迷宮に盗賊を手放して   作:沙羅屋敷

25 / 25
再び廃村へ②

 「今日で3日が経ちました。今宵は…私を抱く予定の夜です。」

 そうだった、狂犬と呼ばれたシモン捜索という危険な任務を担うメスリーヌの負担を減らすべく

、彼女との性交は控える約束をした。

 だがその仕事はもう終わっている。メスリーヌは夜伽を了承した性奴隷だから、彼女を抱くのに

もう遠慮はいらない。しかも宿の一室ではなく、お城の一角でベッドは1つ。

 ロマンチックな上に、お膳立ては揃っている。彼女と床を共にしない理由がない…。

 

 そう思いたかったが、俺の頭を駆け巡ったのは、インテリジェンスカードだけになって誰にも顧

みられることの無くなった、かつての仲間と微塵も俺を信用していないゴスラー殿の姿だった。

 「…。」

 彼女に欲情はしているのだが、すぐにいただきますといえる状況ではない。

 明日朝一番に仕事があり、しかもゴスラー殿に信用されていない状態で、いかにも昨晩はお楽し

みでしたという風体で現れるというのはいかがなものか。

 「交いの後の体臭や雰囲気は残りやすいので、男女の仲に明るい方にはすぐに露見すると思いま

す。特に私達は…契りを交わすのが初めてなので、隠し通すのは難しいでしょう。」

 メスリーヌが俺の逡巡を見透かしたかのように言った。ついでに俺に女性経験が無いのもバレて

いた。…処女童貞の俺達では、夜の契りが直ぐに露呈するので、控えおく方が無難ということか。

 

 結局、メスリーヌとの初夜は諦めて、2人で服を着たままベッドに入る。

 「私は、明日もおそばにいますから。」

 メスリーヌがシーツの中で囁いた。自分は逃げたりしないので、今日は我慢したほうが良いと気

を使っているようだ。奴隷商人が勧めただけのことはある良い女だった。

 

 翌朝、不機嫌若エルフの激しいノックで起こされ、クローテ村に向かった。

 昨日と同じ様に、領境にフィールドウォークで移動する。

 参加しているメンバーは俺、メスリーヌと騎士殿ケリアに冒険者殿ニイル。加えてゴスラー殿と

騎士団員が3名。騎士団の正規隊員といえど、秘密を厳守できる人材は限られるらしい。想像した

より少ない人数だった。

 

 メスリーヌの嗅覚を頼りに、村を目指す。彼女の、誰もこの場所に来ていないという言葉に沿っ

て歩を進める。丸太橋を渡って、すぐに村の入り口に到着した。

 

 騎士団員の1人が街道の方へ駆け出していく。村に来訪する者がいないか、見張る役目なのだろ

う。もう1人が死体を焼いた焚火のあった場所でしゃがみ込み、灰を調べ始める。最初から役割を

決めてある、流石の手際の良さだった。

 

 昨日と同じ様に、塀の崩れた箇所からクローテ村に潜入する。全員でまずは井戸に向かう。

 井戸周りに濡れた痕跡は無く、誰も水を汲んでいないことが推察できる。生活するうえで、水

は必要不可欠なので、ここには人がいないことを物語っていた。

 ゴスラー殿自ら井戸を調べた後、騎士団員が桶に水を汲み入れ、そこに土を混ぜて泥を作る。

 この泥を、調査が終わった家の扉に塗っていき目印とする。そうして全ての家々を調べるよう

だ。

 桶を持って騎士団員と冒険者殿が村の端にある家に向かって駆け出していった。

 

 俺とメスリーヌ、ゴスラー殿と騎士殿はこの村で1番大きい村長の家に向かう。

 かつては村長宅として使われ、その後ジェードの塒として使われた家だ。メスリーヌに誰もいな

いことを確認してもらってから、中に入る。部屋を1つ1つ検分していき、最後に金の隠してあっ

た床下を調べる。

 俺が持って帰ることの出来なかった銀貨と銅貨の袋は、そのまま残されていた。

 

 「こんな分かりやすい、家の中にお宝を隠すのか。村はずれの森にでも埋めておけば、誰にも見

つけられないだろうに。」

 銀貨の袋の口を開けながら、ケリア殿が呟いた。

 「盗賊達にはドーカスの悲劇ってのが、伝わっているんだ。」

 騎士殿の疑問に俺は返答した。ゴスラー殿もいるので、少しでも疑念のあることは払拭しておい

たほうがいいだろう。

 

