TSエルフ、赤ん坊を拾う   作:面相ゆつ

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温泉!温泉!入れるといいなぁ!

 

 「ご主人ー?あなたの使い魔とキースが、思ったより時間が経ったんで迎えに来ましたよー。これにてご主人とアリアちゃんの二人きりの時間はおしまいだー!」

 

 すやすやと眠るアリアに膝枕をしながらのんびり湖を眺めていると、キィが浮き輪に乗せたキースを引き連れてここまでやってきた。ぼぉっと過ごしていたせいで気付かなかったが、キィが言うようにどうやらそこそこの時間が経ってしまったらしい。

 

 「あぁ、悪い。でもアリアが今な?」

 

 俺は膝枕の上で愛らしい寝顔を晒すアリアを起こさないように小声で話す。口の前に指を一本立て、しぃっと手振りを加えておく、

 俺とアリアのそんな姿を見たキィは、水に濡れた黒髪をかき上げながら少しだけ声の大きさを落としてくれる。キースもそれに倣い、大袈裟に口に両手を当て『大声を出しません!』のポーズをした。可愛い。

 

 「アリアちゃん、気持ち良さそうに眠ってますねぇ」

  

 「まぁな。俺の膝枕の寝心地がいいんだろうな」

 

 「そういうことにしときます。それに実際、寝心地はいいですから。いいなぁご主人の膝枕……」

 

 キィはうんうんと頷いて肯定する。普段からキィも猫の状態で俺の膝に潜り込んで眠っているからな。その時のことを言ってるのだろう。

  

 「アリアちゃん、本当に気持ちよさそう…………………………………………いっそのこと、皆でお昼寝でもしちゃいます?この浮島って日当たりもちょうどいいですし。アリアちゃんがそんなに気持ちよさそうに寝てるのを見たら、私も何だか眠くなってきました」

 

 物欲しそうにアリアを見ていたキィがそんな提案をした。つーか提案したと同時に、俺の隣に寝転がってしまった。何という即断即決即行動。流石は俺の使い魔のキィと言ったところか。やるなぁ。

 

 「キースも私と一緒にねよー。ほらおいでおいで」

 

 「えー。おひるねはいいけど、きぃじゃなくてままといっしょがいいー」

 

 「おっ、なかなか生意気なこと言うじゃん。仕方ない。ここは私が我慢してご主人の隣はキースに譲ってあげよう。特別だよ?」 

 

 「……きぃ、がまんできてえらい!なでてあげる!」

 

 「アハハ!もっと撫でるといいよ!」

 

 隣ではキースとキィの二人があーだこーだと楽し気に盛り上がっている…………………………………………なんだよそのやり取りはよぉ。俺の家族が可愛すぎるだろうがよぉ。俺を一体どうしたいんだ、この二人は。こんなの目の当たりにしたら笑顔になってしまうだろうが。

 

 「……まぁ、リゾート地でお昼寝っていうのもいいかもな」

 

 そういや無料貸し出しされているハンモックとかに寝転がっている人たちも湖畔では見かけたしな。何たる自由度だ。本当に何でも貸し出してくれる。

 この浮島にはそういったものはないけれど、自然が作り出すふわふわの緑の絨毯やパラソル代わりに木漏れ日の屋根がある。お昼寝をするには割と最適であるのだ。

 

 「そうですよ。遊ぶだけが楽しむ方法ではないんですからね。と、いうわけでおやすみなさーい」

 

 「ぼくもねるー。おやすみなさーい」 

 

 そう言って寝転がっている二人は目を閉じるとすぐに寝息を立て始めた。は、早い。あれか?二人は遊び疲れてていたのか?それくらいの高速就寝だ。よく遊びよく寝るってやつなのかな……

 

 えっととりあえず俺もお昼寝をするとしよう……ん?待てよ。もしかしてアリアを膝枕した状態で眠るのってなかなか難しいのでは……?それにそろそろ足も痺れてきたし。本日の累積膝枕時間はなかなかである。

 

 じゃあ降ろすか?と俺は思い、起こさないように気を付けて降ろそうとするのだが。

 

 「やだ……離れないで……」

 

 こんな寝言を呟かれて、眉間に皺を寄せるような険しい顔をされてしまうと俺も降ろすのをやめざるを得ない。睡眠中の無意識であろうに。俺が降ろすのをやめると再び健やかな寝顔へと元通りだ。すげぇな。

 

 ……うん、そういうことだ……………………………………膝枕我慢大会決行だぁ!参加者は俺一人だが負けないぞ!つーかこれ誰かは起きてないとよくない気がするし!!

 

 

 

 日が少し傾いて明るい橙色へと変わり、湖の周辺ではぼちぼちとカルグリゾートの館内へと戻ろうとする者たちが出てき始めた様子である。それでもまだまだ泳いでいたり、小舟で魚釣りをしている者も少なくない。ただまぁもう肌寒くなってきたかなぁ?

