迷宮に盗賊を手放して   作:沙羅屋敷

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下賜される凶器①

 俺とゴスラー殿どの認識の相違。

 盗賊と騎士団、下層平民と貴族、本来は行動を共にすることなど、有りえない2人。

 ハインツとシモン、恐るべき盗賊の脅威がなければ、言葉を交わすことなどありえなかった。

 それゆえに違いが露呈したのだが、深く考えることもないだろう。

 盗賊団が壊滅した今、俺達の軌跡がこれより深く交わることなどないのだから。

 

 ゴスラー殿は、無言で村へ戻った。

 おそらく、俺と同じ様に、これ以上の交わりなど起こりえないので、見解の違いを気にしていて

も得るものなどないと考えているのだろう。

 

 村で捜索を終えた部隊と合流し、皆でボーデの城に帰還する。

 一行は公爵の執務室に移動し、俺達は昨晩泊まった部屋での待機が言い渡された。

 

 メスリーヌと共に部屋のベッドに腰を掛ける。 

 「…。」

 「…。」

 いつ呼び出しがあるか分からないので、メスリーヌとの乳繰り合いは不可だ。

 …。目を閉じて、一昨日に見たメスリーヌの裸体を思い浮かべて時間を潰す。

 隣に本人がいるのに、間が抜けていることこの上ないが、お預けが長らく続いているので、こう

いう楽しみ方にも馴染むようになってきた。

 

 それほど待つこともなく、騎士のケリア殿が迎えに来た。

 裸体メスリーヌの想像を打ち消して彼についていく。今回もメスリーヌを扉の外に待たせて執務

室に入った。いつもメンバーである、ハルツ公にゴスラー殿、冒険者殿と騎士殿が部屋に詰めてい

た。

 

 「ご苦労だったな。これでシモンへの厳戒態勢を解いて、騎士団の負担を減らすことができる。

よく働いてくれたな。」

 机に向かったハルツ公が労いの言葉をかけてくるが、その眼光は険しかった。

 「廃村での捜索で、お前の話の裏取りができた。こちらはそれで良い。問題は鑑定してもらった

ハインツの残したアイテムのほうだ。」

 ハルツ公爵の後ろに控える冒険者ニイル殿が魔法のアイテムボックスからハインツの残したアイ

テムを次々と取り出し机に置いていく。

 公爵は並べられた物品のなかで、ギルド神殿と呼ばれた箱を手に取った。

 「商人に鑑定してもらったところ、これは凶賊のギルド神殿だと判明した。おそらくハインツも

ジェードもこのギルド神殿を利用して、盗賊から凶賊にジョブチェンジをしたのであろう。」

 「ハインツが、エレーヌの神殿で凶賊のジョブに就いたなどという話は眉唾物だと思っていまし

たが、このような裏技があったのですね。しかし、エレーヌの神殿での転職よりも、凶賊のギルド

神殿が存在していたという真実の方が荒唐無稽な与太話にしか聞こえません。セルマー領の盗賊団

は、常軌を逸しています。」

 ゴスラー殿が凶賊のギルド神殿の存在に驚いて饒舌になっていた。

 

