TSエルフ、赤ん坊を拾う   作:面相ゆつ

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わくわくしてきたな!

 

 「じゃあ神父!お土産楽しみにしてろよ!」 

 

 「はいはい。皆さん気を付けて行ってくださいね。僕は僕で上手いことやっておくので」

 

 サキからカルグリゾートの特別招待券をもらってから数日後、日程調整を経ていよいよ出発する日となった。まぁ数日の間で別に準備する物とかはなかったけど。俺に関しては最悪向こうで調達すればいいし。

 やったことといえば、薬の個人依頼を手早く終わらせたのと、キースが初めての旅行を楽しむための準備くらいだな。

 

 

 教会の近くで待ち合わせをしていたからか既に全員勢揃いだ。後はもう町を出てカルグリゾートに向かうだけ。最低限の荷物を持って準備万端である。ただ朝早くのせいかキースは少しだけ眠たそうにしていて、猫状態のキィも同様にあくびを噛み殺している。

 

 眠そうなキィには申し訳ないが、これから移動で頑張ってもらう予定だ。キィを抱き上げ、首元をカリカリと掻くように撫で『頼むぞー』と改めてお願いをする。

 

 気持ちいいか?ここが気持ちいいのか?ふにゃふにゃと謎の声を出すキィの触り心地がとんでもねぇ。匂いも嗅いでおこう。おお……やはり癖になる。入浴時に人型になったキィの匂いも嗅いだが、あれもいいものだったなぁ。獣耳辺りが一番気合の入る匂いがする。

 

 ………………………………効くぅ。

 

 「おや?アリア、見てくださいよ。唐突にキィの匂いを嗅ぎ始めたレイさんの幸せそうな顔を。これ、一般的に人前に出しちゃダメですねぇ」

 

 「そう思ってるなら止めてください!……って本当だ……これは……!レイさん!レイさんってば!悪い人が見たら邪な考えを持つような顔しちゃってますよ!人前に出しちゃダメな表情です!」

 

 ………………………………人前に出しちゃダメな表情とは?その言葉とキィの猫パンチで正気を取り戻した俺は、いつの間にか流れていた涙と涎を拭き、荒くなっていた息を整える。危なかった。往来でやるものじゃなかったか。

 

 

 

 さて出発!となるわけだが……

 

 普段のシスター服ではない楽な服装に身を包んだアリアが俺を見てしきりに首を傾げている。どうしたのだろう。俺もアリアと同じように首を傾げる。双方が首を傾げ合う何とも不思議な光景だろう。

 

 「あ、いえ……じろじろ眺めてしまってすみません。レイさんの見慣れた格好だなぁと思ったので」

 

 「まぁ楽な格好の方が色々便利だろうしな。普段通りだよ」

 

 俺は機能性重視のいつも通りの格好である。特に問題はないはずだ。

 

 「レイさんはそうですよね。ですが……あれぇ?見慣れ過ぎていて、何かを見落としているような気が……?」

 

 アリア自身もわかっていないようだ。うぅむ。しかし、いつも通りだもんなぁ。まぁいっかぁ!問題があればその時わかるだろうし。

 

 

 「とりあえず……そろそろ行くか?」  

 

 「カルグリゾートまでの移動手段はレイさんが確保すると言っていましたが……やはり馬車ですかね。でもこんな朝早くに町の外へ向かう馬車なんてありましたっけ?」

 

 神父が当然の疑問を口にする。だが甘いなぁ。森の熊がくれる蜂蜜並みに甘い。

 

 「残念!今回の移動手段は……キィだ。見てな」

 

 抱き上げているキィを皆の前にこれ見よがしに差し出す。多分ここにいる俺とキィ以外の全員が『??』となっている。

 そもそもカルグリゾートまではそこそこの距離がある。遠方への移動には馬車を始めとした陸上移動が主であり、町毎にそれを乗り継いで行くのがこの国では一般的だ。一応他にも移動手段はあるけど……まぁ用意も容易くはないってことだな。

