TSエルフ、赤ん坊を拾う   作:面相ゆつ

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喋れるんなら早めに言ってよ!寂しいじゃんか!

 

 「なぁキース。キィを見なかったか?」

 

 「ううん、みてないよー」

 

 「そっかぁ。どこいったんだろ」

 

 お行儀よく座って絵本を読んでいるキースにキィの居場所を尋ねるが、結果は空振りだ。おかしいな?キィは基本的には家の中にいるんだけど……

 

 「ままはきぃ、さがしてるの?いっしょにさがそっか?」

 

 「ありがとうキース。でも大丈夫だよ。ちょっと魔力あげときたいなぁって思っただけだから」

 

 こてんと首を傾けてキースがいじらしくも一緒に探してくれようとしてくれた。おいおい、細やかな気遣いができる幼児がこの世にいるのかよ……!!とんでもないことだぞ、これは。あーあ、こんな良い子を赤ん坊の頃に森に捨てていった奴らの気が知れんな。カスだよカス。

 

 

 キィを探しているのには当然理由がある。決して撫でて癒されたいとかではない。魔力をあげたいのだ。

 

 キィが俺から自動で吸収している魔力とは別に、定期的に余剰魔力を提供している。使い魔にとって魔力は大切な栄養の一つであるため、あげられるときにあげときたいのだ。

 

 もちろん、キィ自身が自分の意思で身体を大きくしたり翼を生やしたりするなどの変化の魔法などにも魔力を使う。俺からの日々の供給分で普通に賄えるとはいえ、使い魔にとっては与えられる魔力は多い方がいいはずだ。

 だから暇な時やキースを任せないといけない時には魔力を大量に与えるのが常である。

 

 「地下も確認したし、ベッドの下も見たし……外に散歩にでも行ったのか?」

 

 うぅむ。それくらいしか考えられない。使い魔なんだから呼び戻そうと思えばすぐに呼び戻せるが……それもキィに悪いしな。気分転換に外に散歩しているのなら、それはそれで構わない。

 

まぁいいや。薬でも作るかと、玄関に背を向けるとガチャリと音がした。玄関の扉からである。勝手に誰が入ってきた……?侵入者か?対応できる魔法の準備をし、急いで振り返ると………………………………

 

 「あ、どうも。おはようございます。ご主人が切らしそうにしていた薬草、摘んできましたんで。いつもの保管庫に入れておきましょうか?それともここで一応確認します?」

 

 ………………………………なんかすげぇ勝手知ったる感じで、俺よりは背の高い可愛らしい女の子が入ってきた。ぴょこぴょこと頭にある獣耳を動かし、肩にかかるくらいの黒髪で全身を真っ黒なひらひらの薄手なワンピースに包んだ子だ。青い目の色が印象的な彼女はスタスタと俺に近づき、薬草の入った籠を差し出してきた。

 

 『やれやれくたびれたぜ』と言葉には出さないが、そんな雰囲気である。

 

 「………………………………え、どうも?ありがとうございます……??」

 

 確かに『そろそろ採集しないとなぁ』と思っていた薬草が手提げの籠の中にたくさん入っていた。これ、ちょっと高い場所にある薬草だから取ってきてもらえたのはすげぇ助かる……じゃなくて!

 

 「誰?君、誰?」

 

 俺は即座にキースの傍まで後退りをし、いつでも何があってもいいようにキースを庇っておく。何食わぬ顔で自分の家みたいに入ってきて怖い。どんな薬草が少なくなっているのか把握してるのもすげぇ怖い。こんなの絶対何回か侵入してきてるじゃん。ひぇっ……

 

 「まま。きぃだよ」

 

 「キースしっかりするんだ!キィは黒猫だ!」

 

 キースは怖がる素振りも一切見せずにそんなことを言ってくる。そうして椅子から降りて、『きぃおかえりー』と近づいていくのを必死で止める。人見知りしないっていってもそれはダメだってば!幻覚でも見せられてんのか!?

 

 キィは断じてこの人間……獣耳があるから獣人?じゃないし!つーか不審者を家の中まで普通に侵入させてしまった!やべぇって!キースがあの女に対して妙な親近感があるのもやべぇって!

