迷宮に盗賊を手放して   作:沙羅屋敷

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回想の牢獄③

 すぐにでもトレハーの街へ行って、皆の無事を確認したい。

 だがトレハーの街に行く為には、ハインツ達が占拠している村の前の街道を通らなくてはいけ

ない。危険が大きいことを考えるとハルツ領の街まで行って、冒険者ギルドからフィールドウォ

ークの魔法でトレハーの街に飛ばしてもらう手もある。

 この方法だと安全だがハルツ領の街まで行くのに時間が掛かる。時が経つほどにフレオス達と

の接触は難しくなるだろう。一度離れ離れになってしまうと二度と会えなくなる可能性が高いと

なると、危険でもなるべく早くトレハーを目指すべきだ。

 

  慎重に身を隠しながら、道を戻っていく。途中でハインツ一党の姿は無かった。俺を探すの

は早々に諦めたのだろうか。

 森に身体を潜めたりしながらゆっくり街に近づいていく。だが異変を感じて足が止まった。肉

の焼ける不快な匂いが強烈に漂ってくる。

 あいつ等死体を焼いて始末していやがるのか。焼かれているのは、おそらくジェードとそのパ

ーティーメンバーだろう…。何人もの死体が焼かれていることに足が竦む。

 大丈夫だ。俺の仲間達は無事なはずだ、そうに決まっている。そう考えて再び足を動かし始め

た。

 

 村に近づくにつれて、死体を焼く匂いがきつくなり、煙がこちら側に棚引いているのが見て取

れる。煙がこちらに流れているということは風下になっているので、狼人族のシモンに匂いで気

付かれる要素が減るのは僥倖というべきだろう。

 

 ハインツの部下達の姿を見ないまま進んでいけた。小川に掛かる橋を渡り、村のすぐ近くまで

来た。村を覆う壁の外側で巨大な炎があがっているのが視認できる。

 大きな薪木が組まれて、それが燃え盛っていた。男達が酒が入っているらしい壺を回し飲みし

ながら、激しく燃え狂う炎を、眺めていた。

 盗人達はこちらに背を向けて火と壁に向き合っている。近づいてもこちらに気付いたりしなか

った。俺を追撃するより、死体の処理を優先したらしい。

 「…壁の外で…燃やして、見つかったりしないのか…。」

 「シモンさんが…匂いを気にするから、外でないと…。それにここは、ジェードが…騎士団と

…したから、誰も来ないようになっている。」

 男達の声が途切れ途切れに風に乗って、こちらに届く。このままなら、俺に気付くことはない

だろうが、彼らの目を盗んで街道を進んでトレハーに行くのは不可能だ。

 アイツらが火の番を止めて、壁の中に戻るまで、ここに身を潜めているべきだろうか。

 

 盗賊達は俺が聞き耳を立てていることを知らずに、壺の酒を回し飲みを止めることなく、ペラ

ペラと喋り続けていた。  

 「…騎士団パーティーなんか、シモンに壊滅させられて…奪った…の指輪もハインツが持って

いるんだ…セルマー領の…騎士団なんざ、怖かぁねぇだろ。」

 その会話に俺は愕然とした。普通に考えれば、盗賊団より騎士団のほうが圧倒的に強い。それ

をひっくり返すほどの実力をハインツ達は持っているのか。しかも「指輪」を奪ったと言ってい

るので、おそらく家宝となるような強力なマジックアイテムを、騎士団を全滅させて強奪してき

たのだろう。さらにエルマーがセルマー伯領騎士団のエンブレムが刻印された鎧兜を纏っていた

理由がこれで判った。想像を超えるハインツ達の強さに背筋が凍る。

 「でも、折角ここを新しい拠点にできたのに…ハルツ領に行くんだろ。」

 ハルツ公領に行くのか…、何故だ、ハルツ公領はセルマー領と違って、騎士団は真っ当な活動

をしていて、迷宮の討伐も怠ることなく行ってきた。今は迷宮がほぼ同時に3つ出現して難儀し

ているようだが、セルマー領騎士団よりは手強く、盗賊に忖度したりもしない。なぜそんな場所

に行くのか。

 

 「…俺達の塒を焼いた…連中は騎士団じゃなくて、賞金稼ぎじゃないか…ハインツは考えてい

る…賞金稼ぎの連中は金が手に入りそうにないと判断したら…撤退するからな…騎士団も賞金稼

ぎ達も倒したし、新しい塒も手に入れたが…連中には俺達がハルツ領にいるのに、セルマー領を

探索させて無駄足を踏ませて……それからここに帰ってく…。」

 

 思わぬ形で、ハインツがジェードを襲った理由と、連中の今後の行動を知ってしまった。

 どうやらハインツの首を狙う賞金稼ぎが彼らのアジトを焼き払ったのが、発端らしい。そして

住処を失ったことから、部下達の不満が高まっているようだ。気付いていないとはいえ、俺に聞

こえる様に愚痴を言って、内情を漏らしてしまっていた。

 部下の不安を煽って、関係に罅を入れるという点では、賞金稼ぎのアジトを焼き払うという戦

法は理にかなっているな。

 まぁ返り討ちにあってしまった挙句、騎士団に被害が飛び火したようでもあるが。

 

 「…でも折角、ジェードの一派を全滅させて、奪った場所なのに…。」

 俺達がが全滅だと、なにを言っている。俺が残っている、俺はお前達から逃げ延びて、ここに

いるぞ。グロムは村の壁の外にいたのだから、逃亡は容易すかっただろうし、フレオス達だって

簡単に殺されりしないはずだ。

 

 俺が心の中で憤慨していると、土塀の内側から怒声が響いた。

 「てめぇら、なに遊んでいやがる。…裏門のあたりに魔物がいるぞ。さっさと倒しに行きやが

れ。」

 「はいっ、シモンさん。」

 シモンの怒号に火の回りにいた男達がバタバタと動き始める。

 その中の一人が、鎖帷子を手に取って、装着し始めた。それを見て俺は背筋に冷たいものが走

る。その鎖帷子は、探索者であったグロムが着ていたものに酷似していた。ハインツ達が俺に槍

を投擲してきた時に、鎖帷子を着ていた人間はいなかった、金属鎧を着ていたエルマーを除いて

全員が皮鎧を装備していたはずだ。つまり男が手にした鎖帷子はグロムを殺して奪ったものとい

うことになる。

 

 グロムの奴はなにをやっていたんだ。村内に突入しなかったのだから、さっさと逃げればよか

ったのに、いつものようにノソノソとしていて、ハインツ達に見つかって殺されたのか。どれだ

け間が抜けているんだよ。

 俺が隠れながらグロムの死の理由に憤っている間にハインツの部下達は、火の番の一人を残し

て、魔物の元へ向かっていく。

 その去り行く鎖帷子の背中を見ていて、俺は唐突に理解してしまった。

 何故ハインツの部下は、俺が生きているのに、全滅させたなどと言って油断して酒盛りをして

いたのか。おそらく外でウロウロしていたグロムは俺と同じ鎖帷子装備だったことで、ハインツ

達に見つかった後、俺と間違えられて殺されてしまったのではないのか。そんな勘違いをしてい

たから、連中は俺を探すこともしなかったのだろう。

 

 そこまで考えが及んだ後、俺の足は後ずさりを始めていた。心では、それでもフレオス達は死

んでいないはずだと思っていても、頭では、トレハーの街に行っても誰もいない、危険を冒して

進むのは愚かなことだと理解が進む。

 結局俺は街の方を向いたまま、どんどん隠れていた場所から遠ざかっていき、街が視界から外

れると振り返って駆け出していた。もう、あの村には何も残っていない、俺の知っている仲間も、

迷宮で戦い糧を得ていた日々も失われてしまった。

 これからどうするか分からないが、足を動かし続ける。このままいけばハルツ領に辿り着く。

 ハインツ達もすぐにハルツ領にやってくる、なら冒険者ギルドを訪ねて、別の街に飛ばしても

らうか、なにか当てがあるわけではないが。

 考えが後ろ向きになったからか、注意が散漫になり地面にある穴ぼこに足を取られ、よろめい

てしまった。無様な姿が情けない。懐の金貨を入れてある袋の位置もずれてしまった。懐中に手

を入れて巾着袋に触れる。指先に当たるその金を包む布の感触に足が止まる。ジェードの残され

た金、ラムジアから奪った金、それを握ると先程の感情が思い起こされた。ラムジアは少しばか

りの目腐れ金で、自分の持ち物でも無いジェードの命を売り渡した。俺には、まだアイツがやっ

た事への憤りが燻り続けていた。ハインツ達を直接攻撃することは、無茶で無謀だが、ハインツ

盗賊団のの情報と命を売り飛ばすことはできる。  

 俺の所有物でもなんでもない、お前達を捨て値同然で売り払ってやろうじゃないか。

 

 誰がハインツの情報と命を最も欲しがるだろうか。俺は今ハルツ領に向かって進んでおり、ハ

インツ一味もハルツ領に潜伏するつもりなのだから、ハルツ公かその配下の騎士団が最適だろう。

セルマー伯の所へ行く手もあるが、騎士団が倒されて、戦力が低下しているので除外する。や

はりハルツ公がいいだろう。ハインツ達が到着する前に、ハルツ公に伝えることができれば、待

ち伏せをすることもできる。

 とはいえ困難は多い。俺の言う事など信じてもらえないかもしれないし、そもそも盗賊の俺は

問答無用で捕まるかもしれない。それでもこの密告は行うべきだ。俺が危険に晒されても、ハイ

ンツ一党に打撃を与えられる数少ない機会なのだから。

 

 

 

 牢に閉じ込められて5日が過ぎた。

 1日2回飯がでる以外は放置されてきた。流石に服がベタついて不快になってくる。

 先のことは考えると不安になるし、過去のことを振り返ると陰鬱になってくるのでどちらも、

なるべく避けるようにして、ひたすらに女体の事をを想像して過ごす。

 そうして今日も陽が傾き始めた頃、唐突に扉が開けられた。

 「出ろ、ついてこい。」

 エルフ族の男に言われて、慌てて空想の女を消して後に続く。

 地下から地上階に上がり、内装が豪華になっていく通路を通り大きな扉の部屋に案内される。

 中には数名のエルフ、甲冑姿が半分、文官風の衣装が何人か、彼らの奥に見たことも無いよ

うな大きくて豪奢なデスクがあり、長髪で華麗な服を纏った人物がその机に肘をつき座っている

ようだが、男達が机の前に壁のように連なっており、よく見ることが出来なかった。

 壁役の一人となっていた騎士団長のゴスラー殿が口を開く。

 「ハインツ盗賊団を討伐できました。」

 これ以上ないほどの朗報だった。

 「それは良かった。それで騎士団の方の被害は。」

 ハインツ成敗成功の報は嬉しいが、もし騎士団員への被害が多ければ俺への風当たりが強くな

る、自分勝手な屑思考だが留意しなければならなかった。

 

 「騎士団に死者も怪我人もいません。ハインツを倒したのは知り合いの冒険者パーティーです。」

 「へっ。」

 

 全く予期していない展開におかしな声がでた。あの騎士団でさえ恐れるハインツ一党を蹴散らす

ことができる冒険者がいたのか。その強さのレベルを想像しようとしたが無理だった。いや考え

ろ、考えるんだ。どうすればハインツを倒せるのか…。筋肉か…筋肉なのか。

 筋骨隆々おも超えるムキムキ筋肉集団パーティーがハインツを屠ったのだ。

 それしか考えられん。

 

 




 勘違いしているルハトが知らない情報

 盗賊団には2種類があり、リーダーが手下の反逆を恐れて、弱いままにしておくグループ
と、探索者を仲間に引き入れ、自身を含めたパーティーを編成し部下だけ迷宮に入れて、金
だけでなく経験値も上前を撥ねる「貴族の子弟」方式をとる一団に分かれる。
 前者が大多数の盗賊団で、ジョブ盗賊のみで構成されいる。後者はハインツやジェードの
団でリーダーと部下の間でレベルで開きがでないようになっている。
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