TSエルフ、赤ん坊を拾う   作:面相ゆつ

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水着を着るとなんか開放感あるなぁ

 

 一グループに一つ貸し与えられる更衣室は思いの外広く、その中には更に着替えるためにいくつかのカーテンで区切りがある。同じグループでの更衣室といえど、俺たちみたいに男女でのグループも数多いからなぁ。そういった部分での配慮だろう。

 

 俺はキースの着替えを手伝うために同じ区切りで、アリアとキィは別の区切りで着替えをする。キースを先に着替えさせてあげてから俺は後だ。俺自身が水着に着替えるのに手間取りそうだもん……

 

 

 まぁ実際のところ、キースが水着に着替えるのに俺が手伝うことはあまりなかった。何故ならキースは一人でお着換えができるから!

 キースの水着は上は半袖型、下は少しぴっちりとしている青色を基調としたものである。しかも!なんと!キースの大好きなウサギの刺繡付きだぁ!何でもあるじゃねぇかここぉ!!

 

 「にあうー?」

 

 嬉しそうにくるくるとその場で回り、普段見ることはない水着姿をキースが見せてくれている。

 ………………………………感涙。目を閉じ、一粒涙が零れる。似合っている……!水着が似合っている……!とりあえず神には感謝しておこうか。ありがとう!

 

 「うーん!最高!似合い過ぎてどこの王子様かと思ったぞ?きっとこの湖にいる皆の注目の的だ」

 

 わしゃわしゃとキースの髪を撫で、抑え気味に賛辞を贈る。抑え気味にしないと埒が明かないのは確実だからな……自重というやつだ。

 

 「わーい!ままありがとー!ありあおねえちゃんときぃにもみてもらうー!」

 

 そう言って楽し気に飛び出していくキースを止めることはできない。恐らくそのままアリアかキィのところに突撃していくはずだ。やはり初めての水着は未知のものなのだろう。誰かに見てもらいたくてたまらない様子である。

 

 「あっ!もう……キースは元気いっぱいだなぁ」

 

 そんなキースを見送り、俺も水着に着替えることにする。さぁて……まずは全部脱ぐか……

 

 

 

 

 「んー?これどうやって……ごめん、アリア。ちょっと入ってきてくれる?」

 

 で、案の定こうだ。着方がわっかんない!この紐を背中にこう?いやでも、これじゃあ胸が零れそうだし……?うぅむ。

 

 カーテンの隙間から控えめに顔を出し、既に着替え終わっているアリアに助けを求める。豪快にカーテンを解き放っても構わないだろうが、それはそれで怒られる気がする。だって今は上は何も着けていなくて、下を穿いているだけの状態だし。

 

 そこら辺の怒られるであろう絶妙な匙加減を見極められてしまう……何という優秀エルフなのだ俺は……!

 

 「そうくると思っていました。だから私も一緒に入って着替えましょうって言ったのに」

 

 「いいや!男たるもの、一度は自分の力で挑戦したいものなんだ。それが成功か失敗かは別としてな。そして失敗すらも次への糧になる。そうだろう?」 

 

 「はいはい、そうですね」

 

 俺の熱い言葉は半笑いで流されながらではあるが、カーテンの中へとアリアが入ってきてくれた。助かるぜ。俺は恥など何もない堂々とした態度の下、アリアに上部分の水着を渡す。

 

 …………改めて眺めるとアリアって背が高くてスタイルが良いなぁ。俺もアリアくらいとは言わないからもっと背が欲しい。

 

 「にしても……アリアが選んでくれた水着、だいぶ可愛らしいよな。あぁ違うぞ?嫌ってわけではないんだけどな」

 

 そう。俺の水着はアリアに選んでもらったわけだが、なんつーか……可愛い。俺はそもそも男だけど流石にこの身体で男性用の水着を着ることは不可能だ。普通に捕まる。だからまぁ当たり前のように女性用の水着だ。女性用の何かを着るのは大体慣れてるからいいけど。

 

 アリアが選んでくれたのは上下に分かれたタイプの水着だ。正式名称はよく知らないが、周囲の人が着ているような一般的な水着だと思う。なんかインナーっぽいやつ。

 

 ただ……俺があまり選ばない色というかデザインというか。まず色が真っ白だ。しかも上下のどちらにもフリルがあしらわれている。上部分の胸元には大きめのフリル、下部分の腰回りには小さいフリル……なんか少女が着るような感じ。生地がしっかりしているのだから別に問題はないがな。

 

 アリアの水着も同じようなデザインだが、細部や色が若干違う。向こうは黒で大人っぽい気がする。いいなぁ!

