TSエルフ、赤ん坊を拾う   作:面相ゆつ

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そういう日もある!!

 

 

 「レイさーん、アリアが部屋に来てくれって呼んでますよ」

 

 「え、何だろう。まぁいいや。キース、一緒に行こうか」

 

 「いこー!」

 

 俺とキースが向かおうとするのを神父が手で制してくる。

 

 「あー……ちょっと待ってください。キースくんは僕が預かりますよ?」

 

 「はぁ?なんで?」

 

 どうしてあからさまに俺とキースを引き剥がそうとするのか。陰謀か?受けて立つぞ?

 

 「いや……多分時間かかるような気が……」

 

 「うん?どういう意味だ?」

 

 「その辺はいいじゃないですか。ほらキースくん、こっちにおいでー」

 

 「あい!しんぷー」

 

 あ!キースが!神父の方に!!キースと神父って意外と仲が良いんだよなぁ。不思議だぁ。

 

 「キースぅ……」

 

 「まぁまぁゆっくり話してきてくださいよ。最近、アリアに構ってないでしょう?寂しがってますよ」

 

 「……マジか……じゃあ行ってくる」

 

 

 

 

 何の気なしに寄った教会で招待されたアリアの部屋。いつもの形式ばったシスター服ではなく、涼やかな装いのアリアと雑談していると……

 

 「そうでした!渡す物があるんです。少しだけ待っててください」

 

 思い出した思い出したと、そう言って席を外してぱたぱたと部屋から出ていくアリアを見送る。何だろう?菓子とかかな?

 

 「はいお手紙。また届いていましたよ」

 

 「なーんだ、普通の手紙かぁ残念。菓子でもくれるのかと思ったぞ」

 

 「それはご自分で買ってください。儲かってるんでしょう?」

 

 「バッサリと切り捨てないでくれよ……」

 

 そこでアリアからはいと手渡された手紙をありがとうと反射的に受け取る。いつもことだ。これは俺宛の郵便物である。

 

 そもそもの話、俺の家は森の奥にあるため郵便物が全く配達されない。が、俺は世界が泣いて喜ぶ超優秀な薬師であり、そんな俺の薬を求める人間は多い。

 よって、薬の個人依頼を頼むにはどうにかして連絡手段が必要となるわけだが……直接家に来る者はほぼいない。理由は知らない。やっぱり森の奥だからかな?

 

 

 だからこちら宛ての配達物はこうして教会に取次ぎを頼んでいて、教会に来るときにまとめて渡してもらう。大体は個人からの薬の依頼書ではあるが……その依頼を受けるかどうかは内容による。犯罪っぽいのは避けないといけないし。緊急性が高そうならさっさと受けるけれども。

 

 

 「まだまだあります。はい、どうぞ。あとこれもです。それにこれも」

 

 それで終わりかと思いきや、どんどん手紙が出てくる。久々に来たわけでもないのにあまりにも郵便物が溜まりすぎている。いや!多い!多いって!

 

 手の中いっぱいに溢れるほど置かれた紙の束が積み重なっていく。すげぇ……なんだこの量。初めてだぞ。

 

 「えっ……とぉ……前に貰い忘れてた分があったんだっけ?」

 

 俺が困惑するのも無理はない。俺の手の中にあるのは十五通。最終的に渡された手紙の総数だ。借金の督促状でもここまで一気に来ないだろうよ。

 

 「いいえ。四日前に渡した後に溜まった分です……流石に多すぎる気もしますけど」

 

 「だよなぁ。あ、もしかすると早急に必要なのかもしれん」

 

 不思議そうな表情を浮かべるアリアにそうだよなぁと同意をしつつ、頭をひねりながらとりあえずこの場で少し内容の確認をする。個人依頼なんて多くても月に二桁ほどだ。それを優に超える数が来るなんて……じゃあ一通目から読んでみるか。

 

 『一目惚れをしてしまいました――』 

 

 ふむ。んじゃあ二通目。

 

 『あなたのことを思うと夜も眠れない――』

 

 ふーん。三通目。 

 

 『先月に引き続き薬の依頼になりますが――』

 

 あ、これは普通の依頼だ。次は……

 

 『突然のお手紙ですみません。この気持ちを抑えることができず――』

 

 なるほどぉ……………………なるほど……………………

 次、次、次!

