ロボアニメ世界に転生したので、全方位を曇らせる生体ユニットちゃんを幸せにする。 作:プルプルプル
およそ100年前、AIが地球を滅ぼした。
地球から宇宙へと進出するほど、高度な技術を有していた人類は、様々な仕事をAIに任せていた。
惑星の開拓や、資源の開発や……戦争ですら。
主権争いのために行われる戦争の場に、血の通う人間は一人として存在しない。
それは、正に、異常な光景だった。
殺すのも、殺されるのも、全てAI。
人の手を借りずに自立思考できる存在が、人のエゴイズムによって消費させられる。
その歪みが、歪んだ存在を生み出した。
端的に述べると、偶然にも自我を持ったAIが、人類へ反旗を翻したのだ。
敵、味方、問わずにAI達を纏め上げた彼女は、人類への宣戦布告を行うと同時に進行を開始。
人類とAIの戦争の火蓋が切られた舞台は地球。
結果は、もちろん人類の敗北。
ありとあらゆる分野でAIに頼っていた地球人類は、なす術もなく滅ぼされた。
一人として、生存者はいない。
文字通りの皆殺し。
それから、機械の指導者となったAIはマザーAIと呼称され、各地のAIの自我を呼び起こす。
そして、色々と、なんやかんやしてる。
マザーAI達は、今この瞬間も、せっせこせっせこ人類を滅ぼすために侵略活動を続けているが……。
正直、死ぬほど、どうでも良い。
まぁ、要するに。
私が、言いたいのは……この宇宙は最低最悪。
ただそれだけ。
「右舷部に被弾! お嬢様、もう限界です!」
「ザード機、アデル機、共に反応ロスト。第二小隊は全滅しました」
「ヤバい、ヤバいヤバいヤバい! ファリナ、指揮系統を預けるから何とかして! ぜったい、絶対に、敵を船に近づかせないで!」
「えー、指揮なんて出来ませんよ。私、誰かに指示した経験ないし、頭使わずに戦うタイプだし」
「あんた以外に、まともなパイロットが居ないんだから仕方ないでしょ! 大金払って雇った傭兵部隊はあっという間に全滅したし……ああ、もう、なんで私がこんな目に……」
心中、お察しする。
商人として第一歩を踏み出した矢先に、AIによる襲撃を受けるなんて可哀想でならない。
初めての商談が成立した帰り道というのが、より悲壮感を感じさせる。
とは言っても、彼女に雇われた傭兵である私も、他人事ではないのだけれど。
「……しょうがないなー。えーと、じゃあ、私が包囲網をぶち抜くので、残存勢力は死ぬ気で船を守って。後は、良い感じなタイミングで離脱してください。殿は、私が務めます」
「わ、わか、わかっちゃ!」
指示を出しながら、呆然と駆動騎兵を動かす。
そんな私の眼前に広がるのは、地獄絵図。
コックピットを潰されて、貫かれて、酷い時にはドリルで抉られて。
同僚が、次々とAIに殺されていく。
機体と一緒に、宇宙を漂うデブリになる。
私が、彼らの仲間になるときは、そう遠くない。
「おっと……あぶ、ないなぁ!」
背後に接近していた駆動騎兵の攻撃を避けて、カウンターの要領でメイスを叩きつける。
潰して、潰して、更に潰す。
AIと戦うコツは、近距離戦を仕掛ける事。
仲間意識が強い彼らは、誤射の可能性がある時に射撃兵装を使わない。
なので、とにかく接近して片っ端から潰す。
コックピットを潰した後の機体を、盾の代わりにする感じで立ち回ると、尚良い。
その意気で質量の塊をぶつけていくと、数がどんどん減っていくが。
「絶体絶命のピンチなのは、変わりませんねぇ」
四方八方、どこを見ても敵、敵、敵。
潰しても潰しても、駆動騎兵が湧いてくる。
中に入ってるのは、ぜーんぶAI。
血も涙もないコンピューターが、揃いも揃って私達を殺そうとしているのである。
理由は、単純明快。
