TSロリが正義実現委員会の怪物になるまで   作:Nikich

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不条理と怪物

 トリニティには三人の怪物がいる。

 

 一人は正義実現委員会部長、剣先ツルギ。

 

 彼女が振りまくのは、剥き出しの殺意、そして理性を超越した破壊。彼女と相対して無傷でいられた者は存在しない。圧倒的な身体能力と驚異的な再生力で全てをなぎ倒す姿に付けられた名は“歩く戦略兵器”。個人で学園クラスの戦力を持つ、キヴォトスの最強を担う一人である。

 

 一人はトリニティを形成する三大分派の一つ“パテル分派”の首長、聖園ミカ。

 

 ティーパーティーの首長として名を知られるが、その力を知るものは少ない。しかし、彼女もまた別格。壁を素手で砕き、迫りくる大群を力で塗りつぶすその暴威。

 彼女の通った後に残るのは、美しくも残酷な星の残滓。目撃した者が異口同音に“宇宙”と口にするその少女は、神秘の申し子そのもの

 

 そしてこれは——一人の少女が『怪物』へと至るまでの物語である。

 

 

 この世には不条理なことなどいっぱいある。

 

 自販機の釣り銭がすべて十円玉で返ってくる。買ったばかりの弁当を自転車の荷台から落とす。テストのヤマがことごとく外れる。              

 

 そんな不幸を積み重ねて、自分はこの世の理不尽を理解しているつもりになっていた。

 

 けれど、それはあくまで()()()でしかなかった。

 

――今の俺……いや、()こと夕崎カナエ以上に、不条理な存在なんてこの世にいないだろうから。

 

 一ヶ月前、俺は美少女の体で学生の身分とともに、そして学園都市とかいうキヴォトスという世界にいた。正直今でも信じられないが、眼の前の光景が全てだろう。

 

 一人暮らしに見えるアパートの部屋に、見覚えのない体、そして何故か机に置かれているハンドガン。初めてみたときは混乱したなんてものじゃない。

 

 何より、自分の体が一番おかしい。はっきり言ってロリと言って差し支えないほど小柄な体に、頭と背中には猛禽類のような羽がついている。何事かと思ったが、この世界の住民はどうも特異らしい。羽やらケモミミやら属性山盛りの人(?)がわんさかいるため全然目立たなかった。

 

 あれから一ヶ月、現在進行系で巻き込まれながらもいくつか分かったことが有る。

 

 まず、ここは数多の学園が集まって形成された巨大な学園都市であること。そして、今の俺はトリニティ総合学園という、いわばお嬢様学校の生徒らしいということだ。

 

 ようやく状況を理解し始めたタイミングで入学通知が届いた時は、流石に心臓が止まるかと思った。そこから今日まで、死に物狂いでこの世界の常識を調べ上げた……のだが、その努力に果たして意味があったのかは分からない。

 

 

 ——なにせ、今の俺はものの見事にぼっちなのだから。

 

 

 入学式が終わった俺に喋りかけてくれる人は誰もおらず、そして俺もお近づきになることは無かった。そもそもJKなど経験したこともないのだ。馴染めるわけが無い。

 

 そしてコミュ力がまず無いというのもあるが、周りのお嬢様感がすごい。こう、なんというか住む世界が違うというのが分かるのだ。

 

 特に、新入生代表の生徒は凄かった。輝くようなブロンドの髪に、凛とした立ち居振る舞い。

 正直見惚れてしまって話の内容なんてさっぱり頭に入ってこなかったが、あんな眩しい存在に自分がなれる気はさらさらしない。 

 

 そうして孤独な学園生活をスタートさせた俺は今、早々に人生最大級の危機に直面していた。

 

「おらぁ!お嬢様なら良いもん持ってんだろお?ちょ〜っと私らにくれてもいいんじゃねえの?」

 

 ——カツアゲである。

 

 いや、おかしいだろ。お嬢様学校のすぐ近くでこんなガラの悪い連中がたむろしてるとか。治安どうなってんだよ。流石にこんなところまでこんなスケバンみたいなやつがいると思ってなかった。いつもの俺なら脱兎のごとく逃げてただろうが、それは出来そうにない。

 

 「渡さねえとどうなるか分かってんだろうなぁ、あーん?」

 

 そういいながら目の前のスケバンはハンドガンを突きつける。そう、()()()()()()()()

 

 それもそのはず、ここキヴォトスは、銃を持ってない生徒より裸の生徒の方が少ないと言われる超銃社会なのだ。

 

 無論前世でそんなことをやれば一瞬で世界が崩壊するだろう。キヴォトスがこれでも回っているのには理由がある。

 とにかく頑丈なのだ、キヴォトスの人間というのは。至近距離での爆風だろうが銃弾が直撃しようが、ちょっと痛い程度で住む桁違いの耐久力。もちろんそれは俺も例外ではない。

 

 知識としては知っている――けれど、怖いのだ。

 

 いくら頑丈だと言われたところで、こっちはつい一ヶ月前まで弾丸一発で人生が終わる世界の住人だったのだ。

 一応銃はもっているが、それもちゃっちいハンドガン。練習したとはいえ勝てるわけがない

 

 ただでさえ小柄で、それでいて目の前で震えているか弱い少女は、スケバンにとって格好の獲物だった。

 

