迷宮に盗賊を手放して   作:沙羅屋敷

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探索者に様変わり

 「メスリーヌ、あなたも、なにか困り事がありましたら、ここに相談に来てください。」

 「私は奴隷ですが…。」

 「構いません。想うことがあったらここで、助言をもらってください。」

 「…わかりました。」

 俺の顔色を伺いながら、メスリーヌが答えた。

 

 「では、探索者ギルドでの転職を。そのまま迷宮での戦いに赴きなさい。」

 ゴスラー殿の言葉を受けて、部屋を後にした。

 今後はこの部屋で、ラシェール殿とのやり取りとなる。もうゴスラー殿やハルツ公に会うことも

無くなるだろう。

 元々、気軽に声を掛けることなど、できない間柄なのだ。別れを惜しむ理由も無かった。

 

 騎士殿の後に続いて城をでる。

 街に続く橋を渡っていると、騎士殿が紙に包まれたパンを差し出してくる。朝食として食べろと

いうことらしい。

 礼を言ってメスリーヌとパンを分ける。

 

 「ケリア殿は俺達がスキル付きの武器を持つことをどう思うんだ。」

 パンを嚙みちぎりながら聞いてみる。

 「個人的には使ってみたかったが…。俺達騎士団員と公爵様とで立場が異なる場合がある。極端

なことを言えば、騎士団員は領内さえ安全であれば、それで構わないが、公爵様は対外のことまで

考慮しないといけないからな。今回の件も俺達の見解を正直に言えば、盗賊団を排除できれば、そ

れで十分だな。残された武器など、幸運なオマケにすぎないから固執することではないな。」

 「そうか。」

 ケリア殿の意見を、騎士団の総意とすることはできないが、武器を貰ったことを恨んでいない人

が1人いるだけでも、気は楽になった。

 

 探索者のギルドに到着すると、ケリア殿が騎士団のワッペンを見せて、事情を説明する。

 ギルドの担当者は、俺が雑務を免除されることを知ると隠すことなく渋い表情をしたが、ギルド

神殿を持ち出してきて、俺を転職させてくれた。

 ついでにダンジョンウォークとアイテムボックスのスキル呪文も、伝授し使えるようにしてくれ

る。礼を言うと、その代わりにアイテムの売買はこの探索者ギルドで行うように、申し渡された。

 

 「監視の意味を込めて、もうしばらく、俺達とのパーティー編成を続けておく。その間に強くな

っておけ。」

 ギルドを出た後、そう言って騎士殿は城へ帰っていった。

 俺とメスリーヌは一度、宿に戻り、装備を整理することにする。

 

 宿のカウンターには、いつもの旅亭がいた。昨晩は宿泊はしなかったが、荷物は部屋に置いたま

まだったので、部屋の使用料は請求すると言われた。

 昨晩の使用料と今晩の宿代をまとめて支払う。もうすぐ客室の清掃が始まると告げられたので、

メスリーヌと小走りで部屋に向かった。

 

 客室に入って、装備を取り換える。

 まず、頑強のスキルの付いた硬革のジャケットをメスリーヌに着せることにする。

 「ルハトが装着した方が、よいのではないですか。」

 メスリーヌが驚いたように返してくる。

 「俺は金属鎧をより強固な物に買い替えていくことができる。メスリーヌは狼人族で、素早さが

強みなのだから、軽い革鎧を装備するのがいいだろう。」

 「そういうことでしたら了承しました。狼人族のことにお詳しいのですね。」

 メスリーヌがそう言いながら、今までの皮鎧を脱いで、頑強の硬革鎧に袖を通した。

 

 かつてパーティーリーダーだった狼人族のフレオスを思い出しながら、俺は続ける。

 「ビーストアタックは使えるな。」

 獣戦士の使用する固有攻撃スキルの名を口にする。

 「はい、問題ありません。」

 フレオスは獣戦士だったが、海賊に堕ちてしまったことでビーストアタックが使えなくなってし

まっていた。あの技が使えたら、もっと楽に戦えるのにといつもフレオスはこぼしていた。

 「ならば、これを使ってくれ。吸精の片手剣だ。攻撃した相手の魔力を吸い取って自分のものに

できるから、魔力量を気にすることなく何度もビーストアタックを放つことができる。」

 魔力吸収のスキルの付いた剣を彼女に渡した。

 