 

 それに合わせるように膝枕の上ではもぞもぞとアリアが動き出し、ゆっくりと寝ぼけ眼を開いていく。

 

 「んん。あれ?私……」

 

 「アリア起きたか」

 

 「レイさん……?そっか、あのまま眠ってしまってたんですね。ありがとうございました……ってこれどういう状況です……?」

 

 アリアは控え目に欠伸をしつつ、膝枕から頭を離しきょろきょろと見渡すとそんな当然の疑問が飛び出す。だって眠る前にはいなかったキースとキィがいるもんな。しかもお昼寝してるし。

 

 「どういう状況かと聞かれるとな、皆でお昼寝でもするかとなってな。こんな感じだよ」

 

 「そうなんですね……うぅん、よく眠れた気がします」

 

 立ち上がってしなやかに健康的に身体を伸ばし、晴れ晴れとした表情のアリアである。これは膝枕をした甲斐があったというものだ。

 

 ただまぁそれはそうとな。

 

 「なぁアリア」

 

 「はい、どうしました?」

 

 アリアは俺の呼びかけに微笑みを浮かべる。俺もアリアと同じように……いや少し違う。アリアの晴れやかな微笑みと違う弱弱しく微笑みを携えるしかない。そしてこう言った。

 

 「あしがね、しびれちゃってね、もうね、かんかくがないの」

 

 …………………………………………その後、俺の足が復活するまでにある程度の時間を要したことは言うまでもない。膝枕の行き着く先は痛いとか疲れたとかじゃなくて感覚自体がなくなるんだなぁ。いい勉強になった。

 

 

  

 湖から引き上げると日が完全に傾いて夜になった。そうして美味しい食事を済ませるといよいよ俺が楽しみにしていた温泉の時間だ。もちろんうきうきである。だって薬草湯があるんだぞ?興奮しないわけがない。

 

 「え。別館は専用の温泉?」

 

 俺が部屋に用意されている入浴セットを持ち、わくわくしているとアリアからそんな補足情報が追加された。

 

 「先程カルグリゾートの方が伝えてくれたのですが、そうらしいですね。温泉の種類や数は変わらないとのことですけど……しかも何故かその時間帯だけ貸し切りだそうで」

 

 「いいんじゃないか?のんびりできそうだし」

 

 おぉ!何たる幸運!なかなかないんじゃないかその偶然!他人を気にせずに入浴できるのは結構嬉しい。やっぱり身内じゃない知らない人がいると気を遣っちゃうしなぁ。

 

 「アリアちゃん、これ偶然だと思う?」

 

 「いえ、絶対に偶然ではないですね。キィさんが言ってた通り、やはりあの人が来ましたね。そこまでして一緒に入りたいんでしょうか」

 

 「理由はどうあれ、ただで特別招待券なんて渡すわけないよねぇ」

 

 

 アリアとキィが二人だけでわかるような会話をしてる。あの人って誰だろな。まぁいっかぁ!そんなことより温泉だよ!温泉!俺、温泉すっげぇ楽しみ!

 しかも貸し切りなら多少はしゃいでも許されるってことだろ!?いや泳ぎはしないよ?それはダメだもんな。キースの教育にも悪いし。

 ただアヒルのおもちゃを浮かばせるくらいならね?ほら、見てみろよ。この入浴セットに一匹だけいるアヒルのおもちゃを。こいつは温泉という広い世界を見たいって言ってる気がする。

 

 「おんせん!おんせん!」

 

 「温泉!温泉!」

 

 俺がキースと共に温泉に対する喜びの小躍りをする。キースもでっかい温泉入りたいよなぁ。俺も入りたい!!しかしアリアとキィはそんな俺たちを見て、何かを言いたげな微妙そうな顔である。どうかしたのかな。この小躍りが変だったか?

 

 「ねぇレイさん。部屋に備え付けのお風呂でも……」

 

 「ほら見てくださいよご主人!ここのも十分すぎるくらい広いですよ!四人仲良く入っても余って仕方ないくらい広いじゃないですか」

 

 二人が部屋に備え付けの浴室を指し示す。確かに家のよりも何もかも広い。贅沢に泡風呂も楽しめそうだ。だがしかし!そっちは温泉に入ってからでもいいんじゃねぇかな?それからだって全然遅くはない。だけど温泉は、偶然にも貸し切りの温泉はいつまでもあるわけではない。

 

 「えー。せっかくだから温泉の方に行こうぜ。ほらアヒル君が『大きな温泉で泳ぎたいよー』って言ってるぞ?」

 

 「みんなでいこうよー」

 

 正直、今の俺とキースは明らかに温泉の気分だ。言わば温泉同盟である。ただやはり二人の反応は芳しくない。もしかすると温泉があまり好きではないのかも。どうせなら一緒に温泉に入りたいけどそれなら仕方ない。