 「まったくだな。ギルド神殿は迷宮を攻略した際に最後の敵が残すアイテムだ。出現した時は素

の状態、球形をしているのだが…素の神殿に複数人の探索者が触れて、接触の際に頭に浮かんだ呪

文を唱えると箱型の探索者のギルド神殿に変化する。商人が触って呪文を詠唱すれば商人のギルド

神殿というように、接している人間の職業のギルド神殿に変容する。さらにこの変化したギルド神

殿にもう1つ素のギルド神殿を融合…通常は物質を融合できるのはドワーフの鍛冶師の魔法だけな

のだが、この場合も触れて頭に浮かんだ呪文を詠唱することで、鍛冶師でなくても融合することが

できる。こうしてギルド神殿が複数合わさることで、上位職のギルド神殿になる。探索者のギルド

神殿に素体のギルド神殿を融合すると、冒険者のギルド神殿になるということだ。つまり…。」

 俺にも、分かるように話を進めていた公爵様の声が低くなる。

 「凶賊のギルド神殿を作るには、最終アイテムである神殿を2つ手にする必要がある。つまり複

数の迷宮を制覇した恐るべき盗賊がいるということになってしまう。」

 ハルツ公はそう推察を述べたが、表情はその事実を否定してしてるように思われる。

 「そのような盗賊がいるとは信じられませんが。」

 ゴスラー殿も迷宮を2つも踏破した盗賊がいることには懐疑的なようだ。

 「セルマー伯の城から素体のギルド神殿を盗み出したという事の方が、まだありえそうな話だな

。ルハトよ、そのような盗賊の存在に心当たりはあるか。」

 「流石に無いな。盗賊は悪名を広めたがるから、迷宮を討伐したりしたら誰彼構わずに触れ回る

だろうというのが俺の見解だ。ハインツやシモンが迷宮を倒したという話は流布されていないので

該当しないし、ジェードも外向けには己を秘匿していたが、内向けでは自慢大会の上位入賞者だ。

そんな逸話があれば、満面の笑みを浮かべて、放言していただろう。ただ…。」

 「目星の付く者がおるのか。」

 「目星というほどではないが…先代だか先々代だかの盗賊団の頭はとても優秀な盗賊だったらし

いと聞いた。特に先代はジェードとハインツを配下にしたがえ、活躍したという話だ。この盗賊と

して優秀というのが、盗みの才能があるのか、戦闘の天才なのかは分からないのだが、2人の凶賊

が師事していた奴だ。シモン並みの戦闘力とジェードのような慎重さを持ち合わせていて、己の存

在を秘するような奴なら、もしかして迷宮を制圧できた上にそれを知られずにここまできたのかも

しれないな。」

 「ふむ、過去の人間ということか…それなら、脅威とはなりえないか。このギルド神殿も年季が

入っているように見えるしな。」

 「このギルド神殿がこちらにある限り、もう凶賊に転職することは不可能になりましたし、今後

はハインツのような盗賊は現れにくくなったかと。」

 どうやら2人に安心を与えられたようだ。

 

 「次はこの薬だな。やはりドープ薬だった。」

 ハルツ公には薬がなにか見当がついていたようだった。

 「ドープ薬とは、どんな薬なんだ。」

 「探索者のレベルのことは知っているか。」

 「あぁ、知っている。」

 グロムが探索者だったので、知識はある。

 「この薬はそのレベルを引き上げる。薬を一粒飲めば、レベルが1つ上がる。端的に言えば、こ

の薬を飲むだけで、迷宮で経験を積まなくても強くなれるということだ。」

 「薬を飲むだけで強くなれるのか、それは凄い。だが、強くなるのは探索者だけなのか。」

 「いや、他の職業でも強くなれる。探索者はレベルがあるので、この薬の効果が判りやすいとい

う話だ。アイテムボックスの数が増えることが強さの指標になるのが探索者なので、薬を飲むごと

にボックスが増えるのが可視化できて検証が容易なのだ。」

 

 「そうなると、他の職業でもレベルのようなものが存在するのか。」

 「あるという者もいる。それを確認する術は我々には無いがな。」

 「ハインツの強さはこの薬によるものなのか。」

 「おそらくな、だがドープ薬には欠点がある。迷宮での経験を経て強くなるの比べて、薬でのレ

ベルアップでは力量が大きく劣ると言われいる。探索者レベル1の者が、ドープ薬50粒を飲んで

レベル50になっても冒険者への転職ができないことがあるらしい。簡単に強くはなれるが、真の

実力が付かないという難点があるのだろう。見栄えだけを気にする貴族の子弟などには重宝される

だろうが、迷宮での実戦に挑む余や騎士団には不要のものだな。ハインツもそれを懸念して全てを

使わずにこうして余らせていたのだろう。」

 「貴族御用達の薬をこれほど所持していたとなると、そこらの探索者を襲って奪ったのではなく

商人から仕入れたのだろうな。それも貴族向けの高額商品を扱うような大店と取引していたのか。

俺も知らない闇が深すぎる。」

 「まったくだな。上から下まで、どうなっているのだ、セルマー領は。」

 俺の呟きにハルツ公が憤慨していた。

 

