「おばあちゃんにはこのくっきーがいいとおもう!」
「イチゴジャムのクッキーか……流石だキース。良い選択だ!それにしよう!」
焼き菓子屋にて、俺はキースと共に母さんに食べてもらうためのクッキーを選んでいるわけだが……キースの選択したイチゴジャムを乗せたクッキーは『正解』である。何故なら美味しいから。しかし、実際のところここの焼き菓子類はどれも美味しいので、そのどれもが『正解』だ。
……うきうきでクッキーを選んでいる姿が面白いのか、俺たちの背後では母さんが暖かい笑みを浮かべている。むぅ、そんな風に見られるとちょっと恥ずかしいかも。ここは落ち着いて対応しなければ。
俺は澄まし顔で注文をすることにする。先程のはしゃいでいた姿は見なかったことにして欲しい。
「じゃあイチゴジャムのクッキーをください。それと……いつもの薬草クッキーを」
「はーい!ありがとうございます!少々お待ちくださーい!」
馴染みである女店主は手際良くいくつかのクッキーを包んでくれる。ちなみに俺が一番好きなのは薬草入りのクッキーだ。独特な風味が爽やかな気分にしてくれる至極の一品である。大人の味だ。いいね!
「お待たせしました!……それにしても薬師さんって、あの個性的なローブ以外に普通の服も着るんですね。どこのお嬢様が来たのかと一瞬だけ思いましたよ」
そして代金とクッキーの入った包みを交換するついでにすっげぇ素朴な疑問をぶつけられた。むむむ。普段は普通の服を着てないみたいに言うじゃないか。事実そうなんだけど。まだまだあのローブを世間に浸透させるのは時間がかかるようだ。そのうち流行らせてみせるぜ。
「たまにはな?でも、まぁ?何でも美しく着こなしてしまうのが俺なんだよなぁ。もっとまじまじと見ていいぞ?」
「はいはい。じゃあ可愛らしい格好のお嬢様にお目にかかれたお礼に、クッキーおまけしときましたから!キースくんと綺麗なお姉さんと一緒に食べてくださいね!」
華麗に流されてしまった。それはそれで悲しいが、おまけしてくれたので嬉しさの方が勝っている。帰った時に皆で一緒に食べよっと!
「……レイは本当に日常的にあの禍々しいローブを?普段使いであれを?」
「ままはいっつもきてるよー?かっこいいよねー!」
「……キースは見習わないようにしましょうね」
………………………………………………………………いや、カッコイイでしょ。
それからも町の案内は続き……
「次はこっち!ここは俺とキースがよく行く本屋!子育て本とかキースの絵本を買ってるんだ!」
「キースの絵本はともかく子育て本……?あら、確かに子育て関係の品揃えが妙に良いわ……?」
「そうなんだよ。子ども用の絵本もだけど、子育て関係の本も見る度に段々と増えていってる気がする。不思議だよね」
「……明らかにレイが毎回買っていくからでしょうに」
「おばあちゃん!ここはね!ままがよくけいびのひととおはなししてるばしょ!」
「町の警備の詰所でたくさんお話しているのね。よかった、レイは町にしっかり馴染んで……」
「あとねーたまにつかまってるよ!」
「ん?捕まって……んん??」
「ここは酒場だよ。お手頃な価格で色んなものを提供してるから人も賑わってるし、料理も結構美味しいよ」
「………………………………………………………………料理『も』レイ?お酒なんて……飲んでいないでしょうね?」
「飲んでないよ」
「私の目を見てはっきり答えなさい」
「きょうかいだよ!」
「…………戻ってきちゃったわ」
「きょうかいはなんかいでもあんないしてもいいんだよ!みんながなかよくていいところだよ!」
「ふふふ、キースは良い子ね」
キースと母さんの仲が良くて俺は嬉しい!!
