「では、2階層でも同じ様に戦って見てくれ。…1度外にでる必要があるな。」
迷宮の階層を移動するには、その階のボス敵を倒して、その部屋から上にあがるか、もっと簡単
にジョブ探索者のもつ固有魔法である迷宮内移動魔法ダンジョンウォークを使用して一度踏破した
場所限定で移動する。あるいは1度外に出て、迷宮に入り直す時に、自身が行ったことのある階層
が選択されるので、そこで任意の階層に行くことができる。
今、このパーティーには探索者がいないので、2階層に行くには、ボスを倒すか1度外に出て入
り直すかをしなければならない。普段は探索者がパーティーに存在する騎士殿には不便に感じられ
るのだろう。
「入口にはすぐに戻れます。」
場の空気を察してすぐにメスリーヌが言う。
「本当か。」
「来た道にある私達の匂いを辿るだけです。」
スタスタと来た道を戻り始める彼女の後を3人で追う。すぐに入り口に辿り着いた。
「この娘は、当たりだったな。大事にしろよ。」
冒険者殿がこちらに呟いてくる。
入り口から外に出て、再び入り口を潜る。ここが2階層だろう。
2階層でも同じ様に、メスリーヌは匂いで魔物を探し始める。
「この2階層にいる魔物の種類はわかるか。」
「ナイーブオリーブですね。」
騎士殿の問いに躊躇なくメスリーヌが答える。
メスリーヌの答えに頷きながら騎士殿が次の行動を促す。
「ではナイーブオリーブだけがいるところに、案内できるか。」
騎士殿に問われて、わずかな時間だけ鼻を動かし、彼女はすぐに歩き出す。ほどなく腕のような
枝葉をしならせる植物型の魔物と遭遇する。敵の攻撃を躱しながら、剣を何度も振るい相手を消滅
させる。
その後もナイーブオリーブとグリーンキャタピラーの混同隊やグリーンキャタピラーのみの敵
を、指示通りに探しあてていく。騎士殿も冒険者殿も満足そうだ。
「魔物を探して歩き回らくてよいので、探索の効率がいいな。騎士団でも狼人族の導入を検討し
たいところだな。」
「購入料金が高額なので難しいですね。」
騎士団の運営について2人が話ながら迷宮を後にする。外にでると、獣道を大きくしたような、
新しく作られた道を騎士殿を指し示した。
「この道がボーデの街につづいている。街に留まり、明日からお前達にはこのボーデの迷宮での
戦闘に従事してもらう。期待しているぞ。」
冒険者殿の魔法により何処かの建物内の絨毯出口にでてくる。
迷宮から街に戻ってきた。
「ここはボーデの冒険者ギルドだ。」
建物から出て、街のつくりを説明される。ボーデの城、探索者と冒険者のギルド、武具防具その
他を扱うよろづ屋、ボーデの迷宮へと繋がる道などを教えてもらい、最後に宿屋を紹介される。
「この宿を使え、今、我々はパーティーを組んでいるから、おおよその居場所が把握できる。逃
げ出したりしたら、すぐに分かるぞ。」
メスリーヌと冒険者殿から少し離れて騎士殿が俺に言う。
「俺がするべきは、逃げることじゃなくて、3日後に奴隷商人を呼んでもらうことだよ。」
「奴隷商人を…。何故だ。」
「シモンの探索で、もし俺がシモンに見つかり殺された場合、彼女も同時に死ぬんだろう。シモ
ンにどちらかが殺されても生き残った方が奴の生存を知らせることができるようにしたい。だから
捜索の前にアラン殿の言っていた遺言の書き換えを行いたいんだ。」
「そうか…。手配しておこう…。明日からの迷宮探索に励むようにな。」
そう言って騎士2人は、宿前からボーデの城へと帰っていった。
「あの…。お2人は宿屋には…、泊まらないのですか。」
メスリーヌが顔を赤くしたり青くしたりしながら、聞いてきた。
「あぁ、あの2人はお目付け役みたいなものだから、基本は俺達2人で迷宮を探索するぞ。」
メスリーヌは4人組のパーティーだと思っていたのだろうか。まぁ、彼女にはキチンと説明して
いなかったから、誤解していても不思議ではないな。勘違いをさせてしまったのは悪かったが、こ
の挙動不審はなんなのか。
「3人でなくて…良かった…でも…2人きり…。」
そんなことを呟きながら、彼女の体は微かに震えていた。その様子で彼女が何故、不穏な言動を
していたのかを理解できた。
「初日の夜から4人で楽しもうとしていると思ったのか。そんな無茶はしねぇよ。それとも美形
のエルフ族が相手でないとイヤだったのか。」
俺の意地悪な質問に、今度は目を白黒させ始めるメスリーヌ。
「いぇ…。そのようなことは…。」
どうやら、俺と騎士殿と冒険者殿の3人を相手に夜伽をさせらると思っていたらしい。
あるいは俺が知らないだけで、奴隷というのは、パーティー全員に奉仕しなければならない存
在なのか。
いや、ジェードは自分に侍らせてた女を、部下に下げ渡すようなことはしなかった。であるのな
ら、世俗のことはさて置き、ジェードの流儀にならうことにしよう。
「相手をするのは俺だけでいい。他は拒絶しろ。」
「…はぃ。」
消え入りそうな声で返事を返すメスリーヌ。
迷宮での手慣れた戦闘とは裏腹に、性のことになると容易く動揺してしまうようだ。