 

 

 そうして今日渡された全ての手紙の確認が終わったわけだが。内容を全部読んだわけではないがわかったことがあるぞ。

 

 「ほとんど恋文じゃねーか!」

 

 「えぇ!?」

 

 アリアも驚いているが、俺はもっと驚いているぞ。 

 

 

 

 俺たちの前にあるのは机の上に広げた全十四通の手紙だ。初々しさを感じたり、くどい文言で鼻につくものもあるがどれも甘い言葉が書かれている典型的な恋文である。えぇ……どうすんのこれ……

 

 「では、お仕事の依頼は一つだけで他は全部ラブレターだった……ということなのですか?」

 

 「そういうことになるな……」

 

 絶妙に生々しい数の恋文に少し引いた様子のアリアに俺も同意する。もっと大量に来るのならクソガキの悪戯かな?とも思えるのだが、常識の範囲内で多いためか判断に困る数だ。十四、十四かぁ。

 

 

 「にしても、なんで急に?」

 

 「それに関しては理由ははっきりしています。レイさん……この頃、普通に素顔のままでうろうろしていますよね。絶対にそれのせいです。分かり切ったことでは?」

 

 1枚の恋文を手に取り、矯めつ眇めつ眺めている俺の当然の疑問に対し、にこやかに答えるアリア。にこやかな割に言葉の節々に若干刺々しさを感じる。

 

 「ううむ、その通りかも」

 

 こうなった原因については俺も自覚はある。最近はキースと一緒に歩いていても不審者扱いはされなくなってきた。それもそのはず、フードで顔を隠すことをなるべく我慢しているから。

 

 俺だけなら別に不審者扱いされても『……仕方ないか』で収めることもできなくはない。嫌だけど。広い心で我慢するけど。本当は少し傷つくけど。

 

 しかし……!

 

 ただキースのことを考えるとなぁ。保護者が町中で不審者だと思われていると色々問題があるのではないか?教育に悪いよな。うん。絶対に悪い。あとそろそろ通報されて連行される姿をキースに見られたくない。俺はやはりキースの前ではカッコよくありたいのだ。

 

 

 フードで顔を隠していた一番の理由は『カッコいいから』だ。俺は何度考えてもイケてると思っているし、着ているローブ自体も気に入っている。多分これから先も変わらない。

 

 だが、俺自身の思う見た目の意味での『カッコいい』とキースに対して見栄を張りたいという心意気の意味での『カッコいい』を天秤に掛けるなら……………………不審者扱いはカッコよくないよな。

 

 それにもしもフード被っている時に周囲の住民も怪しまれてるなという雰囲気を感じ取れば、すぐにフードを外して愛想笑いをするだけでいいのだ。これで警戒が解かれるのだから簡単なことである。笑顔を振りまくぜ。 

 

 まぁその代償がこの恋文たちなのだが。

 

 「俺が花も恥じらう美しいエルフなばっかりに!ちくしょう!俺は俺自身の美貌が……怖い!」

 

 「確かに事実なんですけど、そこまで恥ずかしげもなく自分で言い切れるのは尊敬します……」

 

 フフン!もっと褒めてくれてもいいんだぞ?

 

 

 

 「うーん……とりあえずは断らないとだな。どんな断り方にしよっかな」

 

 十四通も断りの手紙を書くのすげぇ面倒くさいなぁ。いっそのこと皆の目に付く場所に断りの紙だけ張り出しておくのがいいのかも。教会の扉にでかでかと貼ってたら全員見るかな。

 

 「へぇ。悩んだりしないんですね」

 

 やれやれと思いながら机に広げていた恋文を一か所にまとめていると、いつの間にか真横に来ていたアリアが意外そうな顔でこちらを覗き込んでいる。ほとんど密着している程の距離で話しかけてくるとこそばゆい。

 

 「まぁな。そもそもこの恋文を送ってきたこと自体、一過性の感情だよ。文面見る限りはまぁまぁ若者で、俺とあまり話したことはない奴らだろうし。一時の熱に浮かされただけですぐに忘れるさ」