「ひゃはは!それじゃ、もらってくぜ!」

 

 スケバンは容赦なくこちらに手を伸ばす。思わず目をつぶった——その時だった。

 

「……えっ」

 

 その言葉を発したのは、俺か、それともスケバンか。

 

 しかし、そんなことなどどうでも良い光景が目の前に広がっていた。

 

 ——目の前のスケバンが、文字通り吹っ飛んだ。

 

「ちょっおい!大丈夫か!?」

 

 慌ててスケバンの仲間が駆け寄るが、スケバンはピクリとも動かない。一応気絶しているだけみたいだが、彼女が叩きつけられた壁がひび割れている。

 

「てめっ何を……っ!?」

「きゃははははは!」

 

 慌てて俺に殴りかかろうとしたスケバンが、今度は奇声とともに()()()ふっ飛ばされる。そいつもまた、言葉を発する前に気絶した。

 人間ができる技ではない。立て続けに仲間を二人ぶっ飛ばされたスケバンはパニックに陥っていた。

 

「に、逃げるぞ!何がなんだか……!」

 

 しかし怪物は、逃げる暇など与えない。

 

 「待て」

 

 短く、だが有無を言わさぬ迫力を伴った言葉。その場に凍りついた全員が、ゆっくりと視線を向ける。そこに立っていたのは――

 

「うわあああああ!?ば、化け物!!!」

 

 ――血走った目をカッと見開き、裂けた口から不気味な笑みをこぼす猫背の影。

 

 あまりにも場違いな白い制服のおかげでかろうじて彼女が生徒だということが分かったが、正直めちゃくちゃ怖い。

 スケバン達も同じ事を考えたらしい。死に物狂いで逃げようと後ろを向く……ことは、叶わなかった。

 

「無駄だああぁあぁああ!」

 

 わずか三秒。奇声とともに二丁のショットガンが唸りを上げたかと思うと、スケバンたちは木の葉のように軽々と跳ね飛ばされ、宙を舞った。  

 どさりと重い音が響き、不吉な沈黙が広がる。俺はあまりの衝撃に、恐怖という感情さえ忘れてその蹂躙劇に見惚れていた。 

 

 あまりの出来事に何を喋ればいいかわからない。それは、嵐の去った後のように佇む彼女も同じだったようだ。血走った眼光がこちらを射抜き心臓が跳ね上がるが、彼女はそれ以上引き金を引くことはなかった。

 数秒か、あるいは数十分にも感じられるほど濃密で気まずい沈黙。彼女はおもむろに顔を上げながら、絞り出すように声を漏らした。

 

「えーと、その……大丈夫、か」

 

 白い制服を揺らしながら、おどおどと視線を泳がせている目の前の彼女。つい数十秒前まで奇声を発しながら散弾銃をぶっ放していたあの狂戦士と同一人物だとは到底信じがたい。

 

 何か話さなければならないことは分かっている。けれど、とにかく怖いのだ。 あまりにも強大すぎる力、そして人知を超えた異形な存在感。

 

 それでも、助けてもらったお礼だけは言わなければならない。固唾を呑んで口を開いたが、返ってきたのは予想外の言葉だった。

 

「あ、あの……助けてくれて——」

「中等部……の子で、いいのか」

「……えっ」

 

 思わず素っ頓狂な声を上げてしまったが、考えてみれば当然である。今の自分の身長は大体150cmあるか無いか。高校生の平均身長どころか中学生に届いているかすら怪しいのだ。

 自分を助けてくれた彼女に、わざわざ高校生ですと訂正するのも忍びない。だが、言うかどうかを悩んでいるうちに、そんな悠長なことを言っていられない状況になった。

 

「と、とりあえず正義実現委員会と中等部のところまで……」

 

――かなりまずい

 

 どうやら彼女、俺を中等部まで送り届けるつもりらしい。俺が迷子の中等部扱いされるだけならともかく、親切心で動いているこの人まで赤恥をかかせてしまう可能性がある。

 

「いや、あの、私は……」

「……?何か、不都合でも……」

 

 恐る恐るといった拒絶に、彼女の顔困惑に染まる。ひび割れた声で問い詰められ、背筋がまたしても凍りついた。このままでは彼女に悪意がなくとも連行されかねない。俺は震える手でポケットを探り、藁にもすがる思いで一通のカード——学生証を突き出した。

 

「わ、私……一年生です……」

 

 それを見た瞬間、彼女の動きが完全に止まった。血走った目が学生証と俺の顔を何度も往復し、やがて彼女の顔が、見たこともないほど真っ赤に染まっていく。 

 

「……あ、あ……あぁあああぁぁあああ!!」

 

 次の瞬間、彼女は踵を返し文字通りの全力疾走を始めた——壁をぶち抜きながら。

 

「え、ちょっと待って……!」

 

 慌てて呼び止めようとしたが、まるで間に合わない。あまりにも速すぎる。あっという間に地平線の彼方へ消えていく小さな点を見送りながら、俺は呆然と立ち尽くすしかなかった。

 

「そういえば、名前聞いてなかったな……」

 

 これが、後の歩く戦略兵器――剣先ツルギとの、最悪で最高な出会いだった。

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