ロボアニメ世界に転生したので、全方位を曇らせる生体ユニットちゃんを幸せにする。 作:プルプルプル
人に手を差し伸べて、人に手を差し伸べられる人間になりなさい。
と、口癖のように両親は言っていた。
今の宇宙は、混沌としている。
親しくしている友人に裏切られるなんて日常茶飯事で、予期せぬ暴力に晒される事もある。
そんな世界だからこそ、相互扶助の精神を忘れずに生きるべき。
一方的に助けるのでも、一方的に助けられるのでもなく……互いに手を取り合うべきだと。
幼い頃からずっと、教えられてきた。
そして、私は、その通りに生きている。
基礎的な学力を身につけた後は、商人として生きる両親の仕事を手伝う。
未知の病気に苦しむ人を助けるために、色んな惑星にワクチンを輸送して、金銭という対価を貰う。
寄る辺のない子供達に温かい食べ物や住処を提供する代わりに、労働力になって貰う。
どんな相手にも、対等な立場で接する両親の姿を、ずっと側で見守る。
お礼を言って、お礼を言われる。
善意を善意で返されるたびに、心が温かくなる。
けれど、関わる人間は善人ばかりではない。
商品の代金を踏み倒されたり、謂れのないクレームを言われたり、雇った子供が横領したり、微塵も働こうともしない奴が居たり。
善意を利用して、美味い汁だけ啜ろうとする人間は、想像以上に沢山いた。
善人を踏みつけて、馬鹿にする。
善意を悪意で返されるたびに、心が冷たくなる。
……私は、こんな人間にはなりたくない。
そういった思いを胸に、AIに殺された両親の跡を継いで生きる覚悟を決めたのに。
命の恩人と対面した時、私の脳裏には……バケモノという言葉がよぎった。
コックピット上部から伸びる数本のワイヤーが、幼気な少女と繋がっている。
まさしく、駆動騎兵と一体化した姿を見て、吐き気を堪えきれずに口元を抑えてしまった。
感謝の言葉を伝える事すらせずに、お礼を述べる事すらせずに。
私は両親ほど出来た人間では無かったようだ。
「…………」
まだ幼い少女は、モニターを見つめている。
最低最悪な私と、隣に立つファルカには、視線を向けようともしない。
真っ白い髪と瞳、小柄で痩せぎすの体躯、きめ細かい白磁のような肌。
彼女の姿は、精巧な人形のようだった。
「こんにちは、お嬢さん。窮地に陥っていた私達を助けてくださり、有難うございました」
ファルカが頭を下げる。
それに呼応するように、私も頭を下げた。
すると、少女は、こちらに視線を向けて。
「気にしないで。ぶじで、良かった」
無表情ながら、優しい言葉を投げかける。
その瞬間、私は自らの愚かさと直面する。
彼女は、疑う余地のない善人であった。
合理性も、打算もなく。
助けを求める人に、手を差し伸べる。
きっと今まで、少女は……数多くの悪意に晒されてきたと言うのに。
察しが悪い、私でも分かる。
恐らく、彼女は何処かの研究所が生み出した駆動騎兵の生体ユニットだ。
元来、駆動騎兵という人型ロボットに、人間が搭乗する予定なんて無かった。
自立思考型のAIが操縦する事を前提に設計された代物なのである。
そのため、人間が動かせるようになるまでには、多くの時間と労力を要した。
操縦桿で操作できるよう改良したり、OSそのものを書き換えたり、ハッキング対策を講じたり。
先人達の努力のお陰で、今がある……のだが。
中には、戦争孤児を利用して、駆動騎兵の開発を行う機関が存在する。
その噂は、本当だった。
目の前にいる少女こそ、生きた証拠であった。
「う、うううっ……」
思わず、涙がこぼれ落ちる。
目の前の少女はこれまで、どんな仕打ちを受けてきたのだろうか。
駆動騎兵の制御を行うために、薬物を投与されて。
駆動騎兵と接続するために、身体を弄くり回されて。
何よりも、何も罪もない子供なのに、戦場で殺し合いをさせられて。
