シモンのお宝を持ち出し床を元に戻した後、ハインツが占拠していた元村長宅に戻った。
床下収納から金貨と他の宝物を取り出す。片手剣、インテリジェンスカードに謎のボックス、な
にかの丸薬、全てを取り出した。
「うんっ。」
収納の奥に、仮面が置かれているのに気が付いた。前にここを開けた時には気が付かなかった。
仮面も取り出してみる。目元のみを覆うドミノマスクと呼ばれる仮面だった。
「…?。」
この仮面を何に使っていたのか。襲撃の際に被って顔を隠していたのか。彼奴らが人を襲う時に
は皆殺しが当然で、仮面を被る意味などないだろうに。
とはいえ、ここに隠してあったからには、何か重要な装備品かもしれない。これも持っていくこ
とにした。
俺が仮面について思案している間。メスリーヌはじっと金貨の袋を見ていた。
気持ちは判るが、金については割り切ってもらわないといけない。
「メスリーヌ、この金の大半は公爵に渡すことになる。」
メスリーヌの手が微かに震えた。
「理由は金額が大きすぎることだ。こんなでかい金の詰まった袋を抱えて迷宮には入れないし、
普通の生活を送るのも無理だ。この金を見たら隣人が盗賊に変わりかねない。俺が高レベルの探索
者なら魔法のアイテムボックスに金を入れて、何食わぬ顔で暮らしていけるが、現状では無理だ。
懐に入りきらない金は持つべきでは無いな。」
「…ルハトは、本当にそれで良いのですか。」
「この金は…盗賊団が多くの人を殺して奪った、血塗られた金だ。そんな金で贅沢を謳歌できる
ほど、俺は能天気じゃない。」
メスリーヌが今度は大きく身震いする。
奴隷に堕ちても、元はお嬢様らしい素直な反応だな。俺のように、金で苦労してきた人間だった
ら、例え穢れた金であろうとも、躊躇なく自分の為に使っただろう。
「俺達には無理だが、ハルツ公爵ならこの金をキレイにすることができる。例えば、盗賊団の被
害に合った民草の救済に使ってもらうとかな。俺達の報酬もその金から頂戴する。この形式なら、
金を貰っても罪の意識は薄れるだろう。ハルツ公爵様からの恩賞として金を回収するから、今はそ
の金の袋に固執するを止めろ。」
彼女の反応を見ながら説得していく。実直な娘なので、正論で説き伏せられるだろう。こういう
のは無理強いをしても駄目だ。
「…わかりました。」
項垂れながらも、メスリーヌは納得してくれたようだった。
彼女が何故、奴隷になったのかは知らないが、極貧の生活を送ってきた者だったら、この程度で
は説得できなかっただろう。彼女が元は裕福な家庭で、まともな倫理観を持っていて助かったな。
押収した物が多すぎて、全て持っていくことが出来ないので、銀貨と銅貨の袋は地下収納に戻し
床板を嵌め戻しておく。金貨の袋5つとその他の分捕り品を、メスリーヌの2人で運んでいく。
村長の家を出た所で、ドアを閉める為に抱えていた荷物を下ろした。メスリーヌは重い金を袋を
抱えて前を進んでおり、こちらを見ていない。今がいい機会だろう。俺は腰に佩いている剣を、床
下から見つかった片手剣とすり替えた。見つかったアイテムは大半が用途が分からない物だったが
、この片手剣だけは俺は知っているものだった。死に際のジェードから頂戴してきた、『吸精の短
剣』と対をなす『吸精の鋼鉄片手剣』だ。ジェードはこの一対になる短剣と長剣を状況によって使
い分け、肉体と精神の両方を削ることのできる対人戦での圧倒的な優位性を誇ってきた。
このジェードの剣を他人には渡したくはなかったので、秘匿することにした。本当はジェードの
金も渡したくはなかったが、元村長宅で見つかった金が、ジェードのものか、ハインツのものか、
あるいはその両方を一緒くたにしたものなのか判別することができなかったので、こちらは泣く泣
く諦めてハルツ公に渡すことにする。
元々持っていた剣は、村長宅の縁の下の見えない場所に放り込んでおく。メスリーヌは荷物を運
ぶのに没頭していて、俺の不義の行動には気が付いていない。
彼女には、俺のろくでもない部分には関わるべきではないし、知るべきでもない。彼女は、そう
した事柄からは遠ざけておくべきだろう。
戦利品は重く嵩張っていた為に、土塀を越えるのに苦労させられたが、騎士団員2人の所へ戻っ
てくることができた。
「無事だったか。」
「なんだ、その袋は。」
2人とも口調は荒かったが、俺達が帰ってきたことに安堵している様子が窺えた。
「詳細は公爵様の前で話すが、村には誰もおらず。当然シモンの姿も無かった。だが、村人のも
