TSエルフ、赤ん坊を拾う   作:面相ゆつ

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魔法を遊び道具にしようぜ

 

 「お薬~♪作る~♪なんだこれ臭くてぬめぬめだ~♪気持ち悪い~♪」

 

 即興で考えた自分でもよくわからない歌を口ずさみ、カチャカチャと小鍋を気分良くかき混ぜる。鍋の中身はほんのりと緑がかった真っ黒でぬめぬめした半固形物だ。混ぜるたびに少しずつとろとろになっていくが、まだまだこれからだ。料理を作っているわけではない。薬を調合しているのだ。

 

 加熱後に冷やしたスライムの青い体液、森の奥の奥の奥で摘んできた赤黒い五角形のシャコウの花びらをすり潰した粉、友好的な森の熊に分けてもらった新鮮な蜂蜜と蜂の子………あとその他諸々。それらを調合専用に使っている鍋にぶち込み、火にかけて数分間混ぜる。そうすると出来上がるのが手足の冷え性が緩和する俺特製の飲み薬だ。

 うん!すっげぇくっさい!色味も悪い!甘いやら苦いやら混ざった複雑な味!でもこれが一番効くんだよなぁ……!

 

 俺は薬を店に卸すだけではなく、個別に依頼を受けて薬を調合している。手間はかかるが、やはり個人の症状に合わせた薬の方が効果はあるわけで。それに冷え性などの『困ってはいるけど効果があるのってなかなかないなぁ……』という症状や『店には売っていないけど特別に作って欲しい!』という要望には個人依頼なら対応しやすい。店売りの物と比べるとその分値段は高くなるがな。

 

 だって超優秀完璧エルフであるこの俺が作った薬だ。ま、それも技術料とか手間賃ってことでね。精々受け入れてくれやというわけだ。金はいくらあっても良いのだよ。

 

 

 「効くぞ~♪すっごい効くぞ~♪」 

 

 周りに誰かいる場合を除くと1人で調合を行っている時は毎回こんな感じだ。楽しくなってきちゃうんだから仕方ないよなぁ!この世で最も楽しい作業の1つだからな!

 

 

 ……………………そんな俺のうきうきな姿を穴が開くほどじぃっと見ているのはキースだ。若干不満そうな様子である。構って欲しいのかな?

 

 キースは今、シャボン玉の中に入ってふよふよと俺のすぐ後ろを漂っている。普通のシャボン玉と違って外部からの刺激では簡単に割れることはなく、衝撃も吸収する魔法のシャボン玉だ。なんとキースの感情に反応して七色に光るようにした。現在の色は不満を表す紫だ。

 フフン!このシャボン玉の魔法は俺が最近開発した。まぁ?このくらい朝飯前ってやつ?うーん己の才能が怖い。

  

 目が離せない家事や薬の調合時は使い魔である黒猫のキィに子守をしてもらっている……のだが、俺の姿が見えなくなるとキースが泣き始めることが多くなった。俺が消えていなくなるのかと思っているのかもしれない。そんなはずないのにな。そこはまだまだ赤ん坊だ。

 

 

 「気になるかぁ?でも近づくと危ないからそこで大人しくしててくれよ。もうすぐ終わるからな」

 

 安心させるために俺が手を振るとキースもぶんぶんと手を振り返す。いやぁキースはまねっこが上手だな。この子は俺の次に優秀かもしれん……

 

 

 

 

 最後は薬の質を高めるために魔力を込めて……………………っと。よしよし!こんなもんだろう。

 

 「はい!終わり!キース!おいでー!」

 

 シャボン玉の中にいるキースに向かって手を目一杯広げる。こっちだ!

 ゆらゆらと浮かぶシャボン玉が俺の呼びかけに応えるかのようにゆっくりと進んできた。そうしてちょうど腕のある位置にまで飛んでくるとぽしゃんっと可愛らしい音を立てて消える。

 

 「グッ……とと……はい、キャッチー!キース大人しく待てて偉かったなぁ~」

 

 うぉ……!ちょっと危なかった……!シャボン玉が割れると同時にそのまますっぽりと腕の中に収まったキースを気合を入れて抱き上げる。ぐぬぬ、重いぜ。

 

 「ま!ま!」

 

 「キースぅそんなに嬉しいかぁ?我慢した分、その喜びは大きいとみた」

 