 

 ぶっちゃけ色々な要素を含めると、普通に行けば結構な時間がかかってしまうと判断した。それって何だか時間がもったいない。そこで登場するのがキィである。

 

 キィを地面に降ろし、目線で合図をする。事前にお願いをしているから準備は必要ない。

 

 「キィ。大きくなってくれ」

 

 キィは『了解』の意味を込めてにゃっと鳴き、人型になる時と同じようにぽんと音を立てて姿が変化した。

 そこに現れたのは人が軽く五人は乗っけても平気な大きさになったキィである。これでよし!!自信あり気にゴロゴロと喉を鳴らす様子には頼りがいがあるなぁ!

 

 キィの初めての形態を見たアリアと神父はというと……非常に困惑している。急にでかくなったキィに怖がっているとかではなく、ただただ困惑している。

 

 「えぇ……人になったり大きくなったり。こんなの何でもありじゃないですか。レイさんといると私の常識って儚く感じちゃいます」

 

 「使い魔ってそういうもんだよ。はい!乗った乗った!」 

 

 乗りやすいように屈んでくれたキィの背中に皆を乗せ、最後に俺が乗る。立ち上がったキィの背中で見る世界は絶景だ。

 そしてこれから俺がやることは………………………………皆が振り落とされないように魔法で色々な制御をし、キィが全力で駆け抜けるための魔力を全身全霊で供給し続けるだけだな。

 

 「アリアはキースが不安にならないように抱っこしてあげてくれ。俺は今からちょっと集中するから」

 

 「任せてください。おいでキース。眠たい?寝てても大丈夫だよ」

 

 アリアの適応力が高くて助かる。うとうとしているキースをアリアが抱っこしてくれた。うん。これで安心だな。気合を入れるためにローブも脱いでおく。カバンの中にしまっておいて……これでよし!!

 

 「んじゃ神父!行ってくる!!」

 

 「あ、はい。いってらっしゃい」

 

 まずはシャボン玉の魔法でキィの背中にいる者を吸着固定して、風除けの魔法も同様に……後は状況に応じてだな。

 

 というわけで……出発だぁ!!キィは目にも止まらぬ速さでその場を駆け、風を切った音だけを残していった。

 

 「………………………………はっやぁ。今度乗せてもらいましょうかねぇ」

 

 

 

 

 地面を駆け抜け、障害物も難なく飛び越えて、景色は高速で流れていく。周囲からは黒い塊が目まぐるしく変わる状況に対応するために十数種類もの魔法を展開し、キィが思う存分力いっぱい走るための魔力を絶えずあげて………………………………これ、普通に行った方がよかったかも……!!!めちゃくちゃ疲れる!!

 

 

 

 

 ………………………………全速力で走り続けていたキィが少しずつスピードを緩めてから停止をした。シャボン玉に入っていた俺たちはゆっくりとキィによって降ろされ、三度その場で跳ねていく。そのまま人型へと変化したキィは猫のような伸びをする。

 

 「うーん!到着!ひっさびさに思い切り駆けるのって楽しい!ほら!三人とも見て!大きな湖!」

 

 ぶ、無事に辿り着いた……途中崖に目掛けて突っ込んでいった時は焦ったが、そこはキィのやんちゃ心である。問題なく飛び越えていった。

 

 気持ち良く走ることができたのかキィは満足気だ。よかったね。ただ背中に乗っていた者たちは死屍累々である。シャボン玉から出てきたアリアはふらふらしていて、同じくキースも目を回している。短時間での高速移動は人の身には余る行いだったらしい。 

 

 「つ……着いた……?生きてます?私たち生きてますよね?」

 

 「あれ?まま?まま?ねぇ、ありあおねえちゃん。ままがしろめになってぐったりしてる……」

  

