TSエルフ、赤ん坊を拾う   作:面相ゆつ

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普通に不審者

 

 住みやすい町の条件とは何であろうか。活気があること?店が充実していること?はたまた領主による善政が敷かれること?うんうん、どれも大事だな。まぁ『住みやすい』とは個人の感覚によるものだから人それぞれかもしれねぇな。

 

 俺にとっての住みやすい町の条件とは、治安が良いことかなぁと思っている。犯罪が起こるのは仕方ない。貧富の格差も仕方ない。

 だがそれを迅速に対応し、事前に犯罪を抑制をする仕組みが出来上がっている町は自然と治安が良くなるのだろう。 

 

 その点で言えば、キューンという町は荒れた場所はあるものの、表向きの治安は比較的良いように思える。単純に公的な警備の人員が優秀であることに加えて、何かあれば町の住民から気軽に相談や通報できる距離感の近さもあるからだ。

 むやみやたらに権威を振りかざさず、困った者がいれば手を差し伸べる。なるほど。確かに住民からの信頼は厚いのだろうな。つまりは理想的な警備隊なんだろうなぁ……………………まぁ、俺は森に住んでるからあまり関係ない話だが。

 

 

 

 「キースぅ。町でお散歩楽しいなぁ」

 

 「きーすおさんぽ!」

 

 「そっかぁ、お散歩好きかぁ」

 

 ある日俺とキースは町へ買い物に来ていた。キース用の新しい絵本を一緒に歩いて!手を繋いで!買いに来ているんだ!!

 

 よちよち歩きだったのも過去の話!!とことこ歩きへと進化している!一人歩きだってなんのその!走るのだって出来ちゃう!すげぇ!

 

 さらに言葉もどんどん吸収していって、なんと単語を繋げてお話だって出来るようになっている!前々から割と意思疎通がスムーズだなぁとか思っていたが、遂に言葉が……蓄積されてきた語彙が爆発してきたというわけだ。

 

 もうな、怖いよ。キースの成長がよぉ。キースと出会って一年と何か月かはとうに過ぎたが、なんでこんなにも順調に育っていくのかがわからん!

 

 俺の保護者力がすげぇのか?いや違うな。全然違う。それはない。だってキースがすげぇからすげぇんだよ!なんか人間の赤ん坊って成長が早ぇのなぁ!

 

 こんなのキースが自力で空を飛び始めても俺は驚かない。多分『まぁ、キースの成長考えたら最終的には空も飛ぶよなぁ』とか『今日も飛んでんなぁ』で済ませてしまうと思う。

 

  

 ………………………………ん?あれ?周囲が異様な雰囲気に包まれているのに気がついた。あっ、これは。

 そしてきっちりと軽装の鎧を着こんだ二人組が近づいてきて、そのうちの一人がこう言った。 

 

 「……毎度申し訳ないんですが、一応来てもらってもいいですか」

 

 「………………………………はい」

 

 

 

 現在俺たちがいるのは教会近くにある警備詰め所である。なんでそんなところにいるかと言うと、いつも通り誰かしら町の住民に通報。で、警備隊によって連行されたからだ。もういつも通り過ぎてもう笑うしかねぇな!!

 

 

 俺がキースを膝に乗せ、大きめな椅子でふんぞり返っている周りには、屈強な男たちが薬草を生で嚙んだ時のような苦々しい顔をして佇んでいる。取り調べに必要であろう最低限の物しか置いていない広い部屋には申し訳なさそうな雰囲気が漂う。

 

 俺もキースもよく連れていかれる場所だから緊張感もクソもないが。ほら抱っこしているキースなんて膝の上でうとうとしてるよ。フフフ、愛らしい。

 こんなにもでけぇ男たちに囲まれても余裕でうとうとできるキースは大物になるぞ~!

 

 

 

 「それで?今回はなんで?いや、やっぱいいや。詳細は何となくわかるから」

 

 俺は目の前に座っている顔見知りになってずいぶん経ったこの詰所の警備兵長に、『こういうことだろ?』と伝えるために俺の着ているものを親指で指し示す。

  

 「そんな感じですね……」

 

 疲れ切った表情を浮かべて頷く彼を見ると、俺も怒るに怒れず何も言えなくなる。その警備兵長とお互いに顔を見合わせ、もうため息をつくしかない。

 

 まぁ………………………………つまり、ローブで完全装備した俺がその辺をふらふらとうろつくと何らかの事件ではないか?と住民は思うらしいのだ。やはりこのローブの良さは一般人にはわからないかぁ。まだまだ俺のセンスが報われるのには時代が悪いようだな。

