迷宮に盗賊を手放して   作:沙羅屋敷

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下賜される凶器②

 俺だけが興奮さめやらぬなかで、公爵様が武器の説明をしてくれる。

 「連接交鎖剣だな。前にも説明したが、レアアイテムのドロップ率を上げる特殊な効果のある剣

だ。こちらはスキルはなにも付いていなかったが、希少な武器だな。」

 蛇のようにしなる剣を手にハルツ公の武具の講釈が続く。

 

 「最後の剣は…。これがシモンにとって一番の得物かもしれんな。氷雪の鋼鉄レイピアだ。」

 公爵が、細剣を取り上げる。

 「滅多に無い氷魔法のスキルが付与された武器だ。氷魔法は、魔法使いが上級職となる魔道士に

クラスチェンジすることによって習得することができる。ゴスラーでも何年も修練を重ねてようや

く転職した上位職の魔法だけあって、迷宮の上階でも存分に威力を発揮する強力な魔術となる。こ

の高位魔法を魔道士以外が使う事のできる利点は途轍もなく大きい。盗賊にはもったいないことこ

の上ない武器だな。」

 ハルツ公の口調にも興奮が滲む。

 「炎より強力な氷の魔法か…そこまで利便性の良い武器なら、隠すよりも、すぐにハインツを倒

すのに使用してもよさそうなものだが…。レイピアならシモンがもっとも得意とする得物だろうに

…。」

 「氷の魔法は強力な分、魔力の消耗が激しい。未熟者では、氷魔法を一発撃っただけで、魔力が

枯渇して鬱状態になってしまうほどにな…。通常のパーティならば、そうなっても周りの者が助け

てくれるが、盗賊団では、そのような支援は期待できないであろう。」

 「魔法を発動させ剣に纏わせて攻撃を仕掛けても、躱されてしまったら魔法は消滅、魔力が涸れ

果てて、逆に窮地に陥るわけだな。文字通りの諸刃の剣ということか。…それでは裏切りの切り札

には使えないし、日常使いにも向かないか。」

 「強力な武器だけに、使い手を選ぶのだ。強くても所詮は盗賊。協力体制を取れる我々のような

騎士団員とは違うということだ。」

 

 ハルツ公がレイピアを手放し、革の鎧を手に取る。

 「これは頑強の硬革ジャケットだった。スライムのスキル結晶を融合した鎧で、強固な防御力を

誇る。物理攻撃の効果が薄いスライムの特性そのままに魔物の攻撃を受け止める鎧だ。有用性は高

い。」

 

 全ての物品の解説が終わる。

 「これらの武器だが…。」

 どの武具防具も、スキルの付いた希少品だ。大半を騎士団が持っていくだろうが、せめて剣の1

本くらいは、欲しい。

 「全て持って行って、迷宮で戦えルハト。」

 「ええっ、いいのか。」

 「お待ちください。公爵様。」

 「よろしいのですか、ハルツ公爵様。」

 俺達は一斉にハルツ公に詰め寄った。

 「昨日から、複数の狼人族のパーティーが我が領土に入ってきている。怨み募るシモンを捜索し

に来たのであろう。それはよい。」

 俯いて、項垂れながらハルツ公が言葉を紡ぐ。おそらく本心では騎士団員にハインツの遺産を渡

してやりたいのだろう。

 「だがシモンが見つかることはない。そうなれば、狼人族の連中は余や騎士団員に接触してきて

情報や手がかりを得ようとする。そうなった時にハルツ公領騎士団が最近強力な武器を入手したと

いう話題に接触されるのは好ましくない。オークションに大量出品された訳でもないのに、どのよ

うにして希少なスキル付き武器を手に入れたのか。想像を巡らせれば、ハインツやシモンの持ち物

だと行きついても不思議ではないからのう。そう突き詰められて、口を滑らす隊員がおれば、シモ

ンに奪われた武器の返還を要求してくるかもしれん。」

 

 「それはそうですが。」

 「騎士団員は早々に秘密を漏らしたりはしませんよ。」

 ゴスラー殿と騎士殿がまくし立てる。

 「余としても情報を漏洩したなどと騎士団員のことを疑いたくはない。しかしな、これだけの数

の武具があっても、全ての団員に配ることはできない。余から武器を下賜された騎士は良い。武装

に付けられたスキルの能力で己の力を引き上げることができる。だが武器を手にできなかった者は

、ある者を羨み、妬むようになる。『あの武器はなんなのか。どうして自分には下賜してもらえな

いのか』こうした不平不満は外に漏れやすい。それにミチ…冒険者殿の情報がセルマー側に漏れて

いた件もある…加えて、冒険者殿に武器のことが露見するのも不味い。ハインツを倒した彼が本来

手にするべき武器を我々が横取りしたと捉えられかねないからな。」

 

 騎士団は色々大変だな。武器が貰えて俺は嬉しいが。

 

 「騎士団の皆は、機密を外に漏らしたりすることはありえません。」

 ゴスラー殿が団員を擁護する。

 「かつて余がガルガンチュア様に怒られたことは内密にせよと命じたはずなのに、騎士団員が各

所に触れ回ったことがあるな。」

 「子供の頃の話なのですが…。」

 相手が子供だからといって約束を破られると、スゲー傷つくんだぞ。案外このことが、騎士団を

完全に信用しない最大要因かもな。盗賊をやっていた俺の身からすれば、人が裏切る前提で話を進

めるのは慎重で良いことなのだが。

 