 俺は、攻撃力が数倍に跳ね上がるといわれている、いかりのダマスカス鋼両手剣をメインウェポ

ンにするべく手に取った。重量感のある魔剣を腰に差して、さらに激情の鋼鉄両手剣は背面に斜め

に背負って、革紐で肩から脇まで襷掛けにして固定する。この重さだけでも相当なものがあるので

、これ以上に装備を付ければ、長時間の戦闘に支障をきたすだろう。

 「…他の武器の携帯も頼めるか。」

 メスリーヌに懇願する。一番嵩張る連接交鎖剣はアイテムボックスの魔法で収納したが、レベル

1の魔術では、格納できるのは、この剣1本だけだ。

 他の剣や杖も希少な物品なので、宿に置いておくわけにはいかない。邪魔になるのが分っていて

も迷宮に持っていかざるを得なかった。

 

 「大丈夫です。」

 メスリーヌがそう言って、武器を携行し始める。風の魔法を秘めた槍を背負い革紐で留め、氷雪

のレイピアとほむらのスタッフは腰の剣帯に差し込んだ。

 

 「動きの邪魔にならないか。」

 「迷宮は1階層からの参入になりますか。」

 動作できるかを確認しながら、メスリーヌが返答する。 

 「あぁ、探索者にクラスチェンジしたからな。それに新しい武器に慣れる必要もあるから、低階

層から上がっていくほうがいいだろう。」

 「制限は掛かりますが、動けないわけではありません。1、2階層の敵との戦いであれば、問題

ないかと。」

 「なら1階層から戦っていこう。レベルが上がればアイテムボックスは拡張されて、武器も収め

られて身軽になれるからな。」

 今まで使っていた市販品の剣や盾は、チェストに入れて鍵を掛けた。

 「行こう。」

 準備を終えて、迷宮に向かう。

 

 「くっ。ふふっ。」

 迷宮の中で、不気味に笑ってしまう。

 一撃だった。剣の一振りでグリーンキャタピラーが消滅した。十数体のグリーンキャタピラーを

相手にしたが、全て一撃で葬り去ることができた。攻撃力を数倍に引き上げるというスキルの威力

は、空恐ろしいものがあった。

 「圧倒的ではないか。流石、シモンが秘匿した剣だな。」

 「…そうなのですが…。」

 喜色満面の俺とは対照的にメスリーヌは浮かない顔だ。

 「分かっている。今の俺では、剣が重すぎて、それに振られてしまっているような状態だ。」

 ダマスカス鋼は、極めて高い硬度を有する高価な金属だ。それで錬成された武器は大重量なので

、ヨタヨタと上段まで剣を持ち上げ、その重さを乗せて一気に振り下ろす、という動作になってく

る。これでは相手に攻撃を躱された時や、一撃で仕留め損なった場合に、次の攻撃を放つのに時間

が掛かってしまい、大きな隙を作ってしまう。 

 メスリーヌは、それを危惧しているのだろう。

 「無様な戦い方をしているのは、自覚している。だが一撃で敵を葬ることができれば、戦闘時間

が極力短くて済むので、より多くの魔物を倒し、経験と金を積むことができる。」

 「…わかりました。私がルハトを支援します。」

 「助かる。では、2階層に登ろう。」

 俺の言葉に、お前頭は大丈夫か、という視線を投げかけてくるメスリーヌ。

 「危険だと判断したら1階層に戻ってくるから。」

 「…そう願います。」

 

 2階層に出現する魔物。グリーンキャタピラーとナイーブオリーブ、そのどちらも、シモンの残

した魔剣に抗える存在ではなかった。無様な俺の剣技一振りで切り裂かれ、次々と消滅していく。

 2階層からは、敵が最大で2体に増えるが、1体はメスリーヌが抑えてくれるので、1体づつ相

手にすることができる。敵に先手を取られない限り、負けは無かった。

 

 日が傾き始めるまで、戦闘を続けた後、迷宮の入口まで戻ってきた。

 探索者のレベルは3になっていたので、容量の増えたアイテムボックスに俺とメスリーヌが背負

っていた、両手剣と槍を収納する。

 メスリーヌから槍を手渡してもらう時に、僅かに彼女の指に触れる。指先から彼女の緊張が伝わ

ってくる。これ以上戦う予定はないのだが、まだ臨戦態勢を解かないのだろうか。…違う、そうで

はなくて、迷宮での闘いが終わったことで、今晩の俺との夜伽を意識して固くなっているのだと気

が付いた。

 そのことに思い当たってしまった為に、俺も過剰に意識してしまい、彼女の肢体に目が行くよう

になってしまう。

 「…。」

 「…。」

 気まずい沈黙が流れる。

 「今日は、ここまでにする。探索者ギルドに寄って帰るぞ。」

 上擦った声で告げる

 「はい。」

 メスリーヌが出会ったばかりの時のような、か細い声で答えた。

 

