大き目のテーブルに用意したのはキースが食べやすいようにたっぷりの野菜を小さく刻み入れたスープ、森に住むクマが分けてくれた新鮮なはちみつと川魚を使った特製の照り焼き、酸味のある調味料で和えたグリーンサラダ、そして……町の店で買ってきておいたでけぇ肉を焼いたやつとふわふわのパン!そしてその他諸々!あと今日は量をたくさん作ったぞ!人数がいつもより多いからな!
まぁそれでも皆で作ったからかそこまで時間はかからなかったけれど。流石は母さんとキィが作業を手伝ってくれただけはある。キースも味見と何かを持ってじりじりと料理に近づいてくる魔女をよくガードしてくれていた。つまりは完璧な布陣であった。
「いやぁ、ちゃんとした形のある食事をとるのは十日振りだよー!皆ありがとー!」
ちゃっかりと真っ先に食卓へと着席していた魔女がとても嬉しそうである。すげぇ……何もしてないのにこんなに堂々と両手にスプーンを握り締めて待てるものなんだなぁ。
つーか十日振りって。どういう食生活してるのだろうか。
「えぇ……一緒住んでた頃にも言ったと思うけど、健康的にもしっかり食事をとらないとダメだぞ?魔女は細くて白くて心配になるし」
「食べなくても別の栄養補給の手段があるから平気ー。しっかりと咀嚼して食べる方が美味しいし楽しいけど。それにーこの体型が一番需要があるんだよー?お子ちゃまなレイちゃんにはわかんないかー」
「?」
手の甲に顎を乗せ、テーブルに肘をついてにやにやと魔女が笑う。じっと魔女の体型を見るのだが……何度見ても身体の厚みはないし、薄着になっているために見えている部分の肌は驚く程に白い。家に来るまでの格好が肌を晒している部分の少ない黒いドレス型の衣服だったからか、余計にギャップがあるな。
今は背中めちゃくちゃぱっくり開いているブラウスみたいなやつだし。不思議な服だなぁ。背中が寒そうだ。もっとローブとか着ようぜ。
……つーか需要かぁ。俺って正直他人の体型を判断できる程の見識がない。流石にスタイルが良いなぁとか大きいなぁとか小さいなぁとかは思ったりはするが、それは見たまんまの情報だ。
以前珍しく酔っぱらっていた神父が『レイさんにはまだわからないかもしれませんが、結局はバランスなんです。個々人にとってのベストな体型こそが最上であり、自然なんです……え、僕の個人的には普通に巨乳がいいですけどぉ?』と俺に力説していたが、そういうことなのだろう。
そう考えると魔女も最適な体型な気がする。無駄がなく、動きやすそうだな。
「……まぁいいや。魔女もお腹いっぱいたくさん食べるんだぞ。おかわりもあるからさ」
「………………………………………………………………雑にスルーされると、私も寂しくなっちゃうよー?」
「ごめんって。あ、三人とも手伝ってくれてありがとう!早速食べちゃおうぜ!」
こうして夕食を始めたわけだが、いつもよりも多少人数増えたためかちょっとだけ非日常感がある。母さんとも、魔女ともこうして一緒に夕食をとるのは久し振りだ。でけぇテーブルを物置から出してきた甲斐があったというもの。当然魔法で浮かせて持ってきたけど。
キィもせっかくだからか珍しく人型で食事をとってるし……ちなみにキィの姿は気分によって変わっているが、食事に関しては九割がた黒猫状態が多いかな。何故かと聞くと『楽だから』とのことだ。ふむ。効率的で素晴らしい!
そして意外だが魔女は食事中は静かだ。食事前が一番騒がしいくらいで、食べ始めると大人しい。一口一口は小さいけれど、うんうんと頷きながらよく噛んで味わって食べてくれている。そこだけ見るとリスのようだな!