 

 その住民の善意による治安を守るための正しき行動の結果がこれだ。俺はまたか……と呆れるし、警備側もまたか……と無駄に仕事が増やされるのだ。

 だが、通報されたのなら向こうは無視するわけにはいかず、俺としても逃げるわけにはいかず。そうして徒労の連鎖がここに発生しているのであった。

 

 形式的な取り調べだ。めんどくせ。

 

 

 「僕たちもそのローブを着るなとは言いませんよ……せめてフードは外しましょうよ。怪しさ満点ですよ本当に」

 

 「外してたつもりだったんだけどなぁ。へへへ、忘れてた」

 

 教会の奴らと同じこと言われてるな……まぁ時代を先取りしたこのローブのカッコよさについてこられないのは仕方ない。誰も悪くない。不審者と思われるのは甘んじて受け入れよう。

 

 それはそれとして、最近は不審者と思われないようにフードを着けずに出歩くように心掛けていた。まぁ心掛けただけど。

 

 でも、今までずーっとフードを被った状態で外出してたわけで。そりゃあ忘れるよな?現に室内にいるのに今もフードを被っているのだから習慣って怖いよなぁ。

 

 それでも納得のいかないことはあるぞ………………………………!

 

 

 「でもさぁ。俺も言わせてもらうけどな?そろそろ慣れてもらってもいいんじゃないか?俺もある程度の年数はこの町を行き来してるんだぜ?」

 

 

 もう何年?そこそこ経ってない?いくら住民の好みに合わない格好であったとしても慣れるだろうがよぉ。しかも薬を売り歩くという真っ当寄りの仕事をやってるんだぞ。

 およよ……善良な薬師になんたる仕打ちなんだ。質の良い薬だって安価で卸してるのに……

 

 「たまに着る、とかならそれ程でもないと思います。『今日はその格好なんだ』でみんな納得するはずですが、少なくともある程度の年数は同じ格好で町を練り歩いているわけで……そのうえよくわからないフードで顔も隠されるとなると……わかるでしょう?」

 

 「はいはい、不審者なんだろ。わかってるよーだ。でもそれにしたってさぁ、最近多いんだぞ」

 

 住民には不気味に見えるんだろうが、別に町の中で変なことは多分していない。これまで何の罪を犯していないという実績があるのになぜだ。

 俺が少しだけ悲しみを込めた言葉を投げかけると、目の前の警備兵長だけでなく周囲の奴らも『あー……』といった様子で目をそらした。これは……何らかの原因があるな?通報が増えた理由、格好以外にあるんだな?

 

 「えぇっと何かあるのか?この格好以外で……?」

 

 「無いと言えば嘘になります。誤解と噂と事実の相乗効果になるんですかね、この現象って……」

 

 そう言って生気のない遠い目をするのを見ると、なんだか相当面倒くさそうな気がする……!俺の明晰な頭脳とこれまでの経験が『長くなりそうだから帰ろうぜ』と囁いている。聞かない方がいいかもしれん。

 

 「やっぱり言わなくて「あなたにも関係することですから聞いてくれますよね?」あ、はい……」

 

 有無を言わさず話そうとする圧がすごい。帰りたくなってきた。

 

 

 

 もう帰りたいんだけど……と口出しできる場面ではないので、俺も大人しくすることにした。俺は空気もしっかり読めるエルフなのだ。偉い!

 

 既に寝息を立てているキースをよそに、そのことについて喋りたくてたまらなかったのであろう警備兵長がゆっくりと真剣な面持ちで説明をし始めた。

 

 

 「まず前提ですが、あなたの町の住民からの認識は甘く見積もって不審者です。ただ、悪感情があるわけではなく基本的には、主にその格好のせいで『変な人だなぁ』と思われるようなタイプの不審者ですので、安心してください」

 

 「実害がないタイプってことでいいのかそれ。不審者にも格があるんだなぁ……」

 

 十段階評価で一くらいの不審者レベルってとこか。しかし、どの部分に安心すればいいんだ。嫌われてはない部分にか?格上だろうが格下だろうが結局不審者じゃないか。

 

 毒薬の中でも効き目は弱いから!ちょっとお腹が痛くなるくらいだから!命の危険はないから!というようなものだろうがよ……毒は毒だろうがそれはよぉ……!!

