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んー?なんだって?質問?
『エルフって何ですか?』
何ですかって……答えにくい質問だなぁ。何、何かぁ……………………うーむ。自分の存在とは何かと問われると俺も困る。
うぅむ。世の中には色んな
『ヒューマン?』
あ、もしかすると聞き馴染みがないか?まぁ人間とかの方がわかりやすいかもな。ヒューマンとかの呼び名って普段使いしねぇしな。もっと細分化できるけどめんどうくさいから言わない。
で、ヒューマン……人間はめちゃくちゃ多いよ。多分人間とその他の種族を比べても、人間の方が多いな。この町も大体そんな感じだな。これは人間の種族特徴の一つでもあってな……
『話が逸れそう……』
むぅ。せっかちな子どもだな……別にいいけど。エルフは元を辿れば森を司る大精霊から分化した種族だ。お前は普通の精霊って見たことある?あ、ない。町なかじゃなかなか出会わないか。
まぁ童話に出てくる悪戯好きな妖精や迷い人を導く女神様みたいなのを思い浮かべてくれたらいい。こう、実体がなくふよふよ~と漂ってる感じの。色々といるんだけど、そいつらを統括しているのが大精霊だ。んで、大精霊があーだこーだして、エルフが誕生したってわけ。
『えぇー。あーだこーだじゃわかんないです』
長くなるからやだ。ちなみに今でもその大精霊の、つまり始祖様は存在してるぞ。肉体を得て結構好き勝手やってるらしい。俺は会ったことないけどな。
元が大精霊ってこともあってかエルフは不老長寿だ。個人差はあるけど一定の見た目まで成長してからは老いず、長生き……所謂長命種ってやつだな。エルフと言えば?と聞かれた時の答えは大体これになる。それ以外なら魔力が高くて魔法を扱うのに長けてるとか容姿が整っているとかそんなところ。
魔力の高い低いはわからんだろうが、容姿に関してはこの美麗な顔を見ればわかるだろうがな。ほら!大人の渋み、感じるだろ?
『えー?確かに綺麗だけど……大人じゃないでしょ。だって少し歳上にしか見えないもん。背も大人の人より小さいし』
はぁ~?大人です~少なくともお前よりは大人です~。あと背もお前よりは余裕で高いです~。やーいちびっ子~!
『む~!!いいもん!これから大きくなってあなたなんかすぐ追い抜くから……!』
アハ!頑張れ頑張れ!楽しみにしてるからな!
あとは……不老長寿の代わりなのか、エルフの絶対数は他の種族と比べると明らかに少ないな。これは単純に生殖力が低いうえにそもそも生殖本能が薄いからだ。
『生殖力?生殖本能?』
あー……………………子どもが少ないってことだ。その辺ツッコミ始めるとおしべとめしべの話になるからさぁ。お前にはまだ早い。
なので、エルフの子どもは結構貴重だ。他の種族との間に子供ができることもあるが、そのほとんどにエルフの種族特性が引き継がれることはないね。結局はサンプル数が少ないから俺も曖昧にしか言えん。俺の両親もエルフだし。
そんな感じで俺の周りにいたのは人間ばかりで、同族と呼べるものはほとんど見かけることはなかったなぁ。出会った数は両手で収まるくらい。もちろん、実の両親を含めてな?
他国、はたまた大陸中を探せばきっともっといるんだろうが、森の中で一本しかない薬草を探すような感覚だよ。要は果てしなく面倒くさい作業になる。
『エルフってなんだか不思議』
不思議、不思議かぁ。
………………………………つってもまぁ……結局の話、エルフはちょっと?長生きで、ちょっと?数が少ないだけで別に神秘的な存在ではないんだよ。みんながみんな人知れず森に住むわけではない。長生きな分、知識が豊富だけど全知なわけでもない。大体はその日をのほほんと穏やかに生きるただのエルフだ。個人差はもちろんあるがな。
エルフなんて神秘的でも何でもない。そうだ、一つ例を挙げよう。どこにでもいる愚かなエルフの話だ。
今でこそ俺は薬を作るのを生業とする穏やかエルフだが、初めからこうだったわけではない。俺には調子に乗っていた時期があった。いや、これじゃあちょっと語弊があるな。俺は生まれてからほとんどの期間調子に乗っている。常時傲慢イキりエルフだった。俺は今40にはならないくらいなので大体30年はイキり散らした計算になる。
……………………あとこれは本当は内緒だけど……内緒だけど!他人に自分の年齢を言うときは大体100以上は盛るようにしている。長命種マウントをとるには少し年齢が足りていないからな……
人間で言うところの思春期みたいなものだ。誰だって多少はそういう時期を経て大人になっていく。個々人によってその程度に差はあるが、エルフの気質的にほとんどが数年で治まる。若気の至りってやつ。俺の場合はまぁまぁな期間であったが……エルフの生涯を考えると誤差だな!
