Fateセカンドクラス   作:佐藤夜空

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第19話

「誰かを心配するあまり、立ち止まっては本末転倒……意味が無いわよ」

 闇に沈みかけた感情にブレーキを踏むことはいいけれど、身体の動きに待ったをかけるのは得策じゃない。

 金属音がけたたましく耳元で響く。

 ……おじいちゃんは生きている、焦るには早いわ。

 根に染み込んだ懸念を土壌ごと替え、腕を振る。

「結構……走っているわけ、だし……もう少しのはず……だけど」

 無限に続く視界の暗がりが不安を増長させていく。

 全身に絡みつく木葉の擦れと草木の青臭さが鼻孔を抜ければ、左甲の熱さが意識を再び満たす。

 ……魔力の消費が、増えているわね。

 消耗が激しい――活動量が多いという事。

 サーヴァントはマスターの魔力で動くため、変化があれば魔力回路や令呪周辺の体温が熱くなる。

 ……戦闘の熱まで伝播しそうだわ。

 爆発音と顔に吹き付ける砂風が戦闘の激しさを物語っていた。

 相反するように、頭上に掛かっていた森林の影は氷のように溶け、月明りが視界を青白く照らす。

「建物……」

 薄っすらと白い建物が森林内に佇んでいた。

 真っ直ぐ入る光景が張り詰めた糸のような心を弛ませ、被さった草木の渋みが口内を冷たく締め付ける。

 ……ゴールが見えたのは嬉しいけれど、不安も残っているわ。

 波のように上下する緊張と緩和が進む脚を重くさせ、頬を優しく伝う汗が油断を誘っているみたいで。

 ……油断はできない、私がゴールを把握できたという事は。

 人間を超越したサーヴァントは我々のゴール地点を正確に理解していると思うわ、たぶん私よりも前に。

「アーチャークラスなら、尚更だわ……」

 鷹の目を持ち、全ての戦況を俯瞰して見られる存在が弓兵であり、彼らが持つ目の特徴だ。

 平坦だった道筋が、がくんと下降気味に。

 ……ここからは下り坂ね、スピードが乗るぶん、早く教会へ避難できそうだわ。

 もたつく足を揃え、枝葉を掴み、一息。

 眼下に広がる木々と小石の影が隠れた不安を滲ませ、急斜面の下り坂が唇を冷たく締め付け、思わず拳を強く握ってしまう。

「転べば、擦り傷じゃ済まないわ……」

 月明かりで照らされているが、霞かかった視界は――のしかかった不安を曖昧にする自分の心みたいで。

 ……心臓を抑えたくなる。

 左耳を貫通する金属の不協和音と鼻孔に舞った砂のざらつきが、天秤にかけらたように不安定に視界を揺らす。

 ……飛び込みたいけれど、落ちるかもしれない不安が影のように染みついて。

 バンジージャンプのような感覚。

 落ちる前に視界が最悪の事態を想像させ、暗がりを拡大化させ、行動を起こさせないようにする。

「どうしよう」

 肥大化した不安を潰そうと周囲をサラリと見るが、首筋を鋭く通り抜ける冷風が甘さを凍らせていく。

「い、痛い!」

 静電気が走ったように左甲が痺れ、破裂音が耳を裂く――

「あっ……」

 触れていた筈の木の固い感触がふわりと抜け、溜まっていた不安と思案が蒸気のように宙を舞う。

 ――全身が回転していた。

 横ではなく、タチの悪い縦回転で。

 ……三度目の正直、かな。

 スローモーションになった世界で、三度目の死が頭を過る。

「クッ!」

 覚悟を噛み締めながら、鬱蒼と茂った地面へ落ちていく。

 唇から滴った血液が月夜に輝き、鼻腔に滴る鉄錆びが、静かに死を際立たせる。

 ……おじいちゃんは泣いてくれるのかな。

 誰かの感情を揺らすことが出来たなら、それはどれほど幸福な事か。血のように熱い気持ちを抱いてくれれば、流す価値はあると思う。

 死ぬという行為も案外――

「マスター! 死ぬな!」

 月明かりが隠れる、時が脈打つ。

「おじい……ちゃっ……」

 

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