のとは思えない多額の金と武器が残されてした。おそらく盗賊団が隠したものだろうが…シモンが
まだ生きているのなら、この金を持ってどこか遠くに逃げると考えるのが自然だ…だが、金は残さ
れている。となるとシモンはもうこの世にいないと思っていいと思う。」
「確実な話ではないようだが、朗報だな。ハルツ公爵様に報告して、判断を仰ぐことにしよう。」
冒険者殿が魔法で扉を作り、俺達はそこに飛び込んだ。
城内にある絨毯が吊られた部屋に戻ってきた。騎士殿が待機していたらしい従者を呼びつけた。
「大至急、公爵様への御目通りを手配してくれ。それと公爵様の居られる執務室に行くまで、誰
にも見られたくない。人払いも同時に頼む。」
騎士殿の命令に従者が駆け出していく。金の袋を人目に晒したくないのだろう。流石に段取りを
つけるのが達者だった。
「今のうちに、俺達の武器をニイル殿に渡しておく。それと見つかった武器を公爵様に開示する
のはお2人にやっていただきたい。公爵様の前で俺が武具を手に取るわけにはいかないからな。」
「承知した。」
元盗賊の俺の提案でも、2人とも真摯に対応していた。この件に関しては身分など構っていられ
ない。その処置はまだ続いているようだ。
迎えに来た従者に先導されて、公爵様の執務室に参着する
「すまないが、メスリーヌはここで待っていてくれ。」
執務室の扉の前で、メスリーヌに告げる。
「はい。」
気落ちした声で、メスリーヌが応えを返してくる。
カヤの外にしたようで心苦しいが、この先、俺の正体に関する話題が出るかもしれないので、彼
女を入室させるわけにはいかなかった。
「無事に帰ってきたようだの。なにやら儲け物があるらしいの。」
部屋に入ると、領地の為政者たるハルツ公爵が、やたらと明るい声で出迎えてくれた。
現状、俺はメスリーヌを疎外したようで、非常に気落ちしているのだが、それはハルツ公には関
わりの無い話なので、致し方なかった。
挨拶もそこそこに、俺達は接収品をシモンの遺物とハインツの分に分けて、執務机に並べる。
俺が見たことも無いような大きな机だったが、それでもギチギチに詰めないと全ての物品が載ら
なかった。
部屋にはハルツ公の他に、騎士団長のゴスラー殿と側近らしき男性エルフがいたが、どちらも驚
いた顔で机を見ていた。
「余への手土産にしては多すぎるな。」
嬉しそうなハルツ公爵の発言は脇に置いておき、報告を始める。
「まず、クローテ村は無人だった。井戸も竈もしばらく使われた形跡がなかった。ハインツとシ
モンがいたと思われる家をそれぞれ調べた所、この金や武器が床下に隠されていた。」
「ふむ。」
机に置かれた袋の口を開けて、中に入っている金貨を見せる。
「まずは俺のインテリジェンスカードをチェックしてくれ。」
左手を差し出した俺に、ハルツ公が手を伸ばす。公爵の紡ぐ呪文により、俺のインテリジェンス
カードが導き出される。そこに刻まれたジョブは村人だった。
「俺が村人だということは、持ち出したこの金は、持ち主が誰もいないかあるいは盗賊の所有物
だったということだ。」
人の持ち物を、勝手に持ち去れば、強制的に職業盗賊にされてしまうが、盗賊の所持品を分捕っ
てきた場合は、盗賊扱いになることはない。俺が持ってきた金はハインツ盗賊団の物であった裏付
けが取れたといっても過言ではないだろう。
俺のカードを覗き込んでいた、ゴスラー殿を含む騎士団の面々も頷いている。
「次にこの両手剣の鞘を見てくれ。」
「ふむふむ。」
「俺の狼人族の奴隷によると、狂犬のシモンは名のある騎士を倒して、銘剣を何本も奪っていっ
たとらしい。」
「余も、その話は聞いたことがあるな。」
「この剣の鞘には、削られて薄まっているが、狼人族の名家の紋章が刻まれている。」
「確かに、さる狼人族の一族の紋所が見て取れるな。」
流石に公爵様は薄っすらとした紋章から,どの家か分かるらしい。
「その家紋から見て、この剣や武具はシモンが奪ってきたものだろう。金は盗賊団のものと推察
される。もしシモンが生きていて、ハルツ公領から逃げたのであれば、この金を残していくのは変
だろう。今ならハインツの金までも盗っていけるのだからな。それに、もし逃亡したのではなく、
果敢にも領主様やハインツ一味を倒した一団への復讐をするつもりなら、これらの武器を持ってい
って戦おうとするだろう。だが、そのどちらも村に残されたままだった。このことからシモンは最
早死んでいると、俺は思う。」
これが俺にとって最も重要なことだった。