どうかな、楽しめてもらえてますかね?
ちなみに、主人公の先祖は、結構伏線を張ってます。
白熱した戦いでの体の火照りを冷やすために、持参してきた梨を手に取り齧りつく。シャリッといい音を鳴らしながら喉に入ってくる。
全体的な果物にいえることなのだが、皮には栄養素が含まれている。さらに梨にはアスパラギン酸というアミノ酸が入っており、疲労回復の効果がある。
「ねえ鷹、お願いがあるんだけど」
梨を食べ終え、もう一つへと手を伸ばしたときだった。弁慶が今までにないほど真剣な表情だ。
「どうした? 珍しいな。次の戦いでは本来の獲物で戦って欲しいって表情じゃないか」
「なんでわかるかな。本来なら棄権する予定だったんだけど、決勝でそれだと……ね?」
「確かにそうだな」
若獅子タッグトーナメントで一番盛り上がるのは、この決勝戦だ。それを主従関係だからと棄権するなんてもってのほか。
「私はなんて思われてもいいんだけど、主が言われるのはどうにもね」
「それで、なんで俺が獲物を使う必要が?」
「あれでも主は結構なプライドがあるんだ」
「なるほどねぇ」
梨をポンポンと手の上で跳ねさせながら、弁慶の言葉の意味を理解する。
要は、落ち込んでる姿を見たくないってわけか。
「そうはいってもなぁ。剣はもって来てないんだよな」
「そっか……」
「貴様の言っているのはこれか?」
「吃驚した!」
後ろに現われますは、世界最強のヒューム・ヘルシング。その右手に持っているのは、俺がよく知っている剣だ。
「名剣を粗末にするな。自分の名前にプライドをもて」
「そうはいっても伯爵さん。個人の自由じゃないんですかね」
「ふざけるなよ。そんなに強大な力を持っておきながら、戦いたくないですで許されるわけないだろ」
強大な力。それは皐月家での金色の髪を所有している人物が持っている力である。伯爵の出身地を考えると、俺の力の源や手に持っている剣はメジャーなものだ。
金で装飾された柄。微量の光りでも帯びると必ず光沢する刀身。意思を持っているかのごとく、俺。いや、皐月鷹の名を持っている人物の気に同調する剣は、今にも俺に持ってほしそうな顔をしている……気がする。
「計画を狂わせた罰だ。戦ってもらうぞ」
「ここでノーと応えたら?」
「川神百代に正体を教える」
もしも武神が俺の正体を知ったら、必ず決闘に持ち込んでくるだろう。それほどまでに、俺の先祖は有名な人物で、力を有している。
「はぁ……わかったよ。やればいいんだろ!」
「それでいい。ほら、お前の従来の武器だ。受け取れ」
伯爵から愛剣を奪い取った俺は、数年ぶりにその剣を正面から見る。その剣は俺に持たれたからか、なにやら少し嬉しそうだ。
それを確認した伯爵は、ほくそ笑みながら消えていく。まったく厄介なやつだ。
「ごめん、鷹」
「弁慶が気にすることはないさ。場の雰囲気に飲み込まれた。それでいいじゃないか」
「やっぱり優しいね」
「そんなことないさ。さすがに武神は調子に乗りすぎだ」
武神・川神百代は頂点に立つべきではないことを、日ごろから気になっていたのだ。
天賦の才と言わざるえないほどの、気やセンスの持ち主。しかし、彼女は瞬間回復という裏技を得てから、一切進歩をしていない。逆に退化しているのだ。
ごり押し戦法で勝てる現状それでもいいのかもしれない。だが、言ったように彼女は武の頂点に立つべき人物だ。精進してほしいのだ。
では、どのように精進をさせるか。それは、敗北を味あわせる。瞬間回復に頼って勝利していた、己の慢心をへし折るしかない。
だから
「俺は武神を倒す」
「わかった。主に牙を剥きたくはないけど、私のわがままに付き合ってもらったんだ。今回は──」
「いや、弁慶は戦わなくていいさ」
己の信念を切り捨ててまで、俺のわがままには付き合って欲しくはない。仲間同士で戦いあうなんてもってのほかだ。俺の先祖はそれで嫌な思いをしたのだから。
「相手は武士娘。なら──」
一騎打ちをするさ。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
決勝戦。それは、終わりを告げる戦い。会場のテンションは、今までにないほど盛り上がっている。
何故ならば、主従関係である源義経と武蔵坊弁慶の真剣勝負が見られるからだ。
クローンである二人の知名度は、日本史の授業に必ず出てくるものだ。
