「今の俺ってさぁ、実はちょっと大人っぽさが足りてないよな。寝て起きたらでっかくならねぇかなぁ」
「ならねぇかなぁしんぷー」
「………………………………」
俺の言葉を真似しているキースと共に神父にダル絡みをすると、無言で露骨に嫌な顔をされる。眉間に皺を寄せ、口を曲げて『えー』という風に。教会の中、神父の両手が荷物で埋まっている時に声を掛けるべきではなかったかもしれんな。
それはそれとして移動している神父について行きながら周りをグルグルと回り、キースと一緒に行く手を阻む。これ、鬱陶しいだろうなぁ。俺は楽しいが。
「何か言えよぉ」
「……こうやって僕の邪魔をしないのなら、立派な大人ですよぉ」
「むぅ。それを言ったら終わりだろうよ」
神父は怒りもせずに大人の対応をしてくる。なんか悔しい。
そんなことを言った次の日の朝。いつもより身体の調子が変だ。昨日の夜に飲んだ栄養剤が合わなかったのか、それとも風邪でも引いたかな?そう思いつつ、伸びをしながら起きると俺は驚愕した。身体の調子が悪いどころの話ではない。
「!?」
「ままぁ?どうしたのぉ?」
俺の驚きの反応によるものだろうか、一緒のベッドで寝ていたキースも目を擦りながら起きだしてきた。あ、目をそんなに擦ったら赤くなるからダメだ。目を擦る手をやんわりと止めると、キースが寝ぼけ眼のままで改めて俺の姿を視認した。
「まま、ちょっとおっきくなってる」
「おい見ろ!!すげぇぞ!!うぇ、横腹痛い……」
「レイさん、こんな朝から一体なん、ん……?」
俺は魔法のシャボン玉に入ってもらったキースと勢いよく教会に飛び込む。丈が短くなった……というよりは俺自身が大きくなったせいか。そんなローブで走ってきたためか、フードなんて取っ払ってしまっている。あと、普通に全速力で走ってきたから死にそう。
普段と違う様子の俺を不思議に思ったのか訝しげに神父が近づいてくる。膝に手を当て、息を整えているのだが、如何せん体力がないのは据え置きのようだ。
ふわふわ浮いているシャボン玉からキースを出してあげると、俺の足に引っ付いて嬉しそうにしている。俺の美しい走りに付き合わせるのは申し訳ないからな……
「レイさん……のお姉さん?すみません、勘違いしてしまったみたいで。何か御用ですか?」
神父が頭を捻りながらも、普段俺が見ることはない爽やかな笑顔でそう答えてくる。
……急に他人行儀になられると寂しい。
「違うってば!俺に兄弟姉妹はいないし!正真正銘俺だよ。この地に轟き、夜の星すらも羨む超優秀エルフのレイとは俺以外あり得ないだろう?んー?」
胸に手を当て、高らかに宣言する。今、俺はすげぇぞ。気分が高揚している。
「……え…………………………うわ、本物だ」
「そう、本物だ。だけど神父ぅー?流石に違いがわかるんだなー?」
俺は少し高くなった目線を嬉しく思いながら、神父の隣までうきうきで移動する。困惑する神父をよそに、ふんわりと正面から体当たりをかます。おっ!ぐりぐりと頭を押し付けると今までと当たる位置が違う!
「ちょっと!!やめてくださいって!いつものじゃれ合いがじゃれ合いじゃなくなってる!」
何言ってんだこいつ。まぁいいや。気にせず押し付けていると高速で後ずさりをする神父。下がった分じりじりと追い込んでいくが、埒が明かない。
神父は両手を前にして俺を止め、それ以上近づくなという風に牽制してくる。いや、そこまでするか?
「はい!待ちなさい!まずはどうしてそうなったのかを!」
「聞きたいか?聞きたいだろう?俺が考えた結果、恐らくな………………………………成長期だ!!!」
寝るエルフは育つ!!!!
「どうだ?どうだ?背、高くなっただろう?」
俺は最近の中でも指折りの笑顔を振りまく。なんてったってよくわからないが、大人っぽくなったからなぁ!
