神父の冷たい声色がどこか遠くに、立ち姿が私達との関りに一歩線を引いたような形で対応されているような。
……上からの態度、というかクソ神父の圧力が気に入らないのよね。
足元で崩れていた赤いカーペットのシワが、再熱する怒りを反映しているみたいで、指先が震える。
……監督役を魔術で攻撃するのはアリだと信じたいわね。
血濡れた思考が頭を巡り――
「質問デース! コノ集まりハ、キガイヲ加えるサーヴァント、コロス。その考えでオーケーですか?」
――代わりに吐き出されたえぐみが脳内をスッキリさせた。
ロウソクの火をスナッファーで消しながら、神父は静かに返答していた。
「随分と……物騒な事件が起こったらしいが……」
白い煙が纏わりつく後ろ姿と耳奥を突く金属の擦れが、興奮を弾いていく。
燃え上がる感情にモヤがかかり、流れていた熱がとろみを帯び、握った拳が甘く開かれる。
……異様に落ち着くわね。
鼻先を優しく抜ける芳醇な香りが、喉元を焼き、その焦げ――疑問が頭の片隅にこびり付く。
気持ち悪い、というかアレルギーに近い痒みが常識という観点で神父の所作を見てしまっている。
「ダイジョウブですかー? 神父サーン!」
もぞもぞと手を動かす神父の背中が疑念を大きくさせ、教会中に響くエマの声音が私の意見を代弁してくれた。
……何か、怪しい。
直感的だけど。
何か私の琴線に触れそうな感じ、人間の異常性が見えそうで。生温い手汗の気持ち悪さが肥大化する静寂の中で沸騰していく。
……本当は私が大きな声を出したいところだけど。
両手をばたつかせ、つま先立ちや片足立ちを繰り返すエマの行動が、喉の調子を狂わせていく。
……冷静な視点で見ると、エマの鬱陶しさが嫌というほど分かるかも。
右隣から運ばれる埃が視界を霞ませる。
心のスコープで覗いていたレンズが曇り、レーダーが砂嵐を起こしているようで。
……こういう時くらい、静かにして欲しいモノだわ。
こめかみに吹いた冷風が電波のように波打ち、鳥肌が立つ。
一般人を巻き込んだニュースといい、アーチャーの襲撃といい、未だに見解を明かさない神父といい――
「少し、落ち着けますか……桐枝さん?」
「エーナニガ、ですか?」
「これでは埒が開かないので……私に考えがあります。話が付くまでアソコに座ってもらえますか?」
右手に備え付けられた長椅子を指し、しわくちゃになった赤いカーペットを踏み込む。
目前に映る黒外套の背が大きく揺れた。
――魂胆が見え透いている。
熟した果実の匂いが鼻孔をふわりと抜け、喉元が熱くせり上がり、首筋の熱が消えていた怒りを呼び起す。
……疑問を抱いた私がアホみたいだわ。
身体を正面に向けた神父の手にはワイングラスが握られ、指先で赤い液体を転がし、見つめていた。
「ふん、だと思ったわ。アンタはいつだって、自己中心……いや、そもそも他人に興味がないのよ!」
ブドウの渋みが苦い現実を思い知らせ、噴き出る怒りが吸収したアルコールを飛ばしていく。
関わっているようで、一歩壁を感じる対応をされる。
……魔術の練習だって、習い始めた半年は放置されるし。
魔術回路が固定化されず、不安定な時期に――最悪は死ぬか後遺症が残る可能性だってあった。
「それは違う……心身の苦しみこそが……生を感じる瞬間だからだ」
染み込み過ぎた解答が耳奥を冷たく浸し、発酵した怒りが舌先の渇きを広げていく。
……世迷言は寝てから言って欲しい。
流れた沈黙は熱く、握った拳が爪の引っ掛かりを感じ、その痛みを擦り付けるように神父へ言葉を返す。
「意味が分からない事を言うのね、小さい頃から頭の方も変わらないなんて。残念過ぎるわよ」
「……痛みがあるからこそ、人間は思考を重ねる……成長するのだ」
手に持ったワインをゆっくりと喉元に流し、神父は満足気に微笑む。
漂うブドウの苦味が鼻に付き、薪のように積み重なった言葉が乾燥した脳内で着火し、狼煙が上がる。