読める代物ですかね?
若獅子タッグトーナメントマッチの本選である。
出場者は16チーム。それらがリングへと紹介と同時に入っていったのだが、我がだらけ部の紹介はほかとは一味違ったものだった。
「怠惰を極めるのは自分達だ! って、弁慶さん。これはどうかと思いますよ」
「いいじゃん。私達にぴったりでしょ」
「その発言、少し前に聞いた気がする」
「いいのいいの」
他のチームは格好いい内容にもかかわらず、平常運転の俺達だらけ部。その1回戦目の相手は、
「400万パワーズねぇ」
「パワー系ってことは、私達と同じ感じかな?」
「いいや! 俺はオイルレスリングなんてしないぞ!」
「あ、そういえば一人はそういうのだったね」
F組パワー系代表島津と十勇士の一人、長宗我部のタッグ。何を血迷ってあのようなむさ苦しいチームになったかは理解しかねる状況だが、ある意味よいチーム名ではないだろうか。
むさ苦しい意味で。
ちなみに長宗我部はオイルレスリングがスタイルで、相方である島津もオイルはかぶらないがガッチガチのムッキムキ。
つまりもう一度いうがむさ苦しい。
「さて、レスリングが得意な弁慶が長宗我部の担当だとして」
「ちょっとまって」
「え!?」
「いやいや可笑しいでしょ。こういうときは男らしく鷹がやるもんでしょ」
「いやだよあんなの。戦いたくないに決まってるだろ」
「でも、女がオイルまみれになるのはどうよ?」
その言葉で弁慶がオイルまみれになった姿が俺の脳裏をよぎる。
特徴のある癖毛が肌にぴったりくっつき、体中べとべと。そして、制服はオイルによってくっつくことにより、ナイスバディな姿が。
「とってもいいです……」
「そういう趣味だったの?」
「冗談です。すみません」
「よろしい。じゃあ謝罪した鷹は長宗我部ね」
「えー!」
「交通事故でも、謝ったら負ける。つまり、謝った鷹が悪い」
「せ……せやな」
反論できないなんて、感じちゃう!! なわけないが、こういうのはやっぱり黙って受けるべきなのだろうか。
しかしオイルまみれになる弁慶をよそに、高みの見物をしたあかつきには、ものすごいブーイングが来る可能性が大だ。ここは堪えて嫌な思いをするべきなのかもしれない。
「貸しだからな」
「わかってるって。どうせ次は与一だ。私一人で行くからさ」
トーナメント表を見ると、次の対戦相手は那須与一と葉桜清楚先輩の『桜ブロッサム』が相手だ。
「それにしても、葉桜先輩……ねぇ」
「あれ? タイプなの?」
「いんや? 正直あんな性格の人は苦手……」
「んじゃどうしたのさ」
「ああ、ちょっと正体が気になってね」
当初、文学少女だと思われた葉桜先輩なのだが、見れば見るほど文学少女とはかけ離れた身体能力を有している。
自分の正体を聞かされていないにもかかわらず、名前がある。つまり、その名前がヒントというわけだ。
俺の名前と同じようにじっくりと考えてみた。そうして出た結果。
葉桜(はおう)清楚(せいそ)。覇王西楚である。
そもそも他のクローンが本名にもかかわらず、彼女だけ違う名前なのが可笑しい。つまり、意図的に読書をさせるような名前に改名したということになる。
そしてその通りならば、彼女は馬鹿なのだ。どうしようもないほど。だからこそ今のうちに知識をつける事によって、それをどうにかしようとしたのではないだろうか。
「大丈夫?」
「ああ、ちょっと物思いにふけてただけだ」
「んじゃ呼ばれたから行こうか」
思考をめぐらせていたのが気になったのか、弁慶は俺に声をかけてくれる。反対側から、島津が憎しみのこもった声を出しているが、負け犬の遠吠えめが心地良いなぁ。
俺は機嫌よくリングへと上がって行った。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
『1回戦最終試合、400万パワーズ対だらけ部!
両チーム前へ!』
「はいはいっと」
「やる気がないねぇ。部長さん」
「そういう副部長さんもやる気がみられませんよ?」
「おい、目の前でイチャイチャすんじゃねぇ!」
「そういうな島津よ。お前だって彼女はいるんだろ?」
「お……おう、その通りだな!
長宗我部に対して強がりな嘘を突いた岳人は、少し涙目になりながら彼に返事をする。
それを勝負前の言葉と受け取ったのか、審判である田尻耕は声を上げる。
『では、いざ尋常に……勝負開始!』
「じゃあ、予定通りでお願いね」
「あいあい……面倒くさいなぁ」
鷹は目の前にいる長宗我部を見る。彼の肉体はオイルをかぶった所為か、太陽の光を受けテカテカと光沢を帯びている。
それを見て顔をゆがめながら、手に持っていた槍をほうり投げた。
「んじゃいっちょ会場をわかせてみますかね! いくぞ長宗我部!」
「ほお、俺を目の前にして素手で来るか。ぬるぬるにしてやる」
戦いの気に当てられたためか、鷹は長宗我部に対して近接。つまりは肉弾戦を挑む。それを受けた長宗我部は、鷹へと一直線に走っていく。
二人の両手がリングの中央で重なり合う。
「ふぅぅぅん!」
「む……?」
「この俺に力勝負を挑んだのが間違いだったな」
長い硬直が続く。が、押され始めたのは鷹だった。
ずるずると靴が滑る音を鳴らしながら、リングの端へと押していく長宗我部。
自分が有利に立っていることで、顔はにやける。一方鷹の表情は変わらない。
「よーし……このまま押しつぶして──」
「あ、それは却下で。よっこいしょっと!」
「何、俺のオイルが通用しないだと!?」
体に力を入れなおした鷹は、オイルまみれな長宗我部の手を関係なしに握り──そのまま片手で持ち上げた。
垂直に持ち上げられた長宗我部は必死に抵抗するが、鷹の軸がぶれることがない。
そのまま、自分の相方である弁慶の戦いを見る。するとそこには、岳人から逃げ回る弁慶の姿があった。ちなみに岳人は鼻の下を伸ばしながら弁慶の胸を凝視している。
「あの弁慶さん? なんで戦わないんですかね」
「へいへい嬢ちゃん。待ちなよ」
「わー鷹ー。獣に襲われるー」
「……ふんっ!」
「ぐっは!」
ある意味コントをしている二人にイラついたのか。持ち上げている長宗我部を岳人に向かって、本気で投げた。
一直線に飛んでいく人間魚雷に当たった岳人は、抵抗することもなくリング外、そして会場から飛んでいく。
『場外ホームラン! 勝者、だらけ部!』
それを見た田尻は、ジャッジをしたのだった。