 「次はこの黒い仮面だが、『盗賊の仮面』だった。盗賊や凶賊が装備すると、より素早く動ける

ようになるアイテムだな。このような特殊な装備品は、迷宮の魔物が落とすスキル結晶をドワーフ

の鍛冶師が魔法で融合することにより作られる…。」

 「ハインツ盗賊団には鍛冶師の協力者までいたのか。」

 予期していなかった事が多すぎる。

 「エルフとドワーフはあまり懇意な関係の種族ではないので、違うと思いたいが…金に目がくら

む輩は、いつ、どこにでも、どの種族にもいるからの。」

 その場の全員がため息をつく、重苦しい雰囲気になったので、話を逸らす。

 「クローテ村に襲撃をかけてきた時に、ハインツは仮面を被ったりはしていなかった。手下にも

この仮面を隠していたと見るなら、ドープ薬と合わせて、いつの日かシモンを倒す為に秘匿してい

たと見るべきか。」

 「そうかもしれんな。シモンの隠していた得物も、強力な武器揃いだったからな。」

 そう言いながら、机の上の薬や仮面を片付けて、武具を俺の前に押し出してくる。

 

 「まずは両手剣が2本。『激情の鋼鉄両手剣』と『いかりのダマスカス鋼両手剣』だ。激情の名

を関した方は攻撃力が倍になると言われており、いかりの銘はさらに攻撃力が数倍に跳ね上がると

されている。両手剣の使い手は少ないとはいえ、古強者でも羨むスキルの付いた剣だ。」

 「シモンは片手剣の名手という話だったから、両手剣は流儀ではないのだろう。それでも強さが

倍以上になるスキルの武器となれば、ハインツに対抗する奥の手として、人目から隠していたと考

えるべきだな。」

 「そうであろうな。次は対人戦闘には不向きだが、強力な武器だ。『烈風の鋼鉄槍』と『ほむら

のスタッフ』だ。槍は蝶のスキル結晶を融合したもので、スキル呪文の詠唱で穂先に魔法の風を纏

わせることができる。この状態で、敵に攻撃を当てることができれば、槍の一撃に加えて風の魔法

の威力が上乗せするのことのできる破壊力に優れる武具となっている。但し、魔法の効果があるの

は敵一体に一度のみ。さらに魔法の効果時間の内に攻撃を当てることができないと、魔法自体が消

滅してしまう欠点もある。だがそれらを加味しても魔法使い以外でも魔法を行使できる利点は大き

い。迷宮には直接攻撃ではダメージを受けにくく、魔法でないと戦闘時間が恐ろしく長引いてしま

う魔物も存在するからな。」

 「ゴスラー殿のように騎士団長という高い地位でないと、魔法使いにはなれないようだから、有

用性としては、とてつもなく高いな。」

 「さらに、このスタッフは火蜥蜴のスキル結晶を融合して炎の魔法を使用することができる物だ

った。剣や槍に魔法のスキルを付けた場合は単体攻撃魔法の付与となるが、杖系の武器に魔法スキ

ルを付けた場合には全体攻撃魔法を放つことが可能だ。これで範囲内の敵全てに損害を与え、かつ

味方には傷一つ付ける事無く戦うことができる。まぁ本物の魔法使いの使用する魔法には劣る点が

いくつかあるのだが、それでも一度の魔法の発動で敵全部を攻撃できる利点は大きいな。」

 

 公爵の言葉に俺は興奮を覚える。失われた仲間達と、たわいもない四方山話をよくしていた。そ

こで交わされていた、魔物を簡単に屠ることのできる伝説の武器があるという噂。それが今、目前

に存在している。欲しい、自分の物にしたい。ハインツへの報復の一環として持ち帰った武器に純

粋に目を奪われた。




ルハトの知らない情報

今回はオリジナル設定が多いです。
鑑定したのは、武器商人が武具を武器鑑定。防具商人が防具と仮面などの装備品を防具鑑定しています。
ドープ薬と神殿については、商人のギルド神殿で鑑定しています。書籍版でコボルトのスキル結晶をギルド神殿で調べる描写があったので、この設定に。
武具、防具、装備品以外はギルド神殿で鑑定。商人のギルド会館から神殿を持ってきてもらって公爵の執務室で調べています。

ハインツ凶賊への転職は書籍版だとエレーヌの神殿で行われたことになっていますが、本編でもゴスラーが『嘘か誠か』と言っているので、噂程度の模様。

素体のギルド神殿を格職業別の神殿に変更するやり方もオリジナルの設定です。

スキル結晶を杖に融合して全体攻撃魔法が使用可能になるのもオリジナルです。
また蝶と蜥蜴のスキル結晶も、まとめwikiに記述があるものの、文章は確認できなかったので、オリジナル設定になります。
   
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