 

 

 アリアは俺の着せ替えをしている時のようにいつも通り、穏やかな笑みでてきぱきと手を動かす。多分アリアもリラックスしているのだろうな。

 

 「レイさんの魅力を押し出すにはこれが一番だと思ったので。何より私が見たいというのもあります。あ、この部分は首の前で交差させてからです」

 

 「前で交差させる……おぉ!なるほどね。これで首の傷跡も隠せるってわけだ」

 

 普段はペンダントで隠している傷跡もこれなら見えないな。いいじゃんいいじゃん!俺が感心しながらそう言うと一瞬だけアリアが悲しそうな顔をしたのは少し気になる。まぁ一瞬だし見間違いかもしれないので言及はしない。

 

 「最後に首の後ろでこうしてっと……はい!これで大丈夫ですよ?」

 

 「ふむふむ。胸がきついけどこんなものなのかな?」

 

 「きつい……?えぇ……?だってこの間また測って……どれだけ……いえ、もう何も言いません。もう少し大きいものを借りてきますね」

 

 アリアに頼りっぱなしだなぁ…………これでは大人の威厳が…………うぐぐ。

 

 

 

 そうして恥ずかしながらちょうどいいサイズの水着をアリアに持ってきてもらい事なきを得た。あと『泳ぐなら髪をまとめましょう』とのことで、髪も編み込んでもらってしまった。

 おいおい。本当に何もかもアリアに頼りっぱなしじゃねぇか!ちくしょう!これは由々しき事態だぞ!

 

 

 

 「ご主人にアリアちゃん!やっと来た!湖が待ってるんですよ!」

 

 俺がようやく水着に着替え、アリアと二人で更衣室の外に出ていくとキィが開口一番そんなことを言い始めた。キィは泳ぎやすそうな上下一体型の紺色の水着を着ており、本気で遊ぼうという心意気を見せつけてくる。

 

 その証拠に両手いっぱいに遊び道具を抱え、脇にはパラソルを挟み、麦わら帽子まで借りてきている。隣にいるキースも水辺で遊ぶためのボールを真剣な面持ちで持ち、遊べるのを今か今かと待っているようだ。所謂臨戦態勢である。

 

 「別に俺を待たなくてもよかったんだぞ?律儀だなぁ」

 

 どうせ後で合流するつもりだったし。俺が率直な意見を伝えると、キィは肩を大袈裟に落として『やれやれ。これだから素人は』と言わんばかりの呆れ顔を浮かべる。黒猫の状態よりも人型の方が何とも表情豊かなことだ。喜ばしいな。

 

 「はぁ~。全然わかってないですねご主人。せっかく来たんですから初めは皆で一緒に、ですよ!」

 

 「そうだそうだー」

 

 「ほら、キースもこう言ってます。というわけで号令お願いします」

 

 そういうもんか?俺が知らないだけでそういうもんらしいな。え、というか号令って何だよ。期待を込めた目で俺を射抜くキースとキィ。アリアは『任せましたよー』と微笑んでくる。

 

 「えぇっと。じゃあ皆、楽しむぞー?これで大丈夫か?」

 

 「…………いいでしょう。いくぞー!」

 

 ………………………………なんか始まった。まぁいっかぁ!いくぞー!とりあえず俺たちは美しい湖に向かって走り出した。楽しむぜ!

 

 

 急に湖に向かって四人組が走り出したせいか、周囲の視線が俺たちに集中している!しょうがねぇ!周囲に見せつけてやろうぜ!

 

 

 

 

 空には雲一つなく、日の光は湖全体を美しく照らす。つまりは行楽日和である。ここで思い切り遊んでくださいと自然が訴えかけているようだ。

 

 だが焦らない。まずは日除け用のパラソルを地面に刺し、自分たちの領地的なものを確保する。ついでにシートも敷いてばっちりだ。こういった休める場所を準備しておくのがいいんだろう。多分。

 

 皆には『俺が色々やっとくから先に遊んでて』と伝えておいた。ここは恐らく年長者の俺が率先して…………あれ?キィっていくつだ?意外と年齢重ねてたり?

