Fateセカンドクラス   作:佐藤夜空

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第20話

闇を抱いた腕のたくましさに涙腺が緩み、込み上げた熱さが唇を震わせるが、向けられた赤い眼差しが戦闘の壮絶さを隠しているようで、感謝を伝えられない。

 ――楽ではない。

 一層強い冷風が顔に吹き付け、黒鎧の擦れ音が耳奥を温かく包む。

 ……でも、お礼は口にしたい。

 おじいちゃんから素直になれと言われたからには、約束したからには。

「あ、ありが……」

 急降下し飛行機のように足元から着地。

 砂埃が降り注ぐように舞い、地盤の揺れが木々をなぎ倒し、白い光が鋭く目の前で光った。

「ハァァァァ!」

 矛先が迫り来る光を受け止め、風圧が地面を削る。

「何をボーとしている! 逃げろ、マスター! 我が拾った命……無駄にする気か!」

 ジリジリと後退する足元と軋む黒鎧の金属音が、止まっていた意識を呼び覚ます。

「え、ええ……」

 膝元に手を付き、低く頷く。

風圧に全身がよろめきながら、薄暗い平地を歩く。

「聖堂教会へ行かないと。もう、少しだから……」

 左甲の痺れが血管を締め付け、存在感を強める。

 額から流れる汗が頬を伝い、両手を掠める枝葉が守っていた感情の皮を剥ぎ、迷いを露にしていく。

 ……おじいちゃんはすぐそこだし、教会も走って五分の距離に存在する。

 少しの援護なら。

 靴先に張り付いた生温かな湿りに心地よさを感じつつ、口元に残る血液の鉄錆が視界に熱を持たせる。

 ……やっぱり見捨てるなんて、私には難しい選択だわ。

 その場で立ち止まる。

 吹き付ける風に乗った声が――

「くっ……ここで全力を出してくるとは。余程、建物の中へ入れさせたくないように見えるぞ、臆病者が!」

 ――心臓を叩く。

 視界端が閃光弾のように白く瞬き、砂埃のざらつきが後頭部を冷たく打ち付け、木々が揺れ動いた。

「おじいちゃんっ!」

 左右に行き来する感情に耐えられず、振り返る。

「たわけ……歩みを止まるなと言ったはずだ……マスター。蜂の巣になりたいのか!」

 砂のベールが捲られる。

 上下する肩――黒鎧の隙間からドロドロとした赤が流れ落ちるのが見え、鼻に絡みつく錆び鉄の臭いが、喉元を熱くさせた。

「い、嫌だ……私のせいで、おじいちゃんが死ぬのは嫌よ!」

 その黒い体躯が薄闇に溶け、永遠に会えない場所まで行きそうで。

「怖いのよ……私は……」

 全身を身震いさせる孤独、冷たさに耐えられない。

 暗がりを怖がる子供みたいな意見だと思う、綺麗に輝く夜空ですら電源を落とせば見えなくなる。

 ……プラネタリウムなのよ。

 一緒に見なければ意味が無いし、数時間後には太陽で隠れてしまう。

 沈黙が顔を出かけて――

「そう、か……」

 落としどころが見えた、達観した柔らかな表情が手に持つ槍を消す。

「すまない、マスター」

 ――狙われたターゲットの腕が私を持ち上げ、宙を舞う。

「もっと……加速するぞ!」

 引っ張られる重力が全身へのしかかり、目の前の月夜が山中全体を映す。

「この建物よ!」

 真っ直ぐ指し、白い建物へ風を切りながら向かう。

 見知らぬ人影が目的地の前で揺らめき――

「け、警戒態勢!」

「上だ、マスター! 奴、め……姑息なマネを!」

 上に視線を合わせる。

 雨のように空間をひしめく無数の矢が、上空の光を絶えさせ、降り注いでいた。

 ……考える時間も、無いなんて。

「クッ……」

 歯を食いしばり、おじいちゃんが私を強く懐に抱いた。

「まあ、派手な技は嫌いじゃないが、やり方は男じゃねぇーなぁー、おい! 気に食わねぇぞ!」

 ――冷気が震え、矢が目の前で大きく爆ぜた。

 衝撃が波のように押し寄せ、破壊音が耳奥を裂けば、重力が全身にのしかかる。

「捕まっていろ……マスター」

 地面に向かい、急速に落ちていく全身。

 薄れゆく意識を――抱きしめたおじいちゃんのぬくもりだけが繋ぎ止めている。

 ……自分が宙に浮いているか、いないか、分からない。

 私は。

「生きているのか、死んでいるのか……」

「どうやら……生きているようだな。彼らのお陰で」

 含んだ言葉が脳内に吸収され、立ち上がり見えた光景がふわりとした感覚に針を刺す。

 血の気が引いていく、流れた血液がポタポタと理性を赤く染め、恐怖と全身が凝固する。

 ……誰だ、この女。

 建物の街灯に淡く照らされる金髪がするりとなびき、佇む女が手を広げながらコチラへ向かっている。

 背中を伝う冷や汗が緊張を走らせ、呑み込んだ唾の余韻が恐怖を呼び寄せる。

「誰……見ない顔、だけど……」

 香水の残り香みたいな弱い主張。

 冷風に混ざった砂を踏みしめる音が耳元をこするたび、恐怖が心臓を叩きつける。

「ココは……関係者以外立ち入り、禁止よ。これ以上、近づくなら警察を呼ぶわ……」

 一般人なら、これくらいで逃げていくと思う。

……不審者は分からないけれど。

返答は返って来ず。

それどころか金髪女は歩みを止める素振りすら見せない。

……最悪、おじいちゃんに頑張ってもらう、しか。

左甲の熱さがヒリヒリと現実を知らせ、近づく布の擦れが緊張を撫でてくる。

強風が顔に掛かり――

「会いたかったデース! 一緒にこれから悪い奴、倒しに、イキマショーウ!」

「わっ! は⁉」

 ――ハグをされた。

 それも、外国人美少女から。

 胸が当たっているし、髪が顔に掛かってくすぐったいし、抱きしめられた意味も分からない。

「は、な……れて! 下さい!」

 両肩に手を回し。相手の土俵から押し出し、引き剥がす。

「まだ敵いるデスカー? ファイト?」

 

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