 

 

 「今までは、つまり通報が多くなる以前までは『不気味な格好をした人がいて怖いからどうにかしてくれ』などの他愛のないものばかりだったんです。大体月に1件かそこらでした。一応連行して職務質問は行っていましたけど、実際何も悪いことをしていないわけですし」

 

 「そうだそうだ!俺は清廉潔白だぞ!」

 

 胸の中で眠るキースを起こさないように極力声量を絞りながら俺も断固として口を挟む。そもそも無実のエルフを事情聴取するのもどうかと思うけれど、その辺を混ぜっ返すと混沌が生まれるので自重する。

 

 

 「清廉潔白かどうかはさておいて。無害ではあるので放っておこう、というのが私たちの見解ではあったんです。どういう経緯でここに来ているのかは不透明でしたけど、節度を持って適正価格かつ効果の高い薬を卸しているのは皆が知るところだったので。『薬の』評判が良いのは確かですよ」

 

 「ほお?いいね。もっと褒めてくれてもいいよ」

 

 「………………………………個別の依頼もすぐに対応してくれるうえに、調合の難しい薬であっても難なく納品できるとはよく耳にします。『薬に関すること』ならば、この町の老若男女からかなり信頼されていると思います。恥ずかしながら私もその一人です」

 

 「フフン!そうだろう!自慢だがこの土地一番の薬師と自負しているぞ!」

 

 

 いやぁ、そう言われると鼻高々になってしまうなぁ!まぁ?故郷の国では魔法薬の分野のトップであったわけだし?俺ほどの薬師はそうそういないぞ?

 ところどころ『薬』の部分だけ強調されるのは引っかかるけれど、細かいことは気にしない!

 

 「それに教会へ常備薬の寄付を行っているのはこちらも把握しています。それも教会で使うであろう量よりもたくさんの薬を」

 

 「……ふぅん。そんな些細なことも知ってんだ。ま、ちょーっと作りすぎたのをもったいないから渡してるだけだからな。倉庫で腐らせるよりかはいいだろ?」

 

 俺はふんと鼻で笑って何でもないように返答する。作りすぎたのは真実で、もったいないからも真実だ。その結果生まれたのが自己満足なだけだ。

 

 

 ……教会に寄付すれば、金がなくて薬を買えない奴にも届くだろうから。俺がそういう奴らに表立って無償で薬を渡すのは、多分よくないと思う。あいつらなら上手いこと行き渡らせてくれる。ただの個人の俺よりも、名目上でも神からの施しである方が心情的にも受け取りやすいはずだ。

 

 「…………あなたに利益はないでしょうに。なぜそんなことを?」

 

 「なぜ、かぁ」

 

 多く作る分、材料も労力も多く消費される。金品と代わりに交換というわけではない。物理的な利益という点で見れば、皆無に近い。あるのはやり切ったなぁという達成感だ。現実に手に残る物は存在しないのだ。

 

 そもそも始めた理由なんて、何となく。それに尽きる。元々は教会に薬を寄付するついでだ。困ってる奴がいるなら使ってやればいいんじゃない?くらいの感覚で多く寄付するようになっただけ。止めようと思えばいつでも止められるし、それを咎める奴もいない。あ、でも止めたせいでアリアや神父が悲しそうな顔をするのは見たくないなぁ。

 

 教会への寄付は止めない。だって世話になっているから。『教会にだけ』必要な分だけを寄付するだけでもいいのだ。じゃあ関わりもない、見ず知らずの名前もわからない他人のために、なぜ薬を多く作って渡しているのか。 

 

 敢えて。そう、敢えてこれを続ける理由を見出すとすればそれは…… 

 

 

 「俺、カッコつけたいんだよ。この子の……キースの前では一番カッコよくて、一番誇れる俺でいたいから……やってるんだと思う」

 

 そうだ、これに尽きる。

 

 キースの身体を抱きしめ、フッと息を吐くように言葉が流れ出た。『苦しんでいる人を見過ごせない』という聖人のように高尚な理由などなく、何とも俗っぽく子ども染みた本心だ。

 

 キースに誇れる自分でありたい。キースにすごいって思ってもらいたい。結局のところよく知りもしない困っている誰かのためではなく、俺自身のためなんだ。

 

 

 「思い浮かんだ理由なんてそれだけ。残念。がっかりしたか?もっと立派な信念があるとでも思ったか?それならお笑い種だ。寄付なんてするのは、俺の目的のために利用してるだけだよ」

 

 俺は少しだけ侮蔑を含んだ笑い込めて、ポカンとした顔をしている警備兵長に言葉を返す。もちろん侮蔑は相手にではなく俺自身に向けてだ。本当はもっと殊勝なことを言えればいいんだろうけどな……

  

 

 「……それはズルすぎでしょ」

 

 「へ?」

 

 「おいお前ら!聞いてたよな!さっきの理由を聞いてどう思う!」

 

 思ってもみない言葉が聞こえて戸惑ったのも束の間、警備兵長が周りで聞き耳を立てていた部下たちにそう呼びかけた。えぇ……急に何……?