 顔を見合わせてお互いが笑いあう。2人してはしゃぐ姿は他人には見せられねぇなぁ。

 

 「ばああぁぶぶぶう?まぁあま?」

 

 「フフ!何言ってんのか全くわかんね!」

 

 「ばぁぶぶぶ!」

 

 「んー?でも会話になってる気もする……キースはおしゃべりが上手なんだな!」

 

 「きゃぁあい?」

 

 「うんうん。その歳でここまで話せるキースは賢くなるってことだぞ。そう!この俺のように。だからこれからもいっぱいお話しようなぁ」

 

 「むぅ!」

 

 会話をしているようでしていないようで。でも楽しい。初めは赤ん坊なんて……と思っていたがキースのいる日常がもう生活の一部に組み込まれている。あくまである程度大きくなるまでの保護者、見捨てるのは後味が悪いから仕方なく……のような立場で育てているのにも関わらずだ。 

 

 日に日に、目に見えて成長していくキースは面白い。体重や身長といった物理的な大きさもそうだが、それ以上に内面の成長とでも言うのかな。明確な意思を伴った行動が増えたように思える。指差しで欲しい物やして欲しいことを示すようになり、そして俺の姿見えなくなってぐずり始めるのも『俺がいなくなって不安な気持ち』が芽生えたからだろう。

 

 これからキースは自分の意思をもっともっと表現できるようになる。身振り手振り、言葉で。俺は保護者としてその手助けをしていくわけだ。ただ……………………

  

 (本来は俺がすべきではない、か)

 

 口に出さず自分に言い聞かせる。俺がその役割を担うことに不満はない。親ではないにしろ、それが拾った者の責務であるのだから。

 そう、不満などないのだ。ではなぜ『俺がすべきではない』などと思ってしまうのか。キースが元気に育っていくのは嬉しい。一方でその元気に育っていく姿が、妙に胸の奥をぎゅっと締め付けてくる。嬉しいはずなのに……辛い……?でも辛いよりも近いのは……

 

 

 「あんまぁ?」

 

 おっと、いけないな。俺が無言で見つめていたからかキースが戸惑っている。

 

 「悪い悪い。それじゃあ遊ぶかぁ!!」

 

 僅かに思考のしこりを残しつつもそれを放り投げることにした。気にすることではない……か。少なくとも今は。

 

 

 

 

 最近のキースは活動的だ。初めて出会った頃からそうだったが、その時よりもっともっと活発に動き回る。ほんの少し目を離すとハイハイをして高速で動き回り、思いもよらぬ場所にいるのだ。キィにも見てもらっているのでそこまで危ない状況になることはないけれど、興味の赴くままに気の赴くままである。

 

 キースが薬草をむしゃむしゃしていた件で俺も懲りた。そもそも変な物を置かないようにしてるし、掃除もこまめにするようにしているからキースがむちゃくちゃに動き回っても大丈夫……なはず。

 

 

 本当なら調合スペース自体を移動させるべきなんだろうけど、ちょっと家の間取り的にも難しい。なぜなら調合スペースがこの家の半分を占めているから。全部を全部動かそうとするのは物理的に無理そうだ。ここってなんつーか住むためというより、調合するための家みたいなんだよな。

 

 それもそのはず、元々この家は俺が1から建てたわけでなく、以前住んでいた魔女から譲り受けた?ものだ。魔女と言ってもその実、魔法は使えない普通の薬師だったが……場所が場所だからそう呼ばれていたらしい。

 事情があってこの国を離れなければならなくなったそうで、そこに偶然ここに来たばかりの俺に管理を任せたわけだ。設備も揃ってるし、住む場所に困っていた俺にとっては幸運だった。

 

 

 一応『ほとぼりが冷めたら戻ってくるかもしんないけど、もうあげたようなもんだし自由に使っていいから!気にしないでね!エルフちゃん!』と言っていた。改装してもいいんだろうけど……俺だけじゃどうにもなぁ。それに嵐のように急いで去っていったが、結局どんな事情があったのだろうか……………………戻ってきたら面倒臭そうだな。

 だってさぁ、『ほとぼりが冷めたら』とかって大抵何かしらがあった後に出てくる言葉だ。俺も同じような感じで故郷を出てるからよくわかるんだよなぁ。俺の場合は自分のせいってわけではない……いや、元を辿ると自分のせいかぁ。

 

 

 ま、いいや。そもそもの居住スペースは広いから別に問題はない。キースが元気いっぱい動き回っても十分な程だ。簡易的な区切りもあるから平気なはずだが、ちょっと心配に思うのは俺が過保護なのか?まっさかぁ!

