TSエルフ、赤ん坊を拾う   作:面相ゆつ

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機能性で選んでるからな!

 

 普段通り、森付近の村に薬を店に卸しに行ったある日。そこの店主から卸した薬の代金を貰いながら、世間話をしている時のことだ。店主がまじまじと俺を見ているのに気が付いた。

 

 「薬師さんってずっとフード被っているけど、どうしてだい?そういえば一度も顔を見たことがないよ」

 

 

 別の日。個人依頼の薬を渡しに町へ行った日。ついでだし、キースにお菓子でも買って帰ってやるかと、焼き菓子屋に入っていった時のことだ。先に入っていた二人組の歳若い客が俺を見てひそひそと話していた。

 

 「あの人、私が子どもの頃からずっと不気味な格好な気がするの」

 

 「なんでだろうね……?怪しいね」

 

 

 また別の日。常備薬を提供しに教会に行った日。しょぼくれた神父がどんよりした表情で落ち込んでいるようなので、どうしたどうしたと周囲をグルグル回って遊んでいた時のことだ。わっしょいわっしょい。そんな俺の姿を見たアリアが心なしか、残念そうな顔をして話しかけてきた。煽るはまずかったか?

 

 「その気味の悪いローブばかり着ていますね……私の贈った服は着てくれないんですか?」

 

 ……俺の格好ってそんなにおかしいかぁ?

 

 

 俺が着ている、というより羽織っているのは深緑色の魔法のローブだ。この国、ゴーンに辿り着いてから俺が既製品のローブにかなり手を加えて作成した自信作である。

 厚手生地で身体全体をすっぽりと覆うことができ、認識阻害の魔法が込められているフードもついているので何かと便利なのだ。フードを被っている間は、どの角度からでもフードの中身が闇に包まれているかのように真っ暗に見える。すげぇ……自画自賛しておこう。

 

 それに特殊な繊維が編み込まれているから、ナイフで刺されてしまっても安心だ。これを着ている限りはめった刺しにされようが肌まで届くことはない。昔、思いっきり刺されて殺されかけた経験からの教訓だ。通り魔でも何でもどんとこい!

 

 ………………………………うぅむ、どう考えてもカッコイイ。機能性重視で素晴らしい。色も深緑でエルフっぽくていい。

 ただ一点、完全装備時には邪教徒に見えるのだけが難点だがまぁ大した欠点でもないだろう。現にこのローブを着て町に入っても、警備を呼ばれるのは年に数回だけだ。向こうも慣れたものですぐに解放してくれるしな。

 

 だが、ほんの少ーし怪しい格好しているだけで通報されるのもおかしな話だ。もう何百回も通っているのだから住民もいい加減慣れて欲しい。言うなれば戦士の鎧と同じ自衛の手段なんだからさぁ。

 

 

 ……よし!全くおかしくはないな!大丈夫だ!

 

 

 

 「いえ、それは同意しかねます」

 

 教会の懺悔室にて、シスターのアリアに如何に俺の服装が普通なのかを力説したのに結果はこの即答だ。

 えぇ……傷つくんだが!!

 

 「あとお悩み相談するのならいざ知らず、懺悔室はそういった個人の主張をする場ではないのでご遠慮していただけるとありがたいのですが……」

 

 おっとぉ?追い打ちかぁ?人が全然いないのだからさぁ。閑古鳥が鳴きっぱなしだぞ。

 

 「暇だろ?いいじゃねぇかよぉ。キースもそう思うよなー?」

 

 「あい!」

 

 胸に抱いたキースに同意を求めると元気いっぱいに返事をしてくれた。キースもこう言ってんだぞ!!!見ろよキースの太陽みたいなにこにこ笑顔をよぉ!何らかの賞が取れるぞ!

 ……アリアは壁を隔てた向こう側にいるから見えねぇか。つまりこの決定的瞬間は俺のものか。しゃあっ!!

 

 「そういう問題では……まぁいいです。とりあえず移動しましょうか」

 

 

 

 いつもながら人のいない祭壇のある大広間に移動してから腰を落ち着ける。おっ、珍しく近くに顔が死にかけの神父もいるじゃないか。こっちに来い来い。お前も話に参加しろ。手招きして神父を呼び寄せるとすげぇ面倒くさそうだ。

 

 「僕も業務があるんですけど?」

 

 「嘘つけー!どう見ても暇だろうがよー!」

 

 無精ひげを蓄えているだらしない神父が言葉ではぷんぷんと怒りながらこちらに来ているが、実際は怖くない。何より本当に忙しいのなら俺たちの方に来ないだろうしな!