 

 「ふーん……飛び跳ねたりしてもっと嬉しがったりするものかと」

 

 「あのなぁ、俺はそもそも男なわけ」

 

 「まだそんなこと言ってるんですか……?だから騙されませんって」

 

 ………………………………本当なのになぁ。 

 

 

 

 集めた恋文を机の端に寄せ終わると、アリアにやんわりと後ろに引き寄せられる。おっ?なんだなんだ?俺も別に反抗する理由がないのでされるがままだ。あーこれは、いつものかもしれんな。

 

 後ろにあるのはベッドでそのまま導かれるままにぽすんと2人でそこに座り込む。そうして背後からぎゅっと人形を抱きしめるかのような体勢だ。

 アリアは俺よりも背が高いからか、座った状態なら余裕ですっぽりと収まる。抱きしめるというよりは抱きすくめるというのだろうか。首筋にアリアのさらさらした髪がかかりくすぐったい。

 

 「レイさん」 

 

 「んー?」

 

 少しの間黙っていたアリアが俺の名前を呼ぶ。

 

 「……誰かに好意を伝えられたとして、レイさんはそれを受け入れてくれることはないのですか?今回みたいに全て断ってしまう?」

 

 頭の上からそんな質問をアリアが囁いてくる。こんなことを聞いてくるのは珍しい。アリアも若い子だしこういった色恋の話が好きなのかもしれないな。

 ふぅむ。そうだなぁ。

 

 「向けられた好意は好意として全部嬉しい。だって俺のことが好きってことだろ?良いことだよなぁ。ま、その先については関係性によるとしか言えないな」

 

 「なんだか曖昧です。答えになってなくてずるいですよ」

 

 俺のふわふわした答えにクスクス笑っている。ただ、満足そうに俺の一本に結った髪をほどき手櫛で整えるのを見るとこちらも悪い気はしない。

 

 昔は俺が今のアリアの位置だったのだが、何ともまぁすくすく育ったものだ。気づけば位置が入れ替わり、今ではこんな風に俺が抱きしめられるようになっている。

 

 俺としてはアリアが楽しいんならどちらでも構わない。この光景を他人が見れば仲睦まじい兄妹にでも見えるのだろうか。フフン!それなら俺たちは美女兄妹だな!……なんか意味不明だなそれ!!

 

 

 「レイさんは昔から何も変わらないですね……雰囲気は柔らかくなってきてますけど」

 

 「エルフだから見た目に関してはそうそう変わらないさ。雰囲気は……自分じゃわからないもんだな」

 

 エルフの成長スピードは個人差によるものが大きい。見た目だけであれば早い者は二十年程で成長しきるし、遅い者は数十年、下手したら百年経っても幼いエルフもいると聞く。どちらにしても容貌が若いままであるのは変わらないが。

 俺も自分では大人大人と自称しているが、現在の俺の見た目に関しては……恐らくどの種族からも少女に見えることだろう。

 人間で例に挙げれば大体十代……の中でも幼く、身長が低い方に分類される。不本意である。大いに不本意である。

 

 男の身体の頃はもう少し身長が高く、凛々しく、威厳もあって……………………うん、そうだったはずだ。あと多分筋肉ムッキムキだったような気がする。魔法を使わずとも拳で岩も割れたような気もしてきた。あと、あと、それはもう大人の渋みを感じられる男前だったかもしれん。

 

 在りし日の多少盛った自分の姿に思いを馳せつつ、思いの外静かな空間にただ身を寄せる。アリアはというと、先程解いた俺の髪を鼻歌まじりに楽しそうに編み込んでいるようだ。

 俺は精々髪を無造作に紐で結ぶだけだからか、アリア的にはもったいないと感じるみたいである。俺も別に結び方にこだわりはないが、こういうのもたまにはいいかぁ。

 

 

 ……正しい言い方なのかわからないが、アリアは時折こうしてくっついて離れなくなる。アリアが幼い頃に比べると少なくはなったとはいえ、何の前触れもなく。想像ではあるが理由は察することはできる。誰かに甘えたいのだろう。

