口づけを交わした。その感触は鮮烈だった。唇に触れただけで、それまでと世界が変わった。
もう最後にはそこらで野垂れ死にする盗賊では無くなっていた。俺はなにかを掴み取ることのできる人間に生まれ変わったのだと勝手に思った。
以前には盗賊仲間達と女体の神秘の話をよくしていた。だが心の中では、どこかの村を襲って女
を犯す非道でも行わない限り、女の体に触れることなどない。ずっと童貞のままだと思っていた。
それが今、メスリーヌと唇を重ねらえて、心が震えている。
今までに感じたことのない幸福に酔いしれた。
互いの身体を拭き終えた後、メスリーヌをベッドに誘い、その身体を横たえた。
「綺麗だな。」
「ありがとう…ございます。」
裸の肢体を眺める至福の時。それだけでは我慢できなくて、彼女の肌に触れる。男のものとは全
く違うきめの細かくすべやかな肌に驚く。
その肌感を味わうと、次第に幸福よりも欲望が勝ってくる。
さらにメスリーヌに口づける。
感動が薄まり愛欲に流されるように舌を差し入れ、彼女の口腔内をかき回す。
「うん…ふっ…ん。」
メスリーヌの喘ぎ声が漏れ聞こえて、滾る。
彼女の口内を蹂躙した後に、乳房に手を添えた。
指先と唇で、彼女の胸の膨らみを味わう。
触れる度にメスリーヌの唇から喘ぎが漏れる。
その声を聴くことができるのが俺だけだということに酔いしれた。
翌朝に目を覚ました。
メスリーヌは、目を閉じて横になっていたが、もぅ起きている気配がある。
おそらく気恥ずかしいので、寝ているふりをしているのだろう。初々しいな。
「メスリーヌ。朝だ、起きてくれ。」
彼女の嘘寝に気付かないふりをして、起こすようにする。本心では女体の神秘を探る冒険を続けたかったが、そうもいかないだろう。目を開けた彼女にことさら事務的に告げた。
「朝から迷宮に行く。携行していた武器も減ったから、ビーストアタックも積極的に使ってい
こう。」
メスリーヌがもぞもぞと動き出す。恥ずかしいからなのか、こちらを見ようとはしない。
「はい。」
それでも戦闘の話になれば対応が変わるのはいつも通りだった。
辺りがまだ薄暗い中、迷宮に向かう。
壁からぼんやりとした光の漏れる迷宮の中で、メスリーヌがスキル発動の為の呪文を響かせ続けた。何度も放たれるビーストアタックのスキルが敵を切り裂いていく。
「魔力はどうだ、メスリーヌ。」
「魔力の減って、増えてがはっきりと感じられます。魔力の増減は精神に影響を及ぼので、この状態に慣れるまで、少し時間がかかるかもしれません。」
「そうか。」
一日中スキルを放つというわけにはいかないようだ。
一度宿に戻り、食事をしてから迷宮に戻る。
「2階層のボスを倒して、3階層に上がるぞ。」
「3階層の敵はエスケープゴート。戦いの最中に逃げ出すので、アイテムも経験も入手できなく
なる、厄介な相手です。」
「そいつも一撃で倒せるか試してみよう。」
否定的なメスリーヌの意見に対して、俺は強硬策を主張する。これまで魔物と戦ってきた経験か
ら来る判断でしかなかったが、迷宮において階層をいつ上がるかの決断は自身の直感に頼るしかな
いというのが、本当の所だろう。
笑いを嚙み殺す。
逃げることで、戦果を台無しにしてくる厄介な魔物もシモン譲りの魔剣の一振りで逃げる暇など
なく消滅してしまう。
メスリーヌも逃げる相手に対して戦法を変えていた。腰を曲げた極端な前傾姿勢で相手の脇を走
り抜けながら、敵の足に切りつけ、機動力を奪い逃亡を阻止する。
そうやって魔物を狩り続けた。
「ビーストアタックの連発…魔力は補充できても、疲労は蓄積されていきますね。」
メスリーヌの言葉を受けて休息をとることにする。