 

 「まぁまぁ、座れよ。話を聞いてくれたらな、今度の薬を提供する時に神父用におまけしといてやるからさぁ」

 

 「……おまけの内容は?」

 

 「お前が欲しいのなんて精力剤とかじゃない?娼館で使うとか何とかで。聖職者として恥ずかしくないのか?」

 

 

 流石にアリアに聞かれて軽蔑されるともう本当に辛いから、背の高い神父を屈ませてこそこそと内緒話をする。何を隠そうこいつは聖職者のくせして堂々と昼間から娼館に行くやばい奴だ。表向きは相談を受けてという体ではあるし、確かにそれも事実ではあるみたいだが……それはそれとして楽しんでいるそうだ。

 

 薬を卸しに行った時に娼館の主から聞いたから真実だ。まぁその前から何度も娼館街をほっつき歩いているのを見かけていたしな……

 

 それでいて一応町の人からは慕われてるみたいなのがむかつく。業務自体はそこそこ真面目にやっているからか。むしろそういった場所で性欲処理している方が健全な感じなのか?これもまた大人の処世術というやつか。

 

 「そう!それでお願いします!何でもお話を聞きますよ!」

 

 「……提案した俺から言うのも何だけどさぁ。別に娼館に行くのは咎めないし、性欲処理が大事なのも何となくわかってるから。薬の用法と用量だけは守ってくれよ?そこまでは責任持てないからな?」

 

 「はい!それはもう安心してください!」

 

 うわぁ……目がギンギンだ……キースにはこういう大人にできればなって欲しくないなぁ……

 

 

 

 「で、だ。二人に率直な意見を聞きたいんだが、俺の格好についてどう思う?」

 

 キースをアリアに預けたうえで、長椅子に座った二人の前に立っていつもの俺の外出スタイルを審査してもらう。もちろんフードを被った状態である。全身を観察してもらうためその場をクルクル回っておく。

 

 「不審者ですね。誰も言わないから知らないのでしょうけれど、その格好は住民の方々からの評判も良くありませんよ。人攫いに見えるとかなんとか……だから私が贈った服を着ましょう。今からでも」

 

 アリアがそう言う。別方向からの並々ならぬ圧も感じるのは気のせいではあるまい。

 

 「改めて見ても不審者ですかねぇ。この前も警備の人に連れていかれていませんでしたっけ?レイさんの格好が不気味だからどうにかしてくれないかと町の方々にも言われてるんですよ。どうにかなりません?」

 

 続いて神父もそう言う。うわ、最悪。そんな情けない場面見られてたのか。

 

 二人の意見を参考にすると……若干劣勢だな。ふーん……評判悪いんだぁ……へぇー……

 

 

 「薄々わかっていたでしょうに。とりあえず僕の覚えている範囲で肯定的な意見はないですね。フードの中身が真っ暗で目だけが光っているのも怖いと思いますよ。夜に出会うとお化けかと思うとも言われています」

 

 「むしろ今まで何も思わなかったんですか?何か町で事件が起きた時は半分冗談でしょうけれど真っ先に疑われていますよ……?さぁさぁ!そうとわかれば、その怪しくてボロボロなローブを脱いじゃいましょうか。早く私の部屋に行きましょう?」

 

 神父とアリアが追撃をしてくる。  

 えっ、俺ってそんな目で見られてるの?そんなにもこのローブダメか?ここまでぼろくそに思われているとは……流石の俺でも落ち込むぞ。

 

 「俺ってヤバい奴に思われてんのか?」

 

 「フードを外すだけでも印象は良くなるとは思いますけど。僕たちはともかく、やっぱりあまり関わりのない人にとっては顔を隠されると警戒しますよ。フードの中身を覗こうとしても、そこにあるのが虚無なのは余計に」

 

 「マジか。マジかぁ」

 

 思いのほか辛辣な意見を浴びせられた俺は腕を組んで天井を見上げる。

 