 

 教会にいる子どもたちと同じように、アリアも元は教会に引き取られた孤児だ。親に捨てられたのではない。一番甘えたかった時期に親を失った子どもだ。そして、そんな時に俺たちは出会った。この町に訪れたばかりだった俺の最初に知り合った人間でもあった。

 

 同情したわけではない。憐れんだわけでもない。不憫に思ったわけでも決してない。でも教会の敷地の人目につかない物陰で、膝を抱えて静かに泣いている姿を放っておくのは後味が悪かっただけだ。

 まぁ全身をローブで覆って顔も見えない俺が話しかけるともっと泣かれたが……神父にも普通に警戒されたうえ、さらには警備隊に引き渡されたのもいい思い出だ。

 

 もう言い訳のしようのない、文句なしの不審者だったためか数日は牢屋に入れられた。生きてきた中で牢屋に入れられたのは初めてだった。すげぇ寒かったなぁ……

 

 そこから何だかんだで誤解も解け、何となく一緒にいるようになって……そんな感じで今に至る。俺にとっては非常に頼れる妹のような存在で、アリアにとっても兄のような存在……だと思ってくれてるといいなぁ。

 

 

 「はい、できましたよー。どうでしょうか?」

 

 「おぉ……なんかすげぇな。複雑すぎる」

 

 手鏡を渡され、可愛く編み込まれた髪の様子を眺める。多分小さな三つ編みにした髪を組み合わせて、ピンでまとめて紐でまた結んで……なんだこれどうやってするんだ?俺も簡単な三つ編みくらいならできるけれど、このような凝った髪型にはできない。どこで習えるんだよこんな編み方……独学か?やべぇな。

 

 「もう!そんな感想ではなくて!」

 

 「悪い悪い。うん、綺麗だ。上手く編み込んでくれてありがとう」

 

 「ですよね!頑張りましたので!」

 

 得意気な声を挙げ、機嫌も良いアリアの姿に俺もなんだか嬉しくなるぞ。でもどうすれば外せるんだ?髪のやつ。複雑なパズルのようだ。いや、せっかくアリアが美しく整えてくれたんだ。元に戻すことなんて考えるのは無粋というもの。今日はこのままにしておこうか。

 

 これが大人の余裕、妹分の好きにさせてあげる優しさである。だからまぁ。

  

 「……実はそのヘアアレンジにとっても似合う服がここにありまして」

  

 そう言ってどこから取り出したのか、俺の目の前にひらっひらでふりっふりとしか形容できない服を見せてきても受け入れてあげるのが優しさだろう……………………今日だけだぞ!

 

 

 

 「アリアこれ胸のあたりがきつい」

 

 「えっ、少し前に測り直したばかりなのに?嘘でしょう……?」

 

 この成長分が背に回ってくれると嬉しいんだがなぁ。ままならないものだ。

 

 

 

 

 

 「……例えばの話ですけど。私にラブレターが贈られてきたらどう思いますか?」

 

 窮屈な服も着替え終わり、何とはなしに広くないベッドの上で二人寝転がっているとアリアがそう問いかけてくる。どう思うかかぁ。

 

 「やっぱりモテるんだなぁって思うかな。むしろ今まで何もアプローチもなく、誰からも言い寄られてないのだとしたら、この町の男の目玉は洗浄してもらった方がいいぞ。うんそれがいい」

 

 俺は努めて冷静を装い、素っ気なく答えることにした。まぁ実際はアリア目当てで教会に来る不届き者もいるし、俺と違って町の住民からの評判も良い。

 

 

 だから町の男は目玉は洗わなくてもいいぞ。うんうんよかったよかった……

 

 「他には?他には何かないんですか」

 

 むぅ。欲しがるなぁ。

 

 「……………………まぁそれはそれとして?贈ってくる奴は見る目があるから、アリアに相応しいかを俺が直々にテストしてやる。合格しないとアリアはやらん」

 

 「ふふふ、厳しいです」

 

 「当然だ!アリアが変な奴に引っかかったら嫌だし!」

 

 俺もどんな立場からこんなこと言う権利があるのかとは思うが!でもな!小さい頃から見てきた子がカスみたいな奴に惹かれるのだけは絶対に阻止したい!そんなことは多分ないけど!だってアリアはしっかりしてるからな!