 

 「おうおう!それ以上近づくなよ……!言っておくが、こう見えて俺は超優秀な魔法使いだからな?ついでに今、家にいない相棒も帰ってきたらボコボコだぞ?キィは強いんだからな?怪我をしたくなかったらさっさとこの家から出ることだ!あと、薬草はありがたくもらっておく!」

 

 少しでも身体を大きく見せるために腕を広げ、威嚇の体勢を取る。昔、森のウサギに囲まれた際に編み出した秘技である。

 できるのならこれに恐れをなして帰って欲しい。俺もやるときはやるエルフではあるが、如何せん武闘派ではない。いや、まぁ頑張って最低でも相打ちには持ち込むけど!

 

 しかも流石に緊急事態ということで、キィを呼び戻そうとしているのに戻ってこない。なんで? 

 

 「……何一人で盛り上がってバカなこと言ってんですか…………………………あぁ。そういえばこの姿をご主人は見たことなかったんでしたっけ。うっかりしてました」

 

 一瞬だけ心底呆れかえった表情を浮かべた思ったら、急に訳知り顔で納得してきやがった。こっちは警戒心バリバリな状況なのに向こうは余裕そうだ。やんのかぁ、こらぁ。

 

 「……というか、こっちへ常に魔力を流してるのに気づかないもんなんですかね」

 

 「?」

 

 魔力を流してる?向こうがそんなことを呟いたと思った次の瞬間。ぽんっと可愛らしい音を立て、今の今まで目の前にいたはずの奴が消え去ってしまった。その場には元々誰もいなかったように忽然と、だ。

 

 ………………………………逃げた?ならばつまり俺の勝ち?とりあえず勝利のポーズでも取っとくか?

 

 「キース、あの不審者は俺に恐れをなして帰ったらしい……!もう大丈夫だからな……!」

 

 「?」

 

 キースは『何言ってるの?』と言いたげにきょとんとした様子だが、俺は全く気にしない。やはり堂々と侵入してきた時はもう本当に驚いたが、いなくなってしまえばこっちのものってことだな。

 

 「朝早くの森の奥なのに、不審者が入り込んでくることってあるんだな。キース、ああやってしれっと危ない人が入ってくることもある。知らない奴には近づいちゃだめだぞ?」

 

 「きぃだもん。だいじょうぶだよ?」

 

 ………………………………確かに全体的にキィっぽさはあったけども。

 

 森の中だからって安心せず、日中も鍵くらいは掛けた方がいいのか?いや、魔法で対策しとかないと危険か。常々思っているが、森の奥のここまでわざわざ来る奴ってのはやべぇだろ。その辺は反省だな。

 

 ただまぁ……あとで考えるか。今はこの記念すべき勝利に酔いしれるべきだ。今日というこの日を『不審者に勝利した日』として記念日にしなければな。

 

 「にゃ」

 

 勝利を確信した俺が握った拳を天高く掲げようとしていると、足元から猫の鳴き声がしてきた。おやおや?と思い、足元を見ると黒猫のキィがこれまたお行儀よく佇んでいた。

 

 「あ、キィ!いつの間に帰ってきたんだよぉ!さっきまで変な奴が侵入してきて大変だったんだからな!」

 

 「……にゃあ?」

 

 俺は座り込んでキィを抱き上げると、どうしてかキィが唸るような鳴き声を上げる。キィ、何を怒ってるんだよぉ。いつもなら大人しく抱かせてくれるのに。

 

 「にゃ!」

 

 不満そうにキィが一際大きく鳴き声を上げると、再びぽんっと可愛らしい音が鳴った。え。  

 

 「へ」

 

 なんともまぁ間抜けな声しか出なかった。で、仰向けに押し倒されていた。さっき消えたはずの不審者に。

 

 「ご主人……変な奴とは酷くないですか?」

 

 「ひぇ」 

 

 じっとりした目で顔がくっつきそうなくらいの至近距離。不審者に頬をひと舐め、そして首元をじっくり舐められてようやく気づいた。首の傷跡をやたら執拗にねっとりと舐めてくるこの感じは……キィ?

