「成功……した?」
分からない、というか中々の迫力。これが英雄――サーヴァント。
「召喚された側だが、成功したらしい。皮肉にも我……長曾我部はココ、現世に舞い戻って来た」
やはり。
槍といい、全身黒の甲冑といい。
「……カッコイイ」
「……」
「佇まいが特に……」
「……」
黒の眼力が刺さって妙に視線が痛い、というか全体的に圧が強い。
……ソレに距離も近くて。
重厚感溢れる金属音が耳奥で唸り、青白い視界が黒く染まったかと思えば、いつの間にかサーヴァントは私の右腕を訝しげに覗いている。
「ちょ、何を!」
「私の問いに対して明確な回答を貰えないので、な。自ら行動に移しただけ」
「ほ、ほら……左腕に令呪が」
つい感情が高ぶって周りが見えなくなってしまった。
一呼吸置き、焼けるような痛みが生じた左腕を捲り、サーヴァントへ突き出して見せる。
「これで証明が出来たわね。私がアナタのマスターよ」
「ふむ……どうやら。にしても、だ。娘……いやマスター。君の雰囲気、出で立ちには疑問が残る。親近感に近しい……」
顎に手を置くサーヴァントが視線を落としたかと思えば――
「召喚に使用した触媒は無いようだな……ソレが原因かもしれない。取り敢えず、マスターよ……自己紹介でもどうだ?」
――着物姿の江戸っ子が無邪気に提案している。
「わ、忘れていたわ」
流石は長曾我部、勘が鋭いわね。
「私の名前は杏。十七歳よ、扱う魔術は地属性。聖杯戦争自体は初参加ね。聖杯を得る目的は、ある人に逢いたいから……」
「……」
既に私の願いは叶っている、しかしながら正体をカミングアウトする場面かと問われれば、それは違う。この際、正体を言わない選択肢もアリだが。
「それよりも……なぜ、このタイミングで着替えたの? これは聖杯戦争なのよ?」
……触媒は生前長曾我部が住んでいた岡豊城跡地の上に立つココ自体だし。
私の庭みたいなモノで、リラックスできるけど。いやいや首を傾げられても、コチラが困る。
「しっかりしてよ、おじい……っ……」
言いかけて。
私は口元に手を押し込みギリギリのところで失言を防いだものの、長曾我部元親の眉根は歪み、言いたげな雰囲気を作っている。
……子孫だと気づかれた?
「我の偵察力を侮るな、マスターよ。この一帯に流れる魔力の流れを汲み取れば状況の把握は容易い事。敵勢力の反応なし、武装解除というヤツだ」
間髪入れずに、更に言葉を繋げる。
「見た目に関しては、取り敢えず……現代風に言えばラフな格好とやらになったつもりだが。それに私は英霊であり老体ではない、訂正すべきだマスター」
「あ……そ、そう。以後、気を付けるわ……」
一応、山場は終わったらしい。
心拍の余波がドクドクと脈打つ中、下がった肩を再び起こす。
「私の簡単な自己紹介は終わりよ。次はアナタの番だけど」
「真名――長宗我部元親。ファーストクラス――ランサー、四国の英雄にして鬼若子と呼ばれし者なり。セカンドクラスに関しては秘匿とさせてもらおう」
「伏せるって事は……相応の理由があるのかしら?」
信頼関係が浅いとはいえ、引っ掛かる部分。彼の考えが知りたい。
「前提として。私がランサーである事は遅かれ早かれ槍で分析されるだろう。一方のセカンドクラスは、私以外知り得ない情報――つまりは抑止力として機能する」
「確かに……それに抑止力だけじゃないわ。アナタのセカンドクラスを看破した場合、敵サーヴァントの素性も絞れる……カウンターとも取れる」
フッと軽く応える長宗我部元親の口元は緩み、腰に手を当て重心を崩していた。とても満足そうに。
……宥められている子供みたいで、ムカムカするわ。
「適当に呼ぶわね、いい?」
「英雄でもランサーでも好きに呼ぶといい。不思議と、マスターの雰囲気には好感を持てるようでな」
……譲歩された、ムカつく!
「おじいちゃんって呼ぶ事にする」
「マスターよ……」
「好きに呼べと言ったのはアナタよ?」
いつまでも掌で転がされるのは癪だし、ね。
「発した言葉には責任が付き纏う。我が運命……受け入れようとも、マスター」
召喚者としての威厳は保たれた、とは思う。
目の前でやれやれと首を左右に振っているけども、気にしないでおこう。
「一応、おじいちゃんとの交流は終わったみたいだし……これから行くところがあるの、付いて来てくれるわよね?」
押されかけた議論をお相子で強制終了させ、冷たい風が吹き抜ける下界へと軽い足取りで歩を進めた。