 

  

 

 

 「キース!キース!何して遊びたい?」

 

 柔らかい毛先がふわふわした絨毯の上にぺたんと座り、早速キースとの遊びに講じる。俺が手に持っているのはぬいぐるみと絵本。その周りには木の積み木……まぁ色々な遊び道具だな!

 キースの好きな遊びは一つに絞ることはできない。キィと戯れるのも好きだし、動物のぬいぐるみを振り回すのも好きだ。絵本を読むのも楽しそうで、そうだ!ハイハイして追いかけっこするのも大好きなんだ! 

  

 「やっ!」

 

 「お気に召さなかったか。ふむ」

 

 絵本の表紙を見せても、お気に入りのウサギのぬいぐるみを見せても、キースはプイッと顔を背ける。今はそういう気分ではないみたいだ。

 

 「じゃあ積み木か?積み木のおうち作る?ほら楽しいぞ」

 

 「……やっ!」

 

 「これでもないかぁ。もしかしてお昼寝したい……わけでもない感じだな」

 

 実は遊びたくないのかとも思ったが、キースの目は爛爛と輝いていて次は俺が何を提案してくるかを楽しみにしているようだ。ある意味でこれも遊びの一種なのかもしれない。イヤイヤ遊びだな。

 

 「でもキースぅ……これを見てもまだイヤイヤを続けられるかなぁ?」

 

 俺はキースの目の前で手のひらを上に向ける。ふんっ!と気合を込めて出てくるのは何の変哲もないシャボン玉だ。魔法で作ったシャボン玉、大きさは違うけれど先ほどまで自分が入っていたシャボン玉にキースもちょっと興味が惹かれてきたんじゃないか?その証拠に出てきたシャボン玉をキースが口を開けてポカンと見つめている。フフン!これだけでは終わらないぞ!

 

 作ったシャボン玉を魔力を込めた指先でちょいちょいと触れると、ポコポコと水が沸騰するかのような音を立て表面が波打ち始めた。そうして球形だったシャボン玉は形を変え、伸びたり縮んだりを繰り返しみるみるうちに

ある形に収まった。 

 

 「じゃーん!」

 

 手の上にちょこんと乗っているシャボン玉は耳がピンと長い四足歩行の動物に姿が変わっている。そう!ウサギだ!

 

 「それではお手を拝借。ほらぴょん、ぴょん」

 

 俺の手のひらに行儀よく座るウサギのシャボン玉にふぅっと息を吹きかけ、興味津々様子のキースの手のひらへと空を駆けるかのようにゆっくりと移動させる。ぴょん、ぴょんと本物のウサギみたいに。もちろん生きているわけではない。少しの時間だけ生きているかのように動くようにしただけだ。

 所詮、シャボン玉。だがこの超万能エルフの俺の手にかかればこれだ。複雑な形を維持する精密な魔力操作と手を離れたら自動でウサギっぽくしばらく動くようにする設計……いやぁ俺ってやっぱりすごい!ここまでくるともはやシャボン玉と言っていいのかわからんが!少なくとも既に玉ではないな!

 

 「ぴょぉん!だぁ!」

  

 手のひらに見事に着地したウサギを見てキースが喜んでる!フフン!どうだキース?可愛いだろう?

 と、自慢げに思った次の瞬間。ぱちん!

 

 「あ」

 

 なんということだ。キースの手の中で律儀に鎮座していたウサギが……………………

 おぉ……!と言わんばかりに両の手を上下に合わせているのはキースだ。つ、潰された。見るも無残に。

 

 ……所詮、シャボン玉。儚いものだ。キースの入っていた大きなシャボン玉と違って耐久性はない。あまり力のないキースの手で破壊されるくらいなんだから、普通のシャボン玉よりも気持ち壊れにくいだけだ。もっと壊れにくくしろって?キースが入っている場合は別として、シャボン玉は簡単に割れるもんだろうが。そこまで含めてこそのシャボン玉。つまりは様式美だ。

 

 「ふぎゅぅ……」

 

 「泣いちゃった」

 