そうして俺たちがよく行く場所を中心にあれこれ言いながらも案内していった。案内なら、どうして町をぐるっと回って一周とかはしないのかと聞かれると、単純に俺とキースの体力がもたないからだ。それだけ広い町である。
本当ならばキィを呼んで背中に乗せてもらって案内もしたいのだが……キィに悪いしやめておこう。それにでっかい黒猫が町を駆け回るとそれはそれで住民が驚きそうだしな。
しかし俺としてはまだ案内が足りていない気もする。何かないかなぁ。そんなことを思いながら、教会近くにある喫茶店のテラス席でお茶を飲みつつ休憩中である。
「レイちゃん、レイちゃん」
「む?」
俺が思案を始めようとすると、影の中から魔女の呼びかけが聞こえてくる。町の中であるためか、影から頭すら出さずに声だけを届けている形である。キースや母さんには聞こえていないみたいなので、俺だけに直接伝えているのだろう。
「気づいてないっぽいから言うけど……魔法治安部隊の人じゃなくて、違う人も尾行してきてるよー?あれはサキちゃんだねー。何か用があるんじゃないかなー?」
「え。どこ?」
小声で返答し、振り返ってみるがサキの姿なんてどこにもない。いるのは精々歩き回っている住民たちだけである。サキはすごい目立つからわかるはずなんだけどなぁ。そう不思議に思っていると魔女が微妙に笑いながら説明を付け加える。
「サキちゃん、夢魔だから変化が上手くてねー。あの、ほら。今ちょうどレイちゃんたちの方向に顔を向けてる。あ、顔逸らしたね。見られたと思ったらすぐにそっぽを向くなんて、わかりやすくて助かるよー」
魔女の説明を受けながら、その通りに観察してみると多分あれかな?と思う人がいる……遠目からだと全然見た目が違う、というかもう少女じゃんってくらいだ。今の俺よりもちょっとだけ背が大きい程度だ。本当だったらもっと色々とでかいもん。
しかしなるほど。いつもとかけ離れた変化しているから俺も気づけないのか。納得。
「でも今のはどっちかというと……まぁいいや。レイちゃんママも気づいてるけど、敵意はないから放っておいてるんだねー。そもそも何かあっても自分が傍にいるから大丈夫って思ってそう。実際そうなんだろうけどー。私もいるしー」
なんか含みがあるなぁ。別にいいけどさぁ。
………………………………………………………………まぁどうやら用があるってことであれば、声でも掛けに行くか。せっかくだから母さんにも紹介したいし。何故隠れるようにしているか知らないけれど。もしかして遠慮してるとかか?でもサキが?ないか。
「どうしたのレイ」
「ちょっと向こうに知り合いがいるから声掛けてくるよ。相手に時間がありそうなら、母さんにも紹介しようかなと」
「ふふふ、お友だちかしら?」
何だか母さんは少しだけ嬉しそうにしている。そんな風に優しく微笑まれるとむず痒い。
……むぅ。だけどそんな間柄になるのかな。よくよく考えると……ど、どうなんだろう?結構難しい問題な気がする。とりあえず、肯定にも否定にも取れるような曖昧さで頷いておこう。
そうして俺は人の波を掻き分け、一直線で推定サキ?の下へと向かっていく。だが、微妙に目を逸らされて知らない振りをしてくるではないか。それはそれで傷つく。しかも建物と建物の間の物陰まで後退していってるし!追いかけっぞ!!
「サキだよな?」
「よくわかったわね」
ようやくサキの近くまで到着すると、サキは若干気まずそうな様子である。近くで確認するといつものサキよりも全体的に小さいのだが、顔立ちなどはしっかりとサキ本人である。でも体格がこんなにも変わるなんて……変化ってすげぇ。
「俺がってよりはこれが」
これ、と俺の影を指差すと、にゅるりと魔女が頭だけ出してきた。人があまり見ていない場所なら出てくることができるのだなぁ。冷静に見ると気持ち悪い出方だ。急に生首が出てきてしまったっぽく見える。
「サキちゃん久し振りー。げんきー?」
「……帰ってきてたの?」
あ。やっぱり普通に知り合いなのか。同じ地域にいた長命種なら知り合いでもおかしくはないけど。
「余計なことは」
「言いませーん」
「本当に、絶対に言わないでよ!?」
「言わないよー」
……それにしてもすっげぇ仲良さそうだなぁ。
