迷宮に盗賊を手放して   作:沙羅屋敷

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皆で検証をする③

 「名はハレイ。人間族、職業は盗賊。」

 読み上げられたインテリジェンスカードの内容に、俺は心と体がゆらぐのを感じた。

 足に力を入れて、身体がぐらつくのを防ぐ。彼らがもういないと事実を再び容赦なく突きつけら

れた。衝撃と閃きが走る。

 

 「そいつは、俺のパーティーメンバーだった。盗賊だったが、真面目に迷宮で戦っていた。」

 こんなことを言っても、ハルツ公が殺された彼らのことを覚えていてくれたり、同情したりはし

ない。それでも彼らの身の上を話さずにはいられなかった。彼らの事を憶えているのは俺しか残っ

ていない。口にすることで、少しでも記憶に残しておきたかった。それを公爵達に見せる必要があ

った。

 

 「ハルハド。種族はエルフ。盗賊です。」

 「ジェードとパーティーを組んでいた、腹心だ。接待博打が上手なので、賭場を開いては最後に

ジェードを勝たせて、彼をご機嫌にする役目の男だった。」

 騎士団員が興味を惹かれなくても話続けた。 

 「名前はフレアミラ。人間族で女。奴隷の村人…。」

 ハインツ達は、女でも容赦無く惨殺していやがったのか。俺の憤りをよそに、ケリア殿が明らか

にそれまでの盗賊団員と異なるカード情報を見て、こちらに説明を促した。

 「彼女は盗賊じゃなくて、ジェードの情人の1人だ。騙されて連れてこられても、甲斐甲斐しく

ジェードの世話を焼いていたので、他の情婦達と違う厚遇を受けて側に侍っていた。」

 「奴隷の購入にはインテリジェンスカードの確認が必用なはずですが。」

 ゴスラー殿が、冷静に指摘にしてくる。気に掛けるところはそこなのか。とはいえ彼らにとって

は、領民ではない盗賊団の協力者の死などは憂慮するべきことではない。騎士団員が今回の死者に

冷たかったといって、憤慨するのはお門違いというものだろう。

 ジェードの記憶は俺だけの物と自信に言い聞かせる。そしてジェードを殺したハインツ達が討伐

されたことに歓喜していることを同じだけ心に刻め。領主様達は身内を殺されたりしていなから、

盗賊団壊滅の喜びは俺の方がはるかに上なんだ。だから彼らが冷淡な態度をとっても不満に思った

りするなと己に言い聞かせた。

 「ジェードの仲間には盗賊だけじゃなく、探索者がいる。そいつが女を買ってきて、ジェードに

引き渡したんだろう。他にも探索者がいれば、貸家を借りて塒にしたりもできるので、インテリジ

ェンスカードのチェックを過信するのは危険だな。」

 「盗賊団に協力する探索者がいるとはな。」

 「破落戸と変わらない探索者など、どこにでもいるのさ。」

 

 「次のインテリジェンスカードですが、名はグロム。人間で探索者です。」

 「ふむ。」

 都合よく探索者のカードがでてきた。

 「そいつは…はっきり言ってかなり間が抜けていてな…それが原因で元のパーティーを追放され

たんだ…それで難儀していた所をジェードに拾われた。」

 「そういう食い詰めた者を勧誘しているのだな。」

 ハルツ公が納得するなか、俺は再び憂鬱感に囚われ始めた。

 ジェードが襲撃された日、街道でのそのそと逃げあぐねていたグロムは、俺と間違われて襲われ

て、結果的に俺が見逃されることになった。グロムが殺されたことによって、俺が助かった。その

事実が今更ながら、のしかかってきた。

 

 「次の名はクレフド。人間の盗賊です。」

 俺の感傷など置き去りにして調査は進む。当然のことだ。騎士団にとって、俺は便利に使える駒

に過ぎないし、復讐の為にその立場を受け入れたのは俺自身だ。

 彼らに合わせた態度をとらなければならない。ハインツもシモンも死亡し、その遺品の精査に参

加している俺が、もう盗賊に戻る道は閉ざされているのだから。

 

