「本当にその文面で手紙出しちゃったんですか?本当に?冗談ですよね?指摘点は色々あるんですけど……何よりも僕、レイさんの親御さんに変な勘違いされますよそれ!」
滝のような汗を出している神父が俺の肩を掴み、ぐわんぐわんと前後に揺らす。必死に聞き返されているが、俺が言えるのは一つだけだ。
「勘違いも何も……手紙に書いたのは全部事実だぞ?何を気にすることがあるんだ。それにさぁ、神父のことを一切悪く書いてないよ」
嘘も何もない、純然たる事実のみで構成された惚れ惚れする手紙であったと自負している。一回読み返してもそう思ったのだから間違っていない。
「レイさんの文面では事実でも相当誤解を招く……!いやでも、大らかな親ならセーフ?ダメだぁ……全てを希望的に僕の都合の良いように考えても、まともな親御さんなら泡を吹いて倒れる……もう出しちゃったんですよねぇ……………………………」
そう言うと神父がその場に膝をついて項垂れてしまった。自分のことを勝手に書かれて落ち込んでいる、というよりは『僕……これが元で死ぬんだ……』と悲壮感の溢れる壮絶なものを感じる。え、そんなにぃ?
うぅむ、神父に悪いことしちゃったのかなぁ。神父の名前は書いてないし、一応特定個人がわかるようにはしなかったけど。ここまでひしひしと絶望を感じさせられると気の毒だ。
……むぅ、仕方ない。ここは俺が一肌脱ごう。
「……手紙を持ってる渡り鳥がまだ近くにいると思うから、すぐ返してもらってくる」
ここに来る前に渡したから……まだ渡り鳥はこの辺りを飛んでいるはずだ。ちょっと声を掛けて手紙を返してもらうか。で、もう少し推敲するかぁ。
「え!可能なんですか!?」
「任せとけって!キィも連れていく。余裕だ」
キィには俺の手紙に込めた魔力を探知してもらうことにする。常日頃から魔力を与えているキィにとって、俺の魔力はよく知っているものだ。当然どの渡り鳥が持っているか遠くからでもわかるはずだ。多分。
さらに周囲にいる鳥に聞き込みをしていき、探していけば………………………………自ずと目的の渡り鳥にも辿り着く。多分。恐らく。いけるかな?いけるといいなぁ。
「期待して待っててくれ。なぁに、子どもの頃からかくれんぼが得意エルフである俺にとって、目的の渡り鳥を見つけ出すなんてわけないさ」
キィをこの場に呼び出し、こういうことがあるから手伝ってと伝える。キィはどうやらお昼寝中だったようで、不機嫌に唸り声を上げている。悪かったって。
「レイさん……!」
俺は神父に寄り添い、熱い握手を交わす。キースには『俺の勇姿を見届けてくれ』と言い残し、アリアに預ける。時間は掛けない。すぐに終わらせてやるよ。
「神父さま?こういう時の自信満々なレイさんは……」
「……それは僕もわかってます。でも薄い可能性を信じるしかないじゃないですかぁ」
「まま、きぃがんばれ!」
主にキースの声援を受け、そしてキィの肉球による鋭いパンチを足に受けながら俺は颯爽と教会を後にするのであった。
「すまん……無理だった……あの渡り鳥めちゃくちゃ速い……」
「………………………………はい、でしょうね」
やっぱり鳥って素早いなぁ。鳥相手に追いかけっこは無理だな。
「はぁーーーーーー」
えー、はい。見るからに神父の元気がありません。椅子に座ってあからさまにものすごく落ち込んでいます。流石に俺が原因なのが一目瞭然、丸わかりだからお詫びをしたいなぁと思うわけで。
「アリア、キース。神父を慰めるための案が欲しい」
俺は恥を忍んで協力を頼むのであった。神父を慰める方法があまり思いつかない。だってこの状況でどう慰めろって言うのか。いや、あるにはある。あるけど、それはまぁ別口でってことで。
「あのねー!しんぷーはあそんであげるとたのしそうだよ!かたぐるましてあげるといいかも!あとねー!あたまなでてあげるのもいいよ!!すごいよろこんでたもん!」
まずはキースの案だ。はいはい!と両手を挙手をしている。ふむふむ、肩車と頭を撫でるか……いっちょやってみるかぁ!
