「へぇー!サキちゃんと温泉に!思ったより仲が進んでるねぇ!」
「進んでる……?まぁ色々あってサキからカルグリゾートの招待券もらって、皆でな。そういや魔女にお土産まだ渡してなかったっけ………………………………………………………………ん。あっちは終わったのかな」
何だか魔女がわくわくしながら聞きたがっていたので、待っている間に魔女が知らないサキとの出来事を教えてあげていると……どうやらお仕置きが終わったようだ。母さんがサキをベッドに寝かせているのがその証拠だろう。遠目からはぐったりしているように見える。
魔力を与えられているサキは傍目では元気そうではあったが、結局お仕置きはお仕置きである。肉体にそこそこの負担がかかったのであろうか。ちょっと心配だし様子を確認しに行こうかな?
そう思った俺はサキの下へと行こうとするのだが、魔女は妙に興奮した様子でまだ話を聞きたがっている。魔女って何かを話すのも好きだけど、聞くのも好きなんだよなぁ。
「ねぇそれで!?そこで何を!?あっちに行く前に教えて!」
「えー?でも普通のことばかりだぞ?サキが合流してから温泉に入ったり、次の日も湖で泳いだり……あぁ、後はカルグリゾートで会った少年と一緒に誘拐されたけど頑張ってどうにかしたり」
「……うん?誘拐なにそれ?」
「まぁそんなとこだ!じゃあサキのところに行こうぜ!」
それを話始めると結構長くなるし、簡潔に伝えるだけ伝えて終わりだ!『待って。詳しく。すごく気になる』と追随する魔女を華麗にあしらいながら俺たちはサキが寝かされたベッドまで行くのであった。いつも思うんだけどこの部屋広いなぁ。
「……このくらいにしておきましょうか。サキさんもこれに懲りたらエルフの魔力を勝手に吸うなんて行為、きちんとお付き合いしてからにすることね」
「……!」
おっ。無事だな。サキが母さんにたくさんの魔力を与えられた結果、大きなベッドの上で身体をびくびくさせているのを近くで眺める。へぇ~!魔力をこれでもかとあげるとあんな風になるんだなぁ。勉強になったのと同時に、キィに魔力をあげる時も気を付けておかなければ!
「うわ。子ども相手にー。レイちゃんママも酷いなー」
「………………………………………………………………大人のお前にも、同じことしてあげても構わないんだけど。こっちに来なさい。やってあげるから」
「こっわー!はいはい黙ってまーす!」
あ!魔女がにやにやと茶々を入れようとしてカウンターを喰らってるぞ!すぐさま無敵ゾーンと化している俺の影に隠れてしまった。反撃を受けるなんてわかっているだろうに。まぁ恐らくそれ込みで面白がっているのだろう。魔女ってそういうところがあるもん。
「それにしても……すげぇ惨状だ」
妙に露出の多い服も多少乱れており、サキの整っている顔面が涙やら涎やらの液体に塗れているのを見ると『なんか……大変だったんだなぁ』と一目で思える状況である。目が虚ろなサキ自身も何かを言いたげな顔ではあるのだが、疲れ切ってしまったかのように荒い息遣いだ。こうも顔を赤くしてうるうると涙目だと何だか心配である。自業自得だけど。
「サキ大丈夫か?痛くない?」
俺もベッドに上がらせてもらい、膝をつけてサキにもっと近づく。大きくふわふわのベッドは何度乗っても気持ちがいい。俺もサキの部屋のベッドに詳しくなってしまったものだぜ。
「……全く痛くはないけどぉ…………………………………………………………あなたのお母さんって、容赦ないのねぇ……無理って言ってるのに『経験上、まだまだ入るから平気よ?それに無理って思ってからがお仕置きなの。ほら頑張って。でも安心して?決して痛くはないから』とか笑顔だもの。あれは他でも同じことやってるわぁ……話に聞いてた情報に比べるとまだマシだけど……」
俺の耳元で囁く安否確認に対し、息も絶え絶えになりながらも振り絞るかの如く一息で答えてくれた。これでまだマシかぁ。世界は広いな。
「いや。見ないで薬師ちゃん……私、大人の深い味に上書きされちゃったの。薬師ちゃんの魔力にはもう戻れないかもしれないわぁ。でも……それでも大人の魔力に否応なしに蹂躙されたこんな私でも受け入れてくれる……?ねぇ薬師ちゃんの魔力で私を癒して……」
「何言ってんだこいつ」
なんか俺の手を弱弱しく掴んで儚げに微笑んでるけど本当に何言ってるんだ。魔力なんて最終的に自分の中で吸収されるものなんだし、そこまで気にするもんでもないだろうに。ただサキもこれくらいの冗談が言えるのなら大丈夫だろうな。
お仕置きを実施した母さん自身はというと、何とも微妙な表情でベッドに座って俺たちのやり取りを見ている。若干罪悪感のありそうにも見えるのだが、全く気にしないでいいと思うぜ。だって母さんも本当はこうやってお仕置きなんてしたくなかっただろうし。
辛い役割を任せてしまって……むぅ。俺も罪悪感だ。
ならば俺がしなければならないのは母さんを労うことだ。そうだ!お疲れ様でしたの意味を込めて、せっかくだから母さんの頭を撫でることにする。今はちょうどいい高さだからな……キースやアリアにも大評判の撫でテクニックを母さんにも披露するチャンスだ。
フフン!俺のこの地で鍛えられた撫でを見せてやるよ!