 「探索者ギルドで、攻略地図を買ったほうがいいか。」

 帰り道、迷宮で重い剣を振るっていた時よりもギクシャクとした口調でメスリーヌに尋ねる。

 今夜の契りの事から、少しでも意識を反らせるべきだろう。

 「では、5階層までの攻略地図と敵情報を得るのがよいと思います。現状よりも高すぎる階層に

あまり意識を向けるべきではない、と多くの迷宮戦闘者が言っていました。」

 迷宮や闘いの話題になると、メスリーヌの意識はそちらに向くようだ。

 「では、5階層分まで購入しよう。」

 

 「…ルハト。」

 「どうした。」

 迷宮から歩いてきて、街が見え始めるとメスリーヌの方から話しかけてきた。

 「…何日もお待たせしましたが、私も覚悟を決めましたので…今宵は夜伽を…初めてのことです

ので、上手く出来ると良いのですが…。ただ、行為の前には、身体を拭いてほしいです。」

 俯いて、詰まりながらも、彼女はそう言い切った。

 「わかった…。そうしよう。」

 俺は街へ向かう足を早めた。

 

 探索者ギルドで売買を行って、宿に戻る。

 カウンターで、お湯を注文してから食堂に入る。まだ数人の客が残っていたが、メスリーヌを席

につかせる。これから褥を共にする女を、床に座らせるようなことはしたくなかった。

 彼女は、他の客を気にしながらも、俺の言う事に従って食事を始める。客が文句を言ってくる様

子もないので俺も食べ始めた。さじを口に運ぶ彼女の指先と蠢く唇に視線が吸い寄せられて、味は

ほとんど分からなかった。

 

 部屋に戻り、武器の手入れを始める。お湯が早く来ないかが気になって、刃で指先を傷つけてし

まいそうになる。いかにも童貞がやらかしそうな失敗の連鎖が止まらなかった。

 

 焦燥感に焦れ悶える中、ようやく桶に入れられた湯が2つ届けらる。

 「先に服を洗っておきますね。」 

 メスリーヌがそう言って、服のボタンを留めている紐を解いていく。

 上着を脱いで、胸を晒す。ズボンと肌着を下ろして秘されているべき恥部を曝け出す。裸になる

ことを淀みなく行なっていった。

 

 「買っていただいた…新品の服…初めて袖を通しました。」

 全裸のまま、やさしい手付きで、湯に浸けた布を揉み始めるメスリーヌ。それを見ながら俺も服

に手を掛ける。

 全て脱ぎ捨てた後に、首から下げた巾着袋に手をやる。大金の詰まった袋で、本来なら肌身から

離すべきではない。だがこれをぶら下げたまま、メスリーヌと肌を合わせることは無理が多い。

 彼女を抱く為に、巾着袋を首から外して、チェストに仕舞い込み鍵を掛けた。

 

 服を洗って部屋干しした後は、お互いの身体を洗う。

 手拭いをもってメスリーヌの体を拭き、メスリーヌに俺の身体を拭いてもらう。

 それだけでも興奮できるのに、この後は布無しで直に触れて、触れられる。

 それを考えるだけでも、暴発しそうだった。

 あまりに俗物な自分の反応が一寸嫌になる。メスリーヌとの初めては、もっと高尚にいきたい。

 「メスリーヌ、まだ体を拭いている途中だが、キスを…。」

 俺の懇願を受けて、メスリーヌがそっと瞳を閉じて、キスされるのを待ってくれた。

 その唇に接吻する。盗賊にまで身を堕とした俺が、こんな美人とキスしている。それは途轍もな

い感動で、一時欲情を忘れさせてくれた。   




ルハトの知らない情報

ルハトの変化
探索者Lv3・村人Lv6・戦士Lv1・剣士Lv1が追加される。

騎士団の事
騎士団員には探索者、冒険者、僧侶など様々な職業の人間がおり、それぞれのギルドで転職します
が、ギルドから要望が出されることは基本的にはありません。
これは、騎士団の命令と各ギルドの要望がバッティングして騎士が板挟みになるのを防ぐ目的で、
騎士団の職務が優先されるというオリジナル設定です。
また奴隷も主人とギルドとで相反する命令が出されないように、要望が免除される設定にしていま
す。

スキルに付いて
アクティブスキルは魔法と同様に、MPを消費する設定にしています。ミチオがダンジョンウォー
クを使用した後、MPの減少が原因で鬱状態になっていた描写があったのでMP消費を採用してい
ます。
RPGゲームによってはスキルはMPではなくスキルポイントの消費によって発動するものが多い
のですが、MPだけに絞っています。 
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