 どうやら人間は顔が見えないと恐ろしく思ってしまうようだ。いやまぁ誰だってそうだろうけど……それならばと渋々フードを外してみる。

 認識阻害の魔法が解かれて顔が露わになると目の前の二人がそうだよなぁという風な表情で見つめてくる。

 

 「………………………………常々思っていましたけど、こんなもん逆に詐欺ですよ詐欺!なんであの粗暴な言動と怪しげな風貌から金髪美少女が出てくるんですか!せめてもっと邪悪で意地悪な魔女みたいなのが出てくるべきでは!?」

 

 「いつ見ても綺麗です……やっぱりそのローブじゃないものを着ましょうね。ほら早く早く!」

 

 二人とも急にヒートアップするじゃん。こっわ……特にアリアがローブを引き剝がそうとしてきてより怖い。無理矢理はやめて欲しい。いつもはこんな子じゃないのになぁ……

 ほらキースも『アリアお姉ちゃん何してんだろう』みたいに見てるから。しっかり者のそんな姿をキースに見せたくないから。やめてくれ……ぐいぐい引っ張らないでくれ。

 

 「そりゃあ俺もエルフだからな。まぁ?でも?この神に愛されたともいえる俺の美しい容姿を褒められるのは良い気分だなぁ!おら!もっと褒めろ褒めろ!崇めろ!俺を喜ばせてくれ!!」

 

 

 気を取り直して、胸を張り最高の笑顔で答える。アリアはともかく神父は若干けなしているような気もするが、トータルで聞くと容貌を褒めている事には変わりない。フフン!俺は褒められることが何よりも好きなんだ。めちゃくちゃ気持ちいい……自己肯定感がぐんぐん上がってく。

 

 「……これがなければなぁ」

 

 「神父様、これがレイさんの良いところでもありますよ?際限なく褒めていったら調子に乗って自滅するか、取り返しのつかないことになりそうな程にチョロいところが。そこを狙うんです」

 

 「うわぁ……あまり口出しできる立場ではないですが相当趣味悪いですよそれ……」

 

 

 何か二人がこそこそしているが気にしないぞ。めちゃくちゃ気分が良いからな!今だったらある程度の頼みなら受けてしまいそうだ。

 

 「フフン!次はどうする?」

 

 「じゃあローブ脱ぎましょうか?」

 

 「おう!いいぞ!任せとけ!」

 

 アリアから提案を即断即決し、ばッとローブを脱ぎ去る。外でローブを脱ぐのってなかなかしないからすげぇ開放感だなぁ!

 ローブを脱いで下に着ている服が見えた瞬間、その場の空気がしんとなるのを感じた。二人が二人ともあんぐりと口を開けている。えっ。何?

 

 「おっ、眼福……」 

 

 「神父様!見ちゃだめです!!」

 

 二呼吸は置いてから真っ直ぐな瞳でそんな言葉を呟いた神父と、その言葉に反応して慌てて神父を声で制すアリア。そして神父に『目を瞑ってください。いいですね!?』と必死に言い聞かせている。対する神父も意外にも素直に目を自らの手で覆った。指の隙間が広い。キースも神父の真似して小さな手で目を隠している。上手に真似てて偉い!

 

 「そ、それは?」

 

 アリアが震える指で俺の服を指し示す。

 

 「それって……あぁこの服のことか?なかなかいいだろー。正確には服っていうよりは、このペンダントから持ち主の魔力に反応して構成されるものなんだけどな?これが動きやすくってさぁ」

 

 これこれと首元に付けているペンダントを指先で弄んでアリアに説明する。縦に少し長いひし形の青いペンダントで、エルフの種族にのみ製法が伝わるものの一つだ。

 昔々、学院に入った記念に贈られたアクセサリーで、故郷の国を出る時にこれだけは持ちだしていてたまに使っている。魔力を込めると一瞬で服が編み込まれるから服の着脱の手間も省けるし、何より洗濯いらずで楽なんだ。破れたとしても、もう一度魔力を込めると再生するし。

 

 「どうだ?似合ってる?」

 

 「似合ってはいます!!けれど、ご自分のその服について何か思うところってあります……?出来ればあって欲しいです」

 

 「うーん……?」

 

