主人公はオリキャラですが、原作登場キャラクターが登場します。
原作主人公パーティは匂わせくらいの出番となります。
自身の所属する盗賊団を壊滅させられた主人公は、騎士団に取引を持ち掛けますが
結果として迷宮での戦いを強要されます。
しかし以外な副産物が付いてくるようになります。
朝霧がまとわりつくなかで、足をはやめ歩き続けた。
何度も後ろを振り返り、後を追いかけてくる者がいないかを確かめてきた。
夜の道中では松明の明かりだけを頼りに歩いたが、そんな光だけでは自分の足元くらいしか照ら
すことができず、この状態で魔物と遭遇すれば、普段なら勝てる相手でも負ける可能性があった。
幸いにもここまで、魔物にも追手にも追われることはなかった。
そんなことをしながらようやく、ボーデの町まで辿り着いた。
なんとか安全な町中までこれたようだ。追手を撒いたことには安堵できたが、これからやろうと
することの困難さを考えると暗澹たる気分になってきた。
「交渉事は相手の頭の働きの鈍る早朝にしろ」それでもジェードの言葉を思い出し足を進める。
今はジェードの発言に信を置いて行動するしかなった。
目的の場所が見えてきた。川向うにこの街の顔とも言うべきボーデの城がある。ボーデの町での
家屋の大半が木製なのに対して、その一角だけは高い城壁と石造りの建物が並んで堅牢さと異質さ
を感じさせる。
城は川で街と隔てられているので、唯一城に繋がる橋を渡る。早朝なので、ここまでほとんど人
とすれ違わなかったが、城門はすでに開け放たれていた。城門を潜った先の城内はかなり広く、い
くつもの建物がつらなっており、人影はまだ無かった。
城門に門番がいなかったあたり、狼藉者の侵入はあまり想定されていないのだろう。
交渉相手を探さないといけないが、建物の中にいる人に接触するとなると人数がわからない。
「なるべく多人数とは交渉するな、賛成する奴と反対する奴で意見で割れて話が進まなくなる。」
ジェードの言葉が頭をよぎる。なるべく少人数の相手を探したほうがいいだろう。
思案していると建物の角から、馬の手綱を引きながら、徒歩で此方に来る一団がある。
人数は3人。ボーデにある城なので、当然全員エルフ族で、皮鎧の上に外套を着用しているところ
から、遠出の予定だろうか。
先頭にいる他と比べて装備品のランクが高そうに見えリーダー各だと思われるエルフも城内だか
らか騎乗せずに徒歩で進んでくる。その手が手綱を握っているなら反応も反撃も鈍る、3人と人数
は多いが狙い目だった。通路の端に体を寄せて、エルフ達に道を譲り、目礼して頭を下げる。
通り過ぎるエルフ達は俺の方を見ようともしなかった。エルフ族は排他的な面が強いので、この
ような扱いも珍しいことではないが、これでは交渉は難しそうだ。強硬手段に訴えるほうが効果的
だろう。
顔を伏せたまま、隊列が通り過ぎるのを待って行動を開始する。
狙うのは最後尾にいる比較的若く見えるエルフの男だ。背後から近づき首に腕を回し、喉を締め
上げる。
さらに男の腰に吊り下げている剣帯から片手剣を引き抜き、剣の平地で手綱を叩き手から離させる。
返す刀で刃の部分を男の顔前に押し付ける。
「貴様、なにをしている。」
先を歩いていた2人が、こちらの行動に気付いて抜刀しようとするが、握った手綱を手放して
馬が逃げることを懸念してアタフタとした動作になってしまい貴重な反撃の時間を浪費してしまっ
ている。
その間に俺は後ろから攻撃されないように、羽交い締めにした若いエルフを壁まで引きずっていく。
「動くんじゃねぇよ。こいつが怪我をするぞ。ただ俺の話を聞けよ。」
交渉のつもりだったが、ほぼ恫喝に近いな、これは。
「話だと。」抜刀してこちらを包囲しようとしてくる騎士達に人質を盾にして叫ぶ。
「隣のセルマー伯領で暴れている凶賊ハインツは知っているか。」
「なにを言っている貴様。そいつを放せ。」
剣先を向けて威嚇してくる騎士を無視して怒鳴り続ける。
「ハインツ一党はセルマー伯領騎士団の騎士を何人も殺害して、『指輪』を奪ったぞ。次にアイ
ツラはこのハルツ公領に入ってくる気だ。そうすれば管轄の違うセルマー伯領騎士団は追いかけて
くることができないからな。」
俺の言葉にエルフ騎士達に動揺が走る。