 「盗賊ドーカスは、街と街を結ぶ街道の中間にある洞窟を塒に、旅人や商人を襲っていた。ある

時、旅人を襲って塒である洞窟に戻ってきたドーカスだったが、洞窟の入口を塞ぐように迷宮が口

を開けていて、洞窟の奥に隠してある金を取り出すことができなくなった。騎士団の方々ならご存

知だと思うが、迷宮が発生、成長しやすい条件の1つに人里から適度に離れていることが挙げられ

る。人の生存領域に近すぎれば討伐されやすくなるし、遠すぎると餌となる人間がいなく成長でき

ない、という通説だな。そしてこの条件は盗賊団の隠れ家にも当てはまる。街に近すぎれば退治さ

れやすくなり、村々から離れすぎると得物がいなくて干上がってしまう。迷宮と盗賊の潜伏場所は

重なりやすいことを表しているのがドーカスの悲劇だ。」

 「…。」

 「そしてドーカスは、なんとか金を取り出そうと、洞窟と迷宮の黒扉との僅かな隙間に部下を無

理矢理押し込もうとしていたが、その手下は洞窟内に潜んでいた小型の魔物に丸かじりにされ、彼

ら自身も背後から魔物の奇襲を受けた。ドーカス達も冷静に対処すれば、迷宮外にいる魔物程度な

ら殲滅できたはずだが、自分達の金を手にできないことへの焦りと強襲された動揺で次々に魔物の

餌になっていった。手下を失ったことで恐怖に駆られて逃げ出したドーカスだったが、魔物は執拗

に追いかけてきた。どちらの街からも遠い、街道の真ん中という地。襲う相手を逃がさずに救援が

来るにも時間がかかることを狙って盗賊が選んだ場所が、今回はドーカスに牙をむいた。街はあま

りにも遠く助けも来ない。結局逃げきって助かったのはドーカス1人だけ。配下を全て失ったドー

カスは金を取り戻すこともできずに泣くだけだったという話だ。」

 

 「だから野外ではなく、あえて家の中にお宝を隠したと。」

 「あぁ、凶賊といえども、貯め込んだ財宝を掘り返して恍惚としながら眺めている時に襲われた

ら、為す術もなく倒されることもありえるからな。」

 騎士殿の言葉に返信する。

 「そのような話を悲劇と称するなど笑止千万です。悲劇なのは襲われた旅人や商人の方であって

盗賊ではありません。」

 ゴスラー殿が俺の話の意図とは全く違うことに憤慨しておられる。

 「盗賊の末路など、ろくでもないものと決まっています。迷宮と盗賊の生存域が被って互いに潰

しあうという話ならば、それこそ道理というものでしょう。」

 

 随分と嫌われたものである。俺も含めて盗賊は皆、救いようのない愚か者というのがゴスラー殿

の認識なのだろう。ハルツ公が良くしてくれたので、勘違いしていたが、騎士団長の盗賊に対する

態度はこんなものだろうな。

 

 正門前で燃えカスを調べていたエルフが村長宅に入ってきた。

 「焚き木の後ですが、焼かれて砕かれた人骨が多数ありました。それとまだ途中ですが、家の調

査では、施錠された家は長らく使用されておらず、鍵が壊されていた家は誰かが住んでいた形跡が

あったのですが、部屋が雑然と散らかっていてまともな住人が暮らしていたとは思えない。とのこ

とです。」

 そう言って俺の方に少し目を向ける。

 「…おそらくこの村は、ルハトが言った通りの存在かと…。」

 俺が虚偽の報告をしていなかったというゴスラー殿の望んでいないであろう事実を、それでもエ

ルフは告げた。出世したくないのだろうかこのエルフは。

 

 俺が嘘をついていないという好ましくない知らせを受けたゴスラー殿だったが、それで不機嫌に

なる様子はなく、『ご苦労でした』などと配下のエルフの労をねぎらっていた。

 

 次にシモンの金が隠されていた家を捜索する。

 「この家は、物が散乱していてしているな。」

 またも呟く騎士殿。

 「先程の家は、盗賊の頭の屋敷で、中に女を侍らせているという話を聞いた。その取り巻き女達

が清掃をしていたんだろうな。他の家々にいたのは手下の盗賊で、掃除なんかしない野郎共だった

ということではないか。」

 メスリーヌが側にいるので、俺がここにいた盗賊だとばれないように伝聞調で話す。

 