なぜ俺はそこまで拗らせてしまっていたのか?それは俺が優秀であったこと、そして運良く痛い目に遭うことなく、運悪くそのまま進んできてしまったからだ。己が優秀だ、と自分で言うものではないのはわかっている。だが事実だからな!褒めろ褒めろ!
俺が元々住んでいた国、ガーランジュには魔法学院というものがあってな?魔法学校、魔法学園と呼び方にはぶれがあるが意味合いは同じだ。読んで字のごとく魔法に関することを学ぶ場所、そう思ってもらって構わない。初等部、中等部、高等部に分かれていて、その上には魔法院となる。厳密には魔法院は研究機関の意味合いが強いが……
魔法とはざっくり言うと魔力を使って様々な事象を引き起こすことの総称だな。魔力を使って火を出したり浮いたり……色々だ。曖昧にしとかないと、魔法の成り立ちやらそもそも魔力って?という根本的な部分に触れなければならないから……ひっじょうにめんどくさい。だからいいんだよこの辺は曖昧で。本筋じゃないし。
でな?ガーランジュの魔法に懸ける思いの比重は他の国よりも重い。所謂、主要産業に近しいもの……名産物に分類できるかな。その国と言えばこれだ!と誇れるものだ。国によって力を入れている分野は違うと思うが、ガーランジュでは魔法だったわけだ。
他の国にも魔法関係の学び舎はあるけれども、規模と数、そして質はガーランジュには見劣りしてしまうだろう。実際に近隣の国からも魔法を学ぶために留学してくる者も多くて、魔法に関しては世界一だと思う。
ちなみにこの国、ゴーンは農業に力を入れているみたいだな。自然や動物が多い国でもあるから、薬の調合素材には困らないぞ。薬物製造エルフにとっては想像以上に過ごしやすい。そして金稼ぎもしやすい。俺にとっては最高に都合の良い場所だ。
魔法好きなら泣いて喜ぶ国、それがガーランジュだ。一方で死ぬまでガーランジュで生きていくのなら魔法と離れて暮らすことはできない。ぶっちゃけると魔法が嫌いなら死ぬほど暮らしにくい。嫌い、とまで行かなくても多少なりとも魔法が使えなければ、それはそれで暮らしにくい。
なんつーかな……日常生活にも魔法が入り込んでいるんだ。家の明かりをつけるのにも魔法、料理の火をつけるのにも魔法……この辺は専用の道具に魔力を込めるだけで済むから楽と言えば楽なんだけどな……
ガーランジュという国に住んでるなら、魔法使えるよね?が前提に色々な設備が作られているってこと。だから魔法の知識が全くない者が1から暮らすとなると尋常ではなくめんどうくさい。
これだけならちょっとめんどくさい国で終わるんだが……それだけで話は終わらない。ガーランジュは若干魔法至上主義に片足を突っ込んでいる。
国の重役に就く場合にも魔法が関わってきてしまう程にだ。国を運営する地位に魔法への知識の深さ、魔法を扱う高い技量が必要かなんて関係ないはずなのに。割と変だよなぁ。
だからな、少し、いやかなり性格や素行に難があっても、それを上回るほどに魔法が使えるのであれば「この人、魔法の実力はあるからな……」でお目こぼしされるのだ。俺がいた時の国のトップ層の性格は魔法の実力に比例して癖が強くなっていた。仕事自体はちゃんとしてたからセーフだから能力的には適任だったのだろう。
しっかりした性格の奴もいるにはいたが……常にげっそりした顔をしていた。あれを見ちゃうと正直かわいそうだったなぁ。
だがその国だからこそ、俺は『優秀』だったんだ。エルフであるからこそ魔力が高かったこと、両親共に魔法学の重鎮であったこと……そして何よりも褒められたりちやほやされるのが大好きであったこと。これらの才能、環境、気質の要素が上手く噛み合った結果の『優秀』だ。そして性格も例によって良いわけではない。
一番古い記憶、俺がうんと小さな頃の話だ。絵本の代わりに挿絵付きの魔法書を読むとそれを見た両親が褒めてくれた。その本の中身なんて微塵も理解はしていなかったし、ただそこに置いてあったからペラペラとめくっていただけ。絵本があったのなら子供らしくそれを読んでいたはずだ。