迷宮を出て、入り口付近で、草の生えていない所を探す。見つけた場所に石を積んで簡単なかま
どを作り、鍋を乗せて火を起こした。
鍋が過熱されたら、ナイーブオリーブのドロップしたオリーブオイルを使って油を引き、馴染ん
だら腸詰めを投入して炒める。火を通しただけの、調理したというもおこがましい簡単な料理が出来上がった。
腰を下ろすための大き目の石を探して、鍋を挟んでメスリーヌと対面に設置して座る。
適当な枝を削って串を作り、腸詰めに突き刺して、口に運ぶ。上質な肉を使っているのか、臭みの無いなかなかの味だった。
「俺はこういうのが好きなんだ。青空の元で、皆で鍋をつついて食べるのが。」
盗賊時代パーティーメンバーと、よく晴天の下で、適当に切った具材を鍋に放り込み、水で嵩増ししただけの繊細さとは無縁の男手料理を食っていた。そんな料理が美味しいわけがなく、しかも
小皿に取り分けることなどしない鍋からの直食いという品位を置き去りにした食べ方だった。
それでも、皆で食べるその食事が、楽しかったことを俺は覚えている。
できることならば、メスリーヌも、この楽しさを享受してくれればいいと思う。
「そうですね。今は階層をすぐに上がっていけていますが、これからは何か月、何年とひとつの
階層で足踏みするようになるでしょう。そういう時には、メンバーの雰囲気が悪くなるので、娯楽で気を紛らわせるのは重要だと前のパーティーにいた親族が言っていました。ですから、こうして休憩時に楽しく軽食を取るのは良いことだと思います。」
石に座りながら、尻尾が地面に触れないように腰に巻き付けたメスリーヌが以外な答えを返して
きた。
「ほう。そうか」
「不道徳に見えるような、暴食、男女の営みに鯨飲でさえも命を賭ける迷宮では容認されると…そこに奴隷のパーティーメンバーも参加させると、待遇のよさに喜んで、よく戦ってくれるようになるとも言っていました。」
うむ。それはメスリーヌの親族がただ遊びたかっただけではないのかとも思ったが、命懸けで迷宮に挑む者が積み上げてきた秘訣といえなくもないのか。
あと男女の交わりとか、それに奴隷が参加とかとんでもないことを言っていたのだが、そこは聞き流して、もっと無難な話題に乗っかかることにする。
「メスリーヌは酒を飲むのか。」
俺は元盗賊だったが、酒を飲んだことはない。下っ端が酔い潰れたりしたら、持っている金を奪われたり、ケツを掘られたりと碌な目に遭わないからだ。
「少し嗜む程度ですが。」
「では明日には市が立つから、酒も買ってみよう。」
メスリーヌが、酒を飲むことを楽しむことができるなら、購入する意味があるだろう。
休憩を終えて、迷宮でエスケープゴートを屠り続ける。
「エスケープゴートは問題無く倒せていますが、ボスのパーンとの戦いは避けるべきです。パーンの放ってくる全体攻撃魔法は低レベルの探索者では耐えることができません。」
盗賊だった時にはもっと高い階層で、魔法を喰らったことが何度もある。だが、そのことをメスリーヌは知らないので、俺を新米の探索者だと思っているのだろう。実際に探索者にクラスチェンジして間もないので、盗賊の時より耐久力も腕力もダウンしていることは否めない。
「パーンとは戦わずに、迷宮入口の探索者に4階に連れて行ってもらうべきだな。」
「はい。」
今回はメスリーヌの主張に従うことにする。
その後も迷宮での戦いを続ける。日が暮れる頃には、探索者のレベルが6になっていた。
冒険者殿と騎士殿のパーティーの戦いの経験も共有できている為、相当に早くレベルが上がっていた。
夜にメスリーヌを抱き、早朝から迷宮に入る。
朝早すぎて、案内役の探索者が、まだ入り口にいないので、昨日と同じ3階層で魔物を狩る。