 …………まぁいいや!年長者の俺が!準備しておくのがいいだろう。ここで大人ポイントを稼いでおく。大人ポイントを稼いでおけば俺の気分が上がるのでね。

 

 

 そうやって汗をかき、跪きながらせっせと準備をしていると、ふと頭上を影が差す。ん?誰か戻ってきたのかな?

 

 「君、一人?ちょっといい?」

 

 「……?」 

 

 全くもって聞き覚えのない声に不思議に思いつつ見上げると、やはり見覚えのない水着の少年がそこに立っていた。年の頃は十代の前半くらいかな。うーん。迷子?親とはぐれちゃったのか?

 

 「迷子?」

 

 「え。違うけど……何してるのかなぁって」

 

 少年は俺の発言に困惑しながらも否定してくる。迷子じゃないのか……じゃあ何だろう?まぁ質問には答えておくかな。

 俺は話しやすいように足を崩して座り直し、こほんと咳ばらいをする。そして俺は敷いたシートの上をポンポンと叩き、意図に気づいたのか少年もそれに合わせて隣に座ってくる。意外にも素直だな。この年頃の子はもっと反抗的な気がしたけど。なんか嬉しそうだし。

 

 

 「少年、良い質問だな。俺は今、大人としてやるべきことをやっているんだよ。こうしてパラソルで日除けをし、シートを敷いて皆が休める場所を作る。有意義だろう?」

 

 「有意義といえば有意義だけど、かなりつまんなくない?せっかくカルグリゾートの湖まで来てるんだから先に遊んじゃえばいいのに。それに時間を取られる方がもったいないじゃん」

 

 当然の疑問だな。だが甘いなぁ。どうやらまだまだ少年は少年だな。ちょっと大人ぶってやろ!

 ずいずいともっと少年に近づき、少しだけ下から顔を見上げる。やはり少年といえど俺よりは背が高いな。羨ましい限りである。

 

 「甘いぞ少年。面倒くさくてつまらない準備をさっさとやっておけば後が楽しいことだけなんだ。これは大人の助言だから心に留めておくといいぞ。いつか役に立つはずさ」

 

 俺は少年に笑いかけながら答える。フフン!少年相手に大人としての威厳を出し過ぎてしまったかな。でも?まぁ?大人の男としての先輩として、教え導くこともやぶさかではない。

 

 「………………………………」

 

 その証拠に少年は何も言わずに俺の顔を見つめるだけだ。もしかして戸惑っているのか、目線は顔を見たりその下を見たりと行ったり来たり。

 

 あぁそうか!俺の言動から醸し出される大人のカッコ良さが少年を包み込んでしまったか?おいおい。積み重ねた年齢がこういった形で出てしまうのは不本意!だがたまにはいいかも!先生みたいな感じでね。

 

 まぁ、俺としてはもう少し反応が欲しいところだな。少年からの反応を待っていても、口をあわあわさせるだけだし。なんだぁ?

 

 「少年?大丈夫か?」

 

 …………むむ!よく観察してみると少年の頬が薄紅色なことに気が付いた。そっと少年の頬に触れてみるとやはり熱い。つーか触れたそばからどんどん熱くなってる。んー?あぁ、なるほど。高速で理解した。

 

 俺の配慮が足りなかったようだな。少年の座っている場所……そこはパラソルの影から絶妙に離れてしまっている、もろに日の光が当たる場所だ。しかも今日はなかなか暑いうえに、若干の照り返しもある。

 そりゃあ短時間で体温が高まってボーっとしてしまう。少年の反応が薄く微妙に挙動不審なことにも納得だ。

 

 何たる失態!これでは大人としての責務を全うできていないではないか!こんな状態にしてしまうとは少年の保護者に対して申し訳がつかん!

 

 「少年。めちゃくちゃ顔が熱くなってるぞ。すまない。そこは暑かったよな。少しパラソルの陰に入って横になりな」

 

 とりあえずはパラソルの陰になるところに入るように促す。あ、でもシートの上といっても横になるなら地面が凸凹していて頭を置きにくいか。うぅむ。頭の下に置けるような柔らかいもの…………ないかな…………きょろきょろと辺りを見渡して探す。が、ない。

 

 うーん…………あ!あるじゃんか!身近なものがよぉ!