 顔を見合わせた警備兵たちは意を決したように次々に呼びかけに答え始めた。

 

 「和みます」

 

 「ほのぼのとした気持ちになります」

 

 「いいと思いますね」

 

 

 「えっ怖い怖い……」

 

 筋骨隆々な男たちはそう口を揃える。好意的な感じだ。なんでぇ?先程までの呆然とした表情から一転して、目を細めて微かに笑っている警備兵長に対して、首を傾げ疑問の視線を俺は向けた。

 

 「すみません、微笑ましいなと思ってしまって。ここにいる皆も同じ気持ちです。カッコつけたい、大いにいいじゃないですか」

 

 「ほんと?」

 

 「男たるもの、カッコつけたいと思える相手がいるのは喜ばしいことです。私だって同じですもん」 

 

 「そ、そうだよなぁ!!」

 

 共感されるとは思ってもいなかったから、想像以上に嬉しいぞ。そうだよ!カッコつけたいのは正常だよな!ここにいるのは皆、男だ。それすなわち、いくつになっても心に男の子マインドを持っているのだ。

 

 「そんなくだらない理由で?とか軽蔑されると思った」

 

 「何言ってるんですか!思うわけないですよ!それにね、どんな理由があろうとも、実際に行動に移して続けているのはあなたなんです。だからこそ、感謝されてますよ。誰からも」

 

 「えへへ、そっかぁ」 

 

 

 

 フフン!俺は間違っていないことが立証されてしまったな!……………………?いやちょっと待て。なんか部屋中がほんわかした雰囲気になったけどちょっと待て。

 

 「えっ。薬師として割と信頼されてるうえで、まぁまぁ感謝されてるのに総合評価が不審者なの?」

 

 「そうですね」

 

 「そっかぁ……………………」 

 

 おい!周りの奴らも頷くな!納得いかねぇぞ!

 

 

 

 

 「話を戻して、ここからが本題です。あなたは不審者ではあるけれど、諸々の評判込みで『まぁ別にいいんじゃない?』程度の不審者なわけですよ。人が滅多に立ち入らない『あの迷惑な魔女がいた』怪しい森に住んでいる、どこから来たかも定かではない、性別もわからないような奇々怪々なローブを常に身に纏っているというのを差っ引いて」

 

 「想像以上にマイナス要素が多かった」

 

 「ですが……ですが!数年前は今よりはマシだったんですよ!通報件数も段違いに少なくて!」

 

 「ということは……新たなマイナス要素が追加されたってことか。それのせいで住民からの通報も増えたと」

 

 拳を握りしめ、しかしその拳をどこに降ろすでもなく開く警備兵長の様子には涙を禁じ得ない。あぁ疲れてるんだなぁ。可哀そうに。

 でもなぁ……身に覚えがない。この善良な一般エルフに加点することはあっても減点することは皆無だろうに。くぅくぅと涎を出して眠るキースの口元を拭きつつ、頭をフル回転させるがやはり思いつかない。

 ……面倒くさくなってきたなぁ。さっさと帰ってキースにベッドでお昼寝させたいんだけど?

 

 そんな様子を見ていた警備兵長は真剣な表情で俺に告げてきた。

 

 「……原因なんてご自分でもわかってるとは思いますが、聞きます。その子はどこで?」 

 

 「……………………えっ。もしかして、俺がキースをどこかしらから攫ってきたとでも思われてる?」

 

 そういうことかぁ、で済ませちゃダメだろうな。尋問か?尋問が始まるのか?

 

 

 

 ここで焦ってはいけない。焦ってしまっては何も悪いことをしていないのに怪しくなる。冷静に、冷静にだ。つーか今頃になって聞くなよ……さっきまでキース見てほんわかしてたじゃん!!!

 

 「も、森で拾ったんだ。攫ってない。俺、悪いこと、してない。信じて信じて」

 

 全身が小刻みに揺れ、若干カタコトになりながら自分の潔白を言葉で証明する。いや、無理だろ。証明できねぇだろ、こんなの。なにこれ、俺牢屋行き?キースと引き離される?

