吾輩はカイリキーである。名前はある、リッキーです。ここアローラ地方でカイリキーライドとして働いている一匹だ。見た目こそ他のカイリキー達と変わらないが長年働いてきて身体にガタが来ている。筋肉の節々が痛むんだ…
「…イエア…」
「おや、着いたのかい?いつもありがとうねぇ」
「…ハイヤ…」
数十年前まではお子様連れの奥方だったり、番同士の人間を2人同時に運んだりすることも出来たんだが…今は吾輩と同じ年老いた御年配の方々1名づつしか運ぶことが出来ない…
ましてや、特技の『かいりき』で大岩を押し出すなんてことが出来るわけがない。まだ4本腕を使って押すことは出来るがそれではカイリキーライドとして失格だ…
だから吾輩は引退する道を選んだ。長い長いライドポケモン生に終止符を打とうと思って免許センターにゆっくりと歩いていた。正直、未練はある。それも沢山。
大きくなったら吾輩の親になると言ってくれた子供達との約束。縁側で吾輩の腕の中で息を引き取りたいと言った御婆様の願い。吾輩に憧れていると言ってくれた後輩たちの初仕事の見学。まだまだ沢山…果たすことの出来ていない事だらけだ…
引退はしたくない…でも…身体は限界だ…。それにお客様と後輩たちの迷惑になるわけには…いかない…あってはならない…
ウィーン
「……?どうしたんだリッキー?今日は非番だろ?あれ?ライドポケモン免許を握りしめてどうしたんだ?」
やぁ、いつもお世話になってるよ受付君。そういえば吾輩がライドポケモンになった時、ここの受付は君のお祖父様だったね。…もう…亡くなって何年経つだろうか…おっと、そんな話をしに来たんじゃなかった
「…イエア…リキ…」
吾輩は力なくライドポケモン免許を受付君に渡す。ああ…身体が震えてる…吾輩の身体は限界だというのに引退はしたくないのだと言うことをはっきりと自覚させられるな…
「…そう…か…もういい年だもんな…リッキー…」
「…ウリィ…アアア……」
受付君も寂しそうな顔をするけど、吾輩は笑ってくれた顔の方が好きだな。…君のお祖父様にそっくりだから…ああ、吾輩が笑えばいいのか
「…リキキ!へへへ!」『こわいかお』
「…ぷっ…ははは!相変わらずお前の笑顔はこわいかおしてるな!あははははは!」
そう、その顔。笑顔はいい。思い出すなあ…初仕事の時を…15歳位の若い子どもが吾輩の初めてのお客様だったな。赤子のような綺麗な肌をした金髪の可愛らしいお嬢ちゃんと一緒に旅してたあの子は今何をしているのだろうか…
「ふう…さてと。リッキー、改めて聞くが引退するってことでいいんだよな?」
「…イエア…」
「そうか…寂しくなるな…後輩たちに連絡はしたのか?」
「…アイヤ…」
「ちゃんと連絡しにいけよ?ゴウカイとハカイ兄弟はお前に憧れてカイリキーライドを始めたんだから」
あいつ等か。問題児だったあいつ等も立派になったものだ。ゴウカイは道の真ん中を堂々と歩いて車に跳ねられたっけ。無傷だったけど。ハカイ兄弟は緊張しすぎて兄は器物損壊、弟はお客様の骨を握りつぶしたな。…いや、よくあいつ等免許取れたな!今思うと!
「…ヌウン!」
とは言え、あいつ等に挨拶には行かないとな。久し振りにマッチャンプジムに顔を出しに行こう。
「よし!リッキー、免許解約の手続き完了したぞ」
もう終わったのか?こういうのって時間が掛かるイメージがあるんだが…
「人間と違ってポケモンのは早く終わるからな。…それじゃあ…お疲れ様…リッキー…。偶には顔を出しに来いよ?俺は歓迎するから」
「…イエア…」
…ありがとうね…。…偶には来させてもらうよ。昔を思い出しながら…。
ウィーン
…なんか、あっという間に終わったな…これで吾輩はただのカイリキーに戻ったわけか。…うん、取り敢えずジムに…ん?妙な胸騒ぎがする…
「「「きゃあああぉぁぁ!!!」」」
悲鳴?!何処だ!何処に…あそこか!!!ダッ!!!
『ぶおぉぉぉんんん!!!!』
暴走車が学校帰りの子供たちの集団に突っ込む!危ない!急げ!!!
「うぅりぃぃやぁぁぁあ!!!!」(間に合えぇぇぇぇ!!!!)
ドガーン!!!
痛ぅ…子供達は…どうなった……?……無事か……?
「リッキー!大丈夫かリッキー!!!誰か!ポケモンセンターのジョーイさん達を呼んでください!誰か!!!」
「………エイ…アアア………」
…子供……達…は…どうなった……?受…付君…教えてくれ…痛ぅ……
「しゃべるなリッキー!大丈夫だ、今ジョーイさん達がこっちに来てくれるからな!安静にしてろ」
…子……供…達……あ……あそこに居た…良かっ…た…怪我は……ないみたい…だ…本当に…良かっ……た…
「…リッキー…?おい!リッキー!」
「………………」
歳を重ねてどんどんゆっくりになった心臓が更にゆっくりに、そして弱くなってゆく…ああ…吾輩は死ぬのか…ハハハ…こんな感じなのだな…死というのは…
「目を開けろリッキー!リッキィー!!!」
ごめんね受付君…顔…出せないみたいだ…後輩たちも…挨拶には行けなさそうで…ごめんね…ああ…寒くなってきたな……未練を沢山残して死ぬことになるのは辛いね…でも…
「ヒック…ヒック…うわあぁぁん!!!」
「ジョーイさん急いで!リッキー君が死んじゃう!」
…あの子達の…
◆
「おめでとうございます!可愛らしい男の子ですよ!」
…え?此処は…どこ…?あなたは誰なんですか?あの…
「この子が…私の赤ちゃん…!ふふ…初めまして…私がお母さんですよ。ふふ…」
お母さん?えっと…吾輩に母は…?!吾輩の手が!人間みたいになってる!どうなってるんだ!
バタン!
「生まれたって?!」
びっくりした!えっと…この人が吾輩の母と名乗ったということはこの人は…
「ええ!ほらこの子!可愛いでしょ!」
「この子が俺の子…!グスッ…よく頑張ったな…!グスッ…グスッ…!」
吾輩の父になるのか…吾輩は…人の子として生まれ直したということなのだろうか…?
「相変わらずあなたは泣き虫ね…それで、この子の名前は決まってるの?」
「グスッ…もちろん決まってるよ!この子の名前は…」
◆
拝啓・アローラ地方の皆へ
吾輩は今、ヒーローを目指してます。
主人公の名前なんですがヒロアカ世界なので物凄くストレートにします。当たりますかな?