迷宮に盗賊を手放して   作:沙羅屋敷

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ベイルへ

 ハルツ公爵によって今後の方針が決定されて、騎士団がその実現に向けて動き出した。

 3日後までに、準備を整えて、会談後に備える必要がある。

 

 俺はゴスラー殿に連れられて、部屋を出た。

 団長の指示で2人の男エルフが俺に続く。

 「まずは彼とパーティーを組んでください。」

 「友に応えし信頼の、心のきよむ誠実の、パーティー編成。」

 男の呪文詠唱と共にパーティー編成承諾の有無が頭に浮かんでくる。編成の許可を念じて男の

パーティーに参加する。

 「これであなたのおおよその位置は掴めます。逃げられませんよ。」

 「シモンの件があるのに逃げたりはしない。」

 「…まずは金の回収を済ませ、狼人族を調達。購入ができたなら、その後実際に迷宮に入って

嗅覚と戦闘力を確かめてください。あとはボーデにある宿屋を紹介し、以降はこちらの連絡があ

るまで、ボーデの迷宮での戦闘を続けてください。不具合があれば戻って報告を。」

 予定を告げられ、視線で行けと促され、3人で移動を開始する。

 城のロビーまで歩くと、壁に何枚も絨毯が吊り下げられていた。

 男の一人が絨毯に向かって手をかざし呪文を唱えると、黒い壁のようなものが浮かび上がる。

 屋外転移魔法フィールドウォークの作り出した移動用の扉。男が黒扉に入っていき、その姿が

消える。俺も続いて扉をくぐった。

 暗闇を抜けると、どこかの街道に出る。道幅は広く道の左右が木々に覆われていたが、背後を

振り返ると木で出来た家々が連なっている。

 「ここはボーデの街の入り口だ。話していた、金を埋めた場所まで案内できるか。」

 ボーデの街に入るときに1度通った道だ。

 「あぁ、問題ない。」

 フィールドウォークを唱えた冒険者の男に促され、歩き始める。

 3人で無言の移動、他2人は名前を教えてくれなかったので勝手に冒険者殿、騎士殿と心の中で

記帳してみる。

 「ここだ。」

 目印にしていた巨木を見つけ、初めて口を開いた。道を逸れて、木々を掻き分けながら金を埋め

た所まで移動する。

 すぐに目的の場所まで行き、枯れ葉をどかして埋めた物を掘り起こしていく。

 「武器はそちらに渡しておいたほうがいいか。」

 「ああ、そうしろ。」

 掘り出した武器を、柄が冒険者殿に向くようにしながら渡していく。冒険者殿がそれをアイテム

ボックスと呼ばれる収納魔法で空間に収めていく。

 「武器は片手剣とダガーだ。鎖帷子と盾も渡しておくか。」

 「こちらで預かっておく。」

 武器の次に巾着袋に入れられた金を取り出す。

 「いくらあるんだ。」

 「金貨58枚と銀貨と銅貨はそれなりの額だな。」

 「58万ナール一寸か。それだけあれば奴隷くらい買えるか。」

 最後に魔結晶を2つ、黄色二つを掘り出し、懐に入れる。

 金を回収し、先ほど魔法で移動した地点まで戻る。冒険者殿が再び魔法の扉を開き、俺達はその

中に飛び込んだ。

 今度出た所は、ぶつかりそうになるくらい、多くの人が行きかっていた。

 「ここはどこなんだ。凄い数の人だな。」

 これほど多くの人を見たのは初めてで、思わず驚きの言葉が出てしまった。田舎者丸出しの呟き

で、赤面しそうになる。

 

 「ここは帝都の冒険者ギルドだ。…それよりも金を用意しろ。銀貨2枚だ。」

 そう言われて、子供のような興奮を隅に押しやり、金を取り出すと冒険者殿に渡す。

 冒険者殿はカウンターに行き、何事か交渉を始めると、すぐに奥からエルフの女性が現れ、絨毯

の掛かっている壁に2人だけで近寄った。女エルフの呪文で出来たフィールドウォークの黒壁に共

に消えていき、そしてすぐに帰ってきた。

 冒険者の固有魔法であるフィールドウォークは1度訪れた場所にしか移動できないので、ベイル

の街を訪れたことの無い冒険者殿は、女性エルフに目的地に連れていってもらい、帰ってきたのだ

ろう。

 帰還後に女エルフはさっさとカウンターの奥に戻っていった、エルフ同士で知り合いかと思った

が、そうでもないようだった。帝都のような人の多い土地だからこういうことも起きるのだろう。

 帝国の大半の地域では基本村の人は全員顔見知りだ。

 そんなことを考えながら促され、三度フィールドウォークを潜る。

 次の転移先は閑散とした建物の中だった、勘定台の前に数人の冒険者がいるだけだ。騎士殿がカ

ウンターに趣いて二言三言会話を交わすと、俺達を先導して建物をでる。奴隷商館のある場所を聞

いていたのだろう。外に出ると道幅の広い大通りを歩く。目当ての建物はすぐに見つかった。街の

主要道に面している大きな館だ、繁盛しているようだな。

 

 エルフ2人は羽織っていたマントのフードを目深に被って、顔を見られにくくしていた。

 「…?」

 「騎士団によっては、奴隷を買うことを恥じとする風潮が存在する団もあるからな。」

 「奴隷の使役は嫌なのか…。」

 「個人的には奴隷を使ってもいいとは思うが…それを快く思わない領民もいるしな…だから、

お前みたいなのを使って…なるべく店にも民草にも知られないようにするのさ。」

 奴隷の購入だけでも気を使わなくてはいけないらしい。

 

 「俺、臭くないかな。臭いがきついとイヤがられて、いい奴隷は売ってくれないとかないかな。」

 騎士殿が色々考えているのに、感化されてそんなことを口にしていた。フレオスが匂いに敏感な

狼人族だったので、体臭のことでは、よく文句を言われた。

 「…人間族の探索者や戦士なんか、そんな奴らばかりだ。」

 エルフ族からでも、人間族は体臭が強いのか、やっぱり。

 

 俺達のやり取りを横目に、騎士殿がドアをノックすると、すぐに若い男(俺よりは年上)が表れ

て応接室に通され、今までの人生で座ったことのないような豪奢なソファーを進められる。長椅子

の真ん中に騎士殿が腰を下ろし、右隣に冒険者殿、左に俺が座る。

 たいして待たされることもなく、品を感じさせるケープに身を包んだ男性が入室してくる。初老

のようだが、大柄でがっしりとした体躯をしており、その立ち振る舞いも現役で迷宮に挑んでいる

かのようにしっかりとしたものだった。

 「当家の主、アランでございます。」

 

 「ケリアとニイル、ルハトだ。」

 ようやく騎士殿達と冒険者殿の名前が判明した。

 「お客様は、当館を初めてご利用になられると存じますが、何故当店をお選びになられたので

ございますか。」

 眼光鋭くアラン殿が尋ねてくる。奴隷の購入にきただけだが、妙に警戒されているな。俺が知ら

ないだけで、奴隷売買とはこういうものなのだろうか。騎士殿ケリアが早く答えろ視線を送ってく

るので、手早く説明することにした。

 「この店を選んだのは、俺がセルロ村の出身で、村で何度も取引をされているこの店のことを

知っていたからだ。今日は狼人族を求めてアラン殿の所に来た。俺の村は人間族だけの集まりだっ

たが、狼人族の売買も手広くしていると聞いていたのでな。」

 

 「左様でございましたか。これは礼を欠いていましたね。実は少し前に、客を装った盗賊が購入

した奴隷と共謀してこの館に襲撃をかけてきました。幸いにも、事前にその客が盗賊の仲間ではな

いかとの情報があり、逆に待ち伏せをすることで賊を撃退できました。そのようなことがございま

したので、どうしても新規のお客様には警戒せざるを得なかったのです。とはいえ、お客様に対し

て無礼な態度をとってしまいました。謝罪をいたします。」

 アラン殿が頭を下げた。

 

 「では、改めまして、狼人族の奴隷をお求めであると。」

 「あぁ、戦闘用の狼人族で、鼻が利いて、遠方からでも種族の違いを嗅ぎ分けられるくらいでな

いと駄目だ。そして素早く動けて、見目の良いで女奴隷であることが望ましい。」

 最後の条件を聞いて騎士殿ケリアと冒険者殿ニイルが、何を言っているんだこの馬鹿という目で

俺を見てくる。

 これはジェードが誇示していた交渉術だ。最初に高い要求を出して、それを徐々にさげることに

よって、相手の譲歩を引き出すやりかただ。美人の女奴隷などそうそういないだろうから、こちら

としては妥協して提示した条件を下げることになる、それによって相手にも条件を下げる様に誘導

する技法となる。これによって奴隷の代金を下げることができる。

 「お客様は運がよろしいですな。条件を全て満たす女奴隷がおります。」

 「へっ。」

 思わず変な声がでてしまった。いるのか、こちらの要求全てにに適合するような女が。

 アラン殿が手を叩いて従者を呼び寄せると何事かを命じる。ケリア殿とニイル殿がお前阿呆だろ

う、という視線を突き刺してくる。ジェード、あんたの教えてくれた方法は、海千山千の奴隷商に

は通じなかったよ。

 扉がノックされると先ほどの従者が一人の女性を連れてきた。

 「お待たせいたしました。お客様がお望みの狼人族、メスリーヌです。」

 




 ルハトの知らない情報

 女性エルフの冒険者は、過去にミチオを、帝都とクーラタルに送迎しています。
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