頃合いを見計らい、入り口に戻って、案内人のエルフ探索者に金を払って4階層に連れて行ってもらう。
「4階層の敵はミノ。攻撃は単調ですが、一撃の威力が高いので注意が必要です。それに4階層からは最大で3匹の魔物が出現します。私が2匹を相手しますので、ルハトは1匹ずつ仕留めていってください。」
「分かった。」
最初に接敵したのはミノが1匹だった。牛型の魔物が頭部を低くくし、角をこちらに向けて突進してくる。
「俺がやる。一撃で倒せるかを試す。」
「はい。」
俺は前に出て、壁際に立つ。迫ってくるミノの角を壁を蹴って横に跳躍して躱す。壁に激突して突進が止まった魔物に剣を振り下ろす。その一撃でミノが消滅した。
次にミノとエスケープゴートが1匹ずつの混成部隊に遭遇する。
「私がいきます。」
メスリーヌが先行して敵に向かって走り出す。
突撃してくるミノの角を、体を沈めた前傾姿勢での疾走で躱し、剣の一撃でミノの脚を切り裂く。さらにエスケープゴートの突進も躱し、こちらも脚部を攻撃する。
機動力を奪われた魔物に俺が止めを刺す。2匹の魔物が煙になって消えた。
その後も、迷宮での戦闘に従事する。魔物3匹が相手でもメスリーヌが支援してくれれば、短時間で殲滅することができた。
少し早めに迷宮を出て、街で開催されている市を見て回る。
酒を売っている店がないか覗いて回ったが、見当たらなかったので、よろず屋に寄ってみる。
酒がないか尋ねてみると、意外なことに騎士団で売っていると言われた。
何故騎士団が酒を売るなどという、副業を行っているのか。よろず屋の女性店員によると、エルフ族は、厳冬期に体を温める以外で酒を嗜むことはあまりしないので、商売にならない。だが騎士団員は他種族との付き合いで飲酒の機会が多く、多くの銘柄の酒を貯蔵しているので、ついでに販売も行っているらしい。戦闘以外にも歓待もしなければいけない騎士団は大変だな。
話を聞いた後に、酒は量り売りなのでと、コップと注ぎ口のある蓋付きの壺を勧められて購入する。流石に商売が上手だな。
ボーデの城に向かい、聞いていた騎士団棟の一画に行くと、確かに酒の販売を行っていた。
「いらっしゃい。どの酒がご入用で。」
そう言われて俺は固まってしまった。酒の種類など全く知らなかったのだ。困惑しながらメスリーヌのほうを見る。
「スライム酒がよいと思います。」
金を払って、スライム酒を壺に入れてもらった。
「グミスライムは迷宮の23階層より上で出現する物理で攻撃しても効果の薄い厄介な魔物です。グミスライムを倒すと落とすのがスライムスターチで、それを水に溶いて醗酵させるとスライム酒になります。迷宮で戦い始めた物は、自分でスライムを倒して酒を造ることを夢見ながら、スライム酒を飲むことが多いようです。」
メスリーヌが宿への帰りの道すがら、そんなことを説明してくれた。迷宮攻略を始めたばかりの俺達に相応しい酒ということらしい。
宿屋で夕食を取った後、早速2つのコップにスライム酒を注いでみる。白く濁ったとろみのある液体で容器が満たされる。
メスリーヌと2人して酒を煽る。
「ぐふっ、ごほっつ。」
なんだこれは、口慣れない甘だるさに、喉を焼かれるような刺激、一口で咽てしまった。
「なんで皆、こんなものを美味しそうに飲むんだ。」
そんな言葉が口を付いて出た。
「口に合いませんでしたか。」
メスリーヌは平然と酒を口にしている。
「美味いとはとても言えないな。」
後味も悪く口に残っている。
「騎士団であれば、もっと口当たりの良い、はちみつ酒や果実酒も売っていると思いますが、今度はそちらを購入してみますか。」
「いや、いい。」