さぁて初めは肩車からだな。俺が首を回し、肩を回し準備体操をし始めるとすぐさまアリアが止めに入った。
「冷静になってください。頭を撫でるならまだしも、肩車は不可能です。また前みたいなことになってもダメでしょう?」
「………………………………そうかも。じゃあ、頭だけ撫でてくるか」
暗い雰囲気に包まれた神父の元へ行く。うんうん。やはり落ち込んでいる。これは撫で甲斐があるってもんだ。
「神父ー?頭撫でてやるよ」
「あ、はい」
キースやアリアの頭を撫でることに特化した俺の手技を味わうがいい!ちょうど俯いているから撫でやすい。なでなで!
「どうだ!?」
「え……まぁ撫でられてるなーって思いましたけど……でも撫でるの上手いですね」
効果が薄い!しかも『何やってんの?』と思われてるような気がする!撤退だぁ!
「まま!どうだった!?しんぷーげんきでてた!?」
「………………………………そこそこだな!キースぅ、ありがとう!」
……期待を込めた目で俺を見るキースに対して、俺が言えるのはこれくらいだ。うん、多少は喜んでたと思う。きっと。
「はい!」
「はい、アリア早かった」
次はアリアが非常に元気よく挙手をした。あぁ、自分で言うのもなんだけどこれ挙手制なんだなぁ……
ごほんと咳ばらいをし、アリアが意見を出し始める。
「そもそも何故神父さまが落ち込んでいるか、そこをはっきりさせておきますね?まず神父さまは『レイさんが書いた手紙の内容があまりにも自分に都合が悪い』ことを嘆いています。聞く限り、手紙のどこをどう切り取っても誤解を招くのは必至な内容ですもの」
「まぁ……神父があそこまで落ち込むんだからそうなんだろうな」
ここで躓いていていては話が進まないので特に口を挟まない。が、俺としては神父に関しては、仲の良い友人ができたよーくらいのことしか書いていない。
「ですが、もう手紙は送っちゃいましたもんね。済んだことを振り返っても仕方ありません。この際、後に起こるであろう面倒事は置いておきます!なので神父さま自身が今!『まぁいっかぁ』と思えるようになれば良いわけです!」
おぉ!アリアが気合を入れて熱弁しているぞ!なんだかんだで神父が落ち込んでいるのは気になるらしい。元気づけたいと思うのは当然だ。神父は実質アリアの父親のようなものだし。
………………………………まぁ元気がない原因は俺にあるのだけど。でもなぁ、変なことは書いてないはずなんだよなぁ。
「率直に言ってこの件は謝ってもどうにもならないですし。慰めるというよりは、労わる方向性で攻めていきたいと思います。なので、肩揉みをしてあげるのはどうでしょうか?神父さま、最近肩凝りに悩まされているそうです」
「なるほど……!それ採用!早速やってくる!」
もう一度どんよりとした雰囲気を纏う神父のところまで行き、項垂れて見えない顔を下からずいっと見上げる。うお!いつも以上にげっそりした感じの顔だ。心労、ここに極まれり。
「神父ー?肩凝ってるんだって?肩揉んでやるよ」
「……レイさん慰めようとしてくれてます?別にいいんですよ、本当に。レイさんに悪気がないのはわかってはいますから……」
「まぁ、そう言わずにさぁ」
とりあえず神父の背中側に回り……回り……あ!神父の背が高いからか肩揉みするには手が届き難い!!困った!!肩揉みエルフの実力が発揮できないではないか!
待てよ。そうだ!