 「では、迷宮の方へ案内してください。」

 黙々と床下の収納を検分していたゴスラー殿が、立ち上がって言った。

 「騎士団が見てしまって、いいのか。あれはセルマー伯が隠したかった恥部だぞ、流れ者の俺な

らまだしも、あんたらが近づくのはまずいのだろう。」

 俺は警告の台詞を言ったが、ゴスラー殿の決意は固いらしく無言で先を促してくる。

 メスリーヌを盗み見る。彼女にこの村のことに詳しすぎると疑念を持たれるのは良くない。迷宮

の場所だけならまだしも、戦闘の有無の話になれば、何故盗賊が跋扈していた村の迷宮に入ったこ

とがあるのか不審に思われるだろう。

 

 「メスリーヌ、あなたはこの家の前で待機していてください。この先にあるものは一般人が知ら

なくてよいことです。当然この村のこと、ここで起こったことについては内密、誰にもなにも話さ

ないようにしてください。」

 俺に配慮したのか、ゴスラー殿がメスリーヌを同伴しないことを命じる。

 「はい。」

 メスリーヌの返事を聞いて、俺達は動き出した。

 

 「なにか来ます。おそらく魔物です。」

 村を出てすぐに、先頭にいた騎士殿が叫ぶ。

 「ここの迷宮外の魔物はなんだ。」

 「ミノだ。騎士団員が後れを取る相手じゃぁない。」

 ガサガサと茂みを掻き分けて牛型の魔物ミノが姿を現す。

 角を構えてこちらに向かってくるが、ゴスラー殿の魔法、騎士殿の斬撃を受けて、瞬く間に消滅

した。

 「凄いな、これが魔法なのか、初めて見た。ゴスラー殿は魔法使いなんだな。」

 「いえ、魔法使いではなく、その上の迷宮職、魔道士です。」

 「そんなジョブがあるのか、流石に騎士団長は違うということか。」

 これには感心するしかなかった。

 

 迷宮の入口に到着する。迷宮が実在しているのを見て、何人かがため息をついた。

 俺の報告を鵜呑みにするわけにもいかず、ここまで迷宮の存在を確認に来たのだが、いざ迷宮が

鎮座しているという状況を目の当たりにしてセルマー伯の不始末に失望を禁じ得ないのだろう。

 

 ゴスラー殿にとっては、俺がいかにも盗賊らしく嘘を重ねる人間であれば、この迷宮の事も偽り

だと自身に言い聞かせることもできたのだろう。だから、俺をなるべく信用できない盗賊だと扱っ

ていたのかもしれない。

 

 「迷宮は何階まであがりましたか。」

 ゴスラー殿が失意を押し殺して聞いてきた。

 「17階だ、敵はラブシュラブ。16階の敵はピッグホッグだった。」

 「では彼と一緒に17階へ行ってください。」

 灰を調べていたエルフが進みでる。おそらく探索者なのだろう。

 2人で迷宮に入る。入口の黒い扉をくぐると何階層に行くのかを迷宮に尋ねられる。迷宮は1度

足を踏み入れた階層に1階層の入口から行けるようになる。それを利用し17階に転移する。

 

 17階に辿り着いた後、すぐに入ってきた扉を逆行する。これで迷宮の入口に移転できる。

 入口に戻った後、エルフ探索者だけが、再び迷宮に入っていく。17階に転移できるかどうか、

確認に行ったのだろう。

 

 「17階層、確認できました。」

 これで俺がこの迷宮で戦っていたことも、ある程度証明できたであろう。

 「最後に畑はあるのですか、壁の中には見当たりませんでしたが。」

 「畑か…。外にある。場所は知っているが、荒れ放題になっているぞ。」

 「荒れている…。麦はもう育っていないと。」

 「いや、穂からこぼれた麦が自生しているんだが、俺達は畑を管理していないので、雑草も一緒

に伸び放題になっている。」

 「折角、麦が実ったのに収穫しなかったと。」

 「ジェードが言うには、収穫があって税に取られたりもしないとなると、迷宮で戦う意欲が低下

して、上の階層に行きたがらなくなるそうだ。」

 「…案内を。」

 ゴスラー殿の押し殺した声からは、ジェードの意見をどのように捉えたかは分からなかった。

 