 

 「……レイさんの面接を突破できる人って少ないでしょうね。あーあ。残念です。本当に……残念です」

 

 ……ん?

 

 「その口振り……まさか好きな奴がいるのか……?」

 

 真意を確かめようとアリアの顔を見ようにも、いつの間にやら背中側から抱き着かれているため体勢的によく見えない。

 

 「…………………………………………もちろんいますよ」

 

 若干の間を置いて、意を決したようにアリアがそう言う。

 

 驚愕、である。いるんだ……!すっげぇ気になる!別に教義で恋愛禁止などされてないとはいえ、全くそんな素振りもないし。でもアリアも若い子だもんな。そりゃあ好きな人の一人や二人くらい余裕でいるよな……!!

 え、これ聞いたら教えてくれるのかな。

 

 「ど、どんな奴?」

 

 俺はダメ元で尋ねてみる。多分無理だろうな。

 

 「知りたいですか?いいですよ、別に。でも誰かは直接は言いませんけど」

 

 いいんだ……言ってみるもんだな。

 

 

 

 「そうですねぇ。その人は歳上なんですけど、そんな風には思えないくらい子どもっぽくて」

 

 「うん」

 

 「そのくせ無理に大人ぶろうとしていてちぐはぐで、言葉遣いも人遣いも荒くて」

 

 「……うん」

 

 「変なところで楽観的なせいでとんでもないやらかしを起こしそうな程に無防備で」

 

 「…………うん」 

 

 「あと犯罪者ってわけではないんですが、格好のせいかよく警備隊の皆さんに追いかけられていましたね」

 

 「………………うーん」

 

 

 いやぁ、絶対変な奴だ。そいつだけは止めといた方がいいと思う……俺の中のイメージはアウトローな人間で固定されてたぞ。まぁ人間以外の種族の可能性もあるか。でもこの辺りって他の種族ってあまり見ないんだよなぁ。

 

 「それに最近は私とは違う歳下の子にご執心のようで、私にあまり構ってくれなくなってしまいました。仕方ない話ではあるんですけどね?それでも少しだけ寂しく思います」

 

 「そうか。そっかぁ……………………なぁ、悪いことは言わないからそいつは止めとこうぜ。聞く限り一般的に言われる健全な者ではない気がするんだけど。カス野郎に等しくないか」

 

 

 あと頼むからせめてそいつに関するプラスの部分を言ってくれ……!なんでマイナス面を先に言っちゃうんだよ……!今からの逆転は難しそうだぞ!

 

 「俺、アリアにはもっと相応しい奴がいると思うんだ」

 

 俺に人の恋路を邪魔する権利は持ち合わせていない。ただ、もっと良い奴がいるんじゃないかなぁ?とも思うわけで。アリアには、その……幸せになって欲しいわけで。

 だから俺は今、応援してあげたい気持ちよりも心配する気持ちが上回ってしまっているのである。そいつで本当に大丈夫なのか?

 

 「でも……でもね、レイさん」 

 

 俺の『止めといた方がいいんじゃないか』という悶々とした気持ちを遮るようにアリアが体勢を変える。それに合わせて俺もくるりと反転させられて、真正面から抱き合う形になった。

 むぅ?これはちょっとどうなんだ?本格的に抱き枕だ。それはまぁいいが、アリアの様子がいつもと違う。何が違うかと言われると……?んーわからん……

 

 「アリア?どうした……?」

 

 上目遣いで目を合わせる。あぁそうか。アリア、泣いてるんだ。

 

 

 「でもね、私が一番辛かった時に傍にいてくれたんです……きっとその人にとっては些細なことだったのかもしれないけれど。ただの気まぐれだったのかもしれないけれど。行動に大した理由はなかったのだとしても、私は救われました」 

  

 「……」

 

 「初めは嫌いでした。鬱陶しかった。私が消えてなくなるまでずっと放っておいて欲しかったんです」

 