 

 「落ち着いてくださいって!人攫いしてないのぐらいはわかってます!少なくとも、この辺りでそんな特徴的な髪色の子どもが攫われたなんて情報もありませんでしたし!」

 

 俺のあまりにもあんまりな動揺具合が功を奏したのか、向こうも必死に落ち着かせてきてくれた。

 

 「教会からもその子のことは聞いていましたし。それにこのご時世、割り切りたくはないですが捨て子もいます。むしろ魔物や野生動物に襲われる前に見つけられたのは幸運でしょう。ですが!」

 

 「ですが?」

 

 「今まで何の素振りも見せなかった人が急に明らかに見知らぬ子どもと一緒に行動し始めたら……ね?町の住民の方々がどう思うかと言うと……わかるでしょう?」

 

 「あぁ~」

 

 納得!

 向こうは言葉を濁したが、俺にもわかる。攫ってきてると思う。特に森の奥の方に住んでる俺の暮らしぶりなんて、ほとんどの奴は知らないから余計に怪しい。怪しさのミックスジュースが完成するわな。

 

 

 「いやぁ、人攫いの不審者か。俺も通報するねそれは」

 

 「どうしても事実とは異なる噂が先行してしまうことがありますが、元々の怪しさにそれが加わると警戒度の倍率がドンと上がるようで。噂は噂なので信じる信じないは個人差がありますけど、実際に一緒に歩く姿を見ると『あの噂ってやっぱりそうなんだ!』と思ってしまうそうなんです」

 

 「俺が言える立場ではないけど迷惑だぁ」

 

 「そうですよね……やんわりと訂正はしていってるんですけど……一定の効果はあるんですが、そもそもの母数も多いのでいつまでかかるやら」

 

 

 恐らくお互いに思っているのは『噂撲滅難しくないか?』だ。この町にどれくらいの住民がいると思ってんだよ。めちゃくちゃ多いぞ。

 

 

 「これさぁ、フード外しただけで印象が上向きにいけると思うか?無理じゃない?フードを外した人攫いの不審者になるだけじゃないかな」

 

 「絶対に大丈夫!とは言えませんよねぇ。結局は噂なので、強烈な印象で上書きするしかないとは思うんですがね」

 

 終わりじゃん。不審者なのは謎っぽくていいけど、人攫い扱いなのはかなり嫌だぞ。この先キースが育ちきるまでずっとか?これ?

 最悪俺はそれでもいいけどさぁ……………………キースに悪いよなぁ。どう考えても教育にも悪い。俺も保護者としての責務として、キースに不利になるそういった噂とは無縁でいたいものだし。

 

 「一旦フード脱ぐからイケるかの判断は任せるよ……教会の奴らには大丈夫とは言われたんだけど」

 

 というかなぜここまで俺のローブは評判が悪いんだ。ほんのちょっとセンスが尖ってるだけじゃないか。表情が相手から見えなくて、たまに黒い煙を纏うだけなのに。暗闇で目の部分が赤く光ってカッコいいのに……!わっかんないかなぁ?

 

 

 

 「そういえば初めて見ますね、フードの下」

 

 「外では基本被りっぱなしだからな。俺も外出中は教会の中以外では基本あまり外さないぞ」

 

 キースを落とさないように気を付けつつ、片手でパサっとフードを外す。視界が少しだけ開かれ、フードの中でまとめていた結んだ髪がさらりと背に流れる。それに伴い、ローブにかけていた認識阻害の魔法も解かれた。

 

 

 「……っ!?!?マジですか……!人間以外の種族だとは思っていましたが……エルフだったんですか。しかも女の子……」

 

 俺がフードを外し素顔を晒したことで部屋の中は驚きに包まれる。まぁエルフなんて見ることもないからか。確かにこの国じゃ俺以外のエルフを見かけたこともない。故郷の国であるガーランジュでは大きな町に一人くらいはいたような気もするが国によるのかな。 

 

 あと厳密に言うと『女』でも『子』でもないがわざわざ訂正するのもなぁ。『俺は男だから』と難癖をつけるのは変に混乱を招く気がするので、まぁいっかぁ!話をややこしくしてはいけない。

 

 

 「どうだ?こんな感じに顔が見えていれば不審者の誹りを受けないかな?」 

 

 「あ、ええっと……そうですね。まず間違いなく不審者だとか人攫いだとかの噂は吹き飛びます。それだけのインパクトがありますので。幼さが残っていますが綺麗なエルフで、なおかつこの町、いやこの国ではエルフは特に珍しい種族ですから」

 

 「幼いは余計だぞ。本当に余計だぞ。俺は大人だぞ。でも、フフン!如何に不審者だと言われようとも、この俺の美しさの前ではそのような世迷い事も霞んでしまうようだな!」 

 

 いいじゃんいいじゃん!