今思うと、両親も褒める機会を伺っていたのだろう。親って多分そういうものなんだろうなぁ。褒める内容なんて何だって良かった。偶々それが魔法に関することだっただけ。
でも、嬉しかった。褒められたのが本当に嬉しかったのだ。今でも心に刻み込まれるくらいにはな。それと「魔法を勉強すれば褒められるってこと!?」と子どもながらに理解したんだ。
そこからはとんとん拍子だった。おもちゃの代わりに魔法用の杖を欲しがり、お絵かきには簡易魔法陣を描く。両親もそんな俺を見て大層喜んだ。そりゃあそうだ。この国で住むのなら魔法を覚えること自体、得になるのだ。それに自分たちの仕事に興味を持ったのが嬉しかったのだと思う。
俺自身の承認欲求のために始めたことだったけれど、喜んでくれる分にはまぁその……悪い気はしなかった。うん、双方両得。間違ってないな!!
魔法の練習をする→褒められる→もっと褒められたくてもっと練習をする。この循環を繰り返していくとメキメキと魔法が上手くなるぞ。お手軽魔法スキルアップライフハックだ。条件として才能あるエルフであること、家に山のように魔法書があること、先生役の両親が魔法学の教授であること挙げられる。すげぇ難しいな!
そんな生活を続けていたせいか、同年代と比べても頭3つは抜けた実力を身に付けてしまった。結局は褒められればその辺りは何でもよかった。魔法なんて要は副産物だ。ちやほやされるための手段に過ぎないのだ。
名門の魔法学院の初等部を一番の成績で進級して、中等部をすっ飛ばし、高等部まで飛び級した。周りは歳上ばかりだったけれど、みんな優しかった。実質中等部生であるのと、単純にここでも魔法の実力がモノを言う。実力もないのに害を与えるような輩がいるのならば、程度が知れるというものだ。
高等部にいた期間も半年ほどで、『魔法使い』の称号を手に入れたらさっさと魔法院に行った。よくよく考えると学園生活を楽しまずに卒業してしまったのはもったいない気がするな……ま、いっかぁ!
俺は魔法院では魔法薬学部門を専攻した。理由?作るの面白いじゃん薬。俺は好きだよ。
魔法院直属の研究所に配属された俺だが、やること自体は変わらない。自分が気持ちよく褒められるようにするだけだ。ま、そのためには上手いこと成果をあげていかないとなぁってだけ。
思えばちやほやされたいだけで遠くまで来たものだ。エリートと言われればそうなるのだろう。若く優秀な魔法使い……フフン!これはみんなの憧れの的だな。
まぁその分、周囲にはイキり散らしていたわけだ。どれだけイキっても研究所の皆からはちやほやされてたし好かれているとだろうと。いいもん優秀だし―、ちょっと調子乗っても許してくれるさ。と心の中で思っていたのだ。
誰かが「もう少し柔らかい物言いの方が交友関係が円滑になるよ」とやんわりと指摘してくれても、「は?うるさいんだけど?」で返す。
誰かが「そのやり方よりもこうした方がいいんじゃない?」と優しく教えてくれても、「は?指図は嫌いなんだけど?」で返す。
誰かが「私と一緒に研究をしませんか」と丁寧に誘ってくれても、「は?それ、俺に対するメリットってある?」で返す。
誰かが「てめぇ、その態度マジでいい加減にしとけよ」と厳しく叱ってくれても、「は?お前誰……?」で返す。
……思うにこんな対応しててよく色々と無事だったな。俺が他人にこんな風にされたら全身が痒くなる調合薬をぶち当ててる。しかもフラスコごとだ。
………………………………そんな奴に友人なんて多いはずもなく。研究所時代の友人は片手で数えられるほどしかいなかったよ。内訳は人間2人、エルフ1人だ。あれ?どう数えても片手の指が余ってしまう……少ないなぁ……
まだ態度がマシな研究員初期の頃の話だしな、人間の方の友人はどうしてるかなぁ。人間的にはそろそろいい歳になっているから、何らかの役職についてると思う。エルフの方の友人は……少し苦手だ。目線がぬめっとしているというか……たまに怖かった。
でも!でもな?友人は少ないけれど、まぁ俺としては友人でも何でもない奴らが色々と持ち上げてくれるし、ちやほやしてくれるしで最高な気分だった。我が世の春といったところか。それを……長い期間続けていった。