 なんだか要領を得ないな。でもこの服についてかぁ。気にしたこともなかった。

 

 そう尋ねられて改めてこの服について考えを巡らせてみる。ふむ……見た目は幾何学模様のついた真っ白な胸の下から垂れている前掛け、それと一体になっている丈の短いパレオ型の腰布を除いて暗色で全体的にぴっちりしてる。それにごちゃごちゃな装飾がなくてシンプルだ。

 

 まぁ俺自身、もったいないという理由で家着として使用するだけだ。今日もたまたま使っている。

 

 両親も含めて数少ない他のエルフもこのペンダントを持ってはいるけど使用している様子はなかった。伝統的な衣装と言われる割には。

 

 あぁそうだ。なぜみんなこれを使わないのかを不思議に思い、一度母に疑問を投げかけたことがある。平時は穏やかで焦ることがない母が珍しくしどろもどろになって『一応は正式なエルフの伝統衣装ではあるけど……』ともごもごしてなぜか最終的には『あなたは男性タイプの衣装になるけど……使ってみるとわかるから』と曖昧に言葉を返された。で、ほぼ使わなかったけど、別におかしなところは何もない。

 

 

 さらによく観察すると首元から足先にかけての全身にフィットする素材の……布?何だろうなこれ?まぁそんな感じので構成されていて触れるとすべすべしているな。袖は一切無く、背中が大きく開いていて涼し気だ。。

 ……あと今更ながら胸の部分が強調されてるな作りなのにも気が付く。ぴったりとしてるから余計に。今の身体はその……そこそこ胸が大きいからそう感じるだけかもしれないけど……まぁ別に露出しているわけではないからいいのかな……

 下半身にも目を向けると、やはりこちらも肌に張り付くようにぴったりだ。腰の横から太ももの付け根にかけては何の理由であるのかよくわからないが、大きな円形の穴が開いていてスース―する。ここに関しては腰布で隠れているから恥ずかしくはない。それとは別に内側の太ももから足に向かって大きな縦のスリットも入っている。なんでだろう……?

 

 じっくりと俺が着ているものの特徴を思案し、アリアと神父の反応を鑑み、そこで一つの結論に至った。

 

 

 「あっ、えっ。この格好ってもしかしてかなり変?」

 

 「変とまでは言いません!でも……その……一般的な感覚ではかなり際どい衣装ではありますよね……身体の線がこれでもかと思うくらいわかってしまううえに、肌の露出も多いので……少なくとも私には着る勇気がありません」

 

 だいぶ言葉を選んでるじゃねぇか!……あぁ、母が言葉を濁した意味がようやく理解できた。そりゃあ直接的には言えないわな!

 

 「で、でもこれはエルフの伝統的な衣装って教えられた……」

 

 「あー、ほら、あるじゃないですか。現代ではもう古臭くて着てなかったとしても、その種族ならこれ!とかその職業ならこれ!っていう仮装が。だから、それはエルフの伝統衣装なのには変わりないはずですよ。ただ人前に出るのはためらう程度にはエッチなだけで」

 

 指の隙間からこちらを窺っていた神父が横槍を入れてくる。人前に出るのが恥ずかしい伝統のエロ衣装……?

 

 「娼館でもそれに似た衣装を見たことありますねぇ。いやぁ、だけど本物を目にするのは初めてですよ。僕はそういうのって露骨すぎて逆に萎えるタイプだから頼みませんけど結構人気らし……痛いっ!」

 

 気色悪いことを平然と言ってのけたので脛をげしげし蹴っておく。魔法で凍らされないだけありがたいと思えよ。エロボケスケベ野郎がよぉ。

 

 ローブで全身を隠していたからいいものの、もしもこれで堂々と外に出ていたら……とんだ破廉恥エルフじゃないか!やべぇ……急に恥ずかしくなってきた。

 

 「蹴らないでくださいよぉ。言っちゃなんですが、方向性は違えどよくわからない邪悪なローブを羽織って顔を隠しているのと、ローブを全部脱いでその服でいるのは、同じくらいアレなんじゃないですか?」

 

 「アレという言葉に色々な意味を込めないでくれ……!この服もだけどローブも機能性重視だし……!そもそもローブで全身隠すのってカッコいいだろうがよ、謎の存在っぽくって!あっ……」