その日々が、どんなに過酷なモノだったか、私には想像すら出来ない。
なのにも関わらず、彼女は悪意に満たされる事なく、善意を持ち続けた。
危険を省みることなく、私達を助けてくれた。
それが、どれだけ尊いことか。
「貴女の、名前は?」
「マシロ。マシロ・ヘデラル」
マシロ・ヘデラル、か。
ヘデラルという姓は、何処かで聞いたことがあるが、そんなの今はどうでもいい。
人に手を差し伸べられたのならば、こちらも手を差し伸べなければならない。
それが、両親の教え。
彼女に命を救われた私には、受けた恩を返す義務が存在する。
現世に降り立った天使であるマシロちゃんを……何としても守る使命が存在するのだ。
「……マシロちゃん」
「なに?」
「貴女はもう、戦わなくていいの。この私が、貴女を縛り付ける駆動騎兵から解放してみせるわ! この私、エルルゥ・ヘーゼルランドの名にかけて!」
どんと胸を張って、宣言する。
私には、駆動騎兵に関する知識がない。
軍事機器方面のコネクションもない。
だが、そんな事情は関係ない。
私は、ありとあらゆる手段を用いて、マシロちゃんを駆動騎兵から解き放つ。
そうして、普通の女の子にしてみせる。
どんなに困難な道のりであろうとも必ず……。
「やだ」
「へ……?」
想定外の返事が飛んできて、素っ頓狂な声が口から漏れる。
そんな私に対して、マシロちゃんは心なしか不機嫌げに。
「わたしは……縛り付けられてない。寧ろ、この機体と一緒にいたい。だから、このままがいい」
こちらの独善的な提案を、ことなげもなく一蹴したのだった。
◇
◇
駆動騎兵乗りと、高飛車そうな商人。
その二人組が去った後、俺達はコックピットで、のんびりと寛いでいた。
「きんちょうして、うまく笑えなかったけど、へんに思われてないかな?」
「変に思われている訳ありません。お二人とも、マシロ様に心から感謝していましたよ」
「そう? 感謝というより、びっくりしてた気がする」
「ええ。それは、そうですね」
マシロは、くすくすと笑う。
……そりゃ、びっくりするだろう。
駆動騎兵と一体化している少女が「このままが良い」なんて言い出すのだから。
俺だって驚いたのだから、見ず知らずの人はもっと驚くに決まっている。
「そんなに、へん? センセイとずっと一緒にいたいって思うの」
「まぁ、価値観は人それぞれですから。私は、ノーコメントで」
「……ずるい答え」
正直に言うと、俺はまだ納得できていない。
心情的には、先ほどマシロと話していた女性と同じ気持ちである。
しかし、普通の女の子として生きてほしいという願いは、俺のエゴイズム。
本人が望むのであれば、俺はマシロをサポートし続けるだけだ。
幸いにも、完全に一体化している訳ではない。
ケーブルを外して、マシロ一人で行動することも出来なくはないからな。
……当の本人は、お風呂や食事などの時間を除いて、コックピットの外に出ようとしないけど。
「それより、優しそうな方々で安心しました。当面の間、面倒を見てくれるようですし」
「うん。こわい人じゃなくて良かった」
露骨に話を逸らしたものの、こればかりは本当に安心した。
そもそも、彼女達と巡り会うのすら、分の悪い賭けそのもの。
暁のイルフィにおいて、俺達が助けた彼女達は……AIの恐ろしさを視聴者に教える為の存在。
揃いも揃って、皆殺しにされる運命にあった名無しのモブキャラなのである。
アニメで登場したシーンは、オープニング前のたった数分。
ごく普通の視聴者達には、記憶に残らなかったことだろう。
だが、俺は違った。
暁のイルフィのオタクたる者、モブキャラが散るシーンであっても何度も振り返る。
彼女らがAIと遭遇した宙域と時間帯を記憶していた事が功を奏して、無事に巡り会えた。
ここら辺の座標に到着するまでに燃料のほとんどを消費したため、出会えなかったパターンを考えるとゾッとする。