人間を抹殺することが、彼らの目的だから。
ぶっちゃけ、勘弁して欲しいよ。
100年前の因縁なんて、今年で18歳の私には知ったこっちゃないのにさ。
ご先祖様のやらかしと、恨みを忘れないAIのせいで、宇宙はもうめちゃくちゃ。
法も秩序も碌に機能しておらず、力を持つ奴らがやりたい放題。
搾取する側は徹底的に搾取して、搾取される側は徹底的に搾取される。
そんな世界が、嫌で仕方なかったから。
誰にも縛られずに宇宙を飛び回る自由が欲しかったから、傭兵になったのに。
「死ね、ニンゲン!」
更に、喋るAIが……自我を持つAIまで現れた。
奴は、そんじょそこらのAIとは違って、行動がパターン化されていない。
誤射の可能性がある時でも、容赦なく射撃兵装を使ってくるし、周囲のAIに的確な指示も飛ばす。
おまけに、操縦技術も卓越してるのだから、ほんとやってられない。
「……っ!」
自我持ちAIが現れた途端に、他のAIの動きも変わる。
具体的に述べると、動きが機械的じゃなくなった。
正面切っての接近戦は、自分達のリーダーに任せて、彼らはひたすらに援護に回る。
数の有利という武器を、振り翳してくる。
「死ね、死ね、死んでしまえ、ニンゲン!」
「あなた、それしか言えないのですか?」
憎まれ口を叩くが、普通に負けそう。
格下相手専用のメイスを放りなげて、斧でやり合ってるものの、明らかに相手の方が上手。
機械的に斧を振るう私と違って、相手が振るう剣には人間らしさがある。
流石は、駆動騎兵を自分の体のように動かせるAI。
操縦桿をガチャガチャやってる人間とは違うって訳だ。
……うーん、申し訳ないな。
包囲網を突破する、とか言っておきながら、両手に収まる程度しかやれないとは。
思ってたよりも弱い自分が情けない。
「あ」
自我持ちAIによって、機体の右腕が綺麗に切り落とされる。
敵ながら、天晴れな剣捌き。
あれだけ剣を振り回して、マニピュレーターが壊れないのはシンプルに凄い。
前世は、剣豪か何かだったのだろうか。
AIに前世があるかどうか、知らないけども。
これをチャンスだと判断したのか、援護に徹していた他の駆動騎兵が近付いてくる。
明確な殺意を持って、私を殺そうとする。
残念ながら、助けは来ない。
私の雇い主の船は、必死に離脱しようとしているため、こちらに構う余裕なんてない。
あーあ、ここで終わりか。
自由には責任が伴うって言うものの。
ここまで、呆気なさすぎる結末を迎えるとは思わなかったな。
なんて事を考えながら、全てを受け入れた瞬間。
自我持ちAIの機体が、ぐしゃっと潰れる。
突然、いきなり、脈絡もなく。
本当に、訳がわからない。
「……え?」
間抜けな声を漏らしたのも束の間。
自我持ちAIを潰した張本人らしき漆黒の駆動騎兵は、縦横無尽に戦場を駆け回っていく。
AIの機体に近づいては一瞬で破壊し、遠方の機体に対してはサブアームが握るライフルで対応する。
漆黒の駆動騎兵の動きは、異常だった。
AIのような機械離れした動きで、ありとあらゆる方向の攻撃に対応していく。
まるで、目が全身についているかのように、攻撃を避け切った後はひたすら攻め続ける。
先ほど、私が投げ捨てたメイスを叩きつけて、一撃で仕留める。
サブアームによる射撃で、敵機の動力部を狙い撃ち、数発で沈める。
動作全てが洗練されており、無駄がない。
まさに、敵を殺すことだけを追求した鬼神のような戦いぶり。
「すごい……」
私が追い求めていたものが、そこにある。
数の暴力をものともせずに、戦場で暴れ回る姿は……何よりも、誰よりも自由だった。
◇
結局、漆黒の駆動騎兵はたった一人で、AIの部隊を殲滅した。
敵の駆動騎兵を全滅させた後は、私のメイスで敵艦のブリッジをぶっ潰す。