「母さんもお疲れ様。魔力をいっぱいあげちゃったみたいなら、俺の魔力を分けるよ」
ちょっとお疲れ気味の母さんに膝歩きでとことこと近づき、そう言って頭を撫でてみると想像以上にきょとんとした感じで見つめられてしまった。おっと。これは失敗だったかぁ?
失敗をした場合にはすぐに止めて、次に活かさなければな。名残惜しいけれど手を引っ込めようとするのだが……引っ込めようとしたその手は逆に優しく留められた。
「フフン!この程度全然余裕……こほん。レイ、覚えておくといいわ。ほとんどいないだろうけれど、魔力を吸ってくる輩にはこれが非常に効果的なの。本当に嫌な時には逆に魔力を流してあげましょう」
「そっかぁ。覚えとく。もっと撫でていい?」
多分あまり使うことのないであろう生活の知恵を教えてもらったぞ。まぁ仮に使うことになるのはサキ相手になりそうだ。問題があるとすれば、俺もサキに魔力を吸われるのが慣れてしまっているのでその可能性すらも少ないことだけかなぁ。
「うぅ……私が苦しんでる横で微笑ましい親子の交流は止めてよぉ……惨めな気持ちになるでしょう……?自業自得だけどぉ」
「じゃあここは私がサキちゃんを慰めてあげよーかー?」
「ぐぬぬ……悔しいけどないよりはマシかしらぁ。ほら!私の頭を撫でて!昔みたいに!」
「はいはい」
なんかいつの間にかまた出てきた魔女がサキと楽し気だ。今まで見てきて思ったのだが、多分二人は俺が思う以上に親しいのだろうなぁ。敢えてその関係を形にするのなら……親子とかそんな感じなのかな……
しばらくするとサキがまだふらふらな状態ではあるが、寝転んだ体勢から座れるまでに回復した。回復するその間、俺も歳の近い友人としてサキの無駄に扇情的に乱れた服を綺麗に直してあげたり、濡れたハンカチで顔を拭ってあげたりと大忙しだ。
でもどうしてさっきまでは多少程度だった服の乱れがド派手になっていたのだろうか。謎は深まるな。そしてサキが執拗に俺の指を舐めてきたりもしたが、混乱していたのだと信じたい。
途中で『こっそり……こっそり魔力ちょうだい……薬師ちゃんの無垢で甘い魔力を哀れな私に吸わせて……苦味はあんまり好きじゃないの』とか言い始めたがとりあえず聞こえない振りをしておいた。それが原因で怒られたんじゃないか。まぁ……後であげるか。つーか更に追加で魔力あげたら調子もっと悪くなるのでは?