 

 「へ、平気だから!」

 

 「平気なもんか。そんなに赤くしといてよぉ。少し休みなって。心配するな。ほら、ここなら少しは柔らかいから頭を置いても痛くないぞ!」

 

 俺は己の太もも辺りを指差し、ここに頭を置くように少年に向かって言う。

 

 「キースにもよくしてあげているから寝心地はいいはずだ。遠慮しなくてもいいぞ!!」

 

 膝枕はキースやアリアにもよくやってあげている。キースも気持ちよさそうにしているし、アリアも『これは…………いいですね』と評判である。膝枕屋さんとして商売を始めるのもいいかもしれない。薬師と膝枕屋さんの二枚看板でいくか。

 

 「えっと。じゃあお言葉に甘えて?…………いいのかなこれって…………」

 

 観念したのか少年は恐る恐る俺の膝枕へと吸い込まれていく。遠慮がちにぽすんとゆっくりと膝の先に頭を置くが、そこそんなに柔らかくないし落ちちゃうだろ。

 

 「もっと内側に置く方が良いと思うぞ?柔らかさ的にも」

 

 「初対面の関係値で流石にそれはまずいような……もっとこう仲を深めてから……」

 

 「んー?よくわからんが、俺が移動してやろう」 

 

 無理をしてもう少しだけ内側に寄せる。少年は面白いように身を固くしてしまったが、こっちの方が頭を置きやすいだろうし。

 

 

 そうして少しだけ無言で膝枕をし続ける。初めはがちがちに緊張していた少年だが、落ち着いてきた感じがする。先程は日に当てられてしまっていてふらふらだったのだろう。

 

 「……………………そういえばさっき言ってたキースっていうのは?」

 

 落ち着いてきて、多少は話す気力が湧いてきたのか少年がキースについての質問を投げ掛けてきた。お、気になっちゃうかぁ。

 

 外側を向いてしまっている少年がこちらを見上げようとして止まる。胸に顔が当たりそうだからか。別に子ども相手に怒りはしないのにな。

 少年を見下ろ……せないな胸の位置的に。まぁいいか。多少話せるくらいには元気になってるようだしな。

 

 「キースは俺の子どもだ!可愛いんだぞ!」

 

 俺は自信満々に宣言する。キースの可愛さは全ての人々が知るべきことである。これだけは見知らぬ人であっても知っておいて欲しい事実だ。

 

 「あぁ、なるほど子ども…………え、子ども?子ども!?子どもって?」

 

 「ままー!」

 

 少年が急に狼狽え始めたことに疑問を覚えつつ、噂をすればそのキースの登場だ。元気いっぱいである。

 

 

 「ままー!なにしてるのー?あれー?そのおにいちゃんだれー?」 

 

 「おぉ!キース!詳細は省くが、少年に膝枕をしてあげてるんだよ。少年、この子が俺の子どものキースだ。可愛いだろ?」

 

 どうやらあまりにも俺が来るのが遅かったせいか、キースとアリアが様子を見に来たようだ。キースは無邪気に少年の顔を覗き込んでいる。その後ろでアリアは『あー……』と呆れた表情である。

 

 そして少年はキースを見てあまりの可愛さに驚愕しているのか硬直してしまっている。

 

 「…………………………………………ちょっと混乱してきたんで頭冷やしてくる……」

 

 少年は最初の頃よりももっとふらふらになりながらも立ち上がる。なんか悪化してないか。さっきまでは元気になっていたのに。そしてゆっくりと向こうの方へと歩いていく。どこへ行くんだろう……

 

 「え。少年、大丈夫か?」

 

 俺は心配になり立ち上がって少年に駆け寄ろうとするが、アリアにやんわりと肩に手を置かれて静止された。

 

 「レイさん!あのままにしておいてあげてください!あの子は今、特大の情報の処理が間に合ってないんです」 

 

 「ど、どういうこと?」

 

 「レイさんは……知らなくてもいいことです」

 

 アリアは憐みの目をして少年の後姿を見送っていく。いやそこは教えといてくれよ!

 

 「ただ言えるのは…………あの子もかわいそうですね。幼気な情緒が破壊されてしまったかもしれませんから」

 

 もっとわからん!!

 

 

 

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