 結局、公爵が決定を覆すことはなかった。

 「ルハトよ。これだけの武器を供与したのだ。お前は、仲間を集めて戦い、迷宮の階層を駆け上

がっていかねばならない。まずは探索者への転職を行え。通常はギルドで転職をすると、強制的に

そのギルドの構成員ということになり、様々な用役が課される。だがお前は、騎士団の準構成員と

して、この役務が免除になる。その浮いた時間と労力は全て戦いに費やせ。…その戦いを持って、

お前がしてきた盗賊の罪の清算とする。探索者にするのはレベルで強さが見えるからだ。レベルが

低いままであるなら、罪の償いより逃亡したとしてさらなる罰が与えられることとなる。」

 

 ハルツ公が、重々しく宣言する。俺にも騎士団にも予防処置を取らないといけないのが、人の上

に立つものの苦悩だな。

 

 「それらの武器は、お前が迷宮での戦いから引退する時に騎士団に引き渡してもらう。それまで

売って金に換えるようなことはするな。そして迷宮で屍を晒して、武具が失われるようなまねもし

てくれるな。必ず生きて毎冬には税金を納めるように。」

 「わかった。すぐにそのように行動しよう。」

 「ケリアよ。探索者ギルドに付いていって、事情の説明を。」

 「はっ。」

 

 メスリーヌを執務室に入れて、武装を身に付ける。両手剣を無理矢理、剣帯に押し込み、入りき

らない分は紐を掛けて背後に背負うようにする。

 「探索者ギルドに行く前に案内したい所があります。」

 ゴスラー殿が装備を整えた俺達に声を掛けてくる。

 「了解した。」

 その後、入室してきた奴隷商人に、俺をメスリーヌの所有者に戻してもらった。俺が一時的に所

有者から外れていたことにメスリーヌは何も言わなかった。最後にハルツ公に目礼して、俺達は部

屋を後にした。

 

 ゴスラー殿の後に続いて城内の別の建屋に移動。建物にある一室に案内される。部屋はカウンタ

ーで区分けされていた。そのカウンターには仕切り板が設置されており、隣に顔や会話を知られな

いようにされてる。

 カウンターの奥には一人のエルフ女性がいてこちらに会釈してきた。

 「彼女はラシェール。この場所は、領内に点在する村の人々から陳情、苦情、相談を受け付ける  

為の場所になります。」

 「随分と至れり尽くせりな部署があるものだな。俺のいた村なんか役人が来るのは、税金の支払

いの催促の時だけだぞ。」

 「ハルツ公領は川の支流が多く、それに沿って小さな村が分布しています。騎士団が定期的に巡

回していますが、目が届きにくいということもあり、このような施設が作られました。」

 ラシェールが答えてくれた。

 「そのようなことは、どうでもよろしい。ルハト、あなたは数日に1度の頻度でよいから、ここ

に来て、連絡を行ってください。迷宮攻略の進捗、異常事態、変化したこと、全て報告するように

。また相談事があるのなら、彼女に言ってください。」

 報告の義務か。俺の監視というより、公爵様に合わせることを避ける為の処置なのだろう。その

くらいの対応はしても当然だ。俺は道を踏み外した人間と思われているのだから。

 

 「わかった。そうしよう。」

 「それと先程、公爵様も仰られていましたが、あなたは早急に強くなって、迷宮を駆け上がらな

けらばなりません。通常ギルドに所属する探索者は、ボーデのように街から近い距離にある迷宮が

討伐され消滅した場合には、ギルドと話し合いをして、別の都市で、街のすぐ側にある迷宮に戦い

の場を移すことができます。迷宮への移動に時間が掛かりすぎると、戦える時間が減ってしまい、

結果金を稼ぐことができなくなるからです。」

 「…。」

 「ですが、ルハト。騎士団と契約したあなたは、この方法を使うことが出来ません。ボーデのよ

うな町に近い迷宮が無くなっても、他の都市へ河岸を変えることは許さないことになります。例え

徒歩で半日かかる迷宮でも、ハルツ公領内の迷宮に入らなけらばないません。冒険者のフィールド

ウォークで移動させてもらうとなると、金が掛かって1日の稼ぎの大半が飛びますよ。」

 

 「つまりは、さっさと冒険者になれと…冒険者に転職するには数年は掛かるのだが。」

 「それでも早く強くなるしかありません。ボーデの迷宮がいつまであるか分かりませんから。」

 

 この話には、かなり誇張があるようだ。ハルツ公は、俺のような元盗賊に強力な武器を持たせて

迷宮に送り出した。領内に3つの迷宮が出現し、騎士団が四苦八苦している状況なので、使えそう

なものは全て使う方針なのだろう。そんな切羽詰まった事態で、迷宮まで半日歩かせるような無駄

なことをするとは思えない。

 

 とはいえ、俺のレベルが低いままなら見限られるというゴスラーの言葉に嘘はないだろう。そこ

まで騎士団はお人好しではない。四の五の言わずに迷宮での戦いに没頭しなければならないな。  




ルハトの知らない情報

氷雪のレイピアと連接交鎖剣はオリジナルアイテムになります。

騎士団が村々を巡回するのも、オリジナル設定です。魔物や盗賊の襲撃がある世界なので、必須のようにも思いますが、運用は各自治体任せでしょう。
相談所があるのもオリジナル設定です。

ハルツ公がガルガンチュア様に怒られていた件は、書籍版で語られていた、女湯を覗いて露見した話です。 
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