………………………………………………………………というかさぁ。俺はちょっとだけもやぁっとしていることがあるぞ?これに関しては俺も人のことは言えないんだけどさぁ。
仲が良いのか悪いのか、母さんと魔女は初めにいたテーブルで会話をしている。だから今はサキと二人きりといえば二人きりだ。この機会に聞きたいことがあるのだ。俺はどさっとサキの隣に座るとじぃっと顔を見つめる。
「サキさぁ、言いたいことがあるんだけど」
「なぁに薬師ちゃん。あ、今のうちに魔力もらえちゃうとかぁ?噓嘘。そこまで命知らずではないわぁ。うわ、めちゃくちゃ母エルフが怖い目で見てきてる。震えてきちゃった」
「……それ」
俺はむっとした表情を作る。頬を膨らませ、あまり良くないがサキを指差して『すごく怒っているわけではないけど不満があります』と言葉少なに伝えてやる。
「……えっと。どれ?薬師ちゃん」
「ほらそれ!サキってさぁ、俺のことずっと『薬師ちゃん』って言ってるじゃん?そろそろ名前で呼んでもくれてもよくないか?友人なんだからさぁ」
サキはぽかんとしている。少し考える素振りを見せた後に困惑を含んだ声色で、そんなことを言われるなんて思ってもみなかったと。そんな感じだ。
「……今更ぁ?」
「いや、今までは別に気にしてもなかったけど?せっかくなら名前で呼んでくれよ」
「薬師ちゃんも結構自分勝手よねぇ。あなたも神父さんのこと『神父』って呼んでるし、あれのことも『魔女』って呼んでるじゃない。薬師ちゃん自身も名前、呼んでないのにぃ?」
「そうだけど?でも俺はたまには名前を呼んで欲しいんだけど?え。何?だめ?」
普通にそこを突かれると痛いので開き直ることにした。それはそれ。これはこれ。つまり俺は呼んで欲しいんだけど?え?悪い?あと魔女は名前を教えてくれてないからはっきりわからないんだけど?
「あーはいはい。じゃあたまにレイくんって呼ぶわね。一応……男の子だもんねぇ。多分他の誰もそう呼んでないと思うしぃ」
「なんか微妙に限定的だな。なんだよたまにって」
「それはねぇ?特別感を出しておくと後々他のライバルに優越感を覚えられるからよぉ。普段と違う呼び方を醸し出しておくと相手にはダメージが大きいから」
サキがまーた変なこと考えてる。相手って誰だよ。誰を想定してるんだ。まぁこういう時は『そうなんだ』でスルーしておくといいな。うんうんと頷いておくとなお良し。するとサキは何か思いついたのか妙にそわそわし始めている。
「………………………………………………………………ね、ねぇ。それならあなたも私のことサキお姉ちゃんって呼んでいいのよぉ?ほらやっぱり私の方が歳上だしぃ?」
「えーやだ。恥ずかしい」
「一回だけ!一回だけでいいから!それだけで結構色々と想像して興奮できるタイプの女だから!捗るから!」
サキが必死でよくわからない弁明?をしているが、まぁサキも今日は大変だったもんなぁ。呼ぶだけなら安いと言えば安い。一瞬の恥ずかしさを取るだけでサキが喜ぶならそれはそれでいいかぁ。
「しょうがねぇなぁ……サキお姉ちゃん」
「んん!あと、あとねぇ私の腕に抱き着いて上目遣いでお願いね。できる限り密着してくれると嬉しいわ!」
「あ。サキお姉ちゃん、今回の分は注文多くなったのでこれで終了です」
「くそぅ!手慣れちゃって!」
「フフン!俺も成長してるんだよ!」
お!段々と元気になってきてるな。拳でベッドを叩く力が強くなっているのが明らかだ。必要以上に悔しがっているけれど、どうせまたどこかのタイミングで抱き着いてくるだろ。サキは歳上だがやはり甘えん坊だな!
母さんたちも俺たちの楽し気なやり取りを向こうで見ているぞ。手でも振っておこうかな!
「あ、レイちゃんが手を振ってるねー可愛いー!……で?正直レイちゃんママ的にサキちゃんについては実際のところどうなの?」
「………………………………………………………………後々のことを考えると、レイにはある程度歳の近くて仲の良い長命種のお友だちがいる方がいいのよ。多少教育に悪かろうが無理に引き剥がすのは、レイのためにもならない。お前も長命種ならわかるでしょう?」
「まー、それもあるかー。私としても二人が同じ場所にいないにしても、仲良くしてくれると安心だもんねー」
「そういうことよ。それに……サキさんは根性や覚悟は確実にすごいと思えるもの。ある意味ぶれないというか、変な裏切りはしない気が」
「その辺はまーそうだろうねー」
さて。その後は元気になったサキがお詫びとか何とかで、娼館見学ツアーを開催しようとしたが普通に母さんに断られた。当然だろ。