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「今回、諸君らを呼び出した理由は…………人探しのためである」
教団本部にある講堂に集められた僕たちは、壇上の大司教から掛けられた言葉を耳にした瞬間に同じ考えへと至ったはずだ。『え、そんなことで呼び出されたの?わざわざ?』と。ただとんでもない何かをやらかした故の呼び出しではなかったのには安心したけれど。
しかし、その思いを口に出す者はいない。何故なら僕たちの周りには『お前らここから何事もなく出られると思うなよ』とわかる程度には武装をした怖い人たちがいるのだから。しかも明らかに他国からの使者だ。おぉ……厄介な面倒事に巻き込まれている気がする……
そんな思いをよそに、険しい顔つきの大司教は国命であると付け加え、重い口を開かさせながらも言葉を続ける。話が大きくなってきているのがひしひしと伝わってきたために、段々と雰囲気も重苦しいものへと変わってしまった。
「……人探しと言えど、国家間の関係の崩壊に繋がりかねない重大な案件だ…………よって単刀直入に尋ねよう。ガーランジュ出身の金髪の幼いエルフに心当たりがある者がいるはずだ。保護している者はすぐに名乗り出るように」
周囲の神父仲間たちは当然の如く、全くもって心当たりがないのか首を傾げるばかりだ。一方僕の頭の中ではいえーい!と輝くような笑顔でダブルピースをしているレイさんが浮かぶ。
………………………………………………………………これってレイさんのことだよなぁ。やはり親御さんが探してるってことだろう。家出をしたレイさん自身にも事情があるにせよ、親御さんが心配して会いたいと思うのは当たり前の話なのだから。
ましてや実際のところレイさんはまだ子どもだというではないか。親御さんの心労自体は途方もないはずだ。
それに……親にとって、子どもは何よりも代えがたい存在だ。レイさんにとってのキースくんのように。だからこそ、会うべきだと思う。
しかしながら僕ができることは一つである。ざわざわと困惑が広がる人の輪の中で僕は恭しく挙手をする。するとざわめきはぴたりと止まり、この場の全ての目線が僕に集まる。緊張を紛らわせるために咳ばらいをし、発言させてもらおう。
「大司教。教会で保護をしているわけではありませんが、私の管轄内において条件に合致する子がいます」
大司教は僕の発言を聞き、心なしかほっとしたような穏やかな表情で息をついた。険しかった顔が嘘みたいだ。どれだけ重責だったのだろうか。
「……そうか。ならばよし。ではこれから詳しい話を」
これは終わってから帰るのに時間がかかりそうだなぁ。そう思いつつも、仕方ないかと諦めているところに……
「大司教さま、ご協力ありがとうございました。ですけれど……それでは時間がかかってしまいます。該当者が見つかったのであれば、後はこちらに任せてはもらえませんか?」
突如鈴を転がすような声が響く。そして大司教の隣、今の今まで誰もいなかった場所には恐ろしい程に見目麗しく、恐ろしい程に優雅な笑みを携えた女性がそこにいた。そしてその女性が大司教と少し話をすると、何やらすんなりと要求が通ってしまったようだ。
「本日は皆さん遠路はるばるここまでお越しいただき、ありがとうございました。お集まりになった方々には大変なご迷惑を……迷惑料代わりに心ばかりの寄付をさせていただきますのでご容赦くださいませ。では……そこの挙手をした神父さん?」
見覚えある金の髪を持つエルフの女性は綺麗な音を口から紡ぎながら、武装した怖い人たちに指で何かを指示している。あ、すごい嫌な予感がするぅ!
…………程なくして、屈強な怖い人たちにがっちりと拘束された僕の目の前までエルフの女性が歩いてきた。もうこれでもかってくらいねめつけられている。美人に冷たい目で見られるのもいいかもしれないなぁ。
「一応、自己紹介だけは先にしておきますね。私はキール・エルリード。魔法国ガーランジュにて、魔法学を司る者です。それと……もうわかっていると思いますけれど、レイの母です」
「………………」
「さて、とりあえずレイの下へ案内してもらいましょうか?……詳しい話はそれからだ。さっさと立って歩いて馬車に乗れ」
………………………………………………………………口調が変わるくらいにめちゃくちゃ怒っているのは絶対レイさんが一番初めに送った手紙のせいだと思う!
そうして僕は屈強な男たちに挟まれながら馬車に乗り、むさ苦しい中で悲しみに暮れるしかなかったのであった……
ようやく辿り着いた教会でも、レイさんの母であるキールさんは聞く耳を持ってくれない。一旦僕の拘束は紐で縛られているだけだが、普通に武装した怖い人たちが周囲にいるし。当然の如くピリピリした雰囲気で怖い。ただの一般神父には荷が重すぎる。
ただこのままでは埒が明かない。どうにかして落ち着いてもらうしかない。
「落ち着いてくださいってば!レイさんはここじゃなくて森の方!ここには住んでいませんって!」
「どうでしょう。嘘かもしれませんね」
……びっくりするくらい全然信用されてない!あーあ!レイさんの手紙のせいだって!初対面の人にこんなに信用されないってなかなかないって!キールさんの中で僕は一体どういうものになってるんだ!