 「そいつは知らない名前だ。おそらく襲撃してきたハインツの部下で返り討ちにあった奴のカー

ドだろう。」

 「襲ってきた側のインテリジェンスカードか…。そもそも、盗賊団がカードを保持した理由が分

からんな。倒した相手に敬意を持つような連中でもあるまいし。」 

 「強敵を討ち取ったことを誇示するのなら、ジェードのカードがあれば十分でしょうに…これが

ハインツやシモンのインテリジェンスカードだったのであれば、持ち込めば盗賊団にも金が支払わ

れる特例になっていたので、まだ理解できるのですが…。」

 「…推測だが。ハインツ盗賊団と通じているセルマー伯領の騎士団員がいるのだろう。そいつに

カードを手渡して、騎士団に提出させる。『ハインツは不在でしたが、手下の盗賊を討伐すること

ができました』とでも言ってな。これによって、その盗賊に通じている騎士の地位が上がれば、騎

士団の動きがハインツに筒抜けになって、彼らが逃走しやすくなる。ジェードの部下のカードを、

ハインツの手下と偽装する為に所持していたものだろう。」

 

 「…悪辣なことを考えますね。」

 「凶賊ハインツと恐れられた男だ。そのくらいの悪事はするだろう。」

 「ハインツではなく、あなたのことを言っているのですルハト。まだ若いのに悪行に精通しすぎ

ています。ただの盗賊の配下なのかを私は疑い始めています。」

 「えっ。」

 思ってもいなかったことをゴスラー殿に告げられて、絶句してしまった。

 「いやいや、それは買い被りがすぎるというものだろ。盗賊のやり口に詳しいのは、ジェードの

自慢大会につき合わされた経緯があるからだし、その手口をこうして明かした以上俺がそれらを、

実践するのは困難だ。それに腹に一物あるような人間が自分の食い扶持を暴露したりしないだろ。

俺としても盗賊稼業を捨てる腹積もりで、手練手管を公開している。それを疑われるのは心外だ。」

 

 「そこですよ。」

 「へっ。どこ。」

 「こちらの言っていることに、なにかしらの小理屈で返してくる。私が今まで出会った盗賊の中

で、図抜けて頭と口が回る。これで一介の盗賊ですというのは、通じない話です。」

 「いや、どこを切り取っても、便利に使われてきた下っ端盗賊でしかないのだが。」

 ここまで疑われているとなると、反論は逆効果なのだろうが、黙っているのも悪手だな。どうし

たものか。

 

 険悪になりつつある雰囲気にハルツ公が、うんざりとしながら口を開く。

 「ゴスラーよ。そのあたりにしておけ、こやつを疑いだしたら際限がない。ルハト、お前も己の

立場を自覚せよ。」

 「はっ。」

 「はぁ。」

 公爵の仲裁で、カードの読み上げが再開された。

 

 「ネラーザ。人間の女。奴隷です。」

 「ジェードの情人の1人だが、ほとんど家から出てこなかったので、どんな女だったのかは分か

らない。」

 「盗賊に連れ去られた女など、監禁も同然の扱いが当然かと思うが…先に言っていた女は、自由

に出歩ていたのか。」

 「…自由気ままに闊歩していたという訳ではないが…。ジェードの塒への立ち入りが許されてい

ない、俺達のような下っ端の所に来て、ジェードの為に働いてくれるように頭を下げていた女だっ

た。実際、美人に微笑みかけられた俺達は有頂天になって、迷宮での戦いに身を投じていったから

な。そういう気づかいができることろが、監禁しておくよりも利があると判断されたんだろう。」

 「野卑な盗賊団とはいえ、頭ともなると、人の使い方に一家言あるということか。」

 この日、初めてハルツ公爵が、殺された人間に興味を示した。俺はそれが嬉しくなり、カードを

持ち込んだことに充足を感じた。

 