地方の研究所の任期が最大でも10年だったから一つの場所に留まるのはあまりなくて、各地の研究所を転々として、最終的にガーランジュの首都の研究所に戻ってきた。30にならないくらいだったかな?フフン!結構早いらしいぞ!
俺としては所長職に就いたら、色々煩雑な事務作業が増えるから嫌なんだけどなぁ。
俺は調子に乗っていた。みんながみんな俺のことを大好きだと思っていた。俺に害を与えるような奴なんていないと思っていた。思い上がりも甚だしい。そういう傲慢な者にはいつかは天罰が下るのは世の常であるのだ。所長になってからちょっと経ったある日のこと。
真夜中の研究所に1人でいた時だ。日中は雑務に事務作業、承認事項の確認などに追われることが多くなっててな。所長になると、どうもめんどくさいばかりだったなぁ。そうなると自分が自由に使える時間は真夜中になってしまう。ぶっちゃけこの時間の方が何か頼まれることがないから好都合だったけどな。
辺りは静かで俺の作業の音しか聞こえない。新しい調合薬の作成途中で、ある程度順調に進んでいた。俺が完成させようとしていたのは変身薬。身体を全く違う種族に変えてしまう……というコンセプトの薬だ。人間をエルフに、エルフを人間に……といった感じだ。
実は子どもの頃から作ってみたいと思っていた薬でね。類似品もない正真正銘誰も作ったことのない完全に新規の薬。ずっと構想自体はあったのだが、如何せん0から作るとなると何も手がかりがない状態だ。少しずつ牛のように進むしかない。
ただこの薬を完成させれば歴史に名が残るのは確実だ。それを考えるだけでも興奮する。なんてやりがいのある研究なのだ!って感じ。
………………………………そうは言っても、あの時点で完成度自体は良くて4割ほどでな……つっても、進捗状況に関しては順調だったよ。
その日も頑張って作業していたわけでな。あー、なんか思い出してきた。『俺って天才じゃん!』とか考えながらやってたわ。
夜遅くで誰も来ないはずだったんだよ。だけどな、後ろからガチャっとドアを開ける音がした。その時、ちゃんと警戒でもすればなぁ。ま、集中してたし仕方ねぇか。
気分良く手を動かしながら入ってきた奴に『忘れ物かー?忘れ物取ったらさっさと帰れよー』って声掛けたわけ。一応な?が、返答も何もない。聞こえてくるのは布がずりずりと擦れる音とかちゃりと鍵を閉める音だけだ。なぜ鍵を?と不思議に思ってた。
あれっ?とほんの少しだけ疑問が頭に残りつつも、返事くらいしろよなってイラっとして後ろを振り返るとな………………………………目の前にいたのは頭から足までを黒いローブで覆った不審者だった。顔も見えない。え、と短い声を挙げるしかない。あ、魔法を……と考えた瞬間には既に俺の胸にはナイフが刺されていた。それから痛いと思う暇もなく1回、2回、3回……何回刺されたんだろう。多分二桁は刺されたかも。胸からお腹までめった刺しだ。
刺されたまま椅子から転げ落ち、仰向けに倒れた俺はなんで?としか思わなかった。あの不審者はもう部屋から逃げ出していた。助けを呼ぼうにも、魔法で傷を塞ごうにも痛みでどうにもならない。ご丁寧に首も刺していきやがった。声を出そうにも口からはゴボッと血の塊しか出てこない。
(痛い……俺死ぬんだ)
意外にも頭は冷静だった。もう刺していったのが誰かなんて気にしても仕方ないことだし。ただ俺を恨んでいる奴がいたんだなぁとか嫌われてたんだなぁとかそんなことを考えていた。それは何だか悲しかったな。
もう無理だと頭では思っても、それでも身体は正直なものでどうにかして生きようともがいているのがわかってなぁ。ふと右手の指の先にカツンとガラスがぶつかった。目だけをそちらに向けると、それは先ほどまで調合していた完成には程遠い変身薬だ。試験管の中で青い液体がゆらゆらと揺れているのが見えた。自分でも気づかないうちに栓をしていたようだ。しかも運良く割れていない。
どうせ死ぬんだ。せっかくだし、これを飲んでみるかった感じで。普段はこんな無茶なことはしない。まぁでも死ぬし……多分何かしらは起こるだろうってな?