別の場所にいたアリアも呼び出して、昨日の俺よりも成長しているところを見せつける。
「えっと。背は……確かに少し高くなりましたね……?一応」
「そうだろう?」
具体的には足首まで隠れていたローブの丈がリンゴ一個分くらいは余裕で上に上がっている。そして目線もそれに伴って
高くなった。これは大きな進歩である。何を隠そうこの目線の高さは、俺が男の身体の時と同じくらいの高さになったということなんだ。
とんでもないことだぞ……!
「多少は高くはなりました……よねぇ。一応」
だというのに、アリアと神父の二人は何とも微妙な表情だ。なんつーか『そうなんだけどぉ……』と言いたげだ。
………………………………こいつら自分たちの方が背が高いからって、変化がわかりにくいと思ってるのかぁ?そりゃあ二人には全然勝てないが、実際高くなってるんだぞ?
「何だよ二人ともぉ……はっきりしないなぁ」
俺は腕を組んで不満そうに二人を見るのだが、全く目が合わない。
「いやそんなことより、雰囲気が……」
「神父さまもそう思いますよね……?」
雰囲気ぃ?雰囲気がどうしたというのだ。成長したことで魔力も増えたせいなのか、いつも以上にきらきらと艶が出ている髪をいじりながら、俺は次の言葉を待つ。
「レイさんの雰囲気が……やっぱりやめときます」
「アリアぁ、それされると余計気になるからさぁ。怒らないから言ってみ?」
「雰囲気が……無駄にエッチです」
………………………………これ俺はどう反応するのが正解だ?何だよ、無駄にエッチって。どの辺がだよ。表現がストレート過ぎるし。でも怒らないって言ってしまったから、何も言えねぇ……!
「レイさんって、綺麗なんですけどあどけなさが目立つような顔立ちだったんですよね。失礼な言い方ですが少し幼さが残るというか」
「おう」
「今日のレイさんはどうでしょうか。見た目の年齢が人間で言えば四、五歳くらい上がったことであどけなさが完全に抜けてるんです。そのおかげか、今まで以上に綺麗になってるのはいいんですが……纏う雰囲気が淫靡?」
「おーう」
俺もおーうとしか言えない。
言葉に困ってるアリアと横で神妙に頷く神父、纏う雰囲気が淫靡って何?と虚無になる俺。そしてこんな状況でも変わらずに『しゃぼんだまにはいりたーい。まただしてー』とローブをくいくい引っ張ってせがむ可愛いキース……混沌だ。混沌に包まれている。
うぅむ。色々思うことはあるのだが、今俺が言えるのは……
「……まぁいいや」
「まぁいいや!?」
「まぁいいや!?」
俺の『まぁいいや』に反応して、驚いたように言葉を繰り返している二人の気持ちはわかる。恐ろしいほどに速い反応速度だ。
でも、まぁ……いいかなって。
「大人って……そういうものなのかもしれないしな。俺が薬を届けに行く娼館の女主人も、なんかそんな雰囲気を醸し出しているもん。多分、あれはエッチな雰囲気だと思う」
俺は娼館の女主人であるサキを想像する。サキが夢魔だからなのと、娼館というそういった場所込みの雰囲気なのかもしれないが。
「要はさぁ、魅力的ってことだろう?それ即ち、すげぇ褒めてるってことだよな。ならば、称賛の一部として受け取っておこう。もっと言っていいよ」
片眼を瞑り、親指を自分にびしりと向けて『もっと言っていいよ』のカッコよく合図を送っておく。ついでに髪もファサァってしておくか。
「神父さま……!レイさんすごいですよ……!もう呆れを通り越して、ここまでくるとどこまでいけるか試したくなりますね……!」
「アリア、こんなの見たらその『いけるとこまでいこう』という気持ちは理解できます。理解できますが、やめときましょう。チョロさの塊相手に、罪悪感がとんでもないことになりますよこれ」
おっと、二人がまた俺のことをチョロいとか何とか思ってるなぁ。くぎを刺しておかないとな。こほんと咳ばらいをして注目を集めてから、宣言しておく。
「……一応、言っておくけどさぁ。俺は二人が思っている程、容易く扱えるエルフじゃないんでね。大人のエルフなんでね。あとここまで赤裸々に答えるのはお前たちの前くらいだけだし……」
「………………………………そう言ってくれるのは、僕たちにとっても嬉しいですが、ねぇ?アリア?」
「本気でそう思ってくれているのはわかってはいますけれど」
どうして含みのある感じなんだよ!!