 さらに数枚のカードが読み上げられ、俺がカードに記載されていない情報を補足していく。

 「名はジェード。エルフ族。職業は…。」

 読み上げる騎士殿の声が上ずる。

 「職業は…凶賊です。」

 「なにっ。」

 「なんだと。」

 「聞いていないぞ…俺達にまで、隠していたのか…。それがジェードの奥の手だったというのな

ら、俺達に話したりしていたら、どこかに漏れたりしたかもしれないしな…正しいことだったのだ

ろう…ハインツはこのことを知っていたのだろうか。」

 知っていたのだとしたら、どんな手段を使ったのか。自分の知らないジェードを熟知していたか

もしれないハインツに嫉妬を憶える。

 

 「どちらの凶賊も、もうこの世にはいない。恐るべき真相だったが、脅威とはならんな。」

 ハルツ公爵が、そう宣言してカードの読み上げが再開される。

 

 「フレオス。狼人族の海賊です。」

 最後のカードがフレオスだった。

 「フレオスは…1度だけ、酒の席で海賊になったことを泣いていた。あいつは稼ぎ手の父親が病

気になり、家庭が困窮したので禁猟区の山で狩りをして家族を食わせていた。その山は、領主様が

季節になると近隣の領主の方々と狩猟を楽しむ山だったので、一般人にはご禁制の場所だった。と

はいえ、村長も村人もフレオスの行為を見て見ぬふりをしていた。おそらく領主様も黙認している

ことなんだろう。だが、村長の次男がこのことを問題にした。大騒ぎをして村人に触れ回り、フレ

オスを断罪するように吹聴していった。結果、フレオスは海賊に堕とされ、追放された。海賊でも

せめて奴隷として売られていたならば、家族に多少でも金を残せたのに、村の恥を広めるからとそ

れも拒否された。ジェードに言わせれば、騒動を起こした村長の次男が『無能の働き者』の極致だ

そうだ。長男ではないので村長になれる訳でもないのに、大騒ぎをする。稼ぎ頭が病気で倒れて家

族が貧困に陥ることなんて他の村人の家でも起こりうることなのに、その救いになる密猟を暴く。

そんなことをすれば、後々困るのは村人だいうことに気が付かずに、自身が大仕事をしたかのよう

に振る舞う。本人は、正しいことをしているつもりで村の運営に多大な損害を与えていることを全

く認識していない…。その後、フレオスは、ジェードに拾われて迷宮に潜れば、住む所と食い物を

与えられる環境になった。放逐されて以降、家族がどうなったか分からないなかで、海賊の自分が

食い扶持に困っていないことに申し訳なさ感じて涙を流していたよ。…世間のイメージを覆す、無

能な村長の息子と有能な盗賊の見事な対比だな。」

 「長く盗賊の頭目の手柄を話していましたが、結局、フレオスをいう男は殺されてしまったので

しょう。得られた報酬に結末が釣り合っていませんね。まぁ盗賊の末路など、悲惨なものだと相場

が決まっています。」

 ゴスラー殿にはバッサリと切り捨てられた。騎士団員には当然の反応とはいえ、簡単に切って捨

てられるのは一寸辛い。それでも盗賊団のことを話したのは無駄ではないと思いたい。

 

 「公爵様、そのカードは俺にくれないか。盗賊とはいえ仲間だったんだ、弔ってやりたい。」

 インテリジェンスカードがジェードの団のものだと分かった時から考えていたことだ。

 「…このインテリジェンスカードには、まだ使い道がある。それが終わったら渡してやろう。」

 長々とカードに刻まれた情報の補足を行い、俺が彼らに執着している様を印象づてきた。

 それが功を奏したかは、分からないがハルツ公はカードの返却に同意してくれた。

 「それで頼む。」

 公爵様が約束を守ってくれること信じて待つよりなさそうだった。   

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