ほとんど死に体な状態でできる最期の行動だ。力の入らない身体を無理やり起こし、右手には蓋を外した変身薬を持つ。口の中は血で溢れているが、なんとかなるだろう。それに考えてる暇はもうない。視界もぼやけてきている。
えいやっと変身薬を口に含む。血の味と妙な甘い味が合わさって不味い。ものすごく、とてつもなく不味い。頑張って飲むしかない。漏れないように首を抑えてただ飲み込む。1秒にも満たないその時間が長く感じる。
(よし、飲め……)
そう思った瞬間には意識は黒く塗りつぶされた。多分死ぬときってこんな感じに呆気ないし、味気ないのだろうか。
で、俺は生きていた。まぁ死んでいたら今の俺は何なんだという話になるか。
首の傷だけは……ほら見えるか?こんな風に残ってしまったけど、身体中の刺し傷はきれいさっぱり消えていた。逆になんで首の傷は残るんだよな……?全部消えとけよ。
でも、うん、それ以外は健康体だ。うん……一つだけ除いて。
変身薬の効果はあった。身体の構成を変え、違う身体に変える効果だ。未完成ながらも効果があるなんてすごいぞ。うん、すごい。やっぱり俺は優秀だな。
結論から言うと、性別が変わった。変身という意味としては間違ってはいない。男のエルフだったのが女のエルフに変化したんだからな。
あまり高くもなかった背がさらに低くなり、髪が腰まで伸びていた。身体の変化も顕著で、あったものはなくなり、なかったものは新たに出てきた。具体的に言うのはやっぱりそのぉ……ねぇ?とても女性らしい身体になったとだけ言っておこう。
朝一番で来た研究所の職員も驚いただろうな。ドアを開けてすぐ目にしたのは血まみれの現場だ。その真ん中にエルフが倒れていれば、もう死体にしか思えない。想像すると笑え……流石に笑えんか。
担ぎ込まれた病院で一通りの検査を受けた。異常なし、しっかり健康な女性のエルフの身体である。生きてるだけ儲けものかぁ。ちなみに研究所の部下は誰も病室に見舞いに来なかった。ひどくない?俺って人望ねぇんだなぁと目の当たりした。泣くぞ。事実ちょっと泣いた。
結局見舞いに来たのはエルフの友人だけだ。久々に会ったし、俺は話したかったのにそそくさと帰ってしまった。一目見てすぐにだ。そいつは顔を真っ赤にしていたが、俺だって顔を真っ赤にして怒りたいが??ひどくない???……でもさ結局、俺がきっと気づかぬうちに気に障ることをしてしまったんだろうな。はぁ……
色々考えた末、俺は研究所を辞めることにしたんだよ。迷惑をかけた責任を取る、という意味ではない。だって被害者だし。
やっぱり俺も元の身体に戻りたい。それには変身薬が必要だ。もう一度しっかりしたものを作るとなると研究所の所長は些か忙しすぎる。あの未完成品を作るだけでもそこそこ時間がかかったのだ。その未完成品にこぎつけるまでの試行錯誤の時間は省略できるとしても、長い時間がかかるのは確かだ。
それなら時間を確保する観点からも、フリーで活動するのが色々手っ取り早い。所長職は誰かにくれてやる。欲しい奴は欲しい地位だろうしな。席が空白になれば穴埋めがあるのも当然の話だ。
それにちょっと……ほんのちょっとだけだが俺は怖くなった。恨まれる原因は俺に全てあるのは明白だ。今までの言動、行動を振り返り統括すると相当に調子に乗ったことをしていた。