「………………………………神父。神父の部屋のベッドに行くぞ」
「は?」
神父の部屋は意外にも整理整頓されている。ただ必要最低限の物しか置いていない感はある。何というか、寝るだけの部屋のような雰囲気だ。つーか、ベッド大きいなぁ。やはり背が高いからこれくらいないと、満足に眠れないんだろう。
神父を自身のベッドに腰掛けさせ、俺はその後ろに立つ。そう、神父を座らせ、俺はベッドの上に立つことで背の関係を帳消しにしたわけだ。
「これなら神父の肩を揉めるな!」
「あぁ、背の高さが足りないから」
「ふっふっふ。まぁそんな戯言が言えないくらい気持ちよくさせてやるからなー?ふんっ!」
さぁやるぞ!そう思い、肩に置いた指に力を込めるのだが……硬い。クルミみたいに硬い。カッチカチだ。肩を解す前に俺の指が折れてしまいそう。
「ふんぬ!ふんぬ!えい!えい!!」
「レイさん、無理しなくてもいいですよぉ?」
ほんの少しだけ笑っている様子を見せている神父をよそに、上から体重を掛けながら押すのだがびくともしない。こんなに指も入らないような硬い肩で平気な顔して生きているのかよ……!とんでもねぇ奴だぜ、神父……!
しかし、俺も引き下がっていられない。ふむぅ……体勢が悪いのか?もっと体重を掛けられる体勢……
「神父ー、ベッドに寝てくれ」
「はいはい」
俺は一度ベッドから降りて、神父をうつ伏せで寝転がせる。んで、俺が神父の腰辺りに跨って座り込む。これでよし!おぉ、背中が広い。ぺしぺし叩いてみるとしっかりと硬い。これは凝ってますねぇ。
「え?レイさん?こういう感じでやるんですか?せめて背中を踏むとかじゃないんですか」
「背中を踏むぅ……?踏むのは危ない部分を踏むのが怖いし、こっちの方が細かいところ揉めるよ」
何より俺が足を滑らせてこけそう。神父の背中が広くてもな。
言いたいことがありそうな神父をまぁまぁと言葉で制す。全身の体重を掛けて押してみると、やはりやりやすさが違う。力の込めやすさも段違いだ。
「へっへっへ、お客さん!肩どころか全身凝ってますねぇ!」
「何ですかぁ、その口調は。あ、でも結構気持ちいい」
「だろぉ?俺、マッサージ得意なんだよ!ちょっと力が足りないから工夫がいるけどな」
肩揉みだけでなく、全身を隈なく解していく。腰を指圧し、肩の骨回りもぐりぐりと拳で押していくと神父もおぉとか言ってて気持ちよさそう。
俺もガーランジュにいた頃……まぁ小さい頃か。両親の背中をこうやってマッサージしたものだ。よく上手だと褒められていたのを思い出す。
「あぁ~効くぅ~!自分が思ってる以上に疲れてるもんなんですねぇ~。いやぁ、それにしてもこんな健全なマッサージは久し振りですよぉ。最近は不健全なものばかりで。あぁ、そこ、効きますぅ」
一番凝っている腰の辺りをぐぃいと指圧すると、神父がふにゃふにゃした言葉でそんなことをぽろっと口にする。んー?ちょっと引っ掛かる。
「健全?マッサージに健全も不健全も何もなくないか?身体の凝りや緊張を解してあげて、心身を癒す行為は健全でしかないと思うんだけど」
だが神父は健全なマッサージだけでなく、不健全なマッサージがあるような口ぶりだ。不健全なマッサージ?あれかな、身体の健康を害する可能性があるくらいめちゃくちゃに強くするのかな。身体を痛めるくらい強くするのって確かに不健全な気がする。
あ、それよりも神父の腕も凝ってる!カチカチだぁ!!左右で凝り方が違うのは利き手の関係かな。前腕辺りも指圧しておこう。えい!えい!