 「どれだけ拒絶しても、どれだけ無視しても気にせずに来て……悲しむ暇なんて与えてくれない自分勝手で我が儘な人です。そのおかげ(せい)で一人ぼっちにはなれませんでした……寂しく、ありませんでした」

 

 語り口調はどこか晴れやかで、想いを紡ぎだす姿は真剣で。俺には一片たりとも茶化すことはできない。次の言葉を待つのみである。

 

 「そこに私は……愛を、感じました」

 

 「アリア……」

 

 「………………………………本当に何年経っても子どもっぽくて変な人です。でも好きです。褒められると調子に乗りやすくて服のセンスもズレています。でも好きです。いつまでも私を子ども扱いしてきます。でも、好きです……………………心の想い向くまま、自分本位に他人に優しいあなた(その人)のことが私は好きなんです」

 

 

 アリアは恐らく思いの丈を吐き出したのだろう。ただ俺のことを強く抱き締めるだけだ。なるほどなぁ……

 

 

 「アリアがそこまで思い詰めていたなんてさ、知らなかった。俺、酷いことしちゃったんだな。俺も覚悟を決めなきゃな。男が廃るってやつか」

 

 「レイさん!ようやく気付いて!」 

 

 「俺さ……ものすごく応援するよ!ごめんな、さっきはアリアの大事な好きな人のことを酷く言ってしまって……気分悪かったはずだよな……反省してる……怒らないでくれ」

 

 「はぁ?えっ?今、私の話ちゃんと全部聞いていましたよね……?その長い耳でしっかりと」

 

 アリアが素っ頓狂な声で確認してくるが、もちろんちゃんと聞いた。聞いたうえで『そいつのこと好きなんだなぁ』って理解した。だからそいつに向けてカス野郎とか暴言を吐いたのを謝罪したんだぞ。    

 

「もちろんだ!でも、できれば俺にもその人を紹介して欲しい。やっぱり自分の目で見て判断したいというかさぁ?アリアの恋路を邪魔するつもりないから!多分。だから怒らないでくれ」

 

 アリアがそこまで惚れ込んでいるのなら、もう俺は表面上は立ち入れない。が、それはそれ。やはりどう考えても良くない気がする。アリアには謝ったけどそいつは普通にカスだよ。あんな勤勉な警備隊に追い回されるのはやべぇって。何かはやらかしてんだよ、それ。

 

 上手いことアリアを目を覚まさせた方がいい。任せとけ。神父にも相談して……でもあいつあんまり役に立たないからなぁ。まぁ、なんかこう……どうにかしよう!

 

 俺が決意を新たにしたのと裏腹に、アリアはひたすらに冷たく無感情な目でこちらを眺めてくる。あ、これはやべぇぞ。怖くなる時特有のアリアだ。

 

 「ここまで言ってるのになんで気づかないんですか……!条件に合うのなんてあなたしかいないでしょ……!

 

 「痛い痛い!!やっぱり怒ってる!!謝ったのに!!」

 

 死にそうになるくらいぎゅうっと強く、強く抱きしめられてしまった!アリアの力の方が強いから全然抜け出せる気配がない!

 

 ぐぉお!気合で!抜け出せ!あぁ!無理だ!強すぎる!違うな、俺が弱すぎるんだな、これ。

 ………………………………諦めよう。もう、アリアの気が済むまで待ってよう。うん……そうしよう。俺は現状は把握がしっかりできるエルフだから……!よって、このまま嵐が過ぎ去るのを待つのみ!

 

 「レイさん、覚悟しておいてください。罰としてしばらくの間、このままですからね!」

 

 「……おう」

 

 ただ、何だかんだでアリアもまだ子どもなんだって安心もしたのは嘘ではない。正直、小さい頃のように甘えてくれても全然構わないんだ。

 

 ………………………………でもさぁ……本当にアリアが言うような奴がいたんなら俺も出会ってそうなんだけどな……?

 

 

 

 

 

 なお、その後あまりの遅さにしびれを切らした神父たちによって、二人してベッドで眠っているところを発見された。待たせ過ぎたせいで機嫌が悪くなったキースにほっぺをつねられて痛かったです。

 

 

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