 

 

 

 改めて座りなおし、推定キィに尋ねる。

 

 「………………………………本当にキィ?」

 

 「正真正銘、あなたの使い魔のキィですけど?不審者とか、変な奴とでも好きな風に呼んでもらって構いませんが。別に」

 

 微妙に拗ねているのがわかる程度には不満げだ。なんか責められてる気分になる。気持ちはわからんでもない。でも一応、一応!キィである証拠が欲しいなぁ。いや、まぁ多分キィなんだけど。

 

 「一応、キィである証拠が欲しいっていうか。なんかない?俺たちだけが知ってるような秘密みたいな……」

 

 「……ご主人がたまに『伸びないかなぁ』とか言いながら背を伸ばす体操してるとか、『これこれぇ!!この匂いだぁ!!』とか言いながら私の匂いを嗅いでるとか、キースの成長日記を夜な夜なつけてるとか?あとは……」

 

 「もう大丈夫!キィ以外の何者でもないな!うん!!」

 

 本物のキィだぁ!これ以上は何を言われるかわからないから止めよう!!俺の隠しておきたい恥ずかしいところをむざむざと曝されるわけにいかん!

 

 「ようやくわかってくれましたか。ご主人も魔力の流れから普通気づくでしょ?それともこの私以外に使い魔でもいるんですか?えぇ?」

 

 「わ、悪かったってば!」 

 

 想像以上に詰めてくるキィに及び腰になるが、さもありなん。冷静になって辿ってみると、俺の魔力が少しキィの方に流れている。キィを不審者扱いしたんだ。キィが若干怒るのも無理はない。

 でも俺も言い分はある。いつもは黒猫の姿なのに、急に人間っぽい姿で現れると俺みたいな反応になるだろ!

 

 「キィ、どうしてその姿になってるんだ。魔力をかなり消費しちゃうんじゃないのか、それ」

 

 俺が疑問に思うのも無理はない。使い魔は姿を変化させる時は相応の代償が必要となる。この場合なら魔力である。キィは黒猫の姿が通常状態なのだから、身体も大きくなって骨格もかなり異なるものに変わるのには、相当な魔力がいる。つまり、そんなに魔力を使って平気なのか?と。

 

 「何故この姿になってるかの理由ですか……それはご主人のせいです」

 

 「俺のせいぃ?」

 

 なんでぇ?

 

 「ご主人が悪いんですよ?鈍感だから知らないんでしょうけどね」

 

 キィは悪びれた様子もなく、獣耳を右へ左へぴこぴこ動かしてそう言い切った。ちょっとそれには俺も覚えがない。

 

 「俺が悪いって……?」

 

 「………………………………ご主人は良かれと思って、私に魔力をそれはもうたくさんくれてるんでしょうけどね。ご主人がくれる魔力って日常生活では消費できないくらい多いんです」

 

 「え」

 

 「誰だって共通でしょうけど、お腹いっぱいなところに『もっとお食べー』ってさらに詰め込もうとしたら困るでしょ?そりゃあ私もかなり魔力の喰いが多い使い魔ですし、魔力も別口にストックできますが、それでも多いんです」

 

 「………………………………そうなの?」

 

 衝撃の事実だ。完全に良かれと思って魔力いっぱいあげてた……これには俺も若干落ち込む。俺にもしものことがあった場合、キィでどうにかできるように……キースを任せられるようにと、かなりの頻度で魔力を流し込んでいた。

 

 「申し訳ないことをしてたな……」

 

 「あぁ!違いますって!ちょっと意地悪な言い方しちゃいましたけどありがたいです!ありがたいけど消費に対して供給がいっぱいってだけで!魔力をたくさんくれるの嬉しいですよ、これは本当です。美味しいですし」

 

 すかさず俺のフォローをしてくれるキィだ。俺が落ち込んだと察知すると、すぐに慰めてくれた。俺の相棒、細やかな気遣いしてくれるじゃん……!サキもこの前言ってたけど俺の魔力って美味しいんだな。なんだか自己肯定感が高まってきたぞ。

  

 「迷惑じゃない?本当に?」

 

 でも一応、もう一度念を押してじぃっとキィの目を見つめながら尋ねる。

 

 「うぐっ……棘のある言い方したのは、ご主人が私に気づかずに不審者やら何やらと疑ってきたからです!それで拗ねて意地悪しただけ!迷惑だなんて思ってないんでぇ」

 

 「そっかぁ!よかったぁ!」

 

 その言葉が聞けて安心だ!!

 

 

 

 「要は貯め込んだ分の魔力を消費するために定期的にこの姿に変化させてるだけなんで。この姿なら魔力を激しく消費できるから便利なんですよ。二足歩行で、器用に色んなことできますし。ほら、薬草の採集だって簡単です」

 

 「むぅ……」

 

 キィが自身を人型に変化させている理由については納得した。納得はしたが、それ以上に疑問があるのも事実である。 

 

 「でもさぁ、人型に変化して話せるんなら言ってくれてもいいじゃんか。俺、キィとお喋りしたかったんだけど?」

 

 キィとはそこそこ長い付き合いだ。相棒だと思ってるし、緊急事態の場合にキースの命を任せられる数少ない存在だ。だからまぁ……話せるんなら話したい。

 しかも、しかも!!さっきのキースの反応から判断すると、多分キースはキィが人型になれるのを知っているようだしさぁ……!

 

 「キース?キィがこの姿になれるの知ってた?」

 

 「うん!!」

 

 人型になっても残っているキィの尻尾と戯れているキースに聞くと、元気いっぱい答えてくれた。ふぅん、やっぱりそうなんだ。

 

 「ふぅーん。いや?別にいいけど?キースは知ってて、俺だけが知らなかったんだぁ。へぇー」

 

 俺は唇を尖らせてキィにもっと近づき、キィの可愛い獣耳をフニフニする。尻尾はキースに任せ、俺は耳の裏の方を触る。キィってこの辺撫でられるのが好きなんだよなぁ。そこに優しく触れるとキィは思いの外びくびくっとなる。やっぱり人型に変化しても変わらないんだな。

 

 「ふにゃ!!その反応!!そういう面倒くさいご主人になるのが目に見えてるから伝えなかったんですよ!タイミングの問題ですって!」

 

 「全然面倒くさくないが?ほれほれ、この辺がいいんだろ?」

 

 「ちょっ!やめ!いつもより感覚が!鋭敏で!」

  

 普通に触れてるだけだが、キィは目をトロンさせて幸せそうにびくびくしている。これって、猫にとってはそんなに気持ちいいのだろうか。まぁいいや。

 俺は面倒くさくないエルフだからな。キィが人型になってお喋りできるのを隠していたことを、別に!全く!これっぽっちも!気にしてない。

 

 「なぁキース?キィはキースと『は』お喋りしてたんだ?」

 

 「そうだよー!きぃ、すごいんだよ!ままのこといっぱいおしえてくれるの!」

 

 「うんうん、そっかぁ」

 

 ………………………………キィ、これはズルいよなぁ。

 

 「……落ち着いてください、ご主人。キースにせがまれるんですから仕方ないじゃないですかぁ」

 

 「落ち着いてるけど?ただいつも通り、キィが好きな場所を撫でてるだけだぞ。そういや、耳の付け根の方も好きだよな。撫でてやるよ」

 

 「………………………………逃げよっと!」

 

 キィはそれだけ言うと、ぽんっとまたまた可愛らしい音を立てて黒猫の姿に戻る。逃げるつもりなのだろうが、俺はキィをぎゅっと捕まえて逃がさないようにする。

 

 「キィ、待てってば。別に俺は怒ってないからさぁ」

 

 今の俺は単純に……拗ねているだけだから!

 

 

 ………………………………気が済むまで撫で続けた。途中でキースも交えてキィを撫で続けた。尻尾の付け根もとんとんしたし、顎の下をカリカリもした。キィも気持ちよさそうにしていたし、いいだろう多分。

 

 

 それ以降、たまにキィは人型の状態で俺の前に現れるようになった。曰く『ご主人が面倒くさくないようにするため』だそうだ。

 だが俺は知っている。その状態で耳を触れられ待ちしているのを……そんなに気持ちいいのかな?そう考えて、俺も自分の耳に触れてみると……確かに気持ちいいかも!!

 

 

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