「………………………………そうですねぇ。うん、そうですよぉ。すみません、変なこと言って」
「?あ、でも神父がこれじゃあ物足りないんなら不健全?な方をやって」
「いいえ!!全く!全然必要ないんで!あとさっきの言葉は忘れてください!!言いふらさないようにお願いします!」
言い切る前に必死で制止された。まぁいっか。また気になったら誰かに聞くか調べてみるか。
そうしてしばらくの間、マッサージを続けていく。
「………………………………なぁ神父。悪かったよ。勝手に神父のこと手紙に書いちゃって。新しい友人ができたのをちゃんと報告したくて」
「……僕も怒ってるわけではないんです。別に見栄の張った嘘は書いてないようですし。ただ、よりにもよってそれか!となっただけです。レイさんは少しも悪くないんで」
「でもさぁ、神父が落ち込んでたの見たらそうは思えなくて。他にお詫びをしたいと思ってるんだ」
あんなにもずぅんと落ち込んでいる神父はなかなか見ないし。俺も友人に嫌われたくないし。
「お詫びですかぁ……じゃあ、僕の質問に一つだけ正直に答えてくれませんか?」
少しだけ考えてから、神父はそんな何でもない簡単なことを提案してきた。そんなことでいいのか?と思うが、それでいいのだろう。
「おう!何でもいいぞ!」
俺はマッサージの手を止め、背中に乗ったまま自信満々に質問を待つ。だが、神父が俺に聞きたい質問なんて一体何だろう。そっちの方がわくわくする。
神父は若干躊躇いながらも質問を口にした。
「………………………………レイさんは……何歳なんですか?」
えー?拍子抜け。
「へ。そんなのでいいのか?前にも言ったけど少なくとも神父よりは歳上だな」
前にも言ったような気がするんだけどなぁ。俺は首を傾げるが、神父は納得していない様子だ。少しだけため息をつく神父は『そうではない』と態度で示している。ただ積み上げた年齢に関しては間違いなく俺の方が上だ。
「……言い方を変えましょうか。『重ねた年齢』は僕より上でも、種族によってその辺りの実年齢は違いますよね?長命種ならなおさら。長命種から見れば、要はそれって人間換算なら……一体何歳になるんですか?」
………………………………そっち。そっちかぁ。うぅーん。どうしようかなぁ。
「……二十くらい」
「本当は?正直にお願いします」
ぐぐぐ!盛ったのがバレてるな。神父の勘が鋭い!それとも今までの過ごしてきた中で、何か疑問に思ったことがあったのか。
……俺も観念するしかないかぁ。
「………………………………他の誰にも言わない?アリアにも言わない?」
「言いませんから。何となく察しが付いてるうえで、聞きたいだけです。それで対応を変えたりなんかしません」
「………………………………………………………………えっとな、多分十一か十二くらい?」
多分、人間換算にするとそれくらいになる。
「………………………………僕が想像していたものよりヤバいじゃないですか。それで自分は大人とか言ってたんです……?」
「でも……でもさぁ!積み上げた年齢は人間なら大人なんだよ?じゃあ大人でいいじゃん……!」
それなら子どもではないし……大人だし……言わなきゃバレないし……
「……その辺りの判断は本人次第だと思うことにします。どうしても嫌なら聞かなかったことにもします。それにレイさんが自分で生計を立てているのも事実です。だけど……一度親御さんに顔を見せてあげるのが良いとも思うのが、僕の個人的な考えです。やっぱり心配しますよそれは」
そういうもんかなぁ?でも……
「まぁいいじゃん!それは!はい!マッサージも終わり!」
話はこれで終わりだとぺしぺしと頭を叩いておく。そして神父の背中から降り、足早に部屋を出ることにした。あ、そうだ。これだけは言っておこう。部屋の扉の前で最後にくるっと回って神父を見る。神父は既に起き上がり、肩を回しながらベッドに腰掛けるようにしている。
「絶対!年齢の件は他の人に言わないでね!!あと俺からの最後のお詫びとして、娼館の代金一回分はこっちが出すようにするから!娼館にはこっちに請求してくれるように言ってくれ!なんか……おぷしょん?も付けていいからな!」
「やったぁ!!!いいんですか!?」
「男に二言はない!!!」
俺はそう言ってぐっと親指を立て、部屋を出ていくのであった……神父もこれで『まぁいっかぁ』となってくれることを祈ろう。有耶無耶になれ!
後日、なんかものすごい金額を娼館から請求されたがまた別の話だ。おぷしょん付けるとそんなに高いんだぁ。勉強になった!