「それでな?多分ずっと見てたんなら知ってると思うけどさ、今母さんが来てて。せっかくならサキを紹介したいなって」
気を取り直して俺はサキに尋ねることにする。来てくれると嬉しいのだが……まぁ本人次第だよなぁ。用がありそうなのに遠くから見てたってことは、何か事情があるのかもだし。
「いやぁ、ちょっとぉ……」
やはり乗り気ではないようだ。なら仕方ないか。無理強いするのも悪い……俺は肩を落としてしょんぼりしながら戻ろうとすると、サキは俺の服の裾を掴んできた。んー?それはそれとして用はあるのかな。
「……でもぉ、お姫様みたいに優しく抱き締めてくれたら行ってもいいかも?こう、真正面で」
服の裾を離したサキは指をもじもじさせながら、そんなことを言い始めた。
「もーサキちゃん?小さい子相手にそんな冗談言ってー」
「え!?そんなのでいいのか!?よし!いいぞ!」
しかし俺は驚きである。だってサキとはいっつも似たようなことしてるし。もうこれ、条件というか挨拶みたいなもんだろ。
俺は間を置かずにすぐにサキを抱き締める。サキが身体を変化しているおかげで、抱き締めやすくて助かる。確かお姫様みたいにだったっけ?どういう抱き方だよと疑問は浮かぶが、まぁとりあえずやってみよう。
「えへへ、柔らかくていいわねぇ。普段と違う服装で目新しさがあって最高……!あ!あと魔力も吸っていい?いいでしょ?」
返答を待たずして魔力も吸われるし、ついでに首元の匂いを嗅がれてこそばゆい。まぁ慣れたと言えば慣れたからあまり気にもならなくなってきているけれど。
「え、なにこれ。私は一体何を見せられてるの……?サキちゃん……?レイちゃんに対してどんな感情持ってるの?判断に困るよ……怖い……」
魔女が何故か怯えた声を挙げているが、気にしてはいけない。こんなのサキとの挨拶みたいなもんだから。むしろまだ軽い方だ。これで母さんたちのところまで連れていけるなら安い安い。
だが一応サキの名誉のために、補足を付け加えておくことにしよう。
「誤解しないでくれ魔女。多分な、サキも誰かに甘えたい時があるんだと思うんだ。だから毎回会ったらこういったスキンシップを求めてくるんだよ。大人って甘えられる機会って少ないもんな」
「い、いや。これは甘えたいとかの次元じゃ……」
「でも見てくれよ、サキを。幸せそうだろ?」
サキは俺の首元を中心に長い深呼吸を繰り返している。身体の力が程々に抜けていて、安心しきっているようだな。背中を軽く摩り、たまに呼吸のリズムに合わせて優しく触れるようにトントンと叩いてあげるか。
「あぁ、良い気分………………………………………………………………薬草っぽい匂いが……癖に……この匂いと魔力なしでは私はもう……」
「やだなぁ!昔からの、しかも仲良いつもりの知り合いが子ども相手に甘えてる姿見たくなかったなぁ!ごめん!ちょっと見てられない!」
魔女はそう言って影の中へと潜り込んでしまった。いや、でも誰だって甘えたい時ってあるだろう?サキはその頻度が少し多いだけだ。正常だ。
「ふへへ。もっとぉ」
………………………………………………………………たまにこの人ヤバいんじゃないかと思うこともあるけど。
「レイ、遅かったわね。何かトラブルでもあった?」
「ううん。ちょっと向こうで話してたから」
呼びに行くだけで結構時間がかかってしまった。が、当初の目的通りサキを連れてくることができたので問題全くなしである。
しかし、サキは変化を解くことなくそのままの状態で来ているのは何か理由があるのだろうか。中身が違うわけでもないし、まぁいいかぁ。
さて。サキにも椅子に座ってもらって紹介タイムである。まずは俺が軽く説明至徳か。
「じゃあ母さん紹介するね。この人はお得意様のサキ。俺の薬をたくさん買ってくれてる人だよ」
「………………………………………………………………うわぁ、どうしよ。安請け合いしちゃったせいで墓穴掘っちゃった……何とかしてこの場を乗り切らないと……」
あれ?サキの元気がないようだ。抱き締めていた時はあんなに幸せそうだったのに、下を向いてしまって青ざめている。
「サキ?どうしたんだ?大丈夫?」
「か、覚悟を決めたから頑張るわぁ」
……?自己紹介ってそこまで鬼気迫る感じでやるものだっけ?まぁ所々で手助けしてやるかなぁ。フフン!俺って気遣いできるもんね!