迷宮に盗賊を手放して   作:沙羅屋敷

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再び廃村へ①

 「公爵様、やはり我々の手で直接村を調べるべきです。」

 インテリジェンスカードが片付けられたところで、ゴスラー殿が語気強く提案してきた。

 「金も武具も回収できて、シモンもおそらく死亡している。これ以上調べる必要など無いと思う

のだが。」

 「彼の言葉を鵜呑みにするのは危険すぎます。やはり自身の目で確認しないことには、納得でき

るものではありません。」

 「しかしだな、騎士団長のそなたの姿が、万が一にもセルマー伯領騎士団に見られたら面倒なこ

とになる。」

 「ルハト。村を騎士団員が訪れた形跡はありましたか。」

 「いや、そんな痕跡は無かった。盗賊というのは、基本的に他の盗賊の縄張りに立ち入ったりは

しないからな。だから、騎士団がハインツを捜すとなれば、ジェードのシマは捜索の候補からは外

れる。それを見越してハインツはジェードを襲って、アジトを奪ったのだろう。」

 ゴスラー殿がそれみたことかという表情でハルツ公に顔を向ける。

 「とはいえな…。」

 しばらくハルツ公とゴスラー殿の押し問答が続いた。

 

 「シモンがいた場合に備えて、強者を待機させています。すぐにも出立できます。」

 「強さを求めた人選では駄目だ。越境したことを絶対に秘密にできて、さらに村を探し回って1

ナールも発見できなかった場合でも文句を言わない面子でないと捜索は許可できない。おそらく村

にはもう盗賊が残した金は残っていないのだろう。金が得られることを期待して、それが空振りに

終わったことに不平不満を感じる者は、それをすぐ周りに漏らす。この件はセルマー側には知られ

たくない。秘密を守れる人材でないと、村への調査は認められない。」

 ハルツ公爵は、ゴスラー殿に押し切られて遠征を認めたようだったが、厳しい条件を付けている

ようだ。

 「そこまで、口の堅い部下となると限られます。今は城を出払っている者もいるので、すぐに出

発はできません。今から人選をして、予定を組み換え、明日の朝1番に出発します。」

 「あやつらも連れていけ。」

 公爵様が俺を指し示す。

 「彼もですか…。」

 「村に1番詳しいうえに、連れている娘は嗅覚で敵を察知できるのだろう。誰にも見つからない

ようにするには最適だ。」

 「…わかりました。彼らをここに留めて、明日の朝に出発します。」

 あれ、今予想もしていなかったことを言われたのか。

 「…ここに留めてって、今晩はこの城に泊まっていくのか。」

 「そうしてもらいます。」

 ゴスラー殿が有無を言わさぬ口調で命じてくる。何故、城に滞在しないといけないのか。

 「…。」

 どうやら、俺が夜の間に村に戻って、何か細工をすると疑われているらしい。

 1度疑いをかけらてしまうと、どんな行為でも怪しく映るということか。

 「それは了承したが…宿に荷物を置きっぱなしだ。」

 「宿への連絡はこちらでしておきます。城内に部屋を用意させますので、そこから出たりはしな

いように。」

 「その部屋が牢獄でないことを祈りたいな…あと公爵様にお願いしたいことがある。」

 「なんだ。」

 部屋に入れず、捨てられた犬そのままの表情をしていたメスリーヌの顔が思い浮かぶ。

 「扉の外に俺の奴隷を待たせているのだが、彼女にお褒めの言葉を貰えないだろうか。今回はシ

モンを探せとか無茶なことを命じたからな。俺よりも領主様から直接褒められたほうが、彼女には

響くだろう。頼むよ、褒めるだけなら、只でできるしな。」

 俺の頼み事に、思案顔になるハルツ公爵。

 

 「聞くところによると、その奴隷は、結構な器量良しと聞くが。」

 なにを言っているのか、この公爵様は。

 「奴隷商人が大金を吹っ掛けてくるくらいには、美形だ。」

 「それだけ整った容姿をしておるのならば、ちやほやされることも日常になっておるだろう。翻

って、お前は人を称賛するのに慣れておるようには見えん。そうなると、確かに余が賛辞を送った

ほうが、効果があるであろうな。」

 意外にも、真っ当な考えに基づいてのことだった。

 

 扉を開けて、手持ち無沙汰にしていたメスリーヌを招き入れる。

 自分が呼ばれると思っていなかったのか、キョロキョロ辺りを見回して、落ち着かない様子だ。

 「メスリーヌ、こちらがこの地の領主様であらせられる、ハルツ公爵様だ。」

 「えっ、あ、はいっ。」

 俺が公爵様を紹介すると、メスリーヌは目礼しようとしたが、その途中で服をまさぐり始める。

 服の裾を引っ張ったりして、自分の格好を確認しているようだ。それが新品の服であることを思

い出したらしく安堵の表情を浮かべたが、今度は髪を手で触り、それがバサバサになっていること

を知るや、この世の終わりが来たかのような絶望的な顔になった。

 

 「あー、そのままでよいぞ。余の前に出るにあたって、真新しい装いで来たのであろう。余に対

する敬意の現れとして、それで十分だ。」

 ハルツ公が、慌てふためくメスリーヌを気遣った。

 「はい。」

 しょんぼりしながら、公爵の言う事を受け入れるメスリーヌ。ハルツ公の言う事を素直に受け入

れるのは流石に元お嬢様だな。

 「では、改めて今回の働きに、ハルツ公爵たるブロッケンが礼を述べさせてもらおう。盗賊団員

の生存確認とその財宝を隠すことなく持ってきてくれたこと。これらはすべて我が領民へ安寧をも

たらす素晴らしい成果だ。それを成し遂げてくれた事に深く感謝するものである。」

 