「そうした酒は飲みやすいので、女性を酩酊状態にするのにもよく使われます。ルハトが望むのであれば、泥酔して抵抗できない状態でベッドに横になりますが、いかがでしょうか。」
「いや、女を酔い潰して犯すような趣味はしていないので、そんなことはしないでくれ。」
メスリーヌは、もう酔っぱらって、普段は口にしないような下世話なことを言っているのだろうか。
「そうですか。私に酒を勧めたのは、分家筋の従姉でした。その女は私を酒で酔い潰した上で、従弟に犯させて関係を作り本家に取り入る算段だったようです。父にその計画がバレて殴られたうえに家を追い出されましたが。後から聞きましたが、その従弟は眠らせた女を犯す悦びに目覚めて常習的にやっていたようです。」
とんでもないことを口にするメスリーヌ。
「趣味と実益を兼ねているということか。しかも従姉を使って警戒されないようにしている。明らかに、手慣れた手口だな。」
「殿方には、そうした趣味の方も多いと聞きましたが。」
「俺は、その点に関しては普通だ。」
元盗賊なので、その従弟のやり口に関心はするが、性的嗜好は共感できない。
「普通とは、具体的にどのようなものですか。」
メスリーヌが食い下がってくる。
「…普通にお互いが気持ちよくなって、『いい、いぃ、気持ちいい』とか声をあげてくれると嬉しい。」
恥ずかしい性癖を暴露をする。
「つまり、気持ちよくなっている演技をして欲しいということですか。」
明後日の方向を向いた答えが返ってきた。違う、そうじゃない。
「演技では無くて、本気で気持ちよくなってもらいたいのだが。」
「それはルハトの努力によるところが大きいのですが。」
彼女は酔って支離滅裂なことを言っているのか、それとも普段は押し殺している本音が駄々洩れになっているのだろうか。判断が付かなかった。
メスリーヌと同じ、狼人族であったフレオスとの会話を思い出す。
皆で猥談をしている中で、フレオスがよく聞かれていたのが、『狼人族は、やはり後背位でするのが好きなのか』だった。
この質問に対してフレオスは『それは誤った情報による誤解だ。狼人族は動物のような性行為を楽しんでいると思われがちだが、実際には好きな体位は個人により異なる。お互いの顔が見える体位の方を好むものも多い。もちろんバックスタイルが良いというものも男女問わずにいる。』といつも答えていた。
俺達のパーティーメンバーは大半が童貞だったが、フレオスは嘘か誠か、女性経験があると言っていた。そしてフレオス自身はどの体位が好きなのかを尋ねられると『俺は断然、後背位』との答えが返ってきて、『やっぱりバックが好きなんじゃねえか。』とつっこみを入れる馬鹿話を何度もしていた。
では、フレオスの話の真偽を確かめてみよう。
「あぁ、はぁっ。…これっ、凄いっ。」
後背位でするメスリーヌが昨日までと違う、嬌声をあげる。
狼人族だからなのか、彼女個人の資質なのかは分からないが、この体位が適合しているようだ。
この体位をもって俺の努力としてもらおう。
ルハトの知らない情報
極端な前傾姿勢で走るメスリーヌ。灰色の髪をもっと伸ばすことができれば、見た目オ〇リキャ〇プになります。
エルフが酒を飲まない。騎士団が販売はオリ設定。これによって酒に溺れたセルマー伯は相当に追い詰められていたことになります。
スライム酒について。スターチはデンプンのことですが、水とデンプンだけでは酒にならないようなので、スライム成分に糖とか麹菌的なものが含まれていると思われます。スライムは蠢く粘液状の魔物なので、粘液→接着のり→のりは米から作られたの連想から、米からできるどぶろくや濁り酒に近いものがスライム酒と設定しています。酒にはくわしくないので、かなり適当です。