 そして俺はというと……地面に仰向けになって完全に燃え尽きていた。魔力自体は依然十分残っているのだが……何だろう、精神力?そういったものが削れた気がする。周囲に気を配りつつ、違う種類の魔法をこんなにも同時に使用したのは初めてだったのだ。しかもキィに魔力をあげながらだ。

 

 うん……すごい疲れた……一歩も動けないや。

 

 「え!嘘!レイさん!?大丈夫ですか!?返事をしてください!」

 

 「………………………………………………………………リゾートに来たのに、入る前から満身創痍になってちゃ世話ないよな……へへっ、その分癒されろってことかぁ……?カルグリゾートよ、ここまで俺を弄んでくれるとはな。楽しませてくれるぜ。その心意気、見事……それとできれば負ぶっていって……」 

 

 俺は返事代わりにつらつらとそれだけ言うと、そのままがくりと意識を手放したのであった。後は……頼んだ。

 

 「まま、ねちゃった」

 

 「……心配しましたけど、普通に余裕ありそうですね」

 

 「あー私が負ぶってくんで。アリアちゃんとキースは気にしないでいいよ。それにしても何言ってんだろうねこの人」

 

 

 

 

 ………………………………むぅ?なんかすげぇふかふかなところで眠ってる?目を開けると清潔感溢れる白い天井が俺を出迎えてくれた。なるほどね。超速理解。ここはきっと俺たちが泊まる部屋だな。うっわ!なんだこのベッドひっろぉ……

 

 のろのろとベッドから起き上がり、肩や首を軽く回してみるが特に問題ない。まぁ単に疲れて倒れてただけだもん。

  

 「あー!ままがおきたー!おはよー!」

 

 俺が起きたのに気が付いたキースが勢い良く突進してくる。ぐぇっ!そしてキースの頭が鳩尾に見事に突き刺さる。つ、強い。

 だがここで苦悶の表情をしてしまうのはキースに悪い。何食わぬ顔で『痛くないけど?むしろ健康になるけど?』とやせ我慢をしておこう。

 

 「キースおはよう。あれ?アリアは?」

  

 「ありあおねえちゃんはね、ちょっとかりてくるものがあるって!」 

 

 「ふぅん、そっかぁ。キース、教えてくれてありがとう。でも何を借りてくるつもりなんだろうな?」

 

 「ままのだよ!」

 

 俺の?何を?とりあえずアリアが帰ってから聞いてみるか……そこまで時間はかからないだろうし。

 

 「みてみて!ここすっごいひろい!いえよりごうかだよ!」

 

 興奮冷めやらないキースがぐいぐいと手を引っ張って部屋を案内してくれる。俺に説明したくてたまらなかったのかな?可愛い。

 

 キースに手を引かれながら部屋をぐるりと見渡すと最初の印象通り確かに広い!俺たちが住んでいる家の何倍だ?多少走り回っても全く支障がないくらいには広いなぁ。しかも室内には扉がいくつもあり、ここ以外にも部屋があるようだ。まぁ洗面室とかかな?

 

 「かがみおっきいよねぇ」

 

 「大きいなぁ」

 

 置いている調度品や家具もうちにあるのよりも大きくそして豪奢だ。備え付けのドレッサーの鏡だけとっても、俺とキースが二人映ってもまだ余りある。ソファだって何人掛けだよこれ。

 あ、よく見るとキィが心底気持ち良さそうな状態でソファで丸くなってる。獣耳がぴくぴくと揺れてすげぇリラックスしてる。撫でておこう。

 

 「むぅ?この手練れの撫で方は……!ご主人起きたんですかぁ」

 

 「キィもくつろげてる?」

 

 「もちろんです。今のところ最高に休めてますよ」

 

 ソファに寝転がっているキィは液体のようにふにゃふにゃだ。見るからに全身全霊で休めている。キースもそれを見て羨ましくなったのか、ソファにダイブしてキィとじゃれ合い始める。キースとキィの愛らしい空間がそこに誕生してしまった。あーあ、とんでもねぇ空間だよ。神に感謝しておくか。

 