むぅ、俺の成長した姿を見てもらいたいなぁ。かと言って、もっとわかりやすく成長した部分なんて。何かねぇかなぁと身体を見渡すとなるほど、あるな。
神父の方へと身体を向け、問いかけることにした。わかるかなぁ?
「実は俺の成長度合い、まだ全部見せてないんだよなぁ。気になるよなぁ?どこだと思う?」
「……いえ、もう大丈夫ですよぉ?レイさんは見た目は大人っぽくなりました。お綺麗です。これで十分じゃないですかぁ」
むむ?話を切り上げようとしているのが見て取れる。なんだよぉ。まだまだ自慢したいのに。わからないなら、もう答えちゃおうかなぁ。
「どこだと思う?」
「本当に大丈夫なんで。せめてアリアに聞いてくれません?僕、もう次の展開がわかってるんで」
「どこだと思う―?」
「………………………………どうせローブの下とかでしょ」
俺の執拗な問いかけにしびれを切らした神父がようやく答える。
……?すげぇ曖昧に答えるじゃん。まぁ正解ではあるんだけど。
「合ってると言えば合ってるが、それじゃあ満点は与えられないなぁ?実際に見てもらおうか」
「アリアー。この人止めてください。前にも同じようなことありましたよ」
「神父さま、すみません。私は見るので……ご自分で目を覆ってください」
「いや……覆いません。せっかくなので」
やっぱりなんだかんだでアリアも神父も俺の成長が見たいようだ。俺はローブに手をかけ、するりと脱ぐ。そうして俺が一番成長したと思う場所を見てもらうことにした。
「なぁ!見てくれ!足、長くなってるよな!?背が伸びた分、足が絶対長くなってるよなぁ!?」
一晩で急成長したために合う服がなく、勝手にサイズ調整をしてくれるエルフの衣装をローブの下に着ているが、まぁいいだろう。見て欲しいのはここだ!足!絶対に長くなってる!!!
「いやぁ、これは完全にそうだね。確実に長くなってる」
二人に同意を求めるのだが、返事がない。あれ?
「まさかここまでとは……すごいです」
「えぇ。僕も驚いています。一定のラインを超えると逆に美術品を鑑賞する感覚になるんだと、新たな気付きですよ。レイさんには感謝しないといけませんね」
今までにないような真剣な表情で俺の身体をじっくりと見つめる二人に首を傾げてしまう。いや、足だよ足。こっち見てよ。
「しかもこれがエルフの伝統衣装本来の強み……とんでもないものを作る種族ですよ……!流石はエルフというわけですか……!」
「いいえ、神父さま?その魅力を十全に引き出しているレイさんを褒め称えるべきなのは言うまでもありませんよ。素晴らしいものを見せていただきました」
二人はうんうんと頷いて、わかりあっているようだ。褒めてくれるのはいいけど、足見てよ。すげぇ長くなってるからさ。ほんとだよ……
「ん?そういえばエルフって一晩で急に成長したりする種族ではないような気もするんですが」
しばらくの間、したり顔で『すごい』としか言わなくなった二人に恐怖を覚え、キースとシャボン玉の魔法で遊んでいたが、神父が急に正気を取り戻してそんなことを言い始めた。
「そうなんだよなぁ。成長スピードは個人差があるけど、こんなに急には変わらないはずなんだよ」
まぁ一晩で急に成長する種族なんて少なくとも俺は知らない。なら原因があるはずで……
「心当たりなんて、夜に飲んだ栄養剤くらいのもんだよ」
「………………………………絶対それじゃないですか」
そう言ったのと同時に俺は眩い光に包まれた。えっ!?
「あ、戻りましたね」
神父が言うように光が収まってから見ると、完全に昨日までの俺に戻ってしまった。
「あ、あぁ。あぁぁ………………………………」
「まぁ、もう一度作れば……」
「あれ、寝ぼけて作ったやつだからもうわかんない………………………………」
なんともまぁ短い夢だった………………………………