 麦畑まで、皆を連れてくる。

 夏が近づきつつあるので、麦も雑草も伸び放題の状態だ。

 「本当に手が入っていないのですね。」

 ゴスラー殿がため息と共に呟く。

 「人手をかけて、秋の収穫までに雑草を抜くか、刈り入れした時に雑草をより分ければ、それな

りの取れ高にはなる。その後で、土を掘り返しておけば、翌年から種蒔きができるだろう。」

 ゴスラー殿が、さらに大きなため息をつく。

 「そのような話では、ありません。人の手を離れて、荒廃したこの場に寂寥を感じたり、このよ

うな光景を到来させてはいけないと義侠心に駆られたりしませんか。」

 多少荒れていても、農地として復興できるという俺の見立てはゴスラー殿の期待する応えではな

かったらしい。

 「俺のような社会の底辺にいたものには、見慣れた光景だ。憤りを感じる景色ではない。それに

貧乏平民は寂しいなんて思うより、この景観を見て打算を働かせる。もしこの農地があれば、どれ

だけ収穫することができるかを想像するだけだろう。だが現実には豪農のように何人も奴隷を買っ

て使役することはできないので、土地だけあっても自分達で開墾はできない。耕作には人手がいる

からな。金や人手を持たない人間にやれることは少ない。指をを加えて見ているだけだと分からさ

れるだけだ。」

 「…そのような認識ですか。」

 俺とゴスラー殿では、見解が大きく異なる。当然ではあるのだが。




 ルハトの知らない情報

 このころの農業は化学肥料は無しの為、手間暇のかかる人海戦術での
農法になり、それゆえに奴隷制度が発達した設定にしています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

異世界迷宮でオリジナルハーレムを(作者:獣人スキー)(原作:異世界迷宮でハーレムを )

異世界迷宮でハーレムをの世界にオリ主をぶち込んだので初投稿です


総合評価:386/評価:7.93/連載:6話/更新日時:2026年03月13日(金) 23:26 小説情報

異世界迷宮の彼女達と【二次創作】(作者:ナイトライダー)(原作:異世界迷宮で奴隷ハーレムを)

著作権もろもろで、問題あればご連絡ください。すぐに削除いたします。▼『異世界迷宮で奴隷ハーレムを』の二次創作として最終回を含むラスト三話だけを書いてみました。▼『異世界迷宮で奴隷ハーレムを』は大好きな作品です。しかし、Web版の更新は止まって久しい状況が続いています。▼一方で文庫版の刊行は継続しているため、蘇我捨恥先生がいずれ続きを執筆してくださると信じ、待…


総合評価:21/評価:-.--/短編:3話/更新日時:2026年01月03日(土) 22:29 小説情報

異世界迷宮でロマンスを【完】(作者:ノイラーテム)(原作:異世界迷宮でハーレムを)

 本作品は『異世界迷宮で奴隷ハーレムを』と『異世界迷宮でハーレムを』を元にした二次作品です。何か問題が生じた場合は消去いたしますね。▼


総合評価:1025/評価:7.27/完結:101話/更新日時:2026年04月01日(水) 21:21 小説情報

異世界迷宮ちゃんは入り組み惑っている(作者:yubeshiski)(原作:異世界迷宮でハーレムを)

書籍版「異世界迷宮でハーレムを」の二次創作です。▼なんと、〝迷宮〟が主人公です。▼おまえは何を言ってるんだぜ?▼ キャフフなのを書きたいなと思って原作を読み込んでたんですが、気になってギルド神殿とか深堀りして考察していたら、いつの間にかずいぶんと極北に来てしまいました。どうしてこうなった・・・???▼ 本作は、原作を読んでいないと意味わからんってなるので、未…


総合評価:160/評価:8.17/連載:10話/更新日時:2026年07月01日(水) 18:00 小説情報

俺だって異世界迷宮でハーレムしたい!(作者:おるどばれい)(原作:異世界迷宮でハーレムを)

初めての二次創作になります。▼原作をリスペクトして執筆していますが権利等で問題があるようでしたらすぐに削除しますのでご指摘ください。▼世界設定をほぼそのままに、似て非なる世界に転移します。▼原作の世界観を参考にした超常な存在のナニカがこの世界を作ったのでは?▼という設定ですので、追加の設定や原作との差異はその影響だと思ってください。▼ーあらすじー▼主人公 長…


総合評価:2077/評価:8.35/連載:52話/更新日時:2025年10月06日(月) 00:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>