 

  あぁ!言ってしまった……

 

 「あれこれ言ってましたけど、結局ローブに固執してたのってそれが理由なんです……?へぇ……カッコいいと思ってたんですねあのローブ。ふぅん……いえいえ!いいんですよ。好みは人それぞれですもの」

 

 「ぷっ、ククク……謎の存在って……!あぁすみません。笑ってません。笑ってませんよ。フフフ……でもレイさん、子どもじゃないんですから……あれ?いくつになったんでしたっけ?僕よりおいくつ上なんでしたっけ?」

 

 俺にはわかる。両者に共通しているのは大なり小なり『こいつガキだなぁ』という気持ちだ。アリアはにっこりと慈母のような微笑みで、神父は心底面白いものを発見したかのようなこらえきれない笑いで俺のことを見ている。グググ……屈辱だ……

 

 「そんな感じになるのが目に見えてたし、絶対に嫌だから本当のこと言いたくなかったんだよ!二人とも嫌い!もう知らん!帰る!」

 

 意見を聞きに来たのは俺自身ではあるが、そのことは棚に上げてキースと一緒に帰ろうとする。雲行きも怪しくなりそうだし……しかし、アリアに腕をがっしりと掴まれたことでそれは不発に終わってしまった。力が強い!逃げられない!

 

 「僕はキースくんと一緒に遊んでおきますんで。ごゆっくり~」

 

 あっ!いつの間にかキースが神父の膝の上に!しかも二人でバイバイしてる!

 

 「この際、ローブに関してはそのままで構わないでしょう。正直フードを外せばそれで良いことですので。ですが、その下!その下に着るものだけはどうにかしましょうか。ね?あと普通に教会の子たちの教育にも非常に悪い!!」

 

 アリアの言葉からは有無を言わせない雰囲気を感じる。こ、怖い……その圧倒的な雰囲気に押されて思わず頷いてしまった。あーあ。終わりです。隙を見せた俺が悪い。

 

 「では!私の部屋に行きましょう!さぁさぁ!」

 

 「はい……」

 

 

 そうやって引きずられながら大広間を後にするしかなくなった。はいはいこういうことね。もうこれは諦めの極致だ。言葉での説得は意味をなさない。狩猟者に狩られた獲物は大人しくするしかないのだ。

 

 その途中で神父と目が合う。そういやお前、結局全然目を瞑ってなかったな。多分無駄だろうけど、一応神父に向かって助けてくださいとアイコンタクトを送る。助けてくれたらおまけを倍増するぞ!

 

 「うわぁ……他人事ながら惨めで可哀そうですね……あっ!レイさーん!さっきの約束忘れないでくださいねー!話は聞いてあげたんですからー!」

 

 もうこれっぽっちも伝わらなかった。あぁ、こいつ期待するのが間違いだった。まぁでも、俺は友情と約束は大体守る男だ。了解の意味を込めて右手を握りグッと親指を高く掲げる。任せとけ。

 

 「さっきの約束って何ですか?」 

 

 「男同士の熱い約束だ。気にしてはいけない。あっ!キースぅ!!泣かないでちょっとだけ待っててくれ!俺頑張るから!!」

 

 「がんばえー!」

 

 キース!キース!と今生の別れの如くである。あぁ!キースが泣いてない!俺がちょっと離れていっても泣いてない!成長してる!俺が泣いちゃう!!すぐ戻って来るから!

 

 そうして元気よく手を振る神父とキースに見送られながら俺はずるずると引きずられていくのであった……結局俺の悩みの正解は、ローブは脱がなくていいからフードくらいは外せってことでいいんだよな……?

  

 

 

 

 居住スペースのさらに奥、そこにある一つの部屋に俺はいる。アリアの部屋だな。

 

 アリアがシスターになった頃は『私だけの部屋ですよ!』と一人部屋を貰ったのが嬉しかったのか、よく連れていかれていたが……最近はそんなことも無くなっていた。今の身体は男ではないが、そもそも身内でもない男を入れるのは嫌なのだろう。寂しくもあり、成長したんだなぁと兄心もあり……とそんな感じだな。

 

 アリアの部屋に連れ込まれた俺は煮るなり焼くなり好きにしろい、というなんとも堂々とした態度である。どうせ数着着れば満足するだろうし。

 