 公爵様が奴隷のメスリーヌに謝意を伝えている。いつもの大仰な口調が抑え気味になっているの

は、お大袈裟に褒めると嘘っぽく聞こえるからだろうか。

 メスリーヌは恐縮しながら「はい、はい。」と繰り返し返答している。やはり彼女にとっては雲

上人から称賛される方が嬉しいのだろう。

 「今回の礼は、先程までの働きに対してだが、お前達の仕事が終わった訳ではない。ルハトにと

っては復讐劇に一区切りをつけたのであろうが、余との契約により、今後は迷宮での戦いに従事し

てもらうことになる。そなたにはルハトをより上の階層まで導いてもらいたいな。さすれば、余も

今回以上の称賛を与えることができる。」

 「はい。」

 褒めるだけではなく、今後について発破かける公爵。 

 

 「此度の報酬はすでにルハトに渡してあるので、なんでも好きなものを買ってもうらうのがよか

ろう。」

 公爵様に人の財布で勝手な大盤振る舞いを始められてしまった。 

 俺達は賛辞をくれたハルツ公に礼を言って、部屋を辞した。

 そのまま、今晩泊まる部屋に案内される。建物の3階にある1室。宿屋の部屋よりも狭く、ベッ

ド、机、椅子が一つずつあるだけの簡素な部屋だ。3階なので、窓から外に出ることはできないし

、階下には人がいるようだから、気付かれずに、ここを離れるのは難しい。

 扱いからして、信用されてなさそうなので、部屋で大人しく明日を待つことにする。

 

 「あの…よろしかったのでしょうか。」

 部屋の隅で、申し訳なさそうにメスリーヌが言葉を発した。

 「…なにがだ。」

 「公爵位にある方に、お礼を言ってもらえる…ということがです。大した事をしたわけでもない

のに。」

 「結果として、狂犬のシモンはいなかったから簡単な任務に感じるが、危険な仕事だったんだ。

公爵様が騎士団に被害を出さない為に俺達を行かせたくらいにな。それと、公爵様が言ったように

、財宝を隠さずに届けたのも功績だ。これでハルツ公は、俺達に報酬を払うだけで、損害無しに利

益だけを得ることができた。礼くらいは言ってもらえる功績だから、素直に受け取っておけばいい

だろう。」

 「はい。」

 メスリーヌの口角が微かに上がる。ハルツ公に褒められたことを思い出し、喜びが込み上げてき

ているのだろう。

 

 ドアが乱暴にノックされた。扉を開けると、食事の乗ったトレイを2つ、両の手に乗せた若いエ

ルフの男が立っていた。

 「さっさと受け取ってくれ。食べ終わったら、トレイは部屋の外に置いておけ。ここからは出る

なよ。」

 城の小間使いなのだろう。自分と同じような年齢の俺達が客室に泊まるのが気に入らず、不機嫌

を隠すことができないようだ。エルフ族は排他的な性分をしている者も多いので、ぞんざいな扱い

でも腹を立てたりはしないようにする。

 

 トレイを受け取り、机に並べる。

 「私は床で食べます。」

 机1つ、椅子1つなので、メスリーヌはそんな提案をしてくるが、それは却下したい。

 俺は椅子の半分に腰掛けて、残りのスペースを開ける。

 「ここに座って2人で食べよう。」

 「…わかりました。」

 メスリーヌが椅子の残りスペースに腰を掛ける。2人で1脚の椅子を使うので、ギチギチに詰め

ることになって、互いのお尻が触れ合う状態になってしまった。

 これは、素晴らしい感触。俺達は本当の意味での尻合いになることができた。

 阿保なことを考えながら食事をとる。狭いので食べにくいが、口に入れたパンは食べたことが無

い柔らかさをしていて驚いた。

 「凄いな、こんなパンは初めて食べた。流石に城では高級品がでるのだな。」

 牢屋で食べさせられたパンはいつもの変わらない固い物だったが、客人用のパンは違うらしい。

 「おそらく、毎朝と毎夕にわざわざパンを焼いているのでしょう。私達が普段食べている、日持

ちするように、固く焼き締めたパンとは別物です。人と金がないと出来ないことですね。」

 メスリーヌもパンを口にしながら、それを作ることのできる城の体制を称賛した。

 

 次にスープを口に運ぶ。

 「このスープは…ちょっと物足りないかな。味がしないわけではないが…。」

 薄味というわけではないのだが、どうにも食べたという満足感が湧いてこない。

 「これは…味が繊細なのだと思います。私達は普段もっと塩気のある食事をしているので、この

ような微細な味付けを理解することができないのだと思います。」

 メスリーヌが困惑する俺に解説をいれてくる。お貴族様用の味で、俺達には向いていないという

ことか。味が繊細などと初めて聞く表現だった。

 

 料理とメスリーヌのお尻の接触感を堪能しながら、食事を終える。

 トレイを片付けるとメスリーヌが声をかけてきた。

 「今日で3日が経ちました。今宵は…私を抱く予定の夜です。」  

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