「セルマー伯側は、ハインツの情報など出してこないぜ、大事な指輪を盗られましたなんて、言
えないからな。今現在、ハインツの動向を伝えられるのは俺だけだぞ。」
俺の話に困惑が広がる中で、隣の建物の扉が開くと、大人数の騎士達が飛び出してきて、剣を構
えながらこちらを包囲してくる。
その戦士達の中にひときわ目立つ杖を構えた大柄の男性エルフがいる。
エルフ騎士達は、その男を行動に注視していて、抜刀はしていても、こちらに切りかかってくる
様子はない。
この男が騎士団の隊長とか団長とかの地位にいて決定をくだす立場なのだろう。好都合だ。
「アンタがリーダーらしいな。俺の話を聞けよ。隣のセルマー領で暴れていた凶賊ハインツ一味
が騎士団員を殺して、なにか希少な指輪を奪い逃走した。そして、騎士団の追撃を躱す為に、この
ハルツ公領にやってくるぞ。」
男に向かって言い放つ。
「その現場を見たのか。」
「いや騎士団がやられるところを見ていた訳ではない。盗賊団員がそう話しているのを聞いただ
けだ。それとハインツ盗賊団にエルフのエルマーという男がいるのを知っているか。もとはセル
マー領で貴族の一員でありながら、盗賊に堕ちたと自称している奴だ。」
リーダー格の顔が曇る。どうやらエルマーが貴族だったという話は本当らしい、同じ貴族身分と
して許しがたいのだろう。
「俺はハインツとは別のジェードという男の盗賊団に所属していたが、俺達の一団はアジトにし
ていた廃村でハインツ達に襲われて団は壊滅しちまった。俺はその場にいて、その襲撃犯の中に
エルマーもいた。奴はセルマー伯領騎士団のエンブレムが刻印されたプレートアーマーと兜を着用
していた。あいつが本当に貴族社会を追い出されてそれを恨んでいるのなら、殺した騎士団員の鎧
を奪って着ていても不思議ではないな。本当は俺の方が強い、騎士団の鎧兜は俺の方が相応しい。
ざまぁ、みろ、そう思って強奪したのかもしれん。奴が騎士団に強い恨みを抱いているんだとした
ら、ハルツ公領騎士団でも襲ってくるかもしれないな。」
「・・・。」
「話をハインツ盗賊団に戻そう。俺は襲撃から逃れた後,アイツらをセルマー伯に密告して討伐
してもらおうと思っていた。だがエルマーが騎士団の鎧を着ていたのがどうしても気になった。
鎧を奪われたってことは騎士団に被害があるってことだからな。もし騎士団の戦力が低下して
いたら、討伐が困難になる。あるいはセルマー騎士団にはハインツと繋がりがある奴がいて情報
や鎧を横流しした可能性もある。そうなると密告は握りつぶされるしな。
だから、そのままチクりに行くことを止めて、危険だったが夕暮れ時に再び廃村に忍び込んで
情報を得ようとした。ハインツ達はまだ村に残っていて、でかい篝火を焚いて酒宴の真っ最中
だった。火は死体を焼くためのもので、あたりには酷ぇ臭いが立ち込めていたが、アイツら平
気で酒を煽って哄笑していやがった。
俺は風下の物陰に隠れて、奴らの話を盗み聞きしていた。大事な部分だけ話すとハインツ盗
賊団はセルマー伯領騎士団を襲って何人も手に掛けて、その際重要なアイテムである「指輪」を
奪ったってことだ。
これによって騎士団は討伐が難しくなった。ハインツ一味を全滅させても、肝心の指輪の行方が不
明になったら、大恥を掻くことになるからな。殺さずに生け捕りにするのは、よほどの実力差が
無いと難しい。自領の騎士団で対応できないなら強くて高名な冒険者や賞金稼ぎのパーティーに
依頼する手もあるが、指輪を横取りされる危険があるからこの手も使えない。ついでに盗賊達は
ハルツ領に雲隠れすると言っていた。加えて今セルマー領にはあちこちに迷宮が出来ていて、そ
の対応だけでも騎士団は手一杯という話だ。これだけの条件が揃えばハインツ討伐は困難極まる
話だな。」
俺は一気にまくし立てた後、口を噤んでエルフ達の反応を窺った。皆俺の話に困惑して黙ってし
まい、リーダー風の男に判断を仰ぐように視線を送っている。
注目されているリーダーは指輪の話をしたあたりから、渋い表情と険しい表所を交互にしていた。
その反応からして指輪の存在に心当たりがあるのだろう。
これならば、俺の要求も通るかもしれないな。そう考えて、さらに言葉を重ねる。