「みんなでつくったからおいしいね!」
「そうだな!これってキースが色々と手伝ってくれたから、こんなにうまく作れたんだよ。キースがお手伝いできて偉いぞー!」
「どういたしまして!」
キースはスプーンを片手に、天から降り注ぐ光よりもキラキラ輝く嬉しそうな笑みを俺に向けてくれる。キースにとっても、誰かをこの家に招き夕食を共にすることは珍しいことなのだ。いつもの夕食以上に楽しそうだ。要はうっきうきである。その姿を見て当然俺もうっきうきである。
「おばあちゃん?このさかなもねー、もりのくまさんがもってきてくれたんだよー!それでままがかわりにねー、せなかにおくすりぬってあげててー!」
「うんうん。本当に嘘偽りなく森の動物と仲良しなのね」
「そうー!あとうさぎともなかよしだよ!いっぱいいるところしってる!」
お。キースが母さんに料理の魚の出所について説明してくれてるな。たまに家に来るクマたちが『これあげる』って持ってきてくれた魚がちょうどあってよかった。俺も物々交換のような感じで薬を塗ってあげたりして、なかなか仲良く近所付き合いをしている。
うむ?キースが小皿に取り分けた魚の照り焼きを食べている隙を狙って、食事の手を止めた母さんがこっそりと俺の方へと話しかけてくる。
「……レイ?他には?他には何がこの森にいるの?」
「ん?他には?えっと、パッと思いつくのは……例えば木の幹よりでかいヘビとか普通のシカとか額にカッコいい角の生えたウマっぽいのとか……でも他にもたくさんいるよ」
俺は斜め上に目線を向け少し考えてみる。うん。図鑑で見たような魔物はあまりいないけど、動物は結構いるな。正直見分けがつかないが。まぁたまにその子たちを交えて一緒に遊べるくらいなんだから安全だろう。
「………………………………………………………………自然、豊かねぇ」
若干母さんが遠い目をしている。自然に思いを馳せているだろうか。
「そうそう、ガーランジュにはいないような動物がこっちの森にはいるんだ。俺もここに来てから初めて会った動物も多いかな。やっぱり国が違えば生息域も違うってことだね」
「いえ、この森が特別なだけだと思うわ。レイ?見たこともない生き物に出会っても不用意に近づかずに、危ないと思ったらすぐに魔法で撃退するのよ」
母さんは割と真剣な様子でそう諭してくるのだが、実際のところ結構ほのぼのした森だから大丈夫である。牧歌的ともいえる。何かあるのなら時には拳を交え、時には威嚇し合い相互理解を深めるだけだ。しかもその段階は森に定住してから今までの間に完了している。
つまりこの森の動物たちは……俺にとっては普通のご近所さんだということだ。
「母さん、心配しないでくれ。気の良い子たちだし、そもそも襲い掛かってくる段階はもうとっくに過ぎてると思うから!」
「ふ、不安過ぎるのだけれど……」
「大丈夫大丈夫」
あ、眉間を抑えてる。母さんも心配性だなぁ。しかし俺の旗色が悪いと見たキィがそこですかさず参戦だ。幸せそうにでけぇ肉を食べながら満足気に会話に入ってきてくれた。
「まぁまぁ。優秀な使い魔である私もいるんですからご安心を。友好的なので可能性はほぼないですけれど、いざとなれば森の主であろうとも戦って勝ってやりますので」
「森の主……?森の主って何なの……?」
母さんは困惑しているが、森の主は森の主だ。森の奥深くの洞窟にいて、恥ずかしがり屋なのか姿を表に見せずに洞窟の最奥から基本的にでけぇ触手をうにょうにょさせている。たまに会いに行くと結構嬉しそうにしてくれる生き物……?である。動物かどうか判断はできない。
「あー、それまだいたんだねー。あとでトドメ刺してくるー」
「こら!魔女ダメ!悪い奴じゃないから!」
さらっと怖いことを言ってくる魔女には困ったものだ。まぁ触手しか見たことないから本体がどんなのかは知らないけど。でも多分女の子だと思う。美容に良い薬草水を持っていくと喜ぶし。
それからも楽しく会話を楽しみながら食事は進んでいき……
「ぼくね、やさいのすききらいないんだよ!すごいでしょ!」
「キースくんやるねー。じゃあこの苦い緑のをあげるよー。私はこれ苦手なんだー」
「キース相手に魔女お前マジでやめとけよ……怒るぞ……」
「あ、はい。冗談ですー」
「キィさん、レイは普段どんな風に過ごしているの?」
「そうですねぇ、基本的には薬を作ったり、キースと一緒に過ごしてますよ。で、薬を町や周辺の村に売りに行ったり、教会にお話ししに行ったり」
「あなたから見て楽しそう?困ったことはなさそう?悪い虫は近づいてきてない?」
「………………………………………………………………これ、もしかして尋問か何かです……?」
そうして和やかに夕食の時間は過ぎていった。『作り過ぎたかも……?』と思っていたが、あんなにたくさん作った料理はきれいさっぱり完食だ。皆お腹すいてたんだなぁ。フフン!でも作った甲斐があるってもんだな!