 流された感はあるが、想像以上にウキウキしてベッドの上に服を並べ始めているアリアを見るに、俺としても今まで贈ってもらった服を少しぐらいはアリアの目の前で着ればよかったかな……とも思うわけで。やっぱりせっかくくれた服を着た姿を見せないのも悪いなぁとも思うわけで……だからまぁいい機会だろう。あ、ローブは畳んで端に寄せとくか。

 でもアリアのくれる服ってなんつーかスカート系が多いんだよなぁ。

 

 「とりあえず一旦、その服を脱いで……あれ?」 

 

 「どうした?」

 

 俺の方を振り返ったアリアが言葉を言いかけていたのを止めて、何かが気になるのか前から後ろからじっと俺の服を観察すると、突然不思議そうな声を上げた。どうしたのだろうか……俺は既に覚悟完了しているんだが?

 

 「これってどうやって脱ぐものなんですか?見たところ上から下までぴったりと張り付いてますし」

 

 「あぁ、わかりにくいよな。魔力で作られてるから脱ぐにはペンダントから魔力を抜かないといけないんだよ。すぐに終わるから待ってろ」

 

 結局のところ、この服の本体はペンダントだからな。魔力を抜く、というのが正しい表現かは疑問が残るかもしれないが、そうとしか言えないのも事実。その抜いた魔力は俺自身の身体に戻っていくから、どうしても魔力が足りない時には再利用も可能だ。うーん、便利。そんな事態はないだろうけどもしもの時用だな。

 魔力を抜く作業も一瞬だ。俺としては深呼吸を一回するような感覚で終わりだ。吸ってー吐いて―。そうすると服が光に包まれて消えていった。

 

 「ほら、これでいいだろ?」

 

 「ん!?えっ!?」

 

 お望み通りに脱いだわけだが、アリアがぱっちりした目をさらに大きく見開いて固まってしまった。あ、さてはエルフの超絶技術に驚愕したんだなぁ?フフン!すげぇだろぉ!俺が作ったのではないけど、とりあえずえっへんと胸を張っておく。 

 

 「な」

 

 「な?」

 

 「なんで裸になるんですか!?!?!?!?隠してください!!」 

 

 うおっ!声がでかい!顔を赤くして怒ったアリアが慌てた様子で俺にシーツを渡してくる。男の時ならまだしも、今の俺の身体は女だ。いわば同性の身体なんだから別に怒ることはないと思うんだけど……あ、同性でも他人の裸を見るのは嫌だわな。俺だって男の全裸はあまり見たくはない。しかし、ここで俺がうろたえてしまうのは負けた気がする。

 

 「魔力で構成されたものって言ったろ?こうなるのも必然なんだから仕方ないよな」

 

 「あれ?おかしいのは私?いやいやそんなことはないはずです!インナーは!?」

  

 「………………………………まぁ、その辺は今日はいいじゃないか。インナーはともかく脱ぐってなるんなら全部消えるんだ。便利だろ?極論、服なんて身体を隠せればいいだけなんだし!で、さっきまでは隠せてた!問題なし!」

 

 「……」

 

 「うん、そうだそうだ。インナーのあるなしは置いといて、最悪布で隠せていればいいんだよ。俺って結局、外出する時ってローブ着るから!中に何着ててもわかんないから!」

 

 シーツで身体を隠し、目を逸らしながら答える俺にアリアは絶句しているが、やっぱり脱ぐという動作がいらないってすげぇ楽だと思うんだよな。そして逆も然り、着るのにも動作なしだ。着脱が一瞬だぞ一瞬。

 

 ただ呆れを通り越して、ブチ切れているアリアの前で言わなくてもよかったかなぁとか思うわけ。

 

 「レイさん。座ってください。正座」 

 

 「……最後に一つだけ言い訳してもいいか?」

 

 「どうぞ」

 

 「今日はたまたま横着しただけで、いつもちゃんと着けてるから。俺元々男だし!セーフセーフ!……ダメ?」

 

 

 ………………………………その後、説教を食らったうえ、着せ替え人形となったのは言うまでもない。

 まぁキースに俺のいつもと違う服装を見せたら、キャッキャッと喜んでくれたから差し引きプラスだな!!!

 

 

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