるくらいにはでけぇベッドの中には今日の依頼主が寝転がっている。

 

 胸元が大きく開いた露出の激しい黒いドレスを着た女が部屋に入ってきた俺をにんまりと見つめていたのだ。頂点捕食者の目だ。先がハート型になっている長いコウモリのような尻尾をゆらゆらと揺らし、舌なめずりをしている。 

 

 「よく来たわねぇ。まぁこっちに来て座りなさいよ」

 

 片手でゆっくりとひょいひょいと招いて呼び寄せているが、俺は気にせず目の前にあった机に依頼物を置いていく。いつも持ってくる分の薬と個人依頼の風邪薬だ。カバン入れていた量が多いのだから、さっさと出しておきたい。

 カバンに手を突っ込んで一つずつ瓶詰にしたものを取り出していく。えっと。媚薬、媚薬、媚薬、媚薬、媚薬、精力剤、精力剤、精力剤………………………………あと風邪薬。これでいいな。おまけでこの前買った甘くて美味しい飴も置いといてやるか。美味しいから布教ってやつだな。

 

 「いつものと……あと個人依頼の分。数も……うん、全部あるよな。じゃあこれで!!!」

 

 娼館の女主人であるサキの言葉を待たずして、踵を返して入ってきた扉に向かおうとする。逃げよう。

 

 「ちょっと待ちなさいってば」

 

 背を向けて急いで帰ろうとしていた俺に対して、サキは魔力で作った縄を投げつけ、そのまま身体を縛ってきた!ぐぇ!痛い! 

 

 「別に変なことしようってわけじゃないんだから。こっちに来なさいって」

 

 縄でグルグル巻きになった俺はサキのベッドに向かってずるずると引きずられていく。くそ!無駄に精度の良い投擲を見せやがって!しかも魔力縄の下に本物の縄でがちがちに縛ってきやがった!魔力縄の方はすぐに解除できても、本物の縄は力でどうにかしないと無理だ!こいつ対策してきやがった!逃げられねぇ!

 

 「俺は忙しい!早く帰る!」

 

 「時間はかけないんだからいいじゃない」

 

 くるくると手を気だるげに回して、サキは自分自身の元へと引き寄せていく。俺は床を引きずられていくが、絨毯だからか痛くない。む、良い絨毯使ってるな。色も若干違うし、張り替えたのかな。

 

 「はい、捕まえたぁ~」

 

 そう言ってベッドの上まで連れ込まれてしまった。ここまで来たらじたばたしても意味はないので大人しくしておく。

 

 「……それで、何?」

 

 縛られた俺はせめてもの抵抗としてフードの奥から睨みつける。が、相手には効果がないようだ。にこにこ笑顔で普通にあしらわれている。

 

 「聞いたわよぉ?あなた、エルフなんだって?」

 

 身体をずいっと近づけて興味津々な様子のサキに引きつつ、俺は寝転がされてる状態のまま頷く。そういや言ってなかったんだっけ。そもそも聞かれてもないから言う必要ねぇもんな。

 

 「顔、みーせて?気になるー!」

  

 「……それだけ?」

 

 「それだけ。だっていつも色気もないフード被ったままで、応対してくるじゃない?気になってたのよねぇ」

 

 なーんだ!それだけかぁ!俺が来たらいつも魔力を吸ってくるから今日もそれかと思った!毎回毎回、隙を見てはあの手この手で魔力を吸収してくるから面倒くさいなぁって。別に死ぬわけでもないからいいけど、吸われたらぞわぞわするんだよあれ。魔力を吸ってくるってことは夢魔とかその辺なのかな。

 

 「いいぞ、別に。減るもんじゃないし」

 

 「………………………………意外と素直。だってエルフなの、知られたくないからいっつもそれ被ってたんでしょ?」

 

 「いや?知られたくないとかそんな話はないな。つーか最近は出歩く時は外してることも多いし。今、被ってるのもたまたまだぞ」

 

 癖は全く抜けないもので、気が付けばフードを被ったままになることが多いのも事実だ。キースといる時は絶対に外すが。あと流石にカッコイイから被っていたとかは言わない。笑われたら少し恥ずかしい。

 俺の返答にサキは今度はサキが引いている様子も見せる。

 

 「えぇ……危機感ゼロじゃない……」

 

 「危機感も何も特に問題はないからな」

 

 この頃はちょこちょこと外して出歩くけど、問題はない。多分今後も大丈夫だろう。

 

 「俺が許可するから、フード取っていいぞ。」

 

 縛られた身体ではフード外すことすらままならない。ほらほらと身体をグネグネ動かして外すように促す。いや、普通に縄を解いてくれてもいい。

 

 「え、うん。あたしの認識がおかしいのかしら……まぁいいや、じゃあ御開帳~!」

 

 サキは首を傾げながらも、気を取り直してフードをはぎ取ってきた。ふかふかのベッドが直に顔に当たり気持ちいい。

 

 「どうだ?この俺の美麗な顔は。驚きのあまり声も出ないかな?」

 

 「………………………………まだ子どもじゃない。え、嘘。あたし子どもから魔力を吸ってたの?やばぁ……でも見た目だけな可能性も。エルフって成長度合いまちまちらしいし……」

 

 「あ?大人だが?百歳は優に超えてるんだが?」

 

 あまりにも失礼な言葉に思わず、反射的に言い返してしまった。いつものように年齢も盛りに盛った。

 

 「………………………………本当は?怒らないから言ってみ?」

 

 「………………………………大人だが?」

 

 俺たちの間には微妙な空気が漂う。

 

 「本人が大人って言うんだから……いやぁでもなぁ……この子魔力美味しいしなぁ……」

 

 「大人だが??」

 

 「………………………………じゃあこのまま帰すのもあれだし、今日もせっかくだから魔力もらうわね。推定無罪ってことで!!」

 

 そう言ってサキは俺を抱きしめて魔力をぎゅんぎゅん吸ってきた。背筋がぞわぞわする!!

 

 「これ、やだぁ……!」

 

 「いいのかな!?これ!?あぁダメ!魔力が美味し過ぎる!」 

 

 

 

 その後、俺が解放されたのは一時間も後のことだった。サキは普段では見られないくらい、罪悪感に塗れた顔をしていたので俺としては面白かったけどなぁ……!これを機にあまり魔力は吸わないで欲しいものだ。

 

 

 

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