皆で作った夕食を食べ終えると、ささっと入浴も済ませることにした。うちのお風呂は大きいから全員で一気にいけるかと思ったが……流石に無理だった。キィは食事を終えるとすぐ黒猫状態に戻ってしまったうえに『自分お腹いっぱいなんで寝ます!』と言わんばかりに寝床へと行ってしまった。意思の固さを感じる。
うぅむ。じゃあ残った人で組み分けするか。三人までは一緒に入ろうと思えばいけるが、それでは残った一人がかわいそうだもんな。
「とりあえずキースは俺と一緒に入ろうなー」
「うん!」
いつものように俺とキースは一緒だ。と、いうことは……必然的に残りは決まる。
「じゃあ母さんと魔女で一緒に入る感じかな?」
俺はそう言って二人の反応を見る。大丈夫そうかな?
「待って、レイ。それは遠慮したいわ」
「へっへっへー奥さん?一緒に入りましょうよー。変なことなんてしないからー」
「ほら、こういうこと言ってるから」
母さんは心底呆れた表情を浮かべて、魔女を指差している。逆に魔女の方は心底ワクワクを抑えきれない楽しそうな表情である。うん。これは面倒くさいことになりそうなのは明確だ。これに関しては提案した俺が完全に悪いな。
で、結局母さんと魔女は後から一人ずつで入ることになった。まぁそれが一番丸く収まるよなぁ。なので俺とキースが一緒に入るだけである。
今日一日の汗を洗い落とし、ゆっくりとお湯につかるのが俺は結構好きだ。ほとんどキースと一緒に入るが、ここでキースとお喋りするのも大好きである。身体を綺麗に洗ったあと、俺はキースと肩を並べてお湯に浸かりながら早速お喋りだ。
「まま、きょうはいろんなことがあったねー」
「そうだなぁ。色んことがあったけど、キースは疲れちゃった?」
「ううん!いっぱいあるいたしー、いっぱいおはなししたけどー、おひるねしたからげんきいっぱい!」
キースはむん!と力強く腕を天井に向けて突き上げて、元気いっぱいアピールをする。しかし、ぽかぽかしているからか、やはり体力には限界があるのか目がとろんとしている。むむ。これは早めに出るべきだな。
「うんうん。キースは元気だなぁ」
「おばあちゃんともあってねー、ぼくうれしい!まじょはあんまりだけど」
「まぁまぁ、そう言うなって。魔女も悪い奴ではないからさ」
「えー」
キースは楽しそうだ。やはりキースにとってのおばあちゃんに会えたのはとても嬉しいことのようだ。俺もキースと母さんが仲が良くて心の底から嬉しいと思っている。
「でねー……それでねー……」
ただキースはそろそろ限界だな。お眠状態だ。よし、もう出よう。
「じゃあキースそろそろ出ようか。あとはベッドでお話ししよう」
「うん………」
そうして俺たちはお風呂から出た。キースの身体を拭き、パジャマに着替えさせ、ベッドに運ぶとキースはこてんと眠りに落ちた。おやすみなさいキース。いい夢を見てね。