『さぁ、長かったこの大会も終わりになります。さて、決勝戦に残ったのは、この2チーム! チームだらけ部とチーム源氏紅蓮隊だ!』
チームの紹介と共に、今までにないほどの大歓声が沸き起こる。その大歓声の中、リングに上がっている4人は、精神集中をしている。
「審判、マイクを」
『おっと! ここで皐月選手がマイクパフォーマンスだ!』
鷹はマイクを受け取ると、剣先を源義経に向ける。
『皐月鷹は、源義経に一騎打ちを希望する!』
そういってマイクを義経に投げ渡す。慌てて受け取った彼女は、困った表情を京へと向ける。
どうすればいいかわからないのだ。
「いいよ。これでも武士娘だからね。一騎打ちを挑んできたなら受けないと」
「椎名さん。ありがとう」
『その一騎打ち、義経は受け取らせてもらう!』
会場中から、更なる大歓声があがる。同時に弁慶と京は邪魔をしないようにリングの角へと移った。
ビュンビュンと剣を振りながら、精神を再度統一する二人。
「さて、名乗り上げか。2年F組、だらけ部代表皐月鷹」
「源義経のクローン──」
「違う」
「違う?」
義経の名乗り上げの途中、鷹は止める。
「それは、お前の本当の名前じゃない」
「義経は……」
「クローンだから、そういわないといけない? 違うな。お前の名前は何だ?」
「義経は、2年S組。源氏紅蓮隊代表、源義経」
名乗り上げた二人は、剣を構える。
「いざ尋常に勝負!」
「推して参る!」
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
最初に動いたのは、鷹だ。小細工不要での一直線。それに対して義経は、いつでも回避行動が出来るように腰を落す。
「ふっ!」
今までにない真剣な声で、鷹は袈裟斬りする。金属と金属がぶつかる音と、剣筋は途中からズレる。
「義経は驚いた。こんな力強い剣は初めてだ」
「そうかい。じゃあ続けていくぞ!」
「そうはいかない。今度は義経の番だ」
「ちぃ……!」
斬り返しをしようとした鷹だが、義経は距離をつめる。間合いが鷹のほうがあるからだ。
胴を狙ってくる薙ぎを、踵を強引にひねることで回避に成功した鷹は、そのまま回転を生かしながら、振り回す。が、義経はその場にはいない。危機察知でバックステップをしたからだ。
しかし、追撃するべく突っ込んでいく鷹。剣を力いっぱい義経に打ち込む。
日本刀と洋剣の違いは大きい。回避を主とする日本刀に対し、洋剣は剣で受けたりすることを考えられて作られたものだ。だからこそ、義経は日本刀で受けようとはしないのだ。
ペースを掴んだほうが有利になる。逆にペースを掴まれたほうが不利になる。現在押しているほうである鷹は、仕切り直しをされないように絶え間なく斬撃を振り続ける。
壁を超えた者達の戦いに、会場は唖然とする。そんな中
「いいぞぉ。楽しみだ」
百代は新品のおもちゃを買ってもらえる子供のように笑う。
一方的に攻撃を受けている義経は、誰がどう見ても劣勢に見える。だが、鷹は気を緩めない。
チャンスは時としてピンチとなるからだ。そして、その言葉がやってきた。
「ここ!」
連撃の中、フェイクである力の弱い斬撃を見切り、反らしたのだ。
反らされた剣は、地面に突き刺さる。形勢逆転だ。
義経の速い斬撃を、鷹は後ろに下がりながら次々と捌いていく。その攻防は数十分と長く続いていく。
肩で息をする義経に対して、鷹はそれほど疲労していないように見える。
それは当然だ。攻撃を避けなければいけない義経と、パリングできる鷹。総運動量は、雲泥の差である。このまま打ち合いとなるならば、どちらが勝利するかは目に見えてわかる。
「そういう勝負はいけないな!」
だからこそ、鷹は義経と距離を取った。
「お互い、体力のある今。最高の一撃で勝負をつけようじゃないか」
「わかった。ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
二人は、構える。次の一撃に全てをかけて。
「いくぞ!」
双方が同時に地面を蹴る。倒すべき相手に向かって。その時だ。
鷹の気が爆発的に跳ね上がり──加速した。それは目に見えてわかるぐらいに。
そして、その加速を利用した剣は、義経の刀を弾き飛ばし──義経を沈めた。
「俺の勝ちだ!」
若獅子タッグトーナメントマッチ、優勝チーム。"だらけ部"