「すぐにもハインツ達はハルツ公領に入ってくるだろう。そうなればセルマー領騎士団はいつまで
もいるはずのないハインツの捜索と迷宮退治で疲弊することになるだろうな。仮にハインツがハル
ツ公領にいることが分かっても、伯爵様が公爵様に頭を下げて助力を乞わないと騎士団を派遣する
ことはできないと悪党共は考えている。」
「…。」
「そして騎士だけでなく、俺のいたジェードの盗賊団も襲って惨殺した。俺達のいた廃村を自分
達の新な塒にする為だ。ハインツ達が使っていた塒は賞金稼ぎによって、火を付けられて燃え尽き
たらしいからな。そしてその賞金稼ぎ達も返り討ちにされたらしい。騎士団、盗賊団、賞金稼ぎを
退けたんだ、盗賊団が自分達に敵う勢力は無くなったと考えていても不思議じゃぁない。調子に乗
った連中はハルツ公領でもやりたい放題になるだろうな。村や隊商の3つ4つも壊滅させらせられ
ても不思議じゃなくなるかもな。」
この言葉に流石に騎士団員に動揺が広がるが、リーダーは冷静だった。
「その話が本当であるとの証拠はあるのか。」
「ねぇな。強いて言えば俺のインテリジェンスカードの職業は盗賊だ。それで騎士団詰所に来る
ことの危険は分かるだろう。」
そう言って俺は左手を相手に伸ばす。隊長格が目くばせすると騎士の一人が近づいてきて俺の左
手に手をかざすと、呪文を唱え始める。
左手の甲からカードが浮き上がり、中空で固定された。
それは俺の名前、性別、年齢、職業などの情報が記載されたカードだ。
カードを覗き込んだ騎士が告げる。
「名前はルハト。16歳、職業は盗賊です。」
「盗賊が捕まる危険を冒しても、ハインツのことを伝えに来た,それが証左となるか。」
「…。」
「…。」
「まず何人かでセルマー領に飛べ、本当に騎士団に被害があるか調べろ。直接騎士団に赴くので
はなく、周りから情報を得るようにしろ。騎士団の被害の状況が確定してからハルツ公爵に隣領と
交渉するように動いてもらう。」
ついにリーダーが決断を下し、次々と指示を出していく。
「はいっ、ゴスラー団長殿。」
指示を受けた隊員が駆け出していく。隊長だと思った男はさらに上役の団長でゴスラーという
らしい。そしてゴスラー殿は盗賊団殲滅に動いてくれるようだ。
「それと先んじて冒険者ギルドと探索者ギルドには話を通して盗賊の出入りを監視させる。後は
格迷宮と村々を巡回する人員を確保して割り振る。」
どうやらハルツ公領騎士団にハインツ盗賊団討伐の機運を作れたようだ。目的の達成に心の中
でほくそ笑んだ。
さらにこちらを向いて、俺にも命令をしてきた。
「いい加減、彼を放しなさい。それと貴方の今後の処遇は。」
「俺はまだ、重要な情報を話していないぜ。処分はそれを考えてするんだな。」
ゴスラー殿の言葉を遮って、俺は最後の手札を切る。
「重要な情報とは、なんだ。」
「セルマー領にあるハインツ盗賊団の新しいアジトの位置だ。もしアンタらがハルツ公領内で
賊を討ち取れなかったら、その場所を教えるよ。隣領とはいえ、領主の説得は難しいだろうが、
寝る場所や資金源を攻撃するのは効果的だからと言って押し通せるだろう。」
寝床と金を狙うのは常套手段だとジェードから学んだことだった。
「…。分かった。その情報を考慮して、お前の処遇は報告の真偽を確認してから決める。それ
までは危害は加えないから牢獄で大人しくしていろ。」
ゴスラー殿は意外にも、俺の話を信じて行動してくれるようだった。
俺は羽交い絞めにしていた男を突き放す。解放された男は凄い顔で俺を睨んでくるが、それを
無視してまったく別のことを言った。
「判った。ハインツの討伐をしてくれるようだから、牢に入る前に、俺の知る限りの一味の構
成員の情報を伝えておく。相手は10人以上、ハインツはエルフだがシモンは狼人族、それ以外の
部下はエルフ族よりも人間族が多い。俺が判る範囲だが、誰が目当ての盗賊なのか判別する材料にはなるだろう。」
「誰か、名前と種族、特徴を紙に書いて、写しを撮って皆に配れ。それが終わったら、そいつを
牢に入れろ。」
俺は騎士の一人に促されて、建物の一つに入る。
とりあえず、ハインツを追撃することはできそうだ。無茶な交渉だったが、成功したといえそうだ。