結構イキり散らしてきたのだ。たくさんの人を見下し、蔑ろにし、恐らく傷つけてきた。反省しようにも、謝罪をしようにも誰に何を言ったかなんてもう覚えていない。俺のことが嫌いな奴も、恨みを持つ奴も数えきれない程いそうだ。
今回は何とか生き残ったが、これから先も絶対に同じことが起こる。というか、犯人がわからないから次こそは確実に殺しに来るぞ。刺し方の殺意が凄まじかったし。少なくともほとぼりが冷めるのを待つ方がいいと思ったわけ。
だから、そう。俺はガーランジュを出ることにした。出来れば遠い国に行きたい。薬を作るという手に職は持っているし、いざとなれば魔法だって使える。咄嗟に使えないと意味はないけど……
魔法院宛てに退職届は送ったし、それに加えて手紙も残していった。要約すると『探さないで』だ。探された方が困るし。引継ぎ?知らん。そんなのしてたら殺されるぞ。
んで、退院と同時に最低限の物だけ持ってすぐにガーランジュを出た。国から国を渡っていったのだが、ふと両親にはちゃんと話しておくべきだったよなぁと思ったけど。まぁ大丈夫か!
以上が愚かなエルフの話だ。教訓は馬鹿は死ななきゃ治らないってことかなぁ。違うな、俺は馬鹿ではないぞ。この場合は傲慢さは死ななきゃ治らない?俺は一度死んだようなものだから適用されるはずだ。もう比較的傲慢じゃないよー。多分な。
反省は大事だ。俺の言動はもう本当に擁護できる点はなかった。あんなことがないようにしないと命が何個あっても全く足りない。不老長寿は不死ではない。死ぬときは死ぬ。気を付けましょう。
『………………………………噓だぁ。絶対怖がる私をからかうための作り話でしょ。それに元々男の人だったって。私、騙されないから!』
……嘘じゃないんだけどなぁ。
△△△△△△
「う゛ぎゃ゛あ゛ーーん゛」
爆音だ。耳元で爆音が鳴り響く。眠りから覚める合図にしてはパンチが効いてる。懐かしい夢を見ていた気がするが、思い出せない。なら大したことではないだろう。多分。
眠い目を擦りながら見ると、やはりというか当然泣き声だ。赤ん坊の泣き声はなぜここまで大きいのだろうか。不思議だぁ……
「おー、どうしたどうした?」
緩慢な動きでキースを抱いてみる。お尻の当たりから異臭はしないし湿ってもいないな。なら……腹減りか。ミルクミルク……
浮遊魔法でキースを浮かせてる間にミルクの準備だ。改めてふわふわ浮いているキースを見ていると、これは正しくないのでは?と感じる。いいのかなこんなにポンポン浮かせても。わかんねぇよなぁ、子育てしたことないんだからさぁ。いいよな!楽だもんな!
「ほら、飲みなー」
哺乳瓶に入れたちょうどいい温かさのミルクをキースの口に優しく含ませる。そうするとごくごくと満足そうな顔で飲み始めた。うおっすげぇ勢い。どれだけ腹が減ってたんだろうか。俺も見てて気持ちよくなるくらいの飲みっぷりだ。キースは将来でっかくなるぞ。
食事が終わり、浮遊魔法を解除してキースを抱くと何が嬉しいのかわからないけれど嬉しそうだ。
あとはもう一度眠らせて終わりだ。睡眠魔法もあるにはあるが、キースの健康に害がある可能性も否定できないので使わない。当たり前だな。
なんか……子育てって大変だな!そんなことを思いながら、キースと一緒にまた寝るぜ……