「わ、分かったわよ。コッチもムキになり過ぎた、かも……」
赤くなる顔を口に含んだ抹茶の温かさで誤魔化し、鼻孔を抜ける茶葉が焦りを溶かす。
パソコンの固い電子音が冷えた部屋に伝わり、着物の擦れが落ち着かない心に静電気を入れる。
……私、何をやっているのだろう。
視界を覆う薄暗さが、電気で焦げ付いた感情の断片みたいで、自然と私は頭を下げていた。
「ごめんなさい。おじいちゃん……私、恥ずかしさを誤魔化す為に、怒りで自分をコーティングしていたの。本当に申し訳ないと思っているわ」
樹皮で木部を守るように、私は偽りの感情で本音を隠していた。
……その状況が、情けなくて。
コレでは育つモノも成長しないと思う。だって人間だもの、植物じゃない。
温かな夕日の残り火を映す窓のように、私の気持ちも映画館のスクリーンの如くダイレクトに伝えていきたい。
……丸腰で、さらけ出せたら。
プライドという岩盤が純粋な水を止めている気がして――噛み締めるように手を握るしかない。
「マスターは真っ直ぐなままでいい……」
ハンマーで石を叩くような、甲高く鋭い声が耳奥で反響した。
「戦国の乱世を生き抜いた我の願いだ。子は宝である、戦乱に興じるなら我は止める側にある……」
薄暗さが濃さを見せ始めた瞬間、光が頭上から注がれる。
「……だが。もし、戦に直面するような事になれば……日本を背負う子よ、ただ、どんな時であろうと、純粋たれ……」
青い着物を身に纏うおじいちゃんは、春風のように柔らかな瞳で私を見据えていた。
「おじいちゃん……」
春風のような温かい沈黙が唇を震わせ、涙腺を緩ませていく。
……泣くな、私。
両拳を強く握り、涙が零れないようにゆっくりと顔を上げる。
顔を合わせたおじいちゃんの全身がいつも以上に大きく見え、揺らぐ青々とした着物が晴天のように私の中の雷雲を溶かしていくようだった。
「ありがとう。私、おじいちゃんが望む自身になれるように、沢山努力する」
詰まる言葉の流れを塞き止める事もせず、最後まで聞いてくれたおじいちゃん――乱雑に転がった邪念が流れ出すのを感じる。
「うむ……期待しているぞ、マスター」
微笑むおじいちゃんに、赤子が母親の笑顔で笑い返すように、私は満面の笑みで対していた。
……せっかくなら、隠し事のないまっさらな関係で、笑顔でおじいちゃんに会いたかったな。
腰を下した椅子の固い反発が心の隅を表しているようで、もどかしかった。
「お、おじいちゃん。さっきの画像……私の学校の制服か否かを。確認させて欲しい。私の見栄のせいで確認できなかった訳だから……」
撫で合うように指と指を絡め、おじいちゃんの鼻先を伺うように見つめた。
喉元まで上がる恥ずかしさが視界を赤く染め、首筋の血管はミミズが這うように膨張と収縮を繰り返している。
……気まずいわね、本当に。
切り替えが早すぎて、あまりにも唐突な事で、突っ込まれても仕方が無いと思う。
吞み込んだクッキーの油が胃に重くのしかかり、薄く香った茶葉の匂いが鼻腔を甘く満たし――
「……了解した、マスター。一応、拡大しておいたが、どうだ?」
――ホイップのように柔らかな言葉が紡がれた。
「え、ええ」
金縛りが解かれたように、肩の力が緩み、おじいちゃんが抱えるパソコンの画面まで顔を近づけ。
その場で大きく吸った空気が喉を鋭く流れ、動揺する感情を凍てつかせ、拡大された白制服に視線が向かう。
「この形は制服ね、しかも白い。高知県の高校で唯一純白の制服を着用するところがウチの高校だから……」
「ふむ、間違いないようだな」
「暗くて見えないわね……胸元のネクタイの色で学年は絞れるのに」
マウスの左クリックを連打するが、荒い画質は変わらず。
「上半身しか映っていない故、性別も特定は出来ていない……すまない」
ぼそりと力なく小言を零すおじいちゃん。
「特定に至らなくても大丈夫よ。一般人が、それも私の学校の生徒が聖杯戦争で行方不明になった事実が分かっただけでも目的は達成したわ」
そのケツを叩くように、私は語気を強めて励ます。
……きっと、私の周辺に居る人々を救えない事に対して、後悔していると思う。
英雄ならば尚更、自責の念を感じているかも。