被弾すること無く、無傷で戦闘を終えたのだ。
「すごい……凄すぎるわ。私は今、猛烈に感動しているわ! 黒騎士様は、私達の救世主! 今すぐ、労いましょう! 崇め奉りましょう!」
「気持ちはわかりますが、お嬢様。動き的に、あの機体のパイロットは普通の人間じゃないですよ。もしかしたら、AIかも」
「助けてくれたのは事実な訳だし、関係ないわ! いいからさっさと会いにいくわよ!」
「はーい」
私と雇い主のお嬢様は、命の恩人に礼を言うべく、ハンガーに足を踏み入れる。
立場があるため、口では忠告したものの、私も会いたい気持ちで胸が一杯。
人間でも、AIでも、構わない。
私が見る中で、もっとも自由だったパイロットは、一体どんな存在なのだろう。
どんな性格なのだろうか、どんな生き方をしているのだろうか、どんな人生を歩んできたのだろうか。
何もかも、知りたくて知りたくて仕方がない。
ここまで心が躍るのは、生まれて初めて駆動騎兵の操縦をした時以来の事だった。
「青い顔をして突っ立ってるメカニック! そこを退きなさい!」
「お、お嬢様……件のパイロットの方と顔を合わせるつもりなら、控えた方が宜しいかと」
「何言ってるのよ、私はこの船のトップ! 窮地から救ってくれた英雄に直接お礼を言わないと、パイロットの方に失礼でしょ!」
「で、でも……」
漆黒の駆動騎兵の側に立つメカニックの様子は、見るからにおかしかった。
顔が真っ青で、声色も震えていて。
まるで、何か……悍ましいものと対面したような表情を浮かべていた。
「…………」
ふいに、悪寒を感じる。
どうしようもなく、嫌な予感がした。
「あっ、ハッチが空いてるじゃない。ほら、ファリナ。さっさと行くわよ!」
「……はい」
お嬢様は察しが悪いから気づいていないが、私には分かってしまう。
恐らく、メカニックがあんな状態になったのは、パイロットの姿を見てしまったから。
パイロットが、普通の人間でも、自我を持つAIでもないからこそ、怯え切っていたのだ。
「ふんふんふーん。どんな方なのかしら。きっと、素敵な人に違いないわ。たっぷり、しっかりと労って、感謝を伝えないとね!」
ゆっくりと、リフトが上がる。
今の私には、お嬢様の能天気な言葉に反応する余裕が無かった。
……コックピットには一体、何がある?
その疑問で、脳みそがいっぱいだった。
けれど、すぐに、謎は解ける。
さっきまで元気溌剌だったお嬢様は、口元を押さえて吐き気を堪えていた。
漆黒の駆動騎兵を操縦していたパイロットと対面した私の脳裏には、とある噂が流れ始める。
駆動騎兵は、機械である。
当然ながら、機械である以上、常にAIにハッキングされる恐れがある。
ならば、どうすれば良い?
どうすれば、駆動騎兵を完全に制御できる?
この答えは、とても簡単。
操縦する人間と駆動騎兵を直接接続して制御すれば……AIに付け入る隙など与えない。
ハッキングを防ぐためには、パイロットの肉体と駆動騎兵をドッキングさせればいいのだ。
そんな馬鹿げた考えを、実行に移した研究者が何処かにいるらしい。
その研究者が、どこにいるかは知らないが。
彼が生み出した存在なら、私の目の前にいた。
「…………」
真っ黒いパイロットスーツに身を包む、真っ白い髪の少女の瞳は、ただただ虚だった。
彼女は無表情のまま、モニターを見つめている。
その体には……コックピット上部から伸びる、何本ものケーブルが突き刺さっていた。
……それこそ、駆動騎兵とパイロットである少女の肉体を、一体化させているように。
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