迷宮に盗賊を手放して   作:沙羅屋敷

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生活準備①

 「さてルハト様、奴隷の所有者には、住まいと食事を提供し、また税金を支払う義務がございま

す。もしこれらの義務を放棄したり、奴隷を著しく不当に扱った場合、契約が破棄されることもあ

ります。お気を付けを。また遺言の作成、変更も奴隷商人の仕事になります。その際にも是非当館

をご利用くださいませ。」

 アラン殿が奴隷の主人としての俺の責務を淡々と説明する。正直、シモンの探索の事ばかり考え

ていて、どこに住むとか税金とか頭になかった。いたらない事だらけだな、と思いつつそれでもシ

モン捜索の為、やるべき布石を打つべくアラン殿に質問しておく。

 「奴隷は主人が死ぬと、その場で殉死すると聞いたが本当か。」

 「左様にございます。奴隷の裏切り禁止の為の措置です。」

 「奴隷を死なせないようにする方法はあるか。」

 「先ほど説明させていただいた、遺言の変更で可能です。主人の死亡時に奴隷を解放する、ある

いはどなたかに相続させる、これで奴隷の死を回避できます。遺言を作成されますか。」

 「いや、今はいい。それより一つ頼みごとをしたい。」

 シモンの件とは別に、俺個人としてやるべきことがあった。

 

「頼みごとですか。」

「先ほども言ったが、俺はセルロ村の出身だ。知っていると思うが、あそこは貧しい土地でな、

俺はそれが嫌で村をおん出たんだが、もうすぐ俺の弟と妹、こいつらは双子なんだが…が15歳の

誕生日を迎える。そううなれば、特に妹の方は、奴隷として売りに出される可能性が高い。もし妹

がここで売られるのなら俺が買い取りたい。」

 「売られた身内を買い戻したいと。」

 「あぁ、無理な話だろうか。」

 「奴隷に堕ちた家族を買い戻す。稀にはある話ですが、役人がいい顔をしません。奴隷だと税金

が安くなるので、税金逃れの手法ととられるからです。」

 「そうなのか、じゃあアイツらを買い戻すことは無理なのか。」

 「購入自体はできますよ。その後、役人とどのように交渉するかは、ルハト様次第という話で

す。」

 アラン殿がちらりとエルフの2人を見る。その2人は騎士なのだが、広い意味では官吏というにな

るのか。なら事前交渉くらいはしてくれるかもしれない。

 少し安心した。役人との交渉とか金を貯めないといけないとか問題はあるが、とりあえず妹が奴

隷になった時に、そこから救い出すことができそうだ。メスリーヌが複雑そうな顔と目でこちらを

見ている。自分は奴隷に落とされたあげく、彼女を購入した俺は奴隷にされそうな家族を救おうと

しているのだ、理不尽を感じるのも無理はない。彼女をそんな顔にさせてしまった責任の半分は、

彼女を売った両親にあると思うのだが、主人というものは奴隷の恨み言や苦悩も向けられるらし

い。あのジェードでさえ、子飼いの手下に裏切られたのだ。奴隷だからといって、無下に扱っては

ならないのだろうが、今は家族の話を続ける。

 「助かるよ。俺の兄弟が売りに出されたら連絡をくれるか。弟のはルニファル、妹はルミラス

だ。この話は一つでも取引きを成立させて購入実績を作らないとできない話だと思ったのでな。」

 いきなり兄弟の話を持ち出されて不信な表情を浮かべる二人に聞こえるように言う。

 「確かにお客様といえど、いきなり表れて兄弟を購入したいと言われましても、こちらとしても

対応しずらい面はありますね。売買成立後にお話しいただくのは慧眼と言えましょう。」

 アラン殿がも話を合わせて手助けしてくれた。

 「それで、連絡先はどちらになりますか。」

 「つっ…。連絡…。」

 愕然とした、連絡先も何も住むところすら決まっていない。エルフ2人に目を向ける。

 「ハルツ公領騎士団に送ってくれ、そこからこちらに届くように手配しておく。」

 俺の勝手な行動だったが、対応しれくれるようだ。知らん、勝手にしろとか言われなくてよか

った。

 「では、そのように。」

 アラン殿の言葉の後、騎士殿が踵を返す。

 「本日はありがとうございました。またのご利用お待ちしております。」

 奴隷商の見送りを受けて、館を後にする。

 

 「まずはこちらのパーティーに入れ。」

 裸足で付いてきたメスリーヌに、騎士殿が早速命令をする。冒険者殿が呪文を唱えて、メスリー

ヌが大人しくそれを了承した。

 「本日、この町では、市が開催されているようだな。彼女の装備を整え、迷宮に向かい本当に鼻

が利くのか検証する。あと服だの日用品だのも買っておけ。」

 相談無しで家族の売買をしたことは不問にしてくれるらしい。

 「ええっと…。まず剣と盾、防具一式。着替えの服と肌着と…あとなんだ。」

 振り返って、メスリーヌに尋ねる。

 「その…。なにが必要かは、何処に住んでいるかによると思いますが。」

 実はその住むところが無いのだが。 

 「当面の間は宿屋暮らしをしてもらう。」

 騎士殿が素早く返答する。良かった俺達の住居もちゃんと考えていてくれたようだ。

「でしたら、必要なモノは少ないですね。迷宮にもっていく、リュックサック、水筒。日用使いは

タオルやシュクレの枝ですね。」 

 「足りないものは明後日にボーデの街でも市が立つからそこで買えばいい。」

 メスリーヌと冒険者殿の意見を聞きながら、店を回る。

 武器屋で片手持ち曲刀シミターを、隣の防具屋では木の盾、皮製のジャケット、籠手、帽子、ブ

ーツを購入する。

 「安物の初期装備で済まないな。」

 「迷宮は1階層から入るおつもりでしょうか。」

 「 あぁ、そうなるだろうな。」

 盗賊として迷宮で戦ってきたが、今のジョブは村人。クラスチェンジをした直後は、弱体化する

というのが通説だ。しかも当面パーティーメンバーは2人しかいなし、メスリーヌの実力も不明

だ、1階層から慣らしていくのが正しい選択だろう。

 「では、この装備で十分です。」

 メスリーヌが従順に答えた。

 

 その後、古着屋で俺のも含めて、古着と肌着、雑貨屋で諸々を買い足していき、最後に探索者ギ

ルドで魔結晶を買う。

 残っていた金が結構目減りした。兄弟姉妹の買い取りに使いたかったで温存したかったが仕方な

い。

 装備を身に着けると、冒険者ギルドの壁に行きフィールドウォークでベイルの街を後にする。

 

 暗闇を潜り抜けた先は森になっていた。

 その辺りだけ、土が掘り返されて、均され、そこにでかい物干し竿のようなものが設置してあ

り、そこに掛かっている絨毯から俺達はでてきたようだった。

 目前に黒々と口を開ける迷宮の入り口とその横に簡易な天幕が設営されエルフの男性が、その布

幕の下に立っている。

 騎士殿がエルフ男性の案内人に軽く会釈して、冒険者殿から装備を受け取り迷宮の入り口に立

つ。全員が抜刀し、盾を構えて準備をするが俺だけは剣を鞘に納めたままの状態だ。仕方のないこ

とだが、まだそこまで信用されていないらしい。1階層なので戦いは騎士殿と冒険者殿で十分なの

だろう。そうして全員で迷宮に入った。

 「ここはハルツ公領にあるボーデの迷宮1階だ。敵モンスターはグリーンキャタピラー、何処に

いるか鼻でわかるか。」

 騎士殿の命令に、メスリーヌが鼻をならすと、すぐに案内を始める。

 「こちらです。」

 彼女が歩き始めて、まもなくそいつと遭遇した。ばかでかい芋虫が一匹、薄暗い迷宮通路に蠢い

ていた。グリーンキャタピラーはこちらに向き直ると体をたわめはじめる。飛び掛かってくる前の

予備動作だ。

 「来るぞ、一人で対応できるか。」

 「問題ありません。」

 メスリーヌが巨大芋虫に向かって駆け出していく。その彼女目掛けて、魔物芋虫が突起状の脚部

にもかかわらず飛蝗のように高く跳躍しながら襲ってくる。メスリーヌは体を捻って、その突撃を

さけつつ、剣を振るってその腹を切り裂いた。

 空中で切りつけられても突撃の勢いの落ちない芋虫の体が騎士殿と冒険者殿の目前に落ちてく

る。落下した魔物は痛みを感じる風もなく、今度はこちらに口を向けて攻撃の準備をしてくる。エ

ルフ二人が盾を構え敵の攻撃に備えるが、グリーンキャタピラーが何かする前に反転してきたメス

リーヌが背後から魔物を切り裂いていく。数回の斬撃を受けた後、グリーンキャタピラーが煙とな

って消えていった。

 「次の敵も見つけられるか。」

 騎士殿に命じられて、彼女はすぐに歩き始める。ほどなく再度グリーンキャタピラーと接敵する。

 しかもコイツはすぐに足元に魔法陣が浮かび上がる。迷宮の魔物にはただ突進してくる、噛みつ

いてくる以外にも魔法や固有の特殊スキル攻撃を仕掛けてくるものがいる。魔物の足元に広がる魔

法陣はその攻撃の前兆だ。グリーンキャタピラーのスキル攻撃は糸を吐いてこちらを雁字搦めにし

てくること。かない厄介なスキルだ。

 だがメスリーヌはまったく臆することなく、魔物に向かって駆け出していく。魔法陣を展開する

敵の横をすり抜け、その背後に陣取る。グリーンキャタピラーの魔法陣が起動しスキルが解放さ

れ、芋虫の口から粘液の糸が吐き出されるも、真後ろにいるメスリーヌに糸を当てることはでき

ず、顔を捩じった先にある横壁に向かって放射され、壁に張り付いただけで終わってしまう。

 その間もメスリーヌは剣を振るい続けて、2匹目のグリーンキャタピラーもすぐに煙と消えた。

 「流石に1階層の敵なら単独でも撃破できるのか。匂いでの敵の追跡も見事だ。これなら捜索に

も役立つだろう。」

 どうやら奴隷商人の言葉に嘘はないようだった。店でのオドオドした態度とはまったく違う、手

慣れた戦士の戦いぶりだった。

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