 あれ?警備兵長の顔は思いの外暗い。手で顔を覆って項垂れているのだ。なんという落ち込みよう。なんでそんなに落ち込んでんだ?

 

 「すみません……正直、口調からしてあなたのことを男性だと思っていました……とんだ失礼を」

 

 「その認識で間違ってはないけどな」

 

 「はい?」

 

 「なんでもなーい。でもさ、実際わからなかったと思うぞ。んーと、じゃあ皆ー、俺が男だと思ってた人は手ぇ挙げて―」

 

 俺が周りの見渡しながらこの部屋にいる連中に質問すると全員がおずおずと手を挙げた。うんうん、そうだよな。

 

 「兵長無理っすよ。こんな格好してる人の性別を判断する方法なんて、話し方くらいじゃないっすか。一人称も俺だし」

 

 「そうですよ。あの摩訶不思議な変なローブからエルフが出る方がズルじゃないですか」

 

 「成人の男にしてはだいぶ小柄だなぁとか思ってましたけどね……ドワーフ辺りかと」

 

 

 おぉ、各々が警備兵長を優しく慰めているぞ。これが警備隊の結束!優しみが深いぜ。

 

 「そうだそうだ。俺も気にしてないから落ち込まれるとちょっと困る」

 

 「はい……ありがとうございます」

 

 むしろ男に見られていてよかったとすら思っているのだ。フフン!いくら肉体が異性に変わろうとも、この身に宿る大人の男らしさは隠しきれないようだな!だから警備兵長は全く気にする必要はないし、その確かな洞察力は誇るべきである。流石だ。

 

 

 

 「むぅ……………………」

 そんなこんなで俺たちが無駄に騒いでしまっていたせいで、キースが目をごしごしと擦りながら目を覚ました。キースが起きたということはここに来てから幾分かの時間が経ったのを意味する。

 

 「ごめんなぁ、起こしちゃったかぁ。もうすぐ終わると思うよ。あ、キース?そんなに強く目を擦ったら赤くなっちゃうぞ?」

 

 「?」

 

 キースがなんで?なんで?ときょとんとした顔で真っすぐ見つめてくる。寝る前はフード状態だったのに急に素顔を晒してたら気になっちゃうよな。

 

 「このお兄さんたちに俺の超絶麗しい顔面を見せつけるためにお顔を出したんだぞ~」

 

 「ちょうぜつー?ちょうぜつー!」

 

 「こんなにすぐに新たな言葉の真似を……!とんでもねぇ……キースは末恐ろしい子だよ」

 

 ……………………使いどころが難しい言葉を覚えさせてしまっている気もする。いいのかなぁ。新しい言葉を繰り返してにへへとご機嫌に笑っているキースが可愛いからいっかぁ!

 

 「表情がわかるだけであそこまで健全になるんですね……やっぱりあのローブが諸悪の根源なのでは?」

 

 「あんまり言ってやるな。この人にとってはお気に入りの格好なんだから……あんなのは破棄した方が双方に得があるのは事実だが……」

 

 ひそひそと警備兵長とその部下の会話が聞こえてくる。むむ、このローブが諸悪の根源とは失礼……ではないな。うん、客観的にはそうなんだろうなぁ…………………… 

 

 

 

 

 割と長居してしまったが、話も終わったみたいだしもう帰ってもよさそうだな。そう思って帰ってもいいかと確認を取ると、当然答えは良いとのことだ。長かったぁ!

 

 「今回もご足労おかけしました。すみませんね本当に」

 

 「いいさ、慣れてる。それとこれからはできるだけフードで顔を隠さないようにするからさ。様子見しようぜ」 

 

 「ありがとうございます。恐らく、現在の通報地獄から相当マシになるはずです。一つ懸念があるとすれば、また違う問題が出そうな予感があることぐらいですかね」

 

 「あるかぁ?不審者呼ばわりされなくなったら、特に問題なんて出ないような」

 

 「そうだといいんですが……」

 

 警備兵長は心配性だなぁ。そのくらい慎重な方が治安を維持する役割には向いてるのだろうか。ま、俺からすれば、連行されなくなるだけでも万々歳だからな。多少何かが起きようとも別に、なぁ?

 

 

 

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