あーだこーだと教会の入り口の前で押し問答を続けていると……
「あれ?母さん?」
そんな可愛らしい声が聞こえてきた。僕とキールさんはその声に反応して振り返る。そこには何故か息を切らして汗だくのレイさんが背後にいた。た、助かった……いや待てよ?もしかすると助かってないのか?レイさんが不用意に他に爆弾発言をした時点でややこしくなるんじゃ……?
………もうなるようにしかならないかなぁ。
あ。キールさんがレイさんに抱き着いた。わー感動の再会だ。とりあえず放っておいていいかなぁ。僕、縛られてるし。あとすごい疲れたし。
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むむ?なんでここに母さんがいるんだろ……?そう思ったのも束の間、俺の身体は目にもとまらぬ速さで万力のように力強く締め付けられた。え!なになに!?う、動けん!
「ぐえー!」
「レイ……レイだ……会いたかった……」
あれ?母さんの声?あ、これ母さんに真正面から抱きしめられてるんだ……!ち、力が、力が強い……!ぎりぎりと音が鳴りそうな程に思い切り抱きしめられているせいで、身動き一つできない。やばい!
しかし辛うじて、本当に辛うじて声が出せないこともない。俺は力を振り絞り、か細いながらも声を出す。届け!
「は、はなしてー……」
「もう絶対に離さない……」
……ダメだ!聞こえていない!いや、若干違うな。返答自体はあるから聞こえたうえで聞いてないんだこれ!そうだ!神父に助けを……どうにかして母さん越しにちらりと神父と目が合い、声を上げて助けを乞うことにした。
「神父ー!神父ー!」
「レイさん頑張れー」
なんかよくわからんがすげぇ他人事みたいに応援されてる!よく見ると神父が紐で縛られてるじゃん!どういう状況かさっぱりだぞ!
魔女!こういう時のためにサポートしてくれるんじゃないのか魔女!今こそだろ!
…………反応がねぇ!なんでだよ!?ん?影を通じて魔女が語りかけてきたぞ?『ごめん。その人に対してまぁまぁやらかしてるから私が出たらやばいー。頑張ってー』
………………………………そっかぁ。これってどう頑張ればいいんだろうね。仕方ないから母さんの気が済むまで耐えるかぁ。俺が諦観の極致へと至ろうとしていると、ふと頬に温かいものが落ちてきた。なんだぁ?
そうして落ちてきたものを確認するために見上げれてみれば、母さんは……顔をくしゃくしゃにしてぼろぼろと涙を零して泣いていた。母さんが泣いているのはほとんど見たことがない。
「レイ……もう一生会えないと、ずっと思ってたから」
きつく抱きしめられていた身体は少しずつだが緩み始めている。先程までは力強く抱きしめられていたせいか、母さんをしっかりと見ることができていなかった。母さんは疲れているようだ。眠れていないのか、目の下には隈ができている。顔色も良いとは決して言えない。
「……母さん」
そういえば母さんと実際に会ったのはいつ振りなのだろうか。だって俺が刺されて身体が変わってから。よく考えなくてもわかる。ずっとずっと会っていなかった。俺はただ置手紙だけを残してガーランジュを出ていったのだ。
俺はどうってことなかった。だけど親の気持ちとしてはどうなのだろうか。
あぁそうか。キースを育てている今なら理解できてしまう。もしも、俺が同じ立場なら。俺が母さんの立場ならば、心配して当然なのだ。置手紙だけでは不十分だった。
あの頃は『これでいいだろ』くらいに思っていた行為は、当たり前のように配慮に欠けていた行為だ。子を思う親に対して、やってはいけない行為だと理解してしまった。
そうだ。ならば俺には言わなくてはいけない言葉がある。己の口が震えているのは自分でも感じている。俺は悪いことをしていたのだ。
「………………………………………………………………ご、ごめんなさい。心配させてしまってごめんなさい」
俺の口からようやく出たのはそんなの謝罪の言葉だった。如何にも子どもっぽくって、もっとちゃんとした言葉で謝りたいのに出てきたのはその程度。恥ずかしい。
ただそれだけの簡単な謝罪が言い終わると、何故だか涙が零れてしまった。怒られたくないとか、恥ずかしいとか、心配させてしまって申し訳ないとか……色んな気持ちが溢れてくる。たくさんの気持ちが溢れてくるのと同時に、涙もとめどなく落ちていく。
でも多分一番多い思いは結局……俺も母さんに会いたかったということだろう。もし仮に会っても泣かないと思っていたのに。結果はこの様だ。子どものようにしゃくりあげて泣く。何とも恥ずかしい泣き方を晒してしまっている。
少しでもそんな顔を見せたくなくて、俺は母さんの身体に顔を押し付け必死に誤魔化そうとする。が、上手くいかない。むしろ余計にしゃくりあげて泣くのが止まらなくなってしまった。
「レイ。もう、いいのよ。だってまたもう一度こうして会えたのだもの」
「うぇぅう。ごめんなさい……ごめんなさい……」
母さんは俺が落ち着くまで優しく抱きしめてくれた。懐かしい、安心する感覚だ。しかし俺はただ、しばらくの間母さんに抱きしめられながら泣くしかない。
今の俺の感情はぐちゃぐちゃだ。