そんな彼女にとって、相手が俺だけというのが、どこまで救済になっているのか。今日初めて
会った男と夜を過ごすとなれば、複数人相手でもたいして変わらないのか。
とはいえ、いつまでも宿の前にいるわけにもいかない。メスリーヌの境遇は後で考えることにし
て、扉を押して宿にはいる。
「いらっしゃい。」
カウンターにいたのはエルフ族ではない、人間族の男だった。以外に思いつつ受付を進める。
「2人で、長期滞在できるか。」
「できるよ。部屋はダブルでいいか。」
「あぁ,それでいい。」
ダブルつまり、2人で1つのベッドを共用することに背後のメスリーヌから動揺が伝わるが話を続
ける。
「料金は一泊で三百八十ナール、宿で出す食事は朝食が無料で夕食は1人六十ナールだ。」
1日で五百ナールが必用だな。銀貨十枚をカウンターに置く。
「とりあえず2日ぶんだ。」
「まいど…。」
さらに1階の食堂の朝夕の営業時間、別料金でのランタンのレンタルやお湯の購入について説明
を受ける。
お湯が買えるのは本当に助かる、桶2杯分の湯とランタンを頼み、追加料金を支払いランタンの
み受け取る。お湯は食後に持ってきてもらうようにした。
男の案内で三階まで階段を上がる。この建物は周囲の木造建築とは違い石造りの三階建て、そ
の三階がダブルの部屋らしい。
男が鍵を開け、部屋の備品について簡単に説明すると鍵を置いて出て行った。
俺は小さな作業机に武器を置くいて、椅子に腰かける。
メスリーヌは入り口に突っ立って、一つしかないベッドをチラチラと見て、緊張で固まってい
る。彼女をどうしたものだろうか。赤裸々な本心を言えば、今すぐ彼女を裸に剥いて、その肢体を
味わいたいのだが、現状でそんなことをすれば、彼女の心が壊れてしまうかもしれない。盗賊時代
にも堕ちた身をはかなんで自死を選ぶものがいた。彼女の態度が体に触れさせない為の演技の可能
性もあるが、奴隷とはいえ嫌がることを無理強いすれば、関係を破綻させる恐れがある。
ならば抵抗が無かった迷宮探索に今から2人行って、親睦を深めてみるか。夕食まで時間がある
ので往復して少し戦うくらいのことはできる。だが居場所が分かるから逃げるなと釘を刺された直
後に宿屋から移動したら、騎士達が逃げたと誤解しかねないと考えると悪手に思えてくる。
奴隷なので、なんでも命令できるなどと考えずに、普通に会話で距離を詰めてみるか。
「…。まずはそこのベッドに座ってくれ。」
「…はい。失礼します。」
緊張した硬い声が返ってくる。彼女を怖がらせないように俺は椅子に座ったままにする。
「まず現状だが、俺達はハルツ公領騎士団と契約したパーティーになっている。先程の2人は騎
士団の構成員だ。これから騎士団の指定する迷宮で戦うことになる。だがこれは内密の話なので、
よそで話したりしないように。」
「はい。」
メスリーヌは、迷宮での戦いの話しになると、落ち着きを取り戻す。
「普通は指示された迷宮で闘うだけなんだが、俺達は3日後に特別な仕事に従事することにな
る。」
「特別ですか…。」
「凶賊ハインツの盗賊団が暴れまわっていた話は知っているか。」
「いいえ、ハインツと言う名は聞いたことがありません。ですが凶賊というのは、盗賊の上位
ジョブですよね。渾名でなく本当に凶賊なのだとしたら、恐ろしいことです。」
「そのハインツ盗賊団は隣のセルマー領で大暴れした後、このハルツ公領に入ってきたのだが、
迷宮内で討伐された。盗賊の大半はインテリジェンスカードが回収されて死亡が確認されたが、最
も厄介な狂犬のシモンのカードは無く、生死が判明しなかった。」
「狂犬のシモンッ。」
驚きでメスリーヌの腰がベッドから浮き上がった。
「流石にシモンは知っているか。」
「はい。狼人族でシモンの悪評を知らないものはいません。恐ろしいほどの剣の使い手で、何人
もの戦士や冒険者がシモンに倒され、高名な騎士でも返り討ちにされました。その後、狼人族の生
息圏から姿を消したと聞きましたが、エルフ族の領域に来ていたのですね。」
「そのシモンがまだ生きているのを確認するのが、俺達の仕事だ。」
「無理です。見つかったら殺されます。」
メスリーヌがベッドから立ち上がって叫んだ。
ルハトの知らない情報
メスリーヌ
獣戦士:Lv26 村人:Lv6 農夫:Lv1 戦士:Lv1 剣士:Lv1
探索者Lv1
メスリーヌは土地持ちの大きい豪農の出身で、普段は農夫をしていますが、農閑期には
迷宮に入っていました。実家が裕福なので、迷宮探索では最初から高価な装備で挑んでい
る為に、早くレベルが上がっています。家族も高額装備なので、強いパーティーを結成で
きて、階層をあがってきました。
また彼女の実家は太く、下男が何人も家にいるので、其奴共が容易に近づいてこれない
ように父親がメスリーヌを迷宮で鍛えて強くしています。
旅亭の主人
主人はエマーロ族ですが、ルハトはエマーロ族自体を知らなかったので、人間族と誤解
しています。