 

 「むぅ。もし嫌だったら俺とキースの二人で行ってくるけど……」

 

 「違います違います。嫌とかではないんです。一応、念のために言ってみただけなんで。私も温泉は楽しみですよ?キィさんもそうですよね?」

 

 「そうそう!私もこっちのお風呂もどうかなー?くらいに言っただけなんで、はい。それ以上の意味はないですから、うん」

 

 俺がしょんぼりしながら提案してみるのだが、どうやら温泉自体が苦手なわけではないらしい。先程の何とも言えない雰囲気には何か別の理由があるのだろう。ただその辺を根掘り葉掘り聞くわけにはいかない。聞かれたくないことだってあるかもだしな。

 

 「じゃあ……アリアとキィも一緒に来てくれる?それなら俺、嬉しい。温泉で皆仲良く入浴してみたかったんだぁ」

 

 でも一緒に入ってくれるのなら嬉しい。温泉で肩を並べて入ってみたかったし、背中の流し合いとかもしたいし。以前神父の背中は流したけれど、他の仲の良い人ともやってみたかったから。

 

 子どもみたいに幼い発言であることに気づいて頬が熱くなったが、咳払いをして誤魔化しておく。これはカッコイイ大人の発言ではないな。自重である。

 

 「……それはずるいです。そうやって色んな人をたぶらかしてきたんですね……」

 

 アリアがすげぇ人聞きの悪いこと言ってくるんだけど!!

 

 

 

 

 脱衣場までやってくると、貸し切りということもあって誰もいない。広々とした清潔な空間が俺たちを迎え入れてくれた。ふむふむ。このかごに脱いだ衣服を入れておくのだな。んで、それごと鍵付きの棚に入れると……なるほど高速理解である。

 

 この温泉は珍しくタオルの着用や湯衣の着用、はたまた水着の着用での入浴がありらしい。あれかな混浴ってやつがあるからかな。それらに着替えるための仕切られた場所も当然の如く別にあるみたい。まぁ俺の場合は貸し切りだということもあるので、裸一貫での突入の予定である。なんて男らしいのだ……俺は……!

 

 俺は焦る気持ちを抑えることができずにババっと全ての衣服を脱ぎ……脱ぎ……そこまで早く脱ぐことはできねぇな。あーあ!いつものペンダントのやつでならすぐに脱げて裸になれるのに。このお嬢様っぽい衣服はすぐに着脱できるように作れてねぇなぁ。残念。やはり機能性が全てを解決するのではないだろうか。俺はそう思う。

 

 仕方なくのろのろと一枚一枚ゆっくりと脱いでいくしかない。焦る気持ちさえも温泉の前では無意味であるのだなぁ。その分、楽しみも膨れ上がるわけだがな。

 脱ぎ……脱ぎ……ふと視線を感じ、隣を見るとアリアが俺を眺めている。『どうした?』の意を込めて首を傾げてみる。

  

 「あ、すみません。じろじろと眺めてしまって。何度見ても真っ白な綺麗な肌だなぁって」

 

 「そうかぁ?アリアだって綺麗だろうに」

 

 そもそもエルフはあまり日焼けをしないしなぁ。日焼けをしてしまってこんがりエルフになることはほとんどない。

 

 「水着を着るのを手伝っていた時も思っていたんです。やっぱりレイさんって綺麗だなって」

 

 「よせやい。そんな事実を真剣に言われると嬉しくなっちゃうだろ?もっともっと褒めてもいいけど!」

 

 フフン!俺は自他共に認める超絶美麗エルフである。他人から褒められるのはめちゃくちゃ気持ち良い。もっともっと褒めてくれ!

 

 「それに……何度見ても割と大きいですね」

 

 「…………………………………………俺は身長の方が大きいと一番いいんだけどなぁ」

 

 ……まぁ、うん。ないものねだりは良そう。これからも多分成長していくはずだし。うん。

 

 

 そうして準備完了である。三人はきっちりと湯衣を着用しているが、俺は裸一貫である。しかしアリアは無言でタオルを渡してくる。無言の圧力である。これは強い。

 

 「わかったから。タオル着けるから」

 

 「そうしてください。恐らくこの扉の先には獣がいるはずなので。全裸で突入するのはやめてくださいね」

 

 何だよ獣って。疑問が頭をよぎるがまぁいいかと結論付ける。まぁ俺としても着けようが着けまいがってところではあるし。

 

 タオルを着用し、いざ行こう!と温泉に繋がる扉を開ける。うお。湯気でもくもくだぁ!いいじゃん!しかし湯気の先には何故か人影がある。あれ?貸し切りのはずでは?

 

 「いやぁ!遅かったわね!先に頂いているわよ!」

 

 …………………………………………湯気の先にいたのはサキであった。なんでいるんだよ。

 

 

 

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