 嬉しそうな顔を両手を開いたキースなのだが、今の今までそこにあったものが影も形もなくなったことで堰を切るように泣き始めてしまった。まぁそうなるよな。キースからしたらおもちゃを取り上げられた気分なのだろう。そりゃあ泣く。

 

 「ぴぎゃあぁ!」

 

 「おーよしよし。両手で挟んだら消えるなんて知らなかったもんな?」

 

 大泣きをするキースを対面で抱っこしてあやす。これは俺が悪い。初めて見るものなんだから触りたいはずだ。

 

 

 「だが安心しろキース!何個でも出せる!しばらくはいるから大丈夫だぞ!」

 

 むん!とちょっと気合を入れて、ぽんぽんと周囲から先程のシャボン玉と同じものを無数に発生させる。元々1つだけの予定ではなく、たくさん出すつもりではあった。赤、青、黄、その他諸々。空中に浮かぶ色とりどりのウサギたちは俺たちの周りを活発に動き出す。

 さらに今回のはもう少し弾力性があるようにした。これで多少の衝撃では壊れはしないはずだ。遊ぶのならある程度の耐久はいるのだと反省だ。しかしこんなにすぐに修正できるとは……俺すごすぎる……世界が羨む修正力だぁ!

 ………………………………キースを入れていたシャボン玉と同じ設計にすればよかったのは秘密だ!あれなら壊れねぇし。

 

 

 

 「おおぉお!ばぁおおぶ!」

 

 「そうかそうか。嬉しいか」

 

 いなくなったはずのものがたくさん出てきたのに気付き、キースの涙で濡れた瞳が再び喜色満点に変わっていく。それに伴ってウサギに向かって手を伸ばし、うずうずと抱っこから抜け出したそうだ。むむむ興味がそっちにいってしまったか、残念。

 

 「じゃあキース!楽しんでくれ!どんどん触っていいぞ!」 

 

 

 

 

 むっ!そろそろシャボン玉が消える時間だ。感覚でわかる。手に乗せ、頭に乗せ、追いかけっこをし、ウサギのシャボン玉と存分に戯れたことだろう。

 途中からはキィも参加して、猫らしくウサギを追い回していた。可愛い。キースも真似してハイハイで追い回していて……………………可愛かった。

 周囲に浮かぶウサギたちが次々にすぅっと消えていく中で、未だにキースは手にはウサギのシャボン玉を持ったままだ。きょとんとした顔で消えていくウサギを見つめて、その後に手の中のウサギを見ている。

 

 「ほらキース?ウサギ……ぴょんぴょんがそろそろ家に帰るーって言ってるぞ?バイバイしようなぁ」

 

 「やぁ!やぁ!」

 

 おっとぉ?キースがイヤイヤと首を振り、1つ残ったウサギのシャボン玉を大事そうに手に抱えて離そうとしない。思った以上にお気に入りになったのか。うーん……無理に取り上げるのはよくないし……まぁ魔力を送り続けたらまだまだ保てるからそうしようか。自然に飽きるのを待って、後でこっそり消そう。

 

 「キースはぴょんぴょんが好きだなぁ……あ!ぴょんぴょんもやっぱりまだ帰りたくないってさ!よかったな!」

 

 「!!」

 

 

 俺がそう言うと、キースは輝かんばかりの笑顔をこちらに向けてくれた。腕をぶんぶんと上下に振り、喜びを爆発させている。

 ……………………そんなキースの様子を見て思わず頬が緩んでしまう。なんかさぁ、キースが嬉しそうだと俺も嬉しいよ。

 

 

 

 

 「お、寝たか?」

 

 ベッドの上で横に並んで寝かしつけていると、キースの穏やかな寝息を立てキースが眠りに入った。あれから少し時間が経ち、キースも遊び疲れたのだろうかコテンと寝てしまった。

 結局キースがお昼寝をするまでの間、ずっとそれを手から離すことはなかった。そんなにも気に入ったのかと驚くほどだ。ウサギのシャボン玉だけでこれだけお気に入りになるんだ。本物のウサギに会えると、もっと喜ぶんだろうな。 

 

 本当ならすぐにでも森にいるウサギに会わせてやりたいのだが、まだちょーっと早い気がする。歩けるようになってからかなぁ。

 

 「なぁキース。早く大きくなって一緒に森を探検しような」 

 

 眠っているキースを起こさないように小声で囁く。俺にとっては見慣れた森でも、きっとキースにとっては楽しいはずだからさ。

 

 

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