暁のイルフィが、艦内モニターの細部までこだわるアニメで、本当に良かった。
「それにしても……やっぱり、センセイはすごい。未来予知ができるAIなんて、他にいない」
「マシロ様、その件なのですが」
「大丈夫。話さなくていいよ」
「……何故、ですか?」
「わたしも、操縦のサポートをことわってた理由を黙っていたから。それで、おあいこ」
悪戯っぽく微笑みながら、マシロはモニターをつんとつつく。
こちらの事情を把握しているような振る舞いは気になるが、実際のところ有り難かった。
これから先、俺は原作知識には頼れない。
……何故なら、極力ストーリーとは関わらない立ち回りをするつもりだから。
主人公であるイルフィ達は、これからAIとの死闘を繰り広げる事になる。
AI達の目的が人類殲滅である以上、戦いは熾烈を極めて、味方陣営からも死者が出る。
そんな戦いに、マシロを関わらせたくない。
もしも、マシロが駆動騎兵から降りて、普通の女の子になる選択を下したのならば、主人公陣営と関われた。
良識のある彼らは、戦う意志のない少女を戦場に送り込むことはしないから。
しかし、マシロが駆動騎兵から下りる事なく、俺と一緒に生きる道を選んだ以上、主人公陣営とは関われない。
物語の主軸であるイルフィ達と交流して、戦いに巻き込まれるのは御免だからな。
あくまで、俺の目的はマシロを幸せにすること。
暁のイルフィのストーリーに介入して、主人公陣営を勝利に導くことでは、断じてない。
なので、未来予知のような真似が出来るのも、今日が最後。
これからは、原作知識に頼らずに、自分で考えて行動しなければならない。
「ねぇ、センセイ。難しい事を考えるのは後にして……今日も、お話を聞かせて?」
「……ふふ、畏まりました。では、先日の続きから。劇的な再会を果たした主人公と友達は、それぞれ別の機体に……」
そこで、パタリと思考を止める。
俺は、マシロが促すままに話を始めた。
……これからどうなるかは、分からない。
だからこそ、絶対に後悔しないように。
マシロと交流できる時間は、余計な事を考えず、温かい気持ちに浸っていたかったから。
「あーあ、脱走するだなんて。団長に怒られますよ。本当に、ほんっとうに、いいんですか?」
「別に怒られてもいいよ。どうしても、会いたいんだから仕方ない」
「俺は、知りませんからね。何聞かれても、知らないで突き通しますから」
「そっちの方が好都合。足がつかずに済む」
俺と少女以外の人間が誰もいないハンガーで、こっそりとリフトを上昇させる。
コックピットに到着すると、少女は躊躇う事なく搭乗した。
……最近の子供は、何を考えているのか、さっぱり分からない。
この間の戦場で出会った、見ず知らずのパイロットに会いに行くために脱走するだなんて。
到底、正気の沙汰とは思えない。
「探してるパイロット、何処にいるのか知ってるんですか?」
「知らないよ。これから探す」
「そんなんで見つかるとは思えませんがね」
「絶対に見つかるよ。あの二人は……私と、同じ力を持っているから」
そう語る少女の瞳は、キラキラと輝いていた。
今まで、死んだ目をしていた子と同一人物とは思えないくらい。
「それじゃあ、後始末よろしく」
そう言い残した少女は、ハッチを閉める。
次いで、ゆっくりと駆動騎兵を動かし始めて。
迷う事なく、カタパルトデッキに向かっていく。
「あーあ、知らねーっと」
そっぽを向いた俺は、自室へと戻っていく。
戦闘中に助けられた恩は、これでチャラ。
今この瞬間、何も見なかった事にする。
我が宇宙遊団の若きエース、イルフィ・ツキミヤが、人探しのために家出した事なんて、俺には何も関係ないのだ。
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