 「……ご主人もくつろいでくださいね。アリアちゃんが戻ってきたら多分大変ですから」

 

 「?」

 

 「まぁ戻ってきてからですよ。はい、とりあえずここのガイドブックでも読んでみるといいです」

 

 ……なんか含みがあるなぁ。あれかな。皆が揃ってから遊びに行くからかな?それはそうとキィに促される形で、部屋に備え付けてあるガイドブックを読んでみる。ふむふむ……

 

 カルグリゾートの館内には当然リラックスできる場所もあってゆっくり休むこともできる。だがやはり大きな見所は目の前に広がるカルグ湖周辺での自然体験だそうだ。泳いだり、釣りをしたり、小舟に乗ったり。

 まぁそうだろうな。せっかく大きくて綺麗な湖があるのに使わなかったらただの風景だもんな。あと近くには整備された森もあるので散歩するのもいいかもしれない。

 

 他には……この国有数の温泉があるらしい。部屋にも備え付けの大きな風呂はあるのだが、それはそれ。何なら他国からも温泉目当てに来る観光客もいるとのことだ。温泉って、そんなにすごいのか?ちょっと気になる。ふむふむ。ふむぅ。効能……湖を眺めながらの露天風呂……へぇ!なんか面白そう!特に薬草湯ってのがいいね!

 

 

 そうやって楽しみながらも真剣にガイドブックを読み込んでいると入り口の扉が開く。きっとアリアだな! 

 

 「戻りました」

 

 「おぉ!アリアおかえりー!なぁなぁ!ここってなんか楽しそうな……」

 

 振り返ろうとガシッと有無を言わせずに右肩を掴まれる。なになに?

 

 「今日、出かける前からレイさんを眺めていて思ってたんです。『何か忘れてるような……?』って」

 

 「そんな感じのこと言ってたなぁ」

 

 何か見落としていることがあるようなと言ってたっけな。

 

 「……レイさんが背負われて館内を移動していた時です。男女問わず道行く方々がレイさんを見てるんですよ。じぃっと見る方もいれば、すぐに目を逸らす方も。その誰もが照れ臭そうにしているっていうか……それで気づきました」

 

 「うん」

 

 ふとアリアが手に持っている借りてきたのであろうものを見た。服一式だ。

 

 「………………………………最近は私たちも見慣れてしまっていたから何も思わなかったんですけどね?やっぱりレイさんの『それ』は際どいです。周りの反応で再認識しました」

 

 アリアが指さすのは俺が『いつも通り』ペンダントから編み込んだ衣類だ……そういやキィに乗ってくる時、気合を入れるためにローブ脱いでたなぁ。 

 まぁ……うん。際どいって前から言われてたもんな。近頃はそんなことも忘れかけていた。慣れって怖いなぁ。

 

 「でもよかったです!ちょうどこのカルグリゾートでは用途に応じた衣類を借りることができるんです!ほら!しっかりとレイさんに似合うもの持ってきましたよ!」

 

 「はい!アリアさん!!ローブを上から着るなら今のままでも大丈夫では!!」

 

 一応抵抗しておく。

 

 「改めて言います。町では皆さんも見慣れて受け入れてくれていますけど、レイさんのローブも別の方向性でダメ寄りです」

 

 アリアに屈託のない素晴らしい笑顔で言われてしまうと俺も何も言えない。諦める、というよりこんなので駄々こねるのもなぁ。大人の余裕、見せておくか。ま、いつもアリアに着せ替えさせられているしな! 

 

 「……着替えるかぁ。アリア、どんな服を借りてきたんだ?」

 

 

 

 

 ………………………………アリアが持ってきた服は、それはもうどこぞのお嬢様が着るようなものであった。白いブラウスに黒みがかった青いロングスカート、それとどこに隠していたのか、ご丁寧につばの広い帽子まで添えて。せめてどこぞのお坊ちゃんが着るようなカッコイイ服にしてくれない?と言えない俺は弱いエルフである。

 

 

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