TSエルフ、赤ん坊を拾う   作:面相ゆつ

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あまり使わない機能って忘れるよね?

 

 俺が個人依頼の薬を作っている最中のことだ。キースが大事そうに何かを手に収め、小走りをしながら俺の元へやってきた。早く見せたくてたまらないって表情からわかるくらいにはニッコニコだ。

 外で珍しい虫を見つけたのかな?すげぇでかい角の生えたトゲトゲの虫とか。それは俺もめちゃくちゃ見たい。

 

 「みてみて。ままのぺんだんとがひかってるー」 

 

 「え?……本当だ。なんだこれ」

 

 キースの開いた掌には俺がいつも使っているひし形のペンダントがある。今日は気分ではないため、ペンダントで衣服を構成せずに机の上に置きっぱなしにしていたのだ。

 そのペンダントがチカチカと赤く光ったり消えたりの点滅を繰り返し、それはもう目に悪そうな光り方をしている。

 

 「………………………………光ってるなぁ」

 

 「ひかってるねー」

 

 キースからペンダントを受け取り、まじまじと観察してみるが『なんか……光ってるなぁ』としか感想が思い浮かばない。刺激の強い赤い点滅のせいで目が痛くなりそう。せめて目に優しい緑で光って欲しいものだ。

 

 「魔力が空になってる……ってわけでもないしな。特に何かあったわけでも……」

 

 だって普通に机に置いて……置いて……?

 

 そういえば机に置く時、手を滑らせて床に落としたうえに思い切り蹴っちゃったのを思い出す。しかもちょうどよく遊んでいるキースとキィのど真ん中に滑っていって、キィが猫の反射神経で跳ね飛ばして宙に浮き……偶然開いていた窓から外に凄まじい勢いで飛んでいき……蜂蜜を届けに来てくれた熊がそれを叩き落とし……最終的にでけぇ岩にぶつかっていた。

 

 で、めり込んでいた。偶然ってすげぇ!!

 

 ………………………………うぅむ。ただちょっとした異常が起こってもおかしくないくらいには、普通に心当たりがあったな。

 

 「ぺんだんと、さっきのでこわれちゃったの?」

 

 「いいや、多分大丈夫だよ。これって頑丈だからさ。ほら全体を触ってごらん?傷一つ付いてないないだろう?」

 

 不思議そうにペンダントを見つめるキースの頭を撫で、もう一度ペンダントを手渡して触れてみるように促す。つるつるとした表面に優しく触れるキースは『本当だ!』という風に目を輝かす。

 

 そもそもこのペンダント自体に特殊な魔法が込められている。だからそう簡単にぶっ壊れることはほぼない。ほぼないだけで、さっきの衝撃でおかしくなった可能性はあるにはあるが……魔力の通りも問題ないから大丈夫だと思う。 

 

 「あ、消えた」

 

 そんなことを考えてるうちに、ペンダントは何事もなかったかのように唐突に光が消えてしまった。そうしてそこにあるのはいつも通りの青いペンダントだ。

 

 俺たちはお互いに顔を見合わせ『??』となる。結局何だったんだろうか……まぁとりあえず今日のところは置いとこ……ついでに魔力も出し切っておくか。こういうのって一旦、真っ新な状態にするといいとか聞くし。衝撃を与えすぎたせいでの不具合だろ。そういうことだから魔力を出しましょうねー。

 

 『……レ……今……ど……返事』

 

 ペンダントから魔力を抜いていると、ぴぴっと微かな音が鳴り一瞬だけまた赤く光ってから雑音が流れてくる。んー?なんか音っつーか、声か?ペンダントから聞こえた気が……?

 そういやこれをもらった時に、魔力から衣服を編み込む以外に何か他に機能があったような。光ったり音が鳴るのってもしかして不調ではなく、正常な動作かもしれない。

 

 あー、なんだっけなぁ。これをもらった時に他の機能があるのを聞いたのは覚えてんだよなぁ。眉間に皺を寄せて腕を組み、記憶の底からその時の説明を思い出そうとする。

 こんな機能、必要なくない?と思ったのはよぉく覚えてる。あと『緊急時があるかもしれないから、どこかに入れておきなさい。いや、それを使って衣服は編み込まなくてもいい。持っておくだけでいいから』と言われたことも。どんな時に光るんだっけか。確か……

 

 「ままー!おなべがすごいこげくさい!」 

 

 キースのびっくりしたような声によって、浅い思考から起き上がり我に返る。あっ!!!!!

 

 「うおっ!!やっべぇ!!薬草を煮込みっぱなしだった!キース、教えてくれてありがとう!」

 

 そうだよ、薬を作っている最中だった!急いで鍋を見ると、ぐつぐつと煮込まれていた物体は既に水気がなくなってしまっている。中にあるのはどす黒く、苦味しか感じないであろう薬の材料だった何かである。鍋の中の側面に焦げ付いてへばりつき、焦げ臭い異臭を放っている。

 

 これは一目瞭然というやつだろう。完全なる失敗だ。もう一度作り直しだな。俺は鍋を火から離して別の場所に移動させながら、下唇を噛んで渋い顔を作るしかない。とほほである。

 

 「あーあ。やっちまった」 

 

 「そういうこともあるよ。きにしちゃだめだよ?」

 

 わぁ!キースが俺を慰めてくれてる!!なんということでしょうか!こんなに気を遣って慰めてくれる優しい幼児がこの世に存在していいのかよ……!俺の育て方がいいのかな?いいや!キース自身が良い子だもんな!へへっ!神に感謝しとこ!

 

 

 

 

 

 「………………………………レイさん。首元が赤く光ってますよ」

 

 「あぁ、またか」

 

 明くる日、教会でアリアと話しているとまたペンダントが赤く点滅をし始めた。今日は衝撃を与えてはいないが、恐らく料理の時に誤ってぐつぐつと煮えたぎった熱湯にぶち込んだのが原因だろうな。あとで着けよーと思って近くに置いていたのが悪かった。

 ただ熱湯に入れても全然壊れる心配もないのはありがたい話である。ここまでくるとどこまで大丈夫かを試したくなるよな。

 

 「こうなったら一度魔力を抜くといいんだよ。ペンダントの魔力を空っぽにするんだ。じゃあちょっとローブ着るかぁ」

 

 椅子に掛けていたローブをいそいそと着こみ、身体が人目に付かないようにしてからペンダントから魔力を抜こうとする。今日はペンダントの魔力で衣服を編み込んでいるため、魔力を抜いた瞬間に裸になるからな。それは流石にダメだろう。

 

 するとアリアが焦りも何もない慣れた動作で俺の肩に手を置く。その表情は穏やかだった。

 

 「はい、待ってください。それをするのならこの礼拝場ではなく、せめて私の部屋に行きましょう」

 

 「ローブで隠してるから平気だぞ。ほぉら全身が見えないだろう」

 

 その場でくるくると回って、全身がしっかりとローブで隠れているのをアリアに見せつける。

 

 どうせ魔力を抜いた後に、また魔力を込めて編み直すんだし。すぐだよすぐ。精々お茶を沸かすくらいの時間だ。それにこの場には俺たち以外は神父とキースとキィしかいない。よって俺が信頼している者しかいない空間である。なら大丈夫だろう。

 

 もしも他の人がここに入ってきた時?そもそもの話ローブで全身を隠しているのだから、全くもって問題はない。俺は自信を持ち胸を張ってそう断言できる。わざわざ個室になんて行かなくとも、ここで済むのだし時間短縮だな。 

 

 「そうですね。見えませんね。それで?」

 

 「え。それでって?」

 

 優し気な笑顔をアリアは浮かべているのに圧を感じる。なんだろう、言葉かな?特におかしくも何ともない言葉なのに圧を感じるなぁ。

 

 「逆の立場になって欲しいんです。私がもしもカーテンでも、まぁ何でもいいでしょう。何かしらの布を身体に巻いた状態で全裸になると宣言して全てを脱ごうとしています。しかも『ほら。身体は見えてないからいいでしょう?』と自信満々で言ったら……どうします?ちなみにそこは男女問わず不特定多数の人が入ってくる場所です」

 

 「あー……まぁ止めるな。うん」

 

 「わかってくれましたか?では、行きましょう」

 

 ………………………………すげぇ納得した。

 

 

 

 

 アリアの部屋に入るとすぐ、ペンダントが今までよりも早く点滅し始めた。高速点滅だ。うわっ……こわ。ペンダントを外し、とりあえず高速点滅の光が目に入らないように掌で包み込む。こんなのを直接見たら目が痛いって!

 

 「さぁて。こんなの放置してたら目に悪いし、さっさと魔力を抜こうかな」

 

 「ん?あれ?レイさん、何か聞こえませんか?そこから……」

 

 アリアは俺の掌の中のペンダントを指さす。言われてみると何かしらがぼそぼそと聞こえてくる。耳を澄ませばただの音ではなく、前と同じく誰かの声のように思える。

 

 「……少し前にも同じことがあったんだよな。状況で言えば同じだ」

 

 「……よく聞いてみませんか。もしかするとペンダントが何かを伝えようとしているのかもしれません」

 

 「うん、そうしてみる」

 

 これから先も多同じようなことが起きるのだろうし。このまま放っておくのも気味が悪いのも事実。確認するに越したことはないのだろう。

 ゆっくりとした動きで恐る恐るペンダントを耳に近づけてみる。そうするとようやく声をはっきりと認識することができた。

 

 『レイ……返事をして……』

 

 ………………………………………………………………うげ、これ母さんの声だ。

 

 

 

 うわうわうわうわ。

 一旦、ペンダントを置く。お、思い出した。ペンダントの機能、思い出した……!そして小声でひそひそとアリアに話しかける。

 

 「これ、母さんの声だった!やばいやばい!思い出した!このペンダント、魔力で服を編み込むだけの便利道具じゃなかった……!これ、明らかな危害を加えられたら、時間をおいてから同じ家系のペンダントを持つ者に自動で念話が繋がる機能があった……!具体的には親に繋がる!!」

 

 もっと詳細にするならば『命に係わりそうな衝撃などがペンダントに加わった場合』である。要はペンダントを肌身離さず持っているという前提の下で作られたものだ。そうだよ、そんな説明受けた!しかも子の方から親の方に一方通行に繋がって、その逆はないという謎仕様!

 

 「えっと。じゃあ自分は無事ですって今すぐ伝えればいいのでは……?レイさん自身は別にやましいことはないのでしょう?」

 

 「お」

 

 「お?」

 

 「怒られる……!絶対めちゃくちゃ怒られる!」 

 

 「えぇ……何言ってるんですか……」

 

 アリアは呆れてるが、俺としては冷や汗が出るくらいには焦っている。ぜってぇ怒られる!

 理由は二つ。一つ目は単純にガーランジュを出た後に!これっぽっちも!家族に近況などを伝えていない!どこにいるかも全くだ!まぁこっちに関しては国外に行くよー探さないでねーと置き手紙は残したから大丈夫なはずだけど!

 

 二つ目はこの念話が繋がるということは、それ相応の命に係わる事象が起こったと向こうは思っているわけなんだ。日常生活においてそうそうない事象だ。こちらに命の危険があると思ってる相手に『いや、ちょっとペンダントを乱暴に扱っただけです』と言う勇気はない!しかも岩にめり込んだ前の分と今日の熱湯にぶち込んだ分も合わせると二回目だもん!やっべぇ!

 

 「どうにか誤魔化せないかなぁ」

 

 何を誤魔化すって話だが。そうだ!このまま出ないってことは……

 

 「………………………………レイさんのお母さまはどちらにせよ確実に心配なさっていますよ?それを無視するんですか。せっかくの家族と話ができる機会なのに」

 

 ……それをアリアから言われてしまうと俺は弱い。流石にそんなに不誠実なことはやっちゃダメだよな。しっかり話さなきゃなぁ。怒られてもまぁ仕方ないか。  

 

 「なぁアリア。正直に言うとめちゃくちゃ不安だから手でも握ってくれない?」

 

 「いいですよ」  

 

 ………………………………これじゃあどっちが歳上かわかったもんじゃないなぁ。

 

 

 深呼吸を何度かして、置いていたペンダントを手に取る。うへぇ、緊張するぅ。

 

 「……えっと。ひ、久しぶりー?母さん元気にしてる―?」

 

 『………………………………え。噓』

 

 「ごめんなさい!これが繋がってるのは、ちょっとペンダント乱暴に扱っちゃったのが原因だから!本当に心配しないで!一回目も二回目も命に係わることはなーにもないから!怒らないで!」

 

 『レイ……!レイ……!生きててくれたのね……!もっと声を、声を聞かせて……!』

 

 ペンダントからはぐすぐすと嗚咽と涙交じりの声が聞こえてくる。あれ?怒られると思ったのに、そんな雰囲気じゃなさそうだぞ?俺は首を傾げつつ会話を続ける。

 

 「そんなに泣かなくても……心配かけちゃったのは謝るからさ。俺は元気だよー」

 

 『だって、国中どれだけ探しても見つからなくて……もう生きてないか攫われて酷いことになってると思ってて。それで……それで……』

 

 「大袈裟だよ!身体は変わったままだけど、どこも怪我もしてないし健康体だから。母さんも心配し過ぎだってば!」

 

 んー?なんだか微妙にすれ違いが起こってる気がする。母さんの想定している規模がでかい?というか何というか。魔女もガーランジュが国を挙げて俺を探してるーとか言ってたけど、みーんな大袈裟にし過ぎだよなぁ。そうだ!

 

 「あ、もしかすると俺の恩人がガーランジュに行ってるかもしれないんだ。魔女っぽくて目が赤い多分長命種が来てたはずなんだ」

 

 『赤い目をした……魔女っぽい……長命種?』

 

 「でもガーランジュも広いから流石に会わないよね。ごめんなさい」

 

 ついでに聞いちゃったけど普通会わないよなぁ。ガーランジュってでかいもんな。

 

 『………………………………あの赤目の魔女。明らかに何か隠してると思ったけれど、やはり嘘をついていたのね……あっちを先に捕まえて情報を吐かせる方が早いかもしれないわ……』

 

 「母さん?どうかしたの?」

 

 『いいえ?何でもないわ?それで、レイ。あなたはど……こ…………る』

 

 「え?聞こえなーい。あ、切れちゃった」

 

 最後の方に何言ってたのかよくわからなかったな。うーん……ま、いっかぁ!そんなに重要なことでもないだろうし!

 うんともすんとも反応がなくなったペンダントを片手に持ち、その手で額に流れていた汗を拭う。すっげぇ緊張したぁ!でも怒られなくてよかったぁ!母さん、怒ると怖いんだよ。 

 次は父さんとも話したいけど……まぁしばらくはいいか。頻繁にペンダントをぶっ壊す勢いでどうにかするのはあまり推奨できないだろうし。それでも、こっちで裸の付き合いができるくらいの友人ができたことも報告したい。

  

 そうして会話を終えると、静かに隣で手を握ってくれていたアリアが口元に手を当てて微笑んでいた。いや、微笑みなんて可愛いもんじゃないな。にやにやしている。なんだぁ?

 

 「レイさんって……家族の前ではあんな話し方をするんですね」

 

 「そこは突っつかないでくれ。恥ずかしくなる」

 

 「ですが、話せてよかったでしょう?」

 

 「………………………………うん」

 

 照れ臭い部分も多いけど、久しぶりに話すとやっぱりそうだなぁって思う。話せてよかった。ガーランジュにもそこそこの年数帰ってないもんな。まぁ変身薬を作るまでは戻らないつもりだけど。

 

 「よし!じゃあ礼拝場に戻るとするかぁ!」

 

 「その前に服、着ましょうか。これなんか良いと思いますよ。ゴスロリというものらしいです。せっかく私の部屋まで来たことですし、ね?着てみませんか?そうしましょう?」

 

 「え。あ、はい」 

 

 ………………………………両親よ!俺はガーランジュよりも遠い地ですげぇ可愛らしい服を着せられているぞ!!

 

 

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