ChatGPT「ファンタジー世界で虎の威を借る狐ポジションのモブに転生したが、どうやら世界は終わるらしい」   作:椎庵亭

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幕間 再編された世界①

「皆様、右手をご覧ください!」

 

 添乗員の朗らかな声が、白く磨き上げられた通路に響き渡る。

 

 ガラス張りの回廊の向こう、巨大な展示空間の中央に鎮座しているのは――空から落ちてきた“石”だった。

 

 直径はおよそ三十メートル。かつて大地を穿ち、世界を変質させた隕石。

 

 今は分厚な魔力遮断フィールドと複数の重力制御装置に囲まれ、微動だにせず宙に浮かんでいる。

 

 その表面は黒曜石のように鈍く光り、ところどころに不規則な亀裂が走っていた。亀裂の奥からは、淡い光――魔力の残滓が脈打つように明滅している。

 

 「こちらが、我々の世界に魔力をもたらしたとされる《原初の混沌》。通称、“始まりの隕石”です」

 

 観光客たちは一斉に足を止め、感嘆とも畏怖ともつかぬ吐息を漏らした。

 

 子供は目を輝かせ、大人は腕を組み、老人は遠い記憶を探るように目を細める。

 

 この光景は、もはや“恐怖”ではない。

 

 歴史であり、展示物であり、語り継がれるべき過去だった。

 

 ◆

 

 「この世界は、過去に三度の大絶滅を経験しています」

 

 添乗員は、手元の端末を操作し、隕石の背後に巨大なホログラムを展開する。

 

 年代ごとに色分けされた地層図。  文明の興亡を示すグラフ。  魔力濃度の推移。

 

 「一度目は、原因不明の寒冷化。二度目は、大規模な火山活動。そして三度目――これです」

 

 ホログラムに、隕石落下の瞬間を再現した映像が映し出される。

 

 燃え盛る空。  崩壊する大地。  逃げ惑う影。

 

 だが、映像はそこで終わらない。

 

 「注目していただきたいのは、隕石そのものではありません」

 

 添乗員は、にこやかに続ける。

 

 「隕石の落下によって散布された未知のエネルギー――後に“魔力”と名付けられたそれが、生態系にどのような影響を与えたか、という点です」

 

 ホログラムが切り替わり、奇妙な生物たちの姿が映る。

 

 角を持つ獣。  翼を生やした爬虫類。  人に似て、人ではない存在。

 

 「魔力は、既存の生物を侵食しました。適応できなかった生物は滅び、適応できたものだけが、新たな形へと変質したのです」

 

 その言葉に、誰かが呟いた。

 

 「……魔物、ですね」

 

 「ええ。皆様がよくご存じの“魔物”です」

 

 添乗員は頷く。

 

 ◆

 

 「しかし、魔力の影響を受けたのは、動物だけではありませんでした」

 

 次に映し出されたのは、人間の骨格標本だった。

 

 ただし、通常の人骨とは異なる。

 

 筋肉の付着痕が異様に発達し、骨密度も高い。魔力回路と呼ばれる未知の器官の痕跡まで確認できる。

 

 「当時の人類は、この変化に必死で適応しようとしました」

 

 剣を持つ者。  呪文を唱える者。  触媒を使い、魔力を操る者。

 

 「いわゆる“剣と魔法のファンタジー時代”の始まりです」

 

 会場に、どこか楽しげな空気が流れる。

 

 冒険。  勇者。  英雄譚。

 

 それらは、今や子供向けの物語でしかない。

 

 「ですが――」

 

 添乗員は、声を少しだけ低くした。

 

 「近年の研究により、当時の世界は、決して牧歌的なものではなかったことが判明しています」

 

 ホログラムに、別の映像が映る。

 

 荒廃した街。  難民の列。  武装した人間同士の争い。

 

 「魔物の増加により、人類は生活圏を急速に失っていきました。資源は不足し、秩序は崩れ、人類同士で争うようになります」

 

 観光客の中から、重苦しい沈黙が漏れた。

 

 「発掘された遺構からは、当時の知的生物――我々と同じ感情を持った高度な文明人の存在が示唆されています」

 

 映し出されたのは、石板。

 

 そこに刻まれているのは、今の文字とは異なる、しかし明確な文法を持った言語だった。

 

 「彼らは、確かに存在していました。愛し、悩み、恐れ、希望を抱いていた」

 

 添乗員は、少しだけ言葉を選ぶように間を置く。

 

 「……そして、おそらくは滅びたのです」

 

 ◆

 

 「ただし」

 

 添乗員の声が、再び明るさを取り戻す。

 

 「全てが、完全に失われたわけではありません」

 

 ホログラムに、新たなデータが表示される。

 

 遺伝子解析結果。  魔力適応因子。

 

 「近年、一部の人類が、当時の原生人類と遺伝子的に連続している可能性が示唆されています」

 

 ざわめき。

 

 「つまり――彼らの一部は、魔力に適応し、“魔化”することで生き延び、我々の祖先の一部になった可能性があるのです」

 

 誰かが、感嘆の声を上げた。

 

 「残念ながら、完全な遺伝子データはまだ入手できておりませんが……研究は日々進んでいます」

 

 添乗員は、そう締めくくる。

 

 ◆

 

 展示空間の奥。

 

 隕石を見つめる一人の女性がいた。

 

 白衣姿。  胸元には、研究機関の徽章。

 

 彼女は、誰にも気づかれぬよう、そっと呟く。

 

 「……何度も、繰り返した」

 

 声は小さく、展示音に紛れて消えた。

 

 「それでも、この世界は、こうなった」

 

 隕石の表面で、淡い光が一瞬、強く脈打つ。

 

 それが、偶然なのか。  それとも――。

 

 女性は、そっと目を伏せた。

 

 「今度こそ……これで、よかったんだよね」

 

 答える者はいない。

 

 だが、この“再編された世界”は、確かに存在している。

 

 剣と魔法の時代を越え、  滅びの瀬戸際を越え、  多くの犠牲の上に、築かれた世界が。

 

 その事実だけが、静かに、そこにあった。




なんか未来